外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

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ボルタ村長の報告は、祝賀ムードに沸いていた俺の拠点に、一瞬にして冷や水を浴びせた。
見慣れない冒険者が、俺の居場所を探っている。
その言葉に、その場にいたリリアーナ王女の表情が、すっと厳しくなった。

「ボルタ村長、その者たちの人相や特徴に、何か見覚えはありますか?」

「いえ、それが……皆、フードなどで顔を隠しており、はっきりとは……。ただ、その装備は、辺境の冒険者が持つには、少々立派すぎるように見えましたな。どこか、統率の取れた動きをしていたようにも感じます」

その答えに、リリアーナ王女は、すぐにアルフレッド騎士を呼びつけた。

「アルフレッド! 直ちに、腕利きの者を選抜し、テルメ村周辺の偵察に向かわせなさい! 決して、相手を刺激してはなりません。その者たちの正体と目的を、秘密裏に探るのです!」

「はっ! ただちに!」

アルフレッド騎士は、緊張した面持ちで一礼すると、風のように駆け出していった。
各国代表たちも、この不穏な報告に、顔を見合わせている。
アルス連合の設立という、歴史的な偉業を目前にして、それを妨害しようとする者が現れたのかもしれない。
拠点全体に、これまでとは違う、ピリリとした緊張感が走り始めた。

「アルス様、ご心配には及びません。あなた様のお体、そしてこの拠点は、我々が総力を挙げてお守りいたします」

リリアーナ王女は、俺を安心させるように、力強く言った。
その言葉通り、その日のうちに、拠点の警備体制は、これまでにないほど厳重なものへと強化された。
アルフレッド率いるエルグランド騎士団だけでなく、各国使節団が護衛として連れてきた、それぞれの国の精鋭兵士たちも、警備の任務に加わったのだ。
異なる国の紋章をつけた兵士たちが、協力して拠点の周りを巡回する姿は、まさに「アルス連合軍」の始まりを象徴しているかのようだった。

「しかし、ただ守りを固めるだけでは、芸がありませんな」

建築士長のバルトロさんが、にやりと笑いながら俺に言った。

「アルス様、ここは一つ、あなた様のお力で、この拠点を世界一安全な要塞へと変えてしまいましょうぞ」

その提案に、俺も頷いた。
確かに、受身でいるだけでは面白くない。
それに、俺のスキル【畑耕し】には、まだまだ未知の可能性があるはずだ。

「よし、やってみるか」

俺は、研究所の建設現場から少し離れた、拠点の外周部へと向かった。
そして、そこに、これまでにない規模で、スキルを発動させる。
俺がイメージしたのは、ただの壁ではない。
生命を持つ、天然の防衛システムだ。

「【畑耕し】、応用……『生命の城壁』創造!」

俺の手から放たれた緑色の光が、大地を駆け巡る。
すると、地面が盛り上がり、そこから、まるで意思を持つかのように、特殊な植物たちが、猛烈な勢いで成長を始めたのだ。
外壁の基礎となったのは、鋼のように硬く、そしてしなやかな、巨大な竹。
その竹が、瞬く間に天を突くほどの高さまで伸び、隙間なく並んで、強固な壁を形成する。
さらに、その竹の壁には、ダイヤモンドのように硬く、そしてカミソリのように鋭い棘を持つ、特殊なバラの蔓が、びっしりと絡みついていく。
これだけでも、物理的な侵入はほぼ不可能だろう。

だが、俺の防衛システムは、それだけでは終わらない。
壁の内側には、侵入者の魔力や殺気を敏感に感知すると、甘く、しかし抗いがたい眠りを誘う香りを放つ、「睡蓮花(すいれんか)」という、俺が新しく品種改良した花を植えた。
そして、地面には、侵入者が踏み込むと、粘着質の蔓で瞬時に絡め取ってしまう、「捕縛草(ほばくそう)」を、一面に張り巡らせた。

数時間後。
俺の拠点の周囲には、高さ数十メートルにも及ぶ、緑と棘に覆われた、生命の城壁が完成していた。
その威容は、もはや要塞と呼ぶにふさわしく、リリアーナ王女や各国代表たちは、その光景を、ただ呆然と見上げるばかりだった。

「こ、これが……アルス様の、本当のお力……」

「もはや、農業の神ではない……創造神そのものではないか……」

「この城壁……世界中のどんな城よりも、堅固で、そして美しい……」

彼らの称賛の声を聞きながら、俺は少しばかりやりすぎたかな、と苦笑した。
まあ、これで不審な輩が来ても、簡単には手出しできまい。

そして、その効果は、すぐに証明されることになった。
数日後、偵察に出ていたアルフレッド騎士が、血相を変えて報告に戻ってきたのだ。

「アルス様、リリアーナ様! 不審な冒険者たちの正体が判明いたしました!」

アルフレッド騎士の顔には、怒りと、そして侮蔑の色が浮かんでいる。

「彼らは……かつてアルス様を追放した、あの勇者ライオスが所属する、レイグランド王国の者たちで間違いありません! どうやら、アルス様の噂と、この地で生み出される奇跡の産物の話が、ついに彼らの耳にも届いたようです!」

