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第5話 神獣の正体と全自動魔導洗濯機
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私は、城のキッチンに立ち、腕まくりをして気合いを入れた。
薄汚れていた調理場は、私の大掃除によってピカピカに輝いている。
隣では、フェンリルが私の指示を待って、背筋を伸ばして控えていた。
その姿は、忠実な執事のようであり、頼もしい相棒のようでもある。
キッチンの入り口には、騎士たちが鈴なりになって中を覗き込んでいた。
彼らは仕事も手に付かない様子で、期待に目を輝かせている。
「さあ、まずは『魔導式冷凍冷蔵庫』を完成させるわよ!」
私の宣言が、広々としたキッチンに高らかに響き渡る。
「おお! ついに、あの魔法の箱が作られるのか!」
「夏でも氷が作れるという、伝説の道具ですね!」
騎士たちが、興奮を抑えきれない様子でざわめき立った。
私は、先ほど倉庫から集めてきた魔石と鉄クズを、床に綺麗に並べる。
どれもゴミ同然のガラクタだが、私にとっては最高の素材だ。
「フェンリル、青い魔石をあっちに。鉄板はこっちにお願い。」
「承知いたしました。配置は完璧でございます、主。」
フェンリルが、流れるような動作で素材をセットしてくれた。
私は深呼吸をして、体内の魔力を指先に集中させる。
指先がポウッ、と温かい光を帯びて、黄金色に輝き始めた。
私はその指を鉄板に走らせ、繊細な模様を刻んでいく。
ジジジッ、という音と共に、鉄の表面に複雑な幾何学模様が浮かぶ。
それは、空気中の水分を凍らせないように調整する、高度な回路だ。
冷却効率を極限まで高めつつ、霜がつかないように制御する。
前世の家電製品の知識と、この世界の魔法技術の融合である。
「主、その紋様は古代の氷結魔法に似ていますが、少し違いますね。」
フェンリルが、感心したように私の手元を覗き込んできた。
彼の金色の瞳が、回路の複雑さを理解しようと動いている。
「ええ、これは効率を重視した、私流のオリジナルよ。」
「なんと……。古代魔法を改良して、独自の術式を編み出すとは。」
フェンリルは、驚愕のあまり言葉を失っているようだ。
「見てください! お嬢様の手が、残像に見えます!」
入り口で見ていた騎士の一人が、素っ頓狂な声を上げた。
「なんて速さだ! 一秒間に数百ものルーン文字を描いているぞ!」
「宮廷魔導師が三日がかりで描く魔法陣を、一瞬で書き上げるとは!」
「やはり、お嬢様は魔法の神に愛された申し子なのだ!」
彼らの称賛の声が、BGMのように心地よく響いてくる。
私は鼻歌交じりに、最後の魔力を回路の中心に流し込んだ。
カッ! と強い光が放たれ、鉄クズの山が形を変える。
光が収まると、そこには銀色に輝く巨大な箱が鎮座していた。
表面は鏡のように磨き上げられ、美しい曲線を描いている。
「完成よ! スイッチ、オン!」
私が扉を開けると、中から冷たい白煙がふわりと溢れ出した。
ひんやりとした冷気が、熱気溢れるキッチンに広がっていく。
「うわあぁっ! 冷たい! 冷たい風が吹いてきたぞ!」
「信じられん! 今は真夏だぞ!? ここは冬山なのか!?」
騎士たちが、冷気に驚いて大騒ぎを始めた。
「箱の中が……凍っている! 氷の洞窟のようだ!」
「すごいです。これなら、真夏でも肉を腐らせずに済みます。」
フェンリルが、箱の中に手を入れて、驚きの声を上げた。
「これなら、生鮮食品も長期保存が可能ですね。」
「当たり前よ。私の作った魔導具に、不可能はないわ。」
私は、腰に手を当てて、満足げに鼻を鳴らした。
ふふん、と胸を張ると、騎士たちが拍手喝采を送ってくれる。
「お嬢様、万歳! 冷蔵庫、万歳!」
「これで冷たい飲み物が飲めるぞ! 生き返るようだ!」
城の生活レベルが一気に数百年分進化した瞬間である。
しかし、冷蔵庫を作ったのは、あくまで準備段階に過ぎない。
