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古代遺跡調査団が全ての任務を終え、首都に凱旋する日。
アルス連合の首都は、歴史的な一日を祝うために、かつてないほどの熱気と喜びに包まれていた。
大通りには各国の色とりどりの旗がはためき、沿道には英雄たちの帰還を一目見ようと、世界中から集まった人々がびっしりと詰めかけている。
俺はリリアーナや各国の代表者たちと共に、新しく完成した議事堂の露台からその光景を眺めていた。
眼下に広がる、人々の笑顔、笑顔、笑顔。
この光景が見たかったんだ、と俺は心から思った。
やがて遠くから歓声と共に調査団の堂々たる行列が見えてきた。
先頭を歩くのは日焼けして精悍な顔つきになったライオスだ。彼の顔にはもはやかつての傲慢さのかけらもなく、困難な任務をやり遂げた男の自信と仲間への信頼が満ち溢れている。
彼の後には各国の専門家たち、そして護衛の騎士たちが誇らしげに胸を張って続いていた。
「ライオス!」「英雄たち、ありがとう!」
沿道の人々から惜しみない拍手と歓声が送られる。
ライオスはその一つ一つに少し照れくさそうに、しかし丁寧に手を振って応えていた。
彼がこれほど多くの人々から心からの称賛を受ける日が来るなんて、追放されたあの日には想像もできなかっただろう。
行列が議事堂の前に到着すると、ライオスは代表して露台の俺たちの前に進み出た。
そして俺に向かって深々と頭を下げた。
「アルス様。古代遺跡調査団、ただいま、全ての任務を終え、帰還いたしました。世界各地の瘴気の源は、完全に浄化されました。これもひとえに、アルス様のお力と、仲間たちの協力があってこそです。本当に……ありがとうございました」
その声は感謝と万感の思いでわずかに震えていた。
「顔を上げてくれ、ライオス」
俺は穏やかに言った。
「お前は、見事に役目を果たしてくれた。いや、お前だけじゃない。調査団の皆、本当によくやってくれた。君たちは、この世界の真の英雄だ。ありがとう」
俺がそう言うと、ライオスだけでなく、調査団のメンバー全員の目から熱いものがこぼれ落ちた。
彼らの努力と勇気が、報われた瞬間だった。
その夜、議事堂の隣に建設された巨大な祝賀の広間で、調査団の功績を称える盛大な祝勝会が開催された。
広間には連合の主要メンバーが全員集まり、歴史的な偉業の達成を祝っている。
もちろん、料理は全て俺が準備した。
世界中の人々が故郷の味を思い出せるようにと開発した「思い出の香辛料」をふんだんに使った料理の数々は、大好評だった。
平和の象徴として作った「虹色玉蜀黍」を炒って弾けさせた菓子も、子供たちに大人気だ。
クロは得意の炎で、巨大な肉の塊を次々と豪快な焼肉にして、食いしん坊の兵士たちから神のように崇められていた。
宴もたけなわとなった頃、リリアーナに促され、俺は皆の前に立ち、演説をすることになった。
広間にいた全員が会話をやめ、俺の一挙手一投足に注目している。
やれやれ、やっぱりこういうのは苦手だな。
俺は一度大きく深呼吸をした。そして、ゆっくりと語り始めた。
「皆さん、今日は、本当におめでとう。そして、ありがとう。俺は元々は、辺境の地で追放されたただの農夫でした。一人で静かに畑を耕して生きていければ、それでいいとさえ思っていた」
俺の言葉に、皆、静かに耳を傾けている。
「でも、俺は多くの人々と出会いました。飢えに苦しむテルメ村の人々。国を憂うリリアーナ王女。薬学に情熱を燃やすゼフィルス様。そして、今ここにいる、かけがえのない仲間たち。皆と出会い、助け合い、笑い合う中で、俺は気づきました。本当の幸せは、一人で得るものじゃない。誰かと分かち合うことで、何倍にも、何十倍にも大きくなるんだ、と」
俺は会場にいる仲間たちの顔を一人一人見渡した。
リリアーナ、クロ、ゼフィルス様、バルトロさん、アルフレッド騎士、そして少し離れた席で静かに俺の話を聞いているライオス。
皆、俺にとってかけがえのない家族のような存在だ。
「俺の能力【畑耕し】は、確かに特別な力かもしれません。でも、その力だけでは、世界を救うことはできなかった。皆の知恵と、勇気と、そして誰かを思いやる温かい心があったからこそ、俺たちはここまで来ることができたんです」
