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陽光室に差し込む午後の柔らかな光が、リリアーナの流す涙をきらきらと照らしていた。
俺が差し出した、水晶細工のように透き通った「星の涙」の花。
そして、俺の人生をかけた求婚の言葉。
彼女の美しい瞳からこぼれ落ちる雫は、悲しみのものではなく、深い喜びと俺への愛しさで満ち溢れているのが分かった。
「……はい」
ようやく、彼女の桜色の唇から、か細いが世界で一番美しい響きを持った言葉が紡がれた。
「はい……! 喜んで……! アルス様の、お嫁さんに、してください……!」
リリアーナは感極まったように、俺の胸に飛び込んできた。
その華奢な体を、俺は壊れ物を抱きしめるように優しく、そして力強く抱きしめた。
彼女の温もり、花の蜜のような甘い香り、そして俺の胸で聞こえる幸せな鼓動。
その全てが、俺にとって何よりも愛おしい宝物だった。
「ありがとう、リリアーナ。俺、必ず君を幸せにするよ」
「わたくしは、もうとっくの昔から、アルス様に幸せにしていただいておりますわ……」
彼女は涙で濡れた顔を上げ、これまでで一番美しい、満開の花のような笑顔を俺に向けてくれた。
その笑顔を見た瞬間、俺の心も温かい幸福感で完全に満たされた。
「きゅいーん! おめでとう!」
俺たちの足元でずっと静かに様子を見守っていたクロが、祝福するように甲高い声を上げた。
そして、その小さな口からきらきらと輝く祝福の光の粒子を、まるで祝福の花吹雪のように俺たちに向かって振りまいてくれる。
その光景はあまりにも幻想的で、俺たちの門出をこの世界の全てが祝福してくれているかのようだった。
俺とリリアーナの婚約の知らせは、アルフレッド騎士が感涙にむせびながら拠点中に伝令したことで、瞬く間に世界中を駆け巡った。
アルス連合の首都は、数日前の凱旋祝賀を超えるほどの、熱狂的な祝福の雰囲気に包まれた。
人々は俺たちの婚約をまるで自分のことのように喜び、広場では毎晩のように即席の祝宴が開かれている。
「聖者アルス様と、リリアーナ議長のご成婚! これぞ、新しい時代の幕開けの象徴だ!」
「我らが神と、慈愛の女神の結びつき! これで、世界の平和は永遠に約束されたも同然ですな!」
「ああ、なんて素晴らしい知らせなんだ! 今夜は、アルス様が作ってくださった『万能果汁の泉』で、朝まで乾杯だ!」
各国から、祝福の使者が山のような贈り物を携えてやってきた。
ガイア帝国からは、国宝である巨大な金剛石の原石。
東方の国々からは、最高級の絹織物。
南の大陸からは、珍しい宝石で飾られた黄金の装飾品。
どれもこれも、国家の威信をかけた、とんでもない代物ばかりだ。
だが、俺はそれら全てを丁重に、しかし固く辞退した。
「皆さん、そのお気持ちだけで十分です。ありがとうございます。ですが、俺が本当に欲しいのは、宝石や財宝ではありません。皆さんの、その笑顔です。どうか、その素晴らしい贈り物は、自国の復興と民の幸せのために使ってください。それが、俺にとって何より嬉しい結婚祝いになりますから」
俺の言葉に、各国の使者たちは最初こそ戸惑っていたが、やがて深い感銘を受けたように涙ながらに頷いた。
俺のその無欲な姿勢は、改めて世界中の人々の心を打ち、「聖者アルス」の伝説にまた新たな輝かしい一ページを書き加えることになったらしい。
そんな中、俺たちの結婚式の準備が、アルス連合の総力を挙げた一大事業として本格的に始動した。
「アルス様、リリアーナ様! お二人のための、世界で一番美しい教会は、このわたくし、バルトロにお任せください! 我が建築士人生の全ての知識と技術を注ぎ込み、神々すらも嫉妬するような、愛の殿堂を創造してみせますぞ!」