私の本当の目的は、この箱を使って作る至高のデザートだ。
「さて、器はできたわ。次は中身に取り掛かりましょうか。」
私は、用意しておいた特別な材料を、テーブルの上に置いた。
ゴトリ、と重い音がして、青白い果実が転がる。
それは、城の裏庭の片隅で見つけた、禍々しい果実だった。
表面にはトゲがあり、触れるだけで指が凍りそうな冷気を放っている。
『氷の呪い』が宿った、禁断の果実である。
「カトリーヌ様、それはまさか……氷獄の果実では!?」
キッチンの外で見ていた騎士のガレスが、顔を真っ青にして叫んだ。
「おやめください! それに触れてはなりません!」
他の騎士たちも、恐怖に顔を引きつらせて後ずさった。
「それは、食べた者の内臓を一瞬で凍らせる猛毒ですぞ!」
「過去に何人もが、その果実の犠牲になったと聞いております!」
「すぐに捨ててください! 命に関わります!」
彼らの必死の制止を聞き流し、私は果実を手に取った。
ピリピリとした冷たい刺激が、手のひらから伝わってくる。
普通なら、食べれば内臓が凍り付いて死んでしまう毒物。
しかし、今の私にとっては、最高の冷感スイーツの材料だ。
「ええ、そうよ。これがとっても美味しそうなの。」
私は、ニッコリと笑って、その青白い果実の皮を剥き始めた。
皮を剥くたびに、強烈な冷気が噴き出し、霜が降りる。
「ひぃっ! 空気が凍っていく!」
「お嬢様、正気ですか!? あんなものを食べるなんて!」
騎士たちの悲鳴をBGMに、私は剥きたての果肉を口へ運んだ。
パクッ。
シャリッ、という小気味良い音が、静まり返ったキッチンに響く。
「……んん! 冷たくて、ソーダ味のシャーベットみたい!」
私は、口元を手で押さえて、うっとりと目を細めた。
口の中でパチパチと弾ける呪いの成分が、最高に心地よい。
濃厚な甘みと、突き抜けるような爽快感が同時に襲ってくる。
「あまずっぱくて、後味がスッキリしているわ!」
私がゴクリと飲み込むと、体の中で爆発的な反応が起きた。
ボォォッ! と私の全身から、黄金のオーラが噴き出したのだ。
「きゃっ! また魔力が上がっちゃった!」
私の髪の毛が、重力に逆らってふわりと浮き上がる。
肌にさらに透明感が増し、内側から発光しているようだ。
食べた呪いが即座に美貌ポイントへと変換されていく。
指先から足の爪に至るまで、細胞の一つ一つが磨き上げられた。
「あ、ああ……。お嬢様がまたお美しく……。」
騎士の一人が、あまりの眩しさに手で目を覆った。
「目が! 目が潰れそうです! なんて神々しい輝きだ!」
「直視できません! これは女神の光だ!」
騎士たちが、バタバタとその場にひれ伏していく。
彼らは、私の美しさに圧倒され、拝まずにはいられないようだ。
「お嬢様、その果実を使って何を作るのですか?」
フェンリルだけは、涼しい顔で私の手元を見つめている。
彼は、私の常識外れな行動にも、すっかり慣れてきたらしい。
「『魔導フローズン・ケーキ』よ。皆にも分けてあげるわね。」
私は、呪いを食べて完全に浄化した果実を、包丁で刻み始めた。
トントントン、と軽快なリズムで、青い果肉が細かくなっていく。
そこに、先ほどオーブンで焼いておいたスポンジ生地を用意する。
ボウルに魔力で泡立てた生クリームを入れ、果肉を混ぜ合わせる。
「美味しくなーれ、冷たくなーれ。」
私が呪文のように呟きながら混ぜると、クリームが青く輝き出した。
魔力が均等に行き渡り、素材の味が極限まで引き出される。
それをスポンジの上にたっぷりと塗り、形を整えていく。
仕上げに、砕いた氷の結晶のような飴細工を散りばめる。
「よし、これを冷蔵庫で冷やせば完成よ!」
私は、作りたてのケーキを、先ほどの冷蔵庫に入れた。
数分待つ間、キッチンには甘くて冷たい香りが充満していた。
騎士たちは、もはや我慢の限界を迎えているようだ。
「ゴクリ……。なんていい匂いなんだ。」
「あの毒物が、あんなに美味そうなケーキになるなんて……。」
「早く食べたい! お嬢様、まだですか!」
彼らの視線が、冷蔵庫の扉に釘付けになっている。