ライオス……。
その名を聞いた瞬間、俺の心に、ほんのわずかな、過去の記憶がよぎった。
俺を「役立たず」と罵り、嘲笑いながら追放した、あの傲慢な勇者の顔。
まあ、今となっては、どうでもいいことだが。

「彼らの目的は?」

リリアーナ王女が、冷たく尋ねた。

「はっ。捕らえた下級兵士の口を割らせたところ、ライオスは、アルス様のその類まれなる生産能力を、レイグランド王国の国益のために独占しようと企んでいるようです。そのために、まずはアルス様を、穏便に……それが無理ならば、力ずくででも、王国へと連れ帰る計画だと」

その報告に、リリアーナ王女の瞳に、静かな怒りの炎が灯った。
他の国の代表者たちも、「なんという、卑劣な!」「アルス様を、自分たちの道具にしようなどと、万死に値する!」と、口々に怒りの声を上げる。

しかし、当の俺は、特に動じることもなかった。
むしろ、少しばかり面白いとさえ思ってしまった。

「そうか、あいつらも、ようやく俺の価値に気づいたってわけか。まあ、今さら遅いけどな」

俺は肩をすくめてみせた。

「来るなら来ればいい。今の俺の拠点が、そう簡単に破られるとは思えないけどな」

俺の余裕の態度に、リリアー-ナ王女や代表者たちの怒りも、少しだけ収まったようだ。
そうだ、今はそんな連中のことよりも、もっと大事なことがある。
それは、「アルス連合」の設立を記念して、新しい作物を作ることだ。

俺は、皆の心配をよそに、一人、新しい畑へと向かった。
そこで俺が作り出したのは、一粒一粒が、まるで虹のように七色に輝く、不思議なトウモロコシだった。
このトウモロコシには、特別な効果がある。
それは、食べた者の心を、無条件の幸福感で満たし、あらゆる争いや、いがみ合いの心を、綺麗さっぱりと洗い流してしまうという、とんでもない効果だ。
名付けて、「平和の虹色コーン」。

早速、焼きトウモロコシにして、リリアーナ王女や各国代表たちに振る舞ってみた。

「まあ、なんて美しいトウモロコシでしょう!」

「食べるのがもったいないくらいですな!」

彼らは、その見た目の美しさに感心しながら、一口、それをかじった。
その瞬間。

「……はふぅ……」

リリアーナ王女の頬が、ぽっと赤く染まり、その瞳は、うっとりととろけている。

「なんだか……胸の奥から、温かいものが込み上げてきて……世界中の全てが、愛おしく思えてきましたわ……」

「おお……! なんという、多幸感……! もはや、国の利益だとか、領土問題だとか、どうでもよくなってきましたな……。ええい、隣国の代表殿! いつもは憎らしいお主の顔が、今日はなんだか可愛く見えるぞ! さあ、ハグをしようではないか!」

「うむ! 我らも、もはや争う必要などない! この美味さを知ってしまったからには、武器など、もはや無用の長物ですな! 全ての剣を、鍬に作り替えましょうぞ!」

代表者たちは、皆、幸福感に満たされた表情で、互いに肩を組み、歌い始めた。
その様子を見て、俺は満足げに頷いた。
うん、これも大成功だな。

そんな平和で、少しばかり気の抜けた空気が拠点に満ちる中、ついに、その時はやってきた。
生命の城壁の外縁部で、警報を兼ねていた睡蓮花の香りが、ふわりと風に乗って拠点内へと届いたのだ。
侵入者だ。

報告を受けたアルフレッド騎士が、部下を率いて現場へと急行する。
そこで彼らが見たものは、俺が作った天然の防衛システムの前に、あっけなく無力化された、数名の武装した兵士たちの姿だった。
彼らは、睡蓮花の香りでぐっすりと眠りこけていたり、捕縛草の蔓にぐるぐる巻きにされて、身動きが取れなくなっていたりした。

「ふん、愚かな連中め」

アルフレッド騎士は、鼻で笑うと、眠っている兵士の一人を叩き起こした。
叩き起こされた兵士は、最初は状況が理解できずに混乱していたが、やがて、自分たちの任務が完全に失敗したことを悟り、顔面蒼白になった。

「言え! 貴様らの目的はなんだ! 誰の命令でここに来た!」

アルフレッドの鋭い尋問に、兵士は観念したように、全てを白状し始めた。

「……我々は、レイグランド王国、勇者ライオス様の直属の斥候部隊です……。ライオス様の、ご命令で……『聖者アルスを、何としても、生きたまま王国へと連れ帰れ』と……」

その報告が、リリアーナ王女の元にもたらされた時。
彼女は、普段の穏やかな表情からは想像もつかないほど、冷たく、そして絶対的な意志を込めた声で、宣言した。

「そうですか。ならば、こちらも、相応の対応を取らせていただきましょう。アルス様は、もはやエルグランド王国だけの、いえ、『アルス連合』にとって、かけがえのない至宝。何人たりとも、その御身に、指一本触れさせるわけにはいきませんわ」

その瞳には、女王の風格すら漂っていた。
どうやら、俺を巡る状況は、俺が知らないうちに、国家間の重大な問題へと発展してしまったようだ。
まあ、俺自身は、虹色コーンの次の新作でも考えながら、のんびりさせてもらうとしよう。
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