19 / 24
19
しおりを挟む
俺たちの祝杯は、とても穏やかに進んでいった。
ヴォルカノンでの激しい戦いが、まるで遠い昔の出来事のように思える。
リナは手に入れたオリハルコンの結晶を、うっとりと見つめていた。
その特別な輝きは、彼女の瞳の中でさらに美しくきらめいている。
俺の肩の上ではフェニクスが満足そうに羽繕いをしている。
テーブルの隅に置かれたロック鳥の卵も、心なしか温かい気がした。
これ以上ないほど、幸せな時間だった。
追放されたあの夜には、想像もできなかった光景がここにあるのだ。
「カイさん、これから私たちはどこへ向かうのですか」
リナが、ふと真剣な顔つきで俺に尋ねた。
「サラさんの手帳にあった遺跡ですか、それともまだ見ぬ新しい大陸へ」
彼女の問いは、俺がちょうど考えていたことと全く同じだった。
俺たちの旅は、一つの大きな目的を達成した。
だがそれは終わりではなく、新しい始まりに過ぎない。
俺はテーブルの上に広げていた、一枚の大きな世界地図に目をやった。
そこには俺たちがまだ足を踏み入れたことのない、未知の場所が無限に広がっていた。
その中でひときわ俺の目を引く、特別な場所があったのだ。
「リナ、あれを見てみろ」
俺が指さしたのは、世界の中心に浮かぶとされる巨大な浮遊島だった。
地図には、『天空の都・エーテルガルド』と書かれている。
雲の上に存在するという、伝説の場所だ。
数百年前に地上との交流が、途絶えたと伝えられている。
「天空の都、ですか。わあ、素敵ですね」
リナが目を輝かせて、地図をのぞき込んできた。
「ああ、だがただ素敵なだけじゃない。伝説によればそこは古代の超文明が築いた都市で、現代の技術を遥かに超える遺産が眠っているらしい。しかし都の周りは『嵐の壁』と呼ばれる魔法の嵐に閉ざされ、誰も近づくことすらできないそうだ」
未知の文明、そして誰もたどり着けない場所。
冒険者として、これほど心惹かれる言葉はなかった。
俺の【神の眼】が、そこに行けと強く告げているような気がする。
「行きましょう、カイさん。そこへ行きましょう」
リナも、俺と同じ気持ちだったようだ。
その瞳は新しい冒険への期待で、キラキラと輝いている。
「よし、決まりだな。次の目的地は、天空の都エーテルガルドだ」
俺たちがそう決意を固めた、その時だった。
テーブルの隅に置いていたロック鳥の卵が、ふわりと淡い光を放った。
そして地図に描かれたエーテルガルドの絵と響き合うように、優しくどきどきと動き始める。
「この子も、行きたいのかもしれませんね」
リナが、嬉しそうに卵を撫でた。
この卵から生まれる新たな仲間が、あるいは天空の都への道を切り開く鍵となるのかもしれない。
翌日、俺たちは早速エーテルガルドについての情報収集を始めた。
向かったのは、もちろん冒険者ギルドの資料室だ。
俺たちの顔を見るなり、ポポロさんは書庫の奥から駆け出してきた。
「おお、カイ殿。お待ちしておりましたぞ。ヴォルカノンの歴史書、第一稿が完成したところですじゃ」
ポポロさんは興奮した様子で、分厚い羊皮紙の束を俺たちに見せてくれた。
そこには俺たちの冒険の物語が、英雄の物語として生き生きと描かれていた。
俺は彼に礼を言うと、天空の都についての調査を頼んだ。
ポポロさんの目は、新たな謎を前にして再び学者の輝きを取り戻す。
「エーテルガルドですと。なんと、また伝説級の場所に挑まれるのですな。お任せくだされ、ギルドの全ての文献をひっくり返してでも情報を探し出してみせますぞ」
ポポロさんはそう言うと、再び書庫の奥へと消えていった。
その背中は、心なしかいつもより若々しく見えた。
次に俺たちは、バルガンの工房を訪ねた。
彼もまた、俺たちの新しい目標を聞いて目を輝かせた。
「天空の都か、そりゃあまたとんでもねえ目標を立てたもんだ。だが、兄さんたちならやり遂げちまうんだろうな」
バルガンは、豪快に笑った。
「空の上なら、それなりの準備が必要だろう。このオリハルコンで、最高の装備を作ってやるぜ。どんな嵐にも耐えられる、最高の鎧をな」