建築士長のバルトロさんが、いつになく目をぎらぎらと輝かせながら、壮麗な教会の設計図を俺たちの前に広げた。
その設計図は、俺が作った生命樹と調和するような、自然の曲線美を活かした息をのむほど美しい意匠だった。
「ゼフィルス様も負けてはおられませんぞ!」
研究所からは、ゼフィルス様が試験管を片手に駆けつけてきた。
「わしは、お二人の永遠の健康と子孫繁栄を祈願して、門外不出の秘薬を調合いたしますじゃ! これを飲めば、百歳になっても現役ばりばりで畑仕事ができますぞ! はっはっは!」
ゼフィルス様は、豪快に笑っている。
その気持ちはありがたいが、なんだか少しだけ効果が恐ろしい薬のような気もする。
仲間たちの熱意は、本当に嬉しいものだった。
俺も、俺たちらしい最高の結婚式にするために、俺の技能でいくつかの特別な植物を作り出すことにした。
まず、教会の装飾のために、俺は「祝福の光花」という新しい花を開発した。
この花は、昼間は純白の美しい花だが、夜になると花びらそのものが極光のように七色に輝く光を放つのだ。
その光が集まると、空に幻想的な模様を描き出す。
結婚式の夜は、首都の夜空をこの光花で埋め尽くして、世界で一番幻想的な光の装飾を演出しよう。
次に、祭壇の代わりとして、「誓いの双樹」を生み出した。
これは、二本の異なる種類の若木を、俺の技能で完全に一つに融合させた特別な木だ。
二本の幹は寄り添いながら成長し、やがて空に巨大な一つの心臓型の樹冠を形成する。
伝説によれば、この木の前で愛を誓った二人は、その絆が永遠に続くという。
俺とリリアーナの誓いの場所に、これほどふさわしいものはないだろう。
そして、結婚式の音楽のために、「幸運の響鈴草」を栽培した。
この草の葉の先には、小さな鈴のような形をした実がなる。
その実がそよ風に揺れると、まるで天使が奏でるような、清らかで心地よい音色を奏でるのだ。
その音色を聞いた者には幸運が訪れると言われている。
結婚式当日は、教会へ続く道をこの響鈴草で埋め尽くそう。
俺が結婚式のための特別な植物たちを次々と生み出すと、拠点の人々は、その奇跡的な美しさと効果に再び感嘆の声を上げた。
俺の技能は、もはや世界の危機を救うだけでなく、人々の心に最高の幸福と感動を与える力へと、その段階を上げていた。
そして、結婚式の主役であるリリアーナの花嫁衣装作りも、連合の最高の職人たちが集結し、国家事業として開始された。
意匠は、各国の伝統的な衣装の美しい部分を取り入れた、まさに連合の象徴と呼ぶにふさわしいものだ。
そして、その衣装の生地に使われる素材として、俺はこれまでにない究極の綿花を栽培することにした。
俺は、世界中から集められた最も品質の良い綿花の種子を、技能【畑耕し】で品種改良し、それらの長所だけを一つの種子へと統合していく。
軽さ、柔らかさ、丈夫さ、そして美しさ。
その全てを、極限まで高めるイメージを込めて。
そうして生まれたのが、「天衣の綿」と名付けられた奇跡の綿花だった。
その綿から紡がれる糸は、まるで光そのものを編み込んだかのように虹色にきらきらと輝き、天使の羽衣のように軽く、そして滑らかな肌触りをしていた。
「まあ……! なんという、美しい布地なのでしょう……!」
リリアーナは、完成したばかりの天衣の綿の生地にうっとりと頬を寄せた。
「こんな素晴らしい衣装を着て、アルス様の隣を歩けるなんて……わたくし、世界で一番の幸せ者ですわ」
彼女のその幸せそうな笑顔が、俺にとって何よりの原動力となった。
結婚式の準備は、拠点全体を巻き込んだ楽しいお祭りのように進んでいった。
テルメ村のボルタ村長やリリちゃんも、村で採れた最高の蜂蜜や、村人たちが心を込めて編んだ食卓布を、お祝いの品として持ってきてくれた。