「よし、完成! 皆、お皿を持って並んでちょうだい!」
私が扉を開けると、そこには宝石のように輝くケーキがあった。
ひんやりとした白煙の中から、青いケーキが姿を現す。
「わあぁぁぁっ!」
騎士たちが歓声を上げ、一斉にキッチンへ雪崩れ込んできた。
「押さないで! 順番よ、順番!」
彼らは、私の言葉に従い、行儀よく一列に整列した。
まるで、餌を待つお腹を空かせた大型犬のようだ。
列の最後尾には、バレル伯爵もこっそりと加わっていた。
彼は気まずそうに顔を背けているが、手にはしっかり皿を持っている。
「はい、まずはフェンリルの分。特製の大盛りよ。」
私は、一番大きなカットを皿に乗せ、フェンリルに手渡した。
青く輝くケーキは、プルプルと震えて美味しそうだ。
「ありがとうございます、主。いただきます。」
フェンリルは、優雅な仕草でスプーンを持ち、ケーキをすくった。
彼が一口食べた瞬間、時間が止まったかのような静寂が訪れる。
「…………。」
フェンリルの金色の瞳が、見開かれたまま動かない。
そして、彼の端正な顔立ちが、一瞬でとろけるような笑みに変わった。
「……これは、天国の食べ物ですか。身体が浮き上がるようです。」
彼の背後から、幻覚のような白い翼が見えた気がした。
「口に入れた瞬間、雪のように溶けて消えました。」
「濃厚なミルクの味と、果実の酸味がダンスを踊っています。」
フェンリルの詩的な食レポに、騎士たちの喉がゴクリと鳴る。
「よかった。騎士の皆さんも、どうぞ!」
私は、手際よく次々とケーキを切り分けて、騎士たちに配った。
「ありがとうございます! 一生ついていきます!」
騎士たちは、震える手でケーキを受け取り、口へと運んだ。
パクッ。
その瞬間、キッチンの中で爆発のようなどよめきが起きた。
「うおぉぉぉぉっ!!」
彼らは、最初の一口で、全員がその場に崩れ落ちたのだ。
「なんだこの冷たさは……。脳に直接衝撃が来るぞ!」
「頭がキーンとする! でも、それが最高に気持ちいい!」
「甘い、甘すぎる! なのに、後味が驚くほど爽やかだ!」
騎士たちが、涙を流しながら、一心不乱にケーキを食べている。
彼らの体から、ポワポワと温かい光が立ち上り始めた。
私の込めた魔力が、彼らの体内で作用しているのだ。
ボロボロだった彼らの装備が、魔力の影響で修復されていく。
錆びついていた鎧は銀色に輝き、欠けた剣は鋭さを取り戻す。
さらに、彼らの体にあった古い傷跡までもが、見る間に消えていった。
「嘘だろ……。去年の冬に負った古傷が、消えている!」
「肩こりが治った! 体が羽のように軽いぞ!」
私の作った料理には、食べた人の傷を癒やし、強化する力がある。
まさに、食べるだけで最強になれる魔法のケーキだ。
「俺、この城に来て本当によかった。死ぬかと思ったけど!」
「ここは天国だ! お嬢様こそが、我らの神だ!」
騎士たちは、口の周りをクリームだらけにして、私を称えた。
「……おい、私の分はどうした。」
不機嫌そうな、しかし切羽詰まった声が聞こえた。
見ると、バレル伯爵が空になった皿を持って、私を睨んでいる。
彼は、列の最後尾でずっと待っていたのだ。
その目は、空腹と期待で血走っている。
「あ、忘れてました。伯爵もいらしたんですね。」
私は、わざとらしく驚いて見せた。
「ぐぬぬ……。忘れるとは何事だ! 私にもよこせ!」
「はいはい、どうぞ。残りの端っこですけど。」
私は、少しだけ小さめにカットしたケーキを彼に渡した。
形は崩れているが、味は変わらないはずだ。
彼は、不服そうに鼻を鳴らしながらも、皿をひったくった。
「ふん、こんな毒々しい色のケーキが美味いわけが……。」
彼は疑わしげにスプーンですくい、恐る恐る口に入れた。
パクッ。
その瞬間、バレル伯爵の体がビクンと大きく跳ねた。
「!?」
彼は、カッと目を見開き、スプーンを取り落とした。
「あああ! 美味い、美味すぎるぞおおお!」
彼は、絶叫しながら、皿を舐め回さんばかりの勢いでケーキを完食した。