俺はバルガンにオリハルコンを預け、新しい装備の製作を頼んだ。
今回、俺はただ頼むだけではなかった。
俺もヘパイストスの槌を手に取り、バルガンと共に炉の前に立ったのだ。
燃え盛る炎が、俺たちの顔を熱く照らす。
「カイの兄さん、あんた本当に鍛冶の才能があるぜ。まるで、何十年も槌を振るってきた職人のようだ」
バルガンは、俺の槌さばきに心から感心していた。
俺の【神の眼】は、オリハルコンの金属としての性質を完璧に見抜く。
どこをどれくらいの力で叩けば最高の性能を引き出せるのかが、手に取るように分かるのだ。
俺とバルガン、二人の才能と神の槌、そして伝説の素材。
それらが合わさり、数日後には今までにない全く新しい防具が完成した。
それは羽のように軽く、それでいてアダマンタイト以上の強さを持つ白銀の鎧だった。
オリハルコンの繊維を編み込んで作られており、風の抵抗を極限まで受け流す流れるような形になっている。
さらにフレイム・クォーツの力を組み込み、内部の温度を常に快適に保つ魔法効果も付け加えた。
俺は、その鎧を『シルフィード・メイル』と名付けた。
リナにも同じ素材で、ローブ型の防具『シルフィード・ローブ』を作り上げた。
「すごい……体が、鳥になったみたいに軽いです」
リナは新しいローブを身にまとい、その場でくるりと回って見せた。
その姿は、まるで風の精霊のようだった。
全ての準備が整い、俺たちがラトスの街を出発しようとした日の朝だった。
宿屋の一室で大切に保管していたロック鳥の卵が、今までで一番強い光を放ち始めたのだ。
「カイさん、生まれます」
リナが、興奮した声で叫んだ。
卵の殻に、内側からヒビが入っていく。
そして光と共に殻が砕け散り、中から一羽の美しいヒナが姿を現した。
そのヒナは生まれたばかりとは思えないほど大きく、そして神々しい雰囲気を持っていた。
全身を覆うのは、磨き上げられた銀のように輝く羽毛だ。
その瞳は、空の色を映したかのような深い青色をしていた。
ヒナは俺とリナの顔を交互に見ると、親しげにキュイと鳴きながら俺の腕にすり寄ってきた。
俺は【神の眼】で、そのヒナを鑑定した。
――――――――――――――――
【真名】神速のロック鳥 アルジェント
【種別】神獣
【状態】誕生直後。カイとリナを親と認識している。
【能力】神速飛行、暴風結界、成長促進
【情報】聖なる力の影響で、通常のロック鳥よりも遥かに速く、そして賢く成長する可能性を秘めている。特に飛行速度は、成鳥になれば音を超えると言われる。
――――――――――――――――
「アルジェント、か。いい名前だ」
俺がその名を呼ぶと、アルジェントは嬉しそうに翼を広げた。
その翼は、すでに部屋の半分を覆うほどの大きさになっている。
驚くべきことにアルジェントは生まれてから数時間で、みるみるうちに成長していった。
昼頃には、俺たち二人を乗せても余裕で飛べるほどの大きな体になっていた。
「すごいですね、この子なら嵐の壁も越えられるかもしれません」
リнаが、アルジェントの銀色の背中を優しく撫でながら言った。
「ああ、間違いない。行くぞ、リナ」
俺たちは、ラトスの街の仲間たちに別れを告げた。
ポポロさんとバルガンさんは、まるで自分の息子を送り出すような顔で俺たちを見送ってくれた。
「カイ殿、リナ殿、ご武運を」
「兄さんたちなら、絶対やれる。帰ってきたら、祝杯を挙げようぜ」
俺たちは二人と、そして街の皆の温かい声援を背に受けた。
アルジェントの背に乗り、肩にはフェニクスを乗せる。
リナが、俺の腰にしっかりと腕を回した。
「アルジェント、行け。天空の都、エーテルガルドへ」
俺の号令と共に、アルジェントは力強く地面を蹴った。
銀色の巨体が、一瞬で青空へと舞い上がる。
眼下に見えるラトスの街が、みるみるうちに小さくなっていく。
風が、心地よく頬を撫でていった。
俺たちの新たな冒険が、まさに始まったのだ。
目指すは、まだ誰も見たことのない伝説の浮遊島。
その先で、どんな出会いと戦いが待っているのだろうか。