「アルスお兄ちゃん、リリアーナお姉ちゃん、ご結婚おめでとう!」
リリちゃんが、元気いっぱいの声でそう言ってくれる。
その笑顔が、たまらなく愛おしい。
そんな祝福の雰囲気の中、農地で黙々と働いていたライオスが、ある日の夕方、俺の元を訪ねてきた。
その手には、彼が自分で育てたのだろう、少し不格好だが見事に実った真っ赤なトマトが数個握られていた。
「……アルス」
彼は少し気まずそうに、しかし真摯な瞳で俺を見つめてきた。
「結婚、おめでとう。……これは、その、俺からのささやかな祝いの品だ。お前が教えてくれた農法で、俺が初めて自分の手で育てた作物だ」
俺は、そのトマトを黙って受け取った。
ずっしりと重い。
その重みは、彼のこれまでの贖罪の日々と、これから新しい人生を歩もうとする彼の決意の重さのように感じられた。
「……ありがとう、ライオス。美味そうだな。リリアーナと一緒に、ありがたくいただくよ」
俺がそう言うと、彼の顔にほんのわずかだが安堵の笑みが浮かんだ。
「アルス……。俺は、お前に、そしてこの世界に取り返しのつかないことをした。その罪が消えることはないだろう。だが、俺はここで土と共に生きる中で、少しだけ分かった気がするんだ。何かを生み出し、育むことの尊さを。そして、誰かに感謝されることの温かさを」
「そうか」
「だから、俺はこれからもここで一人の農夫として生きていきたい。そして、いつか胸を張ってお前の、そして皆の役に立てる人間になりたいと思っている。……だから、その、なんだ……。幸せになってくれ」
ライオスはそれだけ言うと、不器用に一礼し、夕焼けの中を去っていった。
その背中は、もはや孤独な元勇者のものではなく、大地に根を張り生きようとする、一人の人間の力強い背中だった。
俺は、彼がくれたトマトをじっと見つめた。
そして、その一つをゆっくりと口に運ぶ。
口の中に広がったのは、太陽の味がする、甘くて少しだけしょっぱい、最高の味だった。
俺が差し出した、水晶細工のように透き通った「星の涙」の花。
そして、俺の人生をかけた求婚の言葉。
彼女の美しい瞳からこぼれ落ちる雫は、悲しみのものではなく、深い喜びと俺への愛しさで満ち溢れているのが分かった。
「……はい」
ようやく、彼女の桜色の唇から、か細いが世界で一番美しい響きを持った言葉が紡がれた。
「はい……! 喜んで……! アルス様の、お嫁さんに、してください……!」
リリアーナは感極まったように、俺の胸に飛び込んできた。
その華奢な体を、俺は壊れ物を抱きしめるように優しく、そして力強く抱きしめた。
彼女の温もり、花の蜜のような甘い香り、そして俺の胸で聞こえる幸せな鼓動。
その全てが、俺にとって何よりも愛おしい宝物だった。
「ありがとう、リリアーナ。俺、必ず君を幸せにするよ」
「わたくしは、もうとっくの昔から、アルス様に幸せにしていただいておりますわ……」
彼女は涙で濡れた顔を上げ、これまでで一番美しい、満開の花のような笑顔を俺に向けてくれた。
その笑顔を見た瞬間、俺の心も温かい幸福感で完全に満たされた。
「きゅいーん! おめでとう!」
俺たちの足元でずっと静かに様子を見守っていたクロが、祝福するように甲高い声を上げた。
そして、その小さな口からきらきらと輝く祝福の光の粒子を、まるで祝福の花吹雪のように俺たちに向かって振りまいてくれる。
その光景はあまりにも幻想的で、俺たちの門出をこの世界の全てが祝福してくれているかのようだった。
俺とリリアーナの婚約の知らせは、アルフレッド騎士が感涙にむせびながら拠点中に伝令したことで、瞬く間に世界中を駆け巡った。
アルス連合の首都は、数日前の凱旋祝賀を超えるほどの、熱狂的な祝福の雰囲気に包まれた。