「だから、俺は、この新しい時代の始まりに、皆に一つだけお願いがあります。どうか、隣にいる人を大切にしてください。国が違っても、文化が違っても、俺たちは皆、この同じ星に生きる同じ仲間なんだ、と。互いに助け合い、認め合い、そして共に未来を築いていってほしい。俺の畑が、どんな作物でも、分け隔てなく育むように」
「争いや憎しみからは何も生まれない。生まれるのは、豊かな大地と皆の笑顔からだけです。俺は、これからも皆の笑顔のために、この世界の最高の農夫であり続けたいと思っています。……ご清聴、ありがとうございました」
俺が演説を終えると、一瞬の静寂の後、広間は地鳴りのような割れんばかりの大喝采に包まれた。
総立ちの拍手は鳴り止むことを知らなかった。
リリアーナは美しい瞳を涙で潤ませながら、俺に微笑みかけている。
その笑顔が、俺にとって何よりの褒美だった。
祝勝会が終わり、穏やかな日常が戻ってきた。
世界の復興と発展は、アルス連合の下で順調に進んでいる。
俺も最高顧問という立場にはいるものの、基本的には大好きな畑仕事と新しい作物の研究に明け暮れる日々を送っていた。
そんなある日、俺は古代遺跡調査団が持ち帰った、ある情報に興味を惹かれた。
それは、古代文明で栽培されていたが、今は完全に失われてしまったという伝説の植物に関する記述だった。
その植物は「星の涙」と呼ばれ、食べた者の願いを一つだけ叶えるという、奇跡の力を持っていたという。
「願いを、叶える……か。面白いな」
俺は、その失われた伝説の植物を、俺の能力で現代に蘇らせてみようと思い立った。
古代の文献に残された断片的な情報だけが頼りだ。
それは、これまでのどんな品種改良よりも困難な挑戦になるだろう。
俺は研究所の地下にある、特別な実験農場にこもった。
ゼフィルス様や各国の最高の学者たちも俺の新たな挑戦に興味津々で、研究を手伝ってくれることになった。
俺は文献に記されていた「星の涙」が持っていたとされる、様々な特性を持つ植物たちを世界中から集めた。
夜になると淡い光を放つ花。
空に浮かぶ性質を持つ種子。
そして、人々の感情に共鳴して色を変える葉。
俺はこれらの植物の遺伝情報を、能力【畑と対話】で丁寧に読み解き、そしてそれらを一つの生命として再構築していく作業を開始した。
それは神の領域に踏み込むような、繊細で途方もない作業だった。
何日も、何週間も、俺は実験農場にこもり続けた。
リリアーナが心配して毎日食事を運んできてくれる。クロも俺のそばを片時も離れず、俺が疲れているとその温かい体で寄り添ってくれた。
そして、ついにその時は訪れた。
俺の目の前の土から、ゆっくりと一つの小さな芽が顔を出したのだ。
その芽は、まるで夜空に輝く星々のかけらを集めたかのように、キラキラと七色に輝いている。
そしてその芽は驚くべき速さで成長し、やがて一輪の、水晶細工のように透き通った美しい花を咲かせた。
花びらからは心が洗われるような、清らかで優しい光が放たれている。
これこそが、伝説の植物「星の涙」が、数千年の時を超えて現代に蘇った瞬間だった。
「ついに、やった……!」
俺は安堵と達成感で、その場に座り込んだ。
ゼフィルス様や学者たちも、その奇跡的な光景に感嘆の声を上げている。
だが、俺がこの「星の涙」を蘇らせたのには理由があった。
それは、俺自身のたった一つの願いを叶えるためだった。
俺は完成したばかりの「星の涙」の花を、一輪だけそっと摘み取った。
そして、リリアーナが待つ俺の温室へと向かう。
「リリアーナ」
俺が彼女の名前を呼ぶと、彼女は驚いたように、そして嬉しそうに俺の顔を見た。
「アルス様! 実験は、終わったのですか? そのお花は……?」
俺は少しだけ緊張しながら彼女の前に進み出た。
そしてその手に、摘み取ったばかりの「星の涙」の花をそっと差し出した。
「リリアーナ。これは、願いが叶うという伝説の花だ。俺の、たった一つの願いを聞いてくれないか」
彼女は頬を赤らめながら、俺の言葉の続きを待っている。
俺は彼女の目をまっすぐに見つめて言った。
「俺と、結婚してください」
その言葉に、リリアーナの美しい瞳から大粒の涙が、きらきらと流れ落ちた。
それは、まるで星の涙そのもののように、美しく輝いていた。