俺たちの進む先には、地図に記された嵐の壁が待ち構えている。
それは神々の領域と人間の世界を分ける、絶対的な境界線だと伝えられていた。
アルジェントの飛行速度は、想像を遥かに超えていた。
地上を旅すれば何週間もかかるであろう距離を、わずか数日で飛び越えてしまう。
やがて俺たちの視界の先に、空と雲の境目を覆い尽くす巨大な暗い雲の壁が見えてきた。
「あれが、嵐の壁か」
近づくにつれて、その普通じゃない様子がはっきりと分かった。
ただの嵐ではない、内部で紫色の稲妻が絶え間なく光りゴウゴウという轟音が鳴り響いている。
まるで、空に浮かぶ巨大な生きた要塞のようだ。
並の飛行生物なら、近づく前にその魔力の圧力だけで押し潰されてしまうだろう。
アルジェントは、しかし怖がる様子を少しも見せなかった。
むしろ自らの力を試す時が来たとでも言うように、その青い瞳を挑戦的に輝かせている。
「カイさん、行きますか」
リナの声が、風の音に混じって聞こえてくる。
「ああ、突っ切るぞ。アルジェント、やれるな」
俺が問いかけると、アルジェントは力強く一声鳴いた。
そして、その巨体を覆うように銀色のオーラを放ち始める。
これが、暴風結界か。
俺とリナ、そしてフェニクスの体を、風の壁が優しく包み込んだ。
これで、嵐の中の風圧や飛んでくるものから身を守ることができる。
俺の肩にいるフェニクスも、翼を広げて戦う準備に入った。
「行くぞ」
俺の合図と共に、アルジェントは銀色の矢となって嵐の壁へと突っ込んでいった。
壁に突入した瞬間、すさまじい衝撃と轟音が全身を襲う。
視界は、荒れ狂う暗い雲と稲妻で完全に奪われた。
上下左右の感覚すら、失われそうになる。
だがアルジェントの暴風結界は、完璧だった。
俺たちの体には、風圧一つ感じない。
アルジェントは、本能的に安全な道を選んで飛んでいるようだった。
ヴォルカノンでの激しい戦いが、まるで遠い昔の出来事のように思える。
リナは手に入れたオリハルコンの結晶を、うっとりと見つめていた。
その特別な輝きは、彼女の瞳の中でさらに美しくきらめいている。
俺の肩の上ではフェニクスが満足そうに羽繕いをしている。
テーブルの隅に置かれたロック鳥の卵も、心なしか温かい気がした。
これ以上ないほど、幸せな時間だった。
追放されたあの夜には、想像もできなかった光景がここにあるのだ。
「カイさん、これから私たちはどこへ向かうのですか」
リナが、ふと真剣な顔つきで俺に尋ねた。
「サラさんの手帳にあった遺跡ですか、それともまだ見ぬ新しい大陸へ」
彼女の問いは、俺がちょうど考えていたことと全く同じだった。
俺たちの旅は、一つの大きな目的を達成した。
だがそれは終わりではなく、新しい始まりに過ぎない。
俺はテーブルの上に広げていた、一枚の大きな世界地図に目をやった。
そこには俺たちがまだ足を踏み入れたことのない、未知の場所が無限に広がっていた。
その中でひときわ俺の目を引く、特別な場所があったのだ。
「リナ、あれを見てみろ」
俺が指さしたのは、世界の中心に浮かぶとされる巨大な浮遊島だった。
地図には、『天空の都・エーテルガルド』と書かれている。
雲の上に存在するという、伝説の場所だ。
数百年前に地上との交流が、途絶えたと伝えられている。
「天空の都、ですか。わあ、素敵ですね」
リナが目を輝かせて、地図をのぞき込んできた。
「ああ、だがただ素敵なだけじゃない。伝説によればそこは古代の超文明が築いた都市で、現代の技術を遥かに超える遺産が眠っているらしい。しかし都の周りは『嵐の壁』と呼ばれる魔法の嵐に閉ざされ、誰も近づくことすらできないそうだ」
未知の文明、そして誰もたどり着けない場所。
冒険者として、これほど心惹かれる言葉はなかった。
俺の【神の眼】が、そこに行けと強く告げているような気がする。
「行きましょう、カイさん。そこへ行きましょう」
リナも、俺と同じ気持ちだったようだ。
その瞳は新しい冒険への期待で、キラキラと輝いている。
「よし、決まりだな。次の目的地は、天空の都エーテルガルドだ」
