追放された【鑑定士】の俺、ゴミスキルのはずが『神の眼』で成り上がる〜今更戻ってこいと言われても、もう遅い〜

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嵐の壁に突入した瞬間、世界は混沌に包まれた。
視界は荒れ狂う暗雲と紫の電光に覆われ、耳をつんざく轟音が絶え間なく響き渡る。
アルジェントが展開する暴風結界がなければ、一瞬で体ごと引き裂かれていただろう。
だがこの嵐の本当の恐ろしさは、物理的な脅威だけではなかった。

「カイさん、なんだか頭がクラクラします……」
リナが、苦しそうな声を上げた。
俺の頭にも、直接おかしな音が響いてくるような不快な感覚があった。
これは、強力な精神攻撃を伴う幻の魔法だ。
侵入者の方向感覚を狂わせ、正気を失わせるための罠に違いない。
羅針盤は、狂ったように回転を続けている。

「リナ、しっかりしろ。俺の声だけを聞け」
俺はリナの体を強く抱きしめ、自分の意識を集中させた。
そして【神の眼】を、この混沌の中心へと向ける。
荒れ狂う嵐の奥に、俺の目だけが見通せるものがあった。
それはこの空間を支配する魔力の流れ、いわゆる『レイライン』だ。
無数に絡み合うレイラインの中から、一本だけ穏やかで安定した流れが存在した。
あれが、この嵐を抜けるための唯一の安全な道筋だ。

「アルジェント、右だ。そのまま、まっすぐ進め」
俺はレイラインを頼りに、的確な指示を飛ばしていく。
アルジェントは俺の言葉を完璧に理解し、幻の嵐の中を正確に飛んでいった。
俺の肩で、フェニクスが甲高い鳴き声を上げた。
その右翼から放たれた浄化の神の炎が、俺たちの周りに渦巻く精神攻撃の魔力を焼き払っていく。
頭を締め付けていた不快な感覚が、すうっと晴れていった。

「ありがとう、フェニクス。助かった」
俺たちが嵐の中心部へと近づくにつれて、新たな脅威が姿を現した。
嵐の中から、無数の光る物体がこちらに向かって飛んでくる。
それは、水晶でできた機械仕掛けの守護者だった。
古代文明が、この都を守るために配置した自動迎撃システムなのだろう。
キィィィンという甲高い音と共に、守護者たちが一斉にエネルギービームを放ってきた。
光の弾幕が、雨のように俺たちに降り注ぐ。

「アルジェント、回避しろ。リナ、防御を頼む」
アルジェントは、神速飛行の能力を最大限に発揮した。
その巨体からは想像もできないほどの素早い動きで、ビームの弾幕を縫うように飛んでいく。
避けきれないビームは、リナが構えたアイギスの盾が完全に防いだ。
盾に当たったビームは魔力に変換され、リナの力となっていく。
俺たちの連携は、もはや完璧の域に達していた。

「反撃するぞ」
俺はアルジェントの背中から身を乗り出し、アグニを振るった。
刃から放たれた浄化の炎が、守護者の一群を正確に撃ち抜く。
炎に焼かれた水晶の体は、甲高い悲鳴を上げて砕け散った。
フェニクスも空中で華麗に舞いながら、炎と氷のブレスを吐き分ける。
炎は守護者を溶かし、氷は動きを封じる。
俺とフェニクスの攻撃が、次々と敵の数を減らしていった。
それは、まるで一つの生命体のように息の合った協力攻撃だった。

「すごい……」
後方で援護に徹していたリナが、俺たちの戦いぶりに息をのんでいる。
だが、守護者の数は減る気配を見せなかった。
倒しても倒しても、嵐の奥から次々と新たな群れが現れる。
このままでは、キリがない。

「カイさん、このままではアルジェントの体力が」
リナが、心配そうな声を出す。

「分かっている。一気に、中央を突破するぞ」
俺は、レイラインの先に一際強い輝きを放つ場所があるのを見抜いていた。
あれが、この嵐の壁を生み出している動力源に違いない。
あれを止めれば、この嵐は止まるはずだ。

「アルジェント、フェニクス。全速力で、あの光に向かえ」
俺の号令を受け、二羽の神鳥が雄叫びを上げた。
アルジェントはその翼を一度大きく羽ばたかせ、音速を超えるほどの速度で加速する。
フェニクスも、炎の翼と氷の翼の力を合わせた『デュアル・ウィング』を発動させた。
その体は紅白のオーラに包まれて、流星のように飛んでいく。
俺たちは、守護者の弾幕を強引に突き破りながら光の中心へと突き進んだ。
目の前に、巨大な水晶の塔のようなものが見えてきた。
あれが、動力源だ。