人々は俺たちの婚約をまるで自分のことのように喜び、広場では毎晩のように即席の祝宴が開かれている。
「聖者アルス様と、リリアーナ議長のご成婚! これぞ、新しい時代の幕開けの象徴だ!」
「我らが神と、慈愛の女神の結びつき! これで、世界の平和は永遠に約束されたも同然ですな!」
「ああ、なんて素晴らしい知らせなんだ! 今夜は、アルス様が作ってくださった『万能果汁の泉』で、朝まで乾杯だ!」
各国から、祝福の使者が山のような贈り物を携えてやってきた。
ガイア帝国からは、国宝である巨大な金剛石の原石。
東方の国々からは、最高級の絹織物。
南の大陸からは、珍しい宝石で飾られた黄金の装飾品。
どれもこれも、国家の威信をかけた、とんでもない代物ばかりだ。
だが、俺はそれら全てを丁重に、しかし固く辞退した。
「皆さん、そのお気持ちだけで十分です。ありがとうございます。ですが、俺が本当に欲しいのは、宝石や財宝ではありません。皆さんの、その笑顔です。どうか、その素晴らしい贈り物は、自国の復興と民の幸せのために使ってください。それが、俺にとって何より嬉しい結婚祝いになりますから」
俺の言葉に、各国の使者たちは最初こそ戸惑っていたが、やがて深い感銘を受けたように涙ながらに頷いた。
俺のその無欲な姿勢は、改めて世界中の人々の心を打ち、「聖者アルス」の伝説にまた新たな輝かしい一ページを書き加えることになったらしい。
そんな中、俺たちの結婚式の準備が、アルス連合の総力を挙げた一大事業として本格的に始動した。
「アルス様、リリアーナ様! お二人のための、世界で一番美しい教会は、このわたくし、バルトロにお任せください! 我が建築士人生の全ての知識と技術を注ぎ込み、神々すらも嫉妬するような、愛の殿堂を創造してみせますぞ!」
建築士長のバルトロさんが、いつになく目をぎらぎらと輝かせながら、壮麗な教会の設計図を俺たちの前に広げた。
その設計図は、俺が作った生命樹と調和するような、自然の曲線美を活かした息をのむほど美しい意匠だった。
「ゼフィルス様も負けてはおられませんぞ!」
研究所からは、ゼフィルス様が試験管を片手に駆けつけてきた。
「わしは、お二人の永遠の健康と子孫繁栄を祈願して、門外不出の秘薬を調合いたしますじゃ! これを飲めば、百歳になっても現役ばりばりで畑仕事ができますぞ! はっはっは!」
ゼフィルス様は、豪快に笑っている。
その気持ちはありがたいが、なんだか少しだけ効果が恐ろしい薬のような気もする。
仲間たちの熱意は、本当に嬉しいものだった。
俺も、俺たちらしい最高の結婚式にするために、俺の技能でいくつかの特別な植物を作り出すことにした。
まず、教会の装飾のために、俺は「祝福の光花」という新しい花を開発した。
この花は、昼間は純白の美しい花だが、夜になると花びらそのものが極光のように七色に輝く光を放つのだ。
その光が集まると、空に幻想的な模様を描き出す。
結婚式の夜は、首都の夜空をこの光花で埋め尽くして、世界で一番幻想的な光の装飾を演出しよう。
次に、祭壇の代わりとして、「誓いの双樹」を生み出した。
これは、二本の異なる種類の若木を、俺の技能で完全に一つに融合させた特別な木だ。
二本の幹は寄り添いながら成長し、やがて空に巨大な一つの心臓型の樹冠を形成する。
伝説によれば、この木の前で愛を誓った二人は、その絆が永遠に続くという。
俺とリリアーナの誓いの場所に、これほどふさわしいものはないだろう。
そして、結婚式の音楽のために、「幸運の響鈴草」を栽培した。
この草の葉の先には、小さな鈴のような形をした実がなる。
その実がそよ風に揺れると、まるで天使が奏でるような、清らかで心地よい音色を奏でるのだ。