俺たちがそう決意を固めた、その時だった。
テーブルの隅に置いていたロック鳥の卵が、ふわりと淡い光を放った。
そして地図に描かれたエーテルガルドの絵と響き合うように、優しくどきどきと動き始める。
「この子も、行きたいのかもしれませんね」
リナが、嬉しそうに卵を撫でた。
この卵から生まれる新たな仲間が、あるいは天空の都への道を切り開く鍵となるのかもしれない。
翌日、俺たちは早速エーテルガルドについての情報収集を始めた。
向かったのは、もちろん冒険者ギルドの資料室だ。
俺たちの顔を見るなり、ポポロさんは書庫の奥から駆け出してきた。
「おお、カイ殿。お待ちしておりましたぞ。ヴォルカノンの歴史書、第一稿が完成したところですじゃ」
ポポロさんは興奮した様子で、分厚い羊皮紙の束を俺たちに見せてくれた。
そこには俺たちの冒険の物語が、英雄の物語として生き生きと描かれていた。
俺は彼に礼を言うと、天空の都についての調査を頼んだ。
ポポロさんの目は、新たな謎を前にして再び学者の輝きを取り戻す。
「エーテルガルドですと。なんと、また伝説級の場所に挑まれるのですな。お任せくだされ、ギルドの全ての文献をひっくり返してでも情報を探し出してみせますぞ」
ポポロさんはそう言うと、再び書庫の奥へと消えていった。
その背中は、心なしかいつもより若々しく見えた。
次に俺たちは、バルガンの工房を訪ねた。
彼もまた、俺たちの新しい目標を聞いて目を輝かせた。
「天空の都か、そりゃあまたとんでもねえ目標を立てたもんだ。だが、兄さんたちならやり遂げちまうんだろうな」
バルガンは、豪快に笑った。
「空の上なら、それなりの準備が必要だろう。このオリハルコンで、最高の装備を作ってやるぜ。どんな嵐にも耐えられる、最高の鎧をな」
俺はバルガンにオリハルコンを預け、新しい装備の製作を頼んだ。
今回、俺はただ頼むだけではなかった。
俺もヘパイストスの槌を手に取り、バルガンと共に炉の前に立ったのだ。
燃え盛る炎が、俺たちの顔を熱く照らす。
「カイの兄さん、あんた本当に鍛冶の才能があるぜ。まるで、何十年も槌を振るってきた職人のようだ」
バルガンは、俺の槌さばきに心から感心していた。
俺の【神の眼】は、オリハルコンの金属としての性質を完璧に見抜く。
どこをどれくらいの力で叩けば最高の性能を引き出せるのかが、手に取るように分かるのだ。
俺とバルガン、二人の才能と神の槌、そして伝説の素材。
それらが合わさり、数日後には今までにない全く新しい防具が完成した。
それは羽のように軽く、それでいてアダマンタイト以上の強さを持つ白銀の鎧だった。
オリハルコンの繊維を編み込んで作られており、風の抵抗を極限まで受け流す流れるような形になっている。
さらにフレイム・クォーツの力を組み込み、内部の温度を常に快適に保つ魔法効果も付け加えた。
俺は、その鎧を『シルフィード・メイル』と名付けた。
リナにも同じ素材で、ローブ型の防具『シルフィード・ローブ』を作り上げた。
「すごい……体が、鳥になったみたいに軽いです」
リナは新しいローブを身にまとい、その場でくるりと回って見せた。
その姿は、まるで風の精霊のようだった。
全ての準備が整い、俺たちがラトスの街を出発しようとした日の朝だった。
宿屋の一室で大切に保管していたロック鳥の卵が、今までで一番強い光を放ち始めたのだ。
「カイさん、生まれます」
リナが、興奮した声で叫んだ。
卵の殻に、内側からヒビが入っていく。
そして光と共に殻が砕け散り、中から一羽の美しいヒナが姿を現した。
そのヒナは生まれたばかりとは思えないほど大きく、そして神々しい雰囲気を持っていた。
全身を覆うのは、磨き上げられた銀のように輝く羽毛だ。
その瞳は、空の色を映したかのような深い青色をしていた。
ヒナは俺とリナの顔を交互に見ると、親しげにキュイと鳴きながら俺の腕にすり寄ってきた。
俺は【神の眼】で、そのヒナを鑑定した。
――――――――――――――――
【真名】神速のロック鳥 アルジェント
【種別】神獣
【状態】誕生直後。カイとリナを親と認識している。