「カイさん、あれを破壊するんですね」
リナが、杖を構えながら言った。

「いや、違う」
俺は【神の眼】で、その水晶塔の正体を見抜いていた。
あれはただの動力源ではない、この浮遊島全体を支える巨大な制御装置だった。
下手に破壊すればこのエーテルガルドそのものが、地上へ落下してしまう危険性がある。

「リナ、お前の杖の力を貸せ。あの塔に、生命力を注ぎ込むんだ」

「生命力、ですか」
リナは、少し驚いたようだった。

「ああ、あの塔はエネルギーが枯渇しかけて暴走しているだけだ。世界樹の若枝の力なら、正常な状態に戻せるはず」
俺の判断を、リナは一瞬で理解した。
彼女は世界樹の若枝の杖を、水晶塔へとまっすぐに向けた。

「届け、私の想い。目覚めなさい、古の守り手よ」
リナの全魔力が、杖から放たれる生命力の奔流となった。
優しい緑色の光が、水晶塔を包み込んでいく。
光に触れた塔は暴走していた紫色の輝きを鎮め、穏やかな青色の光を取り戻していった。
すると、あれほど荒れ狂っていた嵐が嘘のように収まっていく。
暗い雲は晴れ、稲妻は消え、穏やかな風だけが俺たちの頬を撫でていった。
俺たちの周りを飛び回っていた守護者たちも、動きを止めて元の場所へと帰っていく。

嵐の壁は、完全に消滅した。
そして俺たちの目の前に、信じられないほど美しい光景が広がった。

「わあ……」
リナが、感嘆の声を漏らした。
そこには、青空の下に雄大に浮かぶ巨大な浮遊島があった。
水晶でできた白い塔が、太陽の光を反射して七色に輝いている。
建物と建物の間には、緑豊かな空中庭園が広がっていた。
島の縁からは虹のかかった巨大な滝が、雲の下へと流れ落ちている。
これこそが、伝説の天空の都エーテルガルド。
あまりの美しさに、俺はしばらく言葉を失っていた。

「すごい、本当にあったんだな」
俺たちは、アルジェントをゆっくりと降下させていった。
都の中心にある、最も大きな広場へと着陸する。
アルジェントが地面に降り立つと、その足元からカランと乾いた音がした。
広場は、塵一つないほどに清められている。
建物もまるで昨日建てられたかのように、傷一つない。
だが、奇妙なことが一つだけあった。
これほど壮大な都市にもかかわらず、人の気配が全くしないのだ。
聞こえるのは、風の音と滝の音だけ。
まるで、時間が止まった美しいゴーストタウンのようだった。

「カイさん、誰もいませんね」
リナが、不思議そうに首をかしげた。

「ああ、何かおかしい」
俺は、この都に満ちる違和感の正体を探るため広場の中央にそびえ立つ、ひときわ巨大な水晶の塔に【神の眼】を向けた。
そして、その鑑定結果を見て俺は息をのんだ。

――――――――――――――――
【名称】エーテルガルド中央制御塔『ゆりかご』
【状態】都市機能維持のため、全住民を対象とした集団コールドスリープを実行中。
【情報】千年前に飛来した『星の災厄』から住民を守るため、都市全体を深い眠りにつかせた。災厄が去ったことを感知できず、今もなお眠り続けている。
――――――――――――――――

「そうか、眠っているのか。この都の、全ての住人が」
千年もの間、救いを待ちながら。
俺のつぶやきに、リナは驚いたように目を見開いた。
俺たちの新たな冒険の目的が、この瞬間に決まった。
この美しい都と、そこに眠る人々を目覚めさせること。
それが、このエーテルガルドに導かれた俺たちの使命なのだろう。
まずは、この都の眠りを覚ます方法を探さなければならない。
俺は塔の内部構造と、そこに隠された情報を【神の眼】でさらに深く探っていく。
すると、塔の最上階に一つの強力なエネルギー反応があることに気づいた。
それは、このコールドスリープを制御している中心のシステムに違いなかった。

「リナ、あの塔の頂上へ行くぞ。そこに、この都を目覚めさせる鍵があるはずだ」

「はい」
リナの返事には、もはや一片の迷いもない。
俺たちはアルジェントの背に乗り、再び空へと舞い上がった。
目指すは、天を貫く巨大な水晶の塔の頂上だ。
塔に近づくにつれて、その表面に刻まれた古代の魔法陣が淡く輝いているのが見えた。
強力な防御の結界が、今もなお塔を守っている。
だがリナが持つ世界樹の若枝の杖が、それに響き合うように緑色の光を放ち始めた。
杖がこの都のシステムに対する、一種のマスターキーの役割を果たすのかもしれない。
俺たちの目の前で、塔の防御結界に人一人が通れるほどの入り口がゆっくりと開いていった。
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