アルス連合の首都は、歴史的な一日を祝うために、かつてないほどの熱気と喜びに包まれていた。
大通りには各国の色とりどりの旗がはためき、沿道には英雄たちの帰還を一目見ようと、世界中から集まった人々がびっしりと詰めかけている。
俺はリリアーナや各国の代表者たちと共に、新しく完成した議事堂の露台からその光景を眺めていた。
眼下に広がる、人々の笑顔、笑顔、笑顔。
この光景が見たかったんだ、と俺は心から思った。
やがて遠くから歓声と共に調査団の堂々たる行列が見えてきた。
先頭を歩くのは日焼けして精悍な顔つきになったライオスだ。彼の顔にはもはやかつての傲慢さのかけらもなく、困難な任務をやり遂げた男の自信と仲間への信頼が満ち溢れている。
彼の後には各国の専門家たち、そして護衛の騎士たちが誇らしげに胸を張って続いていた。
「ライオス!」「英雄たち、ありがとう!」
沿道の人々から惜しみない拍手と歓声が送られる。
ライオスはその一つ一つに少し照れくさそうに、しかし丁寧に手を振って応えていた。
彼がこれほど多くの人々から心からの称賛を受ける日が来るなんて、追放されたあの日には想像もできなかっただろう。
行列が議事堂の前に到着すると、ライオスは代表して露台の俺たちの前に進み出た。
そして俺に向かって深々と頭を下げた。
「アルス様。古代遺跡調査団、ただいま、全ての任務を終え、帰還いたしました。世界各地の瘴気の源は、完全に浄化されました。これもひとえに、アルス様のお力と、仲間たちの協力があってこそです。本当に……ありがとうございました」
その声は感謝と万感の思いでわずかに震えていた。
「顔を上げてくれ、ライオス」
俺は穏やかに言った。
「お前は、見事に役目を果たしてくれた。いや、お前だけじゃない。調査団の皆、本当によくやってくれた。君たちは、この世界の真の英雄だ。ありがとう」
俺がそう言うと、ライオスだけでなく、調査団のメンバー全員の目から熱いものがこぼれ落ちた。
彼らの努力と勇気が、報われた瞬間だった。
その夜、議事堂の隣に建設された巨大な祝賀の広間で、調査団の功績を称える盛大な祝勝会が開催された。
広間には連合の主要メンバーが全員集まり、歴史的な偉業の達成を祝っている。
もちろん、料理は全て俺が準備した。
世界中の人々が故郷の味を思い出せるようにと開発した「思い出の香辛料」をふんだんに使った料理の数々は、大好評だった。
平和の象徴として作った「虹色玉蜀黍」を炒って弾けさせた菓子も、子供たちに大人気だ。
クロは得意の炎で、巨大な肉の塊を次々と豪快な焼肉にして、食いしん坊の兵士たちから神のように崇められていた。
宴もたけなわとなった頃、リリアーナに促され、俺は皆の前に立ち、演説をすることになった。
広間にいた全員が会話をやめ、俺の一挙手一投足に注目している。
やれやれ、やっぱりこういうのは苦手だな。
俺は一度大きく深呼吸をした。そして、ゆっくりと語り始めた。
「皆さん、今日は、本当におめでとう。そして、ありがとう。俺は元々は、辺境の地で追放されたただの農夫でした。一人で静かに畑を耕して生きていければ、それでいいとさえ思っていた」
俺の言葉に、皆、静かに耳を傾けている。
「でも、俺は多くの人々と出会いました。飢えに苦しむテルメ村の人々。国を憂うリリアーナ王女。薬学に情熱を燃やすゼフィルス様。そして、今ここにいる、かけがえのない仲間たち。皆と出会い、助け合い、笑い合う中で、俺は気づきました。本当の幸せは、一人で得るものじゃない。誰かと分かち合うことで、何倍にも、何十倍にも大きくなるんだ、と」
俺は会場にいる仲間たちの顔を一人一人見渡した。
リリアーナ、クロ、ゼフィルス様、バルトロさん、アルフレッド騎士、そして少し離れた席で静かに俺の話を聞いているライオス。
皆、俺にとってかけがえのない家族のような存在だ。
「俺の能力【畑耕し】は、確かに特別な力かもしれません。でも、その力だけでは、世界を救うことはできなかった。皆の知恵と、勇気と、そして誰かを思いやる温かい心があったからこそ、俺たちはここまで来ることができたんです」