薄汚れていた調理場は、私の大掃除によってピカピカに輝いている。
隣では、フェンリルが私の指示を待って、背筋を伸ばして控えていた。
その姿は、忠実な執事のようであり、頼もしい相棒のようでもある。
キッチンの入り口には、騎士たちが鈴なりになって中を覗き込んでいた。
彼らは仕事も手に付かない様子で、期待に目を輝かせている。
「さあ、まずは『魔導式冷凍冷蔵庫』を完成させるわよ!」
私の宣言が、広々としたキッチンに高らかに響き渡る。
「おお! ついに、あの魔法の箱が作られるのか!」
「夏でも氷が作れるという、伝説の道具ですね!」
騎士たちが、興奮を抑えきれない様子でざわめき立った。
私は、先ほど倉庫から集めてきた魔石と鉄クズを、床に綺麗に並べる。
どれもゴミ同然のガラクタだが、私にとっては最高の素材だ。
「フェンリル、青い魔石をあっちに。鉄板はこっちにお願い。」
「承知いたしました。配置は完璧でございます、主。」
フェンリルが、流れるような動作で素材をセットしてくれた。
私は深呼吸をして、体内の魔力を指先に集中させる。
指先がポウッ、と温かい光を帯びて、黄金色に輝き始めた。
私はその指を鉄板に走らせ、繊細な模様を刻んでいく。
ジジジッ、という音と共に、鉄の表面に複雑な幾何学模様が浮かぶ。
それは、空気中の水分を凍らせないように調整する、高度な回路だ。
冷却効率を極限まで高めつつ、霜がつかないように制御する。
前世の家電製品の知識と、この世界の魔法技術の融合である。
「主、その紋様は古代の氷結魔法に似ていますが、少し違いますね。」
フェンリルが、感心したように私の手元を覗き込んできた。
彼の金色の瞳が、回路の複雑さを理解しようと動いている。
「ええ、これは効率を重視した、私流のオリジナルよ。」
「なんと……。古代魔法を改良して、独自の術式を編み出すとは。」
フェンリルは、驚愕のあまり言葉を失っているようだ。
「見てください! お嬢様の手が、残像に見えます!」
入り口で見ていた騎士の一人が、素っ頓狂な声を上げた。
「なんて速さだ! 一秒間に数百ものルーン文字を描いているぞ!」
「宮廷魔導師が三日がかりで描く魔法陣を、一瞬で書き上げるとは!」
「やはり、お嬢様は魔法の神に愛された申し子なのだ!」
彼らの称賛の声が、BGMのように心地よく響いてくる。
私は鼻歌交じりに、最後の魔力を回路の中心に流し込んだ。
カッ! と強い光が放たれ、鉄クズの山が形を変える。
光が収まると、そこには銀色に輝く巨大な箱が鎮座していた。
表面は鏡のように磨き上げられ、美しい曲線を描いている。
「完成よ! スイッチ、オン!」
私が扉を開けると、中から冷たい白煙がふわりと溢れ出した。
ひんやりとした冷気が、熱気溢れるキッチンに広がっていく。
「うわあぁっ! 冷たい! 冷たい風が吹いてきたぞ!」
「信じられん! 今は真夏だぞ!? ここは冬山なのか!?」
騎士たちが、冷気に驚いて大騒ぎを始めた。
「箱の中が……凍っている! 氷の洞窟のようだ!」
「すごいです。これなら、真夏でも肉を腐らせずに済みます。」
フェンリルが、箱の中に手を入れて、驚きの声を上げた。
「これなら、生鮮食品も長期保存が可能ですね。」
「当たり前よ。私の作った魔導具に、不可能はないわ。」
私は、腰に手を当てて、満足げに鼻を鳴らした。
ふふん、と胸を張ると、騎士たちが拍手喝采を送ってくれる。
「お嬢様、万歳! 冷蔵庫、万歳!」
「これで冷たい飲み物が飲めるぞ! 生き返るようだ!」
城の生活レベルが一気に数百年分進化した瞬間である。
しかし、冷蔵庫を作ったのは、あくまで準備段階に過ぎない。
私の本当の目的は、この箱を使って作る至高のデザートだ。
「さて、器はできたわ。次は中身に取り掛かりましょうか。」
私は、用意しておいた特別な材料を、テーブルの上に置いた。
ゴトリ、と重い音がして、青白い果実が転がる。
それは、城の裏庭の片隅で見つけた、禍々しい果実だった。
表面にはトゲがあり、触れるだけで指が凍りそうな冷気を放っている。
