外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

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ガイア帝国の侵攻という、最悪の知らせ。
それは、ようやく掴みかけた平和な未来に、再び暗い影を落とした。
拠点に集う人々は、大陸最強と謳われる帝国軍の脅威に、色めき立ち、不安の声を上げる。

「ガイア帝国だと……!? あの好戦的な連中が、本気で攻めてくるというのか!」

「いかにアルス様の城壁が堅固とはいえ、帝国の魔導兵器の前では……」

「我々の国の兵力も、ここに集結させるべきではないか!?」

各国の代表者たちが、口々に叫び、対策会議は紛糾した。
誰もが、帝国の圧倒的な軍事力を前にして、恐怖を感じているのだ。

しかし、そんな混乱の渦中にあって、俺はただ一人、静かに畑へと向かっていた。
俺の心は、不思議なほどに穏やかだった。
恐怖はない。あるのは、ただ、やるべきことをやるだけだ、という静かな決意だけ。

「アルス様! こんな時に、畑仕事など……!」

リリアーナ王女が、心配そうな顔で俺の後を追ってきた。
彼女もまた、帝国の脅威を前にして、どうすればいいのか分からなくなっているのだろう。

「王女殿下、戦の基本は、兵站の確保ですよ」

俺は、振り返ってにっこりと笑った。

「帝国が何十万の軍勢で来ようとも、腹が減っては戦はできません。逆に言えば、我々が腹を満たし、万全の状態で迎え撃てば、負けるはずがないんです」

俺のあまりにも落ち着き払った態度に、リリアーナ王女は、きょとんとした顔をしている。

「さあ、見ていてください。俺が、帝国軍を迎え撃つための、最高の兵糧を作って見せますから」

俺はそう言うと、拠点の中でも、ひときわ広大な土地を選び、そこに、これまでにない規模でスキル【畑耕し】を発動させた。
俺がイメージしたのは、ただの作物ではない。
それ自体が、強力な兵器となりうる、戦闘用の特殊植物だ。

まず、地面から、まるで巨大な牙のように、鋭く硬い、漆黒のタケノコが、無数に突き出してきた。
名付けて、「黒曜の牙」。
このタケノコは、収穫して槍や矢尻として使えるだけでなく、地中に埋めておけば、敵の足元から奇襲をかける、天然のトラップにもなる。

次に、空に向かって、巨大なカボチャが、まるで投石器のように蔓を伸ばし始めた。
この「爆裂カボチャ」は、熟すと、内部に溜め込んだ高圧のガスと共に、無数の硬い種子を、凄まじい勢いで周囲に撒き散らす。
その威力は、並の鎧など、紙くずのように貫通してしまうだろう。

そして、仕上げに、俺は畑一面に、小さな赤い唐辛子の種を蒔いた。
この「龍の息吹唐辛子」は、食べれば、どんな兵士も、一時的に竜人のような怪力と、炎への耐性を得るという、強力な強化アイテムだ。
しかし、その本当の恐ろしさは、粉末にして風に乗せることにある。
その粉末を吸い込んだ者は、目や喉に、灼けるような激痛を感じ、一時的に戦闘不能に陥るのだ。

わずか半日で、俺の拠点周辺には、兵器とも呼べる作物が、実りの時期を迎えた畑が、延々と広がっていた。
その異様な、しかし頼もしい光景を目の当たりにしたリリアーナ王女や各国代表たちは、もはや開いた口が塞がらなかった。

「こ、これが……アルス様の……兵糧……?」

「もはや、畑ではない……兵器工場そのものではないか……!」

「黒曜の牙の槍、爆裂カボチャの投石、そして龍の息吹の粉末……。これだけの兵力があれば、帝国の軍勢とて、恐るるに足らず……!」

彼らの顔から、不安の色は完全に消え去り、代わりに、絶対的な勝利への確信と、俺への畏敬の念が浮かんでいた。

「さあ、皆さん。兵糧は、十分に確保できました」

俺は、収穫したばかりの「黒曜の牙」の槍を一本、軽々と持ち上げながら言った。

「あとは、これを扱う兵士たちの士気を、最大限に高めるだけです」

その日の夜、俺は、拠点にいる全ての兵士たちを集めて、決戦前の、最後の晩餐会を開いた。
もちろん、メニューは、俺の特製料理だ。
メインディッシュは、俺が育てた「闘魂米」を炊き上げた、巨大な塩むすび。
この米は、一粒食べただけで、全身に闘志がみなぎり、恐怖心など微塵も感じなくなるという、特別な効果を持っている。
さらに、おかずには、「龍の息吹唐辛子」をたっぷり使った、激辛の麻婆豆腐を用意した。

兵士たちは、最初は恐る恐る、その料理を口にした。
しかし、一口食べた瞬間、彼らの瞳に、燃えるような闘志の炎が宿った。

「うおおおおおおおっ!」

「なんだこの力は! 全身が、戦いたくてうずうずするぜ!」

「帝国軍よ、かかってこい! この俺が、一人で百人斬りを見せてやるわ!」

「辛い! だが美味い! そして、力が、無限に湧き上がってくる!」

兵士たちの士気は、最高潮に達した。
彼らの体からは、オーラのようなものが立ち上り、その気迫は、もはや人間のものではなかった。
リリアーナ王女も、その様子を見て、満足げに微笑んでいる。

「ふふ、アルス様。これならば、もう何も心配いりませんわね。わたくしも、明日は、自ら鎧をまとい、前線に立ちますわ」

「ええっ!? 王女殿下が、自ら!?」

「ええ。アルス様が守ろうとしている、この素晴らしい場所を、わたくしも、この手で守りたいのです。それに……」

リリアーナ王女は、少し頬を赤らめながら、俺の目を見つめて言った。

「あなた様の隣で、戦えるのですもの。これほど、光栄なことはありませんわ」

その言葉に、俺の心も、温かいもので満たされた。
そうだ、俺は一人で戦っているわけじゃない。
リリアーナ王女が、クロが、そして、ここにいる全ての仲間たちが、俺と一緒に戦ってくれる。

決戦の朝。
地平線の向こうから、ガイア帝国の黒い軍勢が、地響きを立てながら姿を現した。
その数は、ざっと見積もっても十万は下らないだろう。
先頭には、かつての勇者ライオスと、そして、帝国の紋章を掲げた、鎧姿の将軍たちがいる。

「ふん、辺境の農夫どもが、無駄な抵抗を」

ライオスが、嘲笑うように呟くのが、遠目にも分かった。
彼はまだ、俺の、そしてこの拠点の本当の恐ろしさを、何も理解していない。

俺は、生命の城壁の最上部に立ち、眼下に広がる帝国軍を見下ろした。
隣には、美しい銀の鎧に身を包んだリリアーナ王女と、そして、いつでも炎を吹けるように、喉をグルグルと鳴らしている、頼もしい相棒のクロがいる。

「さて、と」

俺は、大きく深呼吸をした。

「歓迎の準備は、万端だ。始めようか、俺たちの、防衛戦を」

俺がそう言ったのを合図に、拠点中に、戦いの始まりを告げる角笛の音が、高らかに響き渡った。
それは、新しい時代の幕開けを告げる、産声のようにも聞こえた。
俺たちの、そしてアルス連合の未来をかけた、最大の戦いが、今、始まろうとしていた。
俺は、眼下の敵軍を、静かに、しかし、絶対的な自信を持って見据える。
お前たちが、この楽園を蹂躙することは、決してできない。
この俺がいる限り。

「全軍、突撃!」

帝国の将軍が、号令を下す。
十万の軍勢が、一斉に鬨の声を上げ、俺たちの拠点へと殺到してきた。
その光景は、まさに黒い津波のようだ。
だが、俺たちの心に、もはや恐怖はなかった。
あるのは、勝利への確信と、そして、この楽園を守り抜くという、揺るぎない決意だけだ。

「クロ、まずは、最初の挨拶だ。派手にやってやれ」

俺がそう言うと、クロは、大きく息を吸い込んだ。
そして、その小さな口から、これまでにないほど巨大で、そして灼熱の炎の塊を、帝国軍の先陣に向かって、放ったのだ。
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