「だから、俺は、この新しい時代の始まりに、皆に一つだけお願いがあります。どうか、隣にいる人を大切にしてください。国が違っても、文化が違っても、俺たちは皆、この同じ星に生きる同じ仲間なんだ、と。互いに助け合い、認め合い、そして共に未来を築いていってほしい。俺の畑が、どんな作物でも、分け隔てなく育むように」
「争いや憎しみからは何も生まれない。生まれるのは、豊かな大地と皆の笑顔からだけです。俺は、これからも皆の笑顔のために、この世界の最高の農夫であり続けたいと思っています。……ご清聴、ありがとうございました」
俺が演説を終えると、一瞬の静寂の後、広間は地鳴りのような割れんばかりの大喝采に包まれた。
総立ちの拍手は鳴り止むことを知らなかった。
リリアーナは美しい瞳を涙で潤ませながら、俺に微笑みかけている。
その笑顔が、俺にとって何よりの褒美だった。
祝勝会が終わり、穏やかな日常が戻ってきた。
世界の復興と発展は、アルス連合の下で順調に進んでいる。
俺も最高顧問という立場にはいるものの、基本的には大好きな畑仕事と新しい作物の研究に明け暮れる日々を送っていた。
そんなある日、俺は古代遺跡調査団が持ち帰った、ある情報に興味を惹かれた。
それは、古代文明で栽培されていたが、今は完全に失われてしまったという伝説の植物に関する記述だった。
その植物は「星の涙」と呼ばれ、食べた者の願いを一つだけ叶えるという、奇跡の力を持っていたという。
「願いを、叶える……か。面白いな」
俺は、その失われた伝説の植物を、俺の能力で現代に蘇らせてみようと思い立った。
古代の文献に残された断片的な情報だけが頼りだ。
それは、これまでのどんな品種改良よりも困難な挑戦になるだろう。
俺は研究所の地下にある、特別な実験農場にこもった。
ゼフィルス様や各国の最高の学者たちも俺の新たな挑戦に興味津々で、研究を手伝ってくれることになった。
俺は文献に記されていた「星の涙」が持っていたとされる、様々な特性を持つ植物たちを世界中から集めた。
夜になると淡い光を放つ花。
空に浮かぶ性質を持つ種子。
そして、人々の感情に共鳴して色を変える葉。
俺はこれらの植物の遺伝情報を、能力【畑と対話】で丁寧に読み解き、そしてそれらを一つの生命として再構築していく作業を開始した。
それは神の領域に踏み込むような、繊細で途方もない作業だった。
何日も、何週間も、俺は実験農場にこもり続けた。
リリアーナが心配して毎日食事を運んできてくれる。クロも俺のそばを片時も離れず、俺が疲れているとその温かい体で寄り添ってくれた。
そして、ついにその時は訪れた。
俺の目の前の土から、ゆっくりと一つの小さな芽が顔を出したのだ。
その芽は、まるで夜空に輝く星々のかけらを集めたかのように、キラキラと七色に輝いている。
そしてその芽は驚くべき速さで成長し、やがて一輪の、水晶細工のように透き通った美しい花を咲かせた。
花びらからは心が洗われるような、清らかで優しい光が放たれている。
これこそが、伝説の植物「星の涙」が、数千年の時を超えて現代に蘇った瞬間だった。
「ついに、やった……!」
俺は安堵と達成感で、その場に座り込んだ。
ゼフィルス様や学者たちも、その奇跡的な光景に感嘆の声を上げている。
だが、俺がこの「星の涙」を蘇らせたのには理由があった。
それは、俺自身のたった一つの願いを叶えるためだった。
俺は完成したばかりの「星の涙」の花を、一輪だけそっと摘み取った。
そして、リリアーナが待つ俺の温室へと向かう。
「リリアーナ」
俺が彼女の名前を呼ぶと、彼女は驚いたように、そして嬉しそうに俺の顔を見た。
「アルス様! 実験は、終わったのですか? そのお花は……?」
俺は少しだけ緊張しながら彼女の前に進み出た。
そしてその手に、摘み取ったばかりの「星の涙」の花をそっと差し出した。
「リリアーナ。これは、願いが叶うという伝説の花だ。俺の、たった一つの願いを聞いてくれないか」
彼女は頬を赤らめながら、俺の言葉の続きを待っている。
俺は彼女の目をまっすぐに見つめて言った。
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その言葉に、リリアーナの美しい瞳から大粒の涙が、きらきらと流れ落ちた。
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