『氷の呪い』が宿った、禁断の果実である。
「カトリーヌ様、それはまさか……氷獄の果実では!?」
キッチンの外で見ていた騎士のガレスが、顔を真っ青にして叫んだ。
「おやめください! それに触れてはなりません!」
他の騎士たちも、恐怖に顔を引きつらせて後ずさった。
「それは、食べた者の内臓を一瞬で凍らせる猛毒ですぞ!」
「過去に何人もが、その果実の犠牲になったと聞いております!」
「すぐに捨ててください! 命に関わります!」
彼らの必死の制止を聞き流し、私は果実を手に取った。
ピリピリとした冷たい刺激が、手のひらから伝わってくる。
普通なら、食べれば内臓が凍り付いて死んでしまう毒物。
しかし、今の私にとっては、最高の冷感スイーツの材料だ。
「ええ、そうよ。これがとっても美味しそうなの。」
私は、ニッコリと笑って、その青白い果実の皮を剥き始めた。
皮を剥くたびに、強烈な冷気が噴き出し、霜が降りる。
「ひぃっ! 空気が凍っていく!」
「お嬢様、正気ですか!? あんなものを食べるなんて!」
騎士たちの悲鳴をBGMに、私は剥きたての果肉を口へ運んだ。
パクッ。
シャリッ、という小気味良い音が、静まり返ったキッチンに響く。
「……んん! 冷たくて、ソーダ味のシャーベットみたい!」
私は、口元を手で押さえて、うっとりと目を細めた。
口の中でパチパチと弾ける呪いの成分が、最高に心地よい。
濃厚な甘みと、突き抜けるような爽快感が同時に襲ってくる。
「あまずっぱくて、後味がスッキリしているわ!」
私がゴクリと飲み込むと、体の中で爆発的な反応が起きた。
ボォォッ! と私の全身から、黄金のオーラが噴き出したのだ。
「きゃっ! また魔力が上がっちゃった!」
私の髪の毛が、重力に逆らってふわりと浮き上がる。
肌にさらに透明感が増し、内側から発光しているようだ。
食べた呪いが即座に美貌ポイントへと変換されていく。
指先から足の爪に至るまで、細胞の一つ一つが磨き上げられた。
「あ、ああ……。お嬢様がまたお美しく……。」
騎士の一人が、あまりの眩しさに手で目を覆った。
「目が! 目が潰れそうです! なんて神々しい輝きだ!」
「直視できません! これは女神の光だ!」
騎士たちが、バタバタとその場にひれ伏していく。
彼らは、私の美しさに圧倒され、拝まずにはいられないようだ。
「お嬢様、その果実を使って何を作るのですか?」
フェンリルだけは、涼しい顔で私の手元を見つめている。
彼は、私の常識外れな行動にも、すっかり慣れてきたらしい。
「『魔導フローズン・ケーキ』よ。皆にも分けてあげるわね。」
私は、呪いを食べて完全に浄化した果実を、包丁で刻み始めた。
トントントン、と軽快なリズムで、青い果肉が細かくなっていく。
そこに、先ほどオーブンで焼いておいたスポンジ生地を用意する。
ボウルに魔力で泡立てた生クリームを入れ、果肉を混ぜ合わせる。
「美味しくなーれ、冷たくなーれ。」
私が呪文のように呟きながら混ぜると、クリームが青く輝き出した。
魔力が均等に行き渡り、素材の味が極限まで引き出される。
それをスポンジの上にたっぷりと塗り、形を整えていく。
仕上げに、砕いた氷の結晶のような飴細工を散りばめる。
「よし、これを冷蔵庫で冷やせば完成よ!」
私は、作りたてのケーキを、先ほどの冷蔵庫に入れた。
数分待つ間、キッチンには甘くて冷たい香りが充満していた。
騎士たちは、もはや我慢の限界を迎えているようだ。
「ゴクリ……。なんていい匂いなんだ。」
「あの毒物が、あんなに美味そうなケーキになるなんて……。」
「早く食べたい! お嬢様、まだですか!」
彼らの視線が、冷蔵庫の扉に釘付けになっている。
「よし、完成! 皆、お皿を持って並んでちょうだい!」
私が扉を開けると、そこには宝石のように輝くケーキがあった。
ひんやりとした白煙の中から、青いケーキが姿を現す。
「わあぁぁぁっ!」
騎士たちが歓声を上げ、一斉にキッチンへ雪崩れ込んできた。
「押さないで! 順番よ、順番!」