【能力】神速飛行、暴風結界、成長促進
【情報】聖なる力の影響で、通常のロック鳥よりも遥かに速く、そして賢く成長する可能性を秘めている。特に飛行速度は、成鳥になれば音を超えると言われる。
――――――――――――――――
「アルジェント、か。いい名前だ」
俺がその名を呼ぶと、アルジェントは嬉しそうに翼を広げた。
その翼は、すでに部屋の半分を覆うほどの大きさになっている。
驚くべきことにアルジェントは生まれてから数時間で、みるみるうちに成長していった。
昼頃には、俺たち二人を乗せても余裕で飛べるほどの大きな体になっていた。
「すごいですね、この子なら嵐の壁も越えられるかもしれません」
リнаが、アルジェントの銀色の背中を優しく撫でながら言った。
「ああ、間違いない。行くぞ、リナ」
俺たちは、ラトスの街の仲間たちに別れを告げた。
ポポロさんとバルガンさんは、まるで自分の息子を送り出すような顔で俺たちを見送ってくれた。
「カイ殿、リナ殿、ご武運を」
「兄さんたちなら、絶対やれる。帰ってきたら、祝杯を挙げようぜ」
俺たちは二人と、そして街の皆の温かい声援を背に受けた。
アルジェントの背に乗り、肩にはフェニクスを乗せる。
リナが、俺の腰にしっかりと腕を回した。
「アルジェント、行け。天空の都、エーテルガルドへ」
俺の号令と共に、アルジェントは力強く地面を蹴った。
銀色の巨体が、一瞬で青空へと舞い上がる。
眼下に見えるラトスの街が、みるみるうちに小さくなっていく。
風が、心地よく頬を撫でていった。
俺たちの新たな冒険が、まさに始まったのだ。
目指すは、まだ誰も見たことのない伝説の浮遊島。
その先で、どんな出会いと戦いが待っているのだろうか。
俺たちの進む先には、地図に記された嵐の壁が待ち構えている。
それは神々の領域と人間の世界を分ける、絶対的な境界線だと伝えられていた。
アルジェントの飛行速度は、想像を遥かに超えていた。
地上を旅すれば何週間もかかるであろう距離を、わずか数日で飛び越えてしまう。
やがて俺たちの視界の先に、空と雲の境目を覆い尽くす巨大な暗い雲の壁が見えてきた。
「あれが、嵐の壁か」
近づくにつれて、その普通じゃない様子がはっきりと分かった。
ただの嵐ではない、内部で紫色の稲妻が絶え間なく光りゴウゴウという轟音が鳴り響いている。
まるで、空に浮かぶ巨大な生きた要塞のようだ。
並の飛行生物なら、近づく前にその魔力の圧力だけで押し潰されてしまうだろう。
アルジェントは、しかし怖がる様子を少しも見せなかった。
むしろ自らの力を試す時が来たとでも言うように、その青い瞳を挑戦的に輝かせている。
「カイさん、行きますか」
リナの声が、風の音に混じって聞こえてくる。
「ああ、突っ切るぞ。アルジェント、やれるな」
俺が問いかけると、アルジェントは力強く一声鳴いた。
そして、その巨体を覆うように銀色のオーラを放ち始める。
これが、暴風結界か。
俺とリナ、そしてフェニクスの体を、風の壁が優しく包み込んだ。
これで、嵐の中の風圧や飛んでくるものから身を守ることができる。
俺の肩にいるフェニクスも、翼を広げて戦う準備に入った。
「行くぞ」
俺の合図と共に、アルジェントは銀色の矢となって嵐の壁へと突っ込んでいった。
壁に突入した瞬間、すさまじい衝撃と轟音が全身を襲う。
視界は、荒れ狂う暗い雲と稲妻で完全に奪われた。
上下左右の感覚すら、失われそうになる。
だがアルジェントの暴風結界は、完璧だった。
俺たちの体には、風圧一つ感じない。
アルジェントは、本能的に安全な道を選んで飛んでいるようだった。
0
あなたにおすすめの小説
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった!
「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」
主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる