外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

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南の大陸から届いた「石化病」の知らせは、アルス連合の祝賀ムードに冷や水を浴びせ、拠点全体を新たな緊張感で包み込んだ。紫斑熱という脅威を乗り越えたばかりの彼らにとって、それは次なる試練の訪れを意味していた。

連合議事堂の円卓には、俺とリリアーナ王女、そしてこの地に滞在する各国の代表者たちが、重い面持ちで席に着いていた。南の大陸の使者がもたらした情報は、あまりにも衝撃的だった。人々が生きたまま石像のように硬化し、やがては命を失う。どんな薬も、祈りも、その進行を止めることはできないという。

「皆様、静粛に」

リリアーナ王女が、凛とした声でざわめく議場を制した。その瞳には、一国の指導者としての強い意志が宿っている。

「我々は、新たな脅威に直面しました。しかし、我々にはアルス様がおられます。紫斑熱という絶望を希望に変えてくださった、我らが救世主が。今こそ、アルス連合が一つとなり、この国難に立ち向かう時です」

彼女の言葉に、代表者たちは一斉に俺の方を向いた。その視線には、不安と共に、俺への絶対的な信頼と期待が込められている。やれやれ、またしても俺の肩に世界の運命がのしかかってきたらしい。

「アルス様。どうか、我々に、そして南の大陸で苦しむ民に、再びあなた様のお力をお貸しいただけないでしょうか」

リリアーナ王女が、代表者たちの思いを代弁するように、俺に深く頭を下げた。

「もちろんです、王女殿下」

俺は静かに、しかし力強く頷いた。

「困っている人がいるのなら、助けるのが俺のやり方です。それに、この『石化病』、少しばかり興味が湧いてきました」

俺の言葉に、代表者たちの顔に、ぱっと安堵の色が浮かんだ。俺が「興味が湧いた」と言う時、それは問題解決への絶対的な自信の表れであることを、彼らはもう知っているのだ。

「しかし、まずは敵を知る必要があります。石化病とは一体何なのか。その原因、そして性質。正確な情報がなければ、対策の立てようがありません」

俺がそう言うと、ガイア帝国から派遣されてきた学者が、おずおずと手を挙げた。彼はかつての敵国の人間だが、今ではアルス連合の熱心な協力者の一人だ。

「アルス様、もしよろしければ、我が帝国に伝わる古代の魔導技術がお役に立てるやもしれません。遠隔地の情報を映像として転写する、『千里眼の水晶』というものがございます。これを使えば、南の大陸の現状を、この場で直接見ることができるはずです」

「ほう、それは面白い」

俺はその提案を受け入れた。すぐにガイア帝国の協力の下、議事堂の中央に巨大な水晶が設置され、魔導師たちが呪文を唱え始めた。やがて、水晶は淡い光を放ち、その表面に、南の大陸の光景が、まるで窓の外の景色のように鮮明に映し出された。

そこに広がっていたのは、まさに地獄絵図だった。
街も、森も、そこに生きる全てのものが、不気味な灰色に染まり、時が止まったかのように静まり返っている。人々は、食事の途中、子供を抱きしめる最中、その日常の一瞬を切り取られたまま、苦悶の表情を浮かべた石像と化していた。その光景は、紫斑熱の悲劇とはまた違う、冷たく、そして無機質な絶望を感じさせた。

「なんという、むごい……」

リリアーナ王女が、悲痛な声で呟く。他の代表者たちも、言葉を失い、ただ唇を噛みしめている。

水晶の映像は、さらに大陸の奥深くへと進んでいく。そして、鬱蒼としたジャングルの中心部、巨大なクレーターのような盆地の底で、俺たちはついに、その元凶を目の当たりにした。
それは、巨大な、脈打つ心臓のような、不気味な灰色の水晶体だった。その水晶体からは、周囲の生命力を根こそぎ吸い上げるかのような、邪悪な波動が放たれ、灰色の靄(もや)となって、大地を覆い尽くしている。

「あれが……石化病の源……」

俺は、その邪悪な水晶体を、じっと見据えた。
あれは、ただの病原菌ではない。明確な意思を持った、何か別の存在だ。大地そのものを蝕み、石に変えようとする、星の捕食者のようなもの。

「なるほどな。相手が何者か、よく分かった」

俺は、静かに立ち上がった。

「皆さん、対策はあります。いや、この俺にしかできない対策が、です」

俺の言葉に、議場にいた全員の視線が、再び俺に集中した。

「あれが、生命力を吸い上げて石に変えるというのなら、こちらも、それを遥かに上回る生命力で対抗するまでです。俺のスキル【畑耕し】の真価を、今こそ見せてやりましょう」

その日の午後、俺は拠点の外れにある、広大な予備の畑へと向かった。
そこには、俺とクロ、そしてゼフィルス様と各国の学者たちが集まっている。ゼフィルス様は、俺からの連絡を受け、王都での研究を中断し、急遽この拠点へと戻ってきてくれたのだ。

「アルス殿、わしにも協力させてくれ。石化病のメカニズム、非常に興味深い。この老いぼれの知識が、何かの役に立つやもしれん」

「ありがとうございます、ゼフィルス様。心強いです」

俺は、まず、石化病の邪悪な波動に対抗するための、新たな植物の開発に取り掛かった。
俺がイメージしたのは、大地に深く根を張り、星そのものから生命力を直接吸い上げ、そしてそれを浄化の力に変える、巨大な世界樹のような存在だ。

「スキル【畑耕し】、応用……『生命樹の胎動』!」

俺は、これまでにないほどの集中力で、スキルを発動させた。
俺の全身から、眩いほどの緑色の光が溢れ出し、大地へと注ぎ込まれていく。
すると、地面が、ごごご、と地響きを立てて隆起し、そこから、巨大な、黄金色に輝く若木が、天を突く勢いで姿を現したのだ。
その若木は、周囲の空間に満ちる邪悪な波動をものともせず、むしろそれを養分とするかのように、ぐんぐんと成長していく。
その葉の一枚一枚からは、生命の息吹そのものと言える、清らかで、そして力強い波動が放たれていた。

「おお……! なんという、神々しい光景じゃ……!」

「これが、アルス様の本当の力……! まるで、世界の創造の瞬間に立ち会っているかのようだ……!」

ゼフィルス様も、学者たちも、その奇跡的な光景に、ただただ圧倒されている。

だが、これだけではまだ足りない。
石化病を根本から治療するには、患者の体内に直接働きかけ、石化した細胞を、再び生命力あふれる元の状態に戻す必要がある。
そこで俺は、もう一つの、全く新しい作物を生み出すことにした。

俺がイメージしたのは、果実だ。
その果実は、生命樹から吸い上げた、凝縮された生命エネルギーの塊。一口食べれば、どんな石化も解き、失われた生命力を取り戻すことができる、究極の回復アイテム。
その名は、「太陽の果実」。

俺は、成長した生命樹の根元に、特別な種を蒔いた。
そして、クロに向かって、合図を送る。

「クロ、頼む!」

「きゅいーん!」

クロは、俺の意図を正確に理解すると、生命樹の種に向かって、その黄金色の浄化の炎を、優しく吹きかけた。
クロの炎が、生命樹のエネルギーと融合し、種に注ぎ込まれていく。
すると、種は瞬く間に芽吹き、生命樹の幹に絡みつくようにして、蔓を伸ばし始めた。
そして、その蔓の先に、太陽のように眩しく、そして温かい光を放つ、黄金色の果実が、たった一つだけ実ったのだ。

「で、できた……!」

俺は、その果実を、慎重に蔓から切り離した。
手のひらに乗せただけで、全身に温かいエネルギーが満ちていくのが分かる。
これさえあれば、石化病は、もはや恐るるに足らない。

「ゼフィルス様、学者の方々。この『太陽の果実』の分析をお願いします。そして、これを、より多くの人々が使えるように、安全な形で加工する方法を、見つけ出してください」

俺がそう言うと、ゼフィルス様たちは、震える手でその果実を受け取り、すぐさま臨時研究室へと駆け込んでいった。
彼らの目には、新たな奇跡を前にした、研究者としての飽くなき探究心の炎が、再び燃え盛っていた。

「さて、と」

俺は、天高くそびえ立つ生命樹と、その根元に実った太陽の果実を見上げた。

「治療法は、見つかった。あとは、どうやってこれを、南の大陸まで届けるか、だな」

俺の呟きに、リリアーナ王女が、静かに一歩前に進み出た。

「アルス様。その役目、どうか、わたくしたちにお任せください」

彼女の瞳には、揺るぎない決意が宿っている。

「アルス連合の名の下に、最高の船と、最高の船乗りたちを集め、連合艦隊を編成いたします。そして、わたくし自身が、その艦隊を率いて、南の大陸へと向かいましょう。あなた様が作ってくださったこの希望を、わたくしが、責任を持って、苦しむ民の元へと届けてみせます」
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