彼らは、私の言葉に従い、行儀よく一列に整列した。
まるで、餌を待つお腹を空かせた大型犬のようだ。
列の最後尾には、バレル伯爵もこっそりと加わっていた。
彼は気まずそうに顔を背けているが、手にはしっかり皿を持っている。
「はい、まずはフェンリルの分。特製の大盛りよ。」
私は、一番大きなカットを皿に乗せ、フェンリルに手渡した。
青く輝くケーキは、プルプルと震えて美味しそうだ。
「ありがとうございます、主。いただきます。」
フェンリルは、優雅な仕草でスプーンを持ち、ケーキをすくった。
彼が一口食べた瞬間、時間が止まったかのような静寂が訪れる。
「…………。」
フェンリルの金色の瞳が、見開かれたまま動かない。
そして、彼の端正な顔立ちが、一瞬でとろけるような笑みに変わった。
「……これは、天国の食べ物ですか。身体が浮き上がるようです。」
彼の背後から、幻覚のような白い翼が見えた気がした。
「口に入れた瞬間、雪のように溶けて消えました。」
「濃厚なミルクの味と、果実の酸味がダンスを踊っています。」
フェンリルの詩的な食レポに、騎士たちの喉がゴクリと鳴る。
「よかった。騎士の皆さんも、どうぞ!」
私は、手際よく次々とケーキを切り分けて、騎士たちに配った。
「ありがとうございます! 一生ついていきます!」
騎士たちは、震える手でケーキを受け取り、口へと運んだ。
パクッ。
その瞬間、キッチンの中で爆発のようなどよめきが起きた。
「うおぉぉぉぉっ!!」
彼らは、最初の一口で、全員がその場に崩れ落ちたのだ。
「なんだこの冷たさは……。脳に直接衝撃が来るぞ!」
「頭がキーンとする! でも、それが最高に気持ちいい!」
「甘い、甘すぎる! なのに、後味が驚くほど爽やかだ!」
騎士たちが、涙を流しながら、一心不乱にケーキを食べている。
彼らの体から、ポワポワと温かい光が立ち上り始めた。
私の込めた魔力が、彼らの体内で作用しているのだ。
ボロボロだった彼らの装備が、魔力の影響で修復されていく。
錆びついていた鎧は銀色に輝き、欠けた剣は鋭さを取り戻す。
さらに、彼らの体にあった古い傷跡までもが、見る間に消えていった。
「嘘だろ……。去年の冬に負った古傷が、消えている!」
「肩こりが治った! 体が羽のように軽いぞ!」
私の作った料理には、食べた人の傷を癒やし、強化する力がある。
まさに、食べるだけで最強になれる魔法のケーキだ。
「俺、この城に来て本当によかった。死ぬかと思ったけど!」
「ここは天国だ! お嬢様こそが、我らの神だ!」
騎士たちは、口の周りをクリームだらけにして、私を称えた。
「……おい、私の分はどうした。」
不機嫌そうな、しかし切羽詰まった声が聞こえた。
見ると、バレル伯爵が空になった皿を持って、私を睨んでいる。
彼は、列の最後尾でずっと待っていたのだ。
その目は、空腹と期待で血走っている。
「あ、忘れてました。伯爵もいらしたんですね。」
私は、わざとらしく驚いて見せた。
「ぐぬぬ……。忘れるとは何事だ! 私にもよこせ!」
「はいはい、どうぞ。残りの端っこですけど。」
私は、少しだけ小さめにカットしたケーキを彼に渡した。
形は崩れているが、味は変わらないはずだ。
彼は、不服そうに鼻を鳴らしながらも、皿をひったくった。
「ふん、こんな毒々しい色のケーキが美味いわけが……。」
彼は疑わしげにスプーンですくい、恐る恐る口に入れた。
パクッ。
その瞬間、バレル伯爵の体がビクンと大きく跳ねた。
「!?」
彼は、カッと目を見開き、スプーンを取り落とした。
「あああ! 美味い、美味すぎるぞおおお!」
彼は、絶叫しながら、皿を舐め回さんばかりの勢いでケーキを完食した。
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ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
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