その音色を聞いた者には幸運が訪れると言われている。
結婚式当日は、教会へ続く道をこの響鈴草で埋め尽くそう。
俺が結婚式のための特別な植物たちを次々と生み出すと、拠点の人々は、その奇跡的な美しさと効果に再び感嘆の声を上げた。
俺の技能は、もはや世界の危機を救うだけでなく、人々の心に最高の幸福と感動を与える力へと、その段階を上げていた。
そして、結婚式の主役であるリリアーナの花嫁衣装作りも、連合の最高の職人たちが集結し、国家事業として開始された。
意匠は、各国の伝統的な衣装の美しい部分を取り入れた、まさに連合の象徴と呼ぶにふさわしいものだ。
そして、その衣装の生地に使われる素材として、俺はこれまでにない究極の綿花を栽培することにした。
俺は、世界中から集められた最も品質の良い綿花の種子を、技能【畑耕し】で品種改良し、それらの長所だけを一つの種子へと統合していく。
軽さ、柔らかさ、丈夫さ、そして美しさ。
その全てを、極限まで高めるイメージを込めて。
そうして生まれたのが、「天衣の綿」と名付けられた奇跡の綿花だった。
その綿から紡がれる糸は、まるで光そのものを編み込んだかのように虹色にきらきらと輝き、天使の羽衣のように軽く、そして滑らかな肌触りをしていた。
「まあ……! なんという、美しい布地なのでしょう……!」
リリアーナは、完成したばかりの天衣の綿の生地にうっとりと頬を寄せた。
「こんな素晴らしい衣装を着て、アルス様の隣を歩けるなんて……わたくし、世界で一番の幸せ者ですわ」
彼女のその幸せそうな笑顔が、俺にとって何よりの原動力となった。
結婚式の準備は、拠点全体を巻き込んだ楽しいお祭りのように進んでいった。
テルメ村のボルタ村長やリリちゃんも、村で採れた最高の蜂蜜や、村人たちが心を込めて編んだ食卓布を、お祝いの品として持ってきてくれた。
「アルスお兄ちゃん、リリアーナお姉ちゃん、ご結婚おめでとう!」
リリちゃんが、元気いっぱいの声でそう言ってくれる。
その笑顔が、たまらなく愛おしい。
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その手には、彼が自分で育てたのだろう、少し不格好だが見事に実った真っ赤なトマトが数個握られていた。
「……アルス」
彼は少し気まずそうに、しかし真摯な瞳で俺を見つめてきた。
「結婚、おめでとう。……これは、その、俺からのささやかな祝いの品だ。お前が教えてくれた農法で、俺が初めて自分の手で育てた作物だ」
俺は、そのトマトを黙って受け取った。
ずっしりと重い。
その重みは、彼のこれまでの贖罪の日々と、これから新しい人生を歩もうとする彼の決意の重さのように感じられた。
「……ありがとう、ライオス。美味そうだな。リリアーナと一緒に、ありがたくいただくよ」
俺がそう言うと、彼の顔にほんのわずかだが安堵の笑みが浮かんだ。
「アルス……。俺は、お前に、そしてこの世界に取り返しのつかないことをした。その罪が消えることはないだろう。だが、俺はここで土と共に生きる中で、少しだけ分かった気がするんだ。何かを生み出し、育むことの尊さを。そして、誰かに感謝されることの温かさを」
「そうか」
「だから、俺はこれからもここで一人の農夫として生きていきたい。そして、いつか胸を張ってお前の、そして皆の役に立てる人間になりたいと思っている。……だから、その、なんだ……。幸せになってくれ」
ライオスはそれだけ言うと、不器用に一礼し、夕焼けの中を去っていった。
その背中は、もはや孤独な元勇者のものではなく、大地に根を張り生きようとする、一人の人間の力強い背中だった。
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