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第11話 魔導コンクリートと絶品ピザパーティー
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次々と放り込まれる兵士たちの汚れた軍服が、瞬時に白さを取り戻していく。
「なんだこれは。一瞬で、三日分の泥汚れが消えたぞ!」
「おまけに、この石鹸のような良い香りは何だ。鼻が幸せだ!」
裸で待機している兵士たちが、機械の性能に度肝を抜かれている。
彼らは王都のエリート兵士だが、こんな魔法は見たことがないはずだ。
「おい、俺の鎧の下着も洗ってくれ! 汗でベタベタなんだ!」
「ずるいぞ! 次は俺だ! その魔法の箱を使わせてくれ!」
数百人の男たちが、洗濯機の前に列を作って押し合いへし合いしている。
洗濯一つでここまで喜んでもらえるなら、作った甲斐があるというものだ。
私は、彼らが驚いている間に、次の魔導具の調整に取り掛かった。
「フェンリル。龍の骨、もっと細かく砕いてちょうだい。」
「御意。これでよろしいでしょうか、主。」
フェンリルが、大きな拳を振り上げ、龍の骨に向かって振り下ろした。
ドォォォン! という衝撃音が響き、硬い龍骨が粉々に粉砕される。
それは、まるで上質な大理石の粉のように、白く美しく輝いている。
「完璧よ。この粉末には、龍の魔力がたっぷりと残っているわ。」
私はその粉を、特別に精製した魔力水と混ぜ合わせた。
「粘り気が足りないわね。あっちの沼の呪いを少し混ぜましょう。」
私は、村の外れにある不気味な沼を指差した。
その沼からは、ベタベタとした黒い油のような瘴気が噴き出している。
長年、村人たちが恐れて近づかなかった「死の沼」だそうだ。
「主、あのような汚泥を建材に使うのですか?」
フェンリルが、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「ええ、見ていてちょうだい。最高の接着剤になるから。」
私は沼のほとりに立つと、ドロドロの黒い液体を手で掬い取った。
鼻を近づけると、ツンとする刺激臭の奥に、甘い香りが隠れている。
「……ん、これは黒蜜のような甘みがあるわね。隠し味に最高だわ。」
私は、沼の瘴気を手で掬い取ると、そのままペロリと一口食べた。
「お嬢様が、泥を食べたぞ!?」
見ていた兵士たちが、ギョッとして目を剥いた。
口の中に、濃厚なコクと粘り気のある甘さが一気に広がった。
和菓子にかける特製の黒蜜のように、舌に絡みつく甘美な味だ。
「んんっ、おいしい! 喉の奥までとろけるようね!」
食べた瞬間に魔力が溢れ出し、私の指先から黄金の糸が伸びる。
私の体内で変換された呪いが、強力な結合魔力となって放出されるのだ。
「よし。これで、最強の『魔導コンクリート』の完成よ!」
私は、黄金の糸を混ぜ合わせた液体を、地面に開いた大きな溝に流し込んだ。
黄金色に輝く液体は、地面に触れた瞬間にカチカチに硬まった。
その硬度は、鋼鉄をも凌ぎ、それでいて絹のように滑らかな質感だ。
「ガレス。兵士たちに、この液体を村の街道に敷き詰めさせて。」
「はっ。承知いたしました。これなら、馬車も快適に走れますな!」
ガレスは、新しい素材の感触を確かめて、興奮した声を上げた。
兵士たちは、清潔になった軍服に身を包み、必死に作業を開始した。
彼らは重いバケツにコンクリートを入れ、街道へと運んでいく。
「おい、この液体。持っているだけで、体が軽くなるぞ!」
一人の兵士が、信じられないという顔でバケツを持ち上げた。
「本当だ。重たいバケツが、まるで羽毛のように感じる!」
「足取りが軽い! これなら何往復でも走れるぞ!」
彼らは、魔導コンクリートから溢れる魔力の恩恵に驚愕していた。
私の作る道具には、使う人の疲労を軽減し、筋力を補助する力がある。
「すごい。あんなに重労働のはずなのに、皆が笑顔で働いている……。」
バレル伯爵が、広場で作業を見守りながら、感嘆の声を漏らした。
彼は王都での過酷な土木工事を知っているだけに、この光景が信じられないようだ。
「カトリーヌ様。あなたは、労働の概念さえも変えてしまうのですね。」
「楽しくない仕事なんて、効率が悪いですもの。私は楽をしたいだけよ。」
私は、涼しい顔で、次々と新しい設計図を空中に描いていった。
道路ができたら、次は夜道を照らす明かりが必要だ。
「光よ、集まれ! 夜を昼に変える太陽となれ!」
村の中央には、二十四時間明るい光を放つ『魔導街灯』が立ち並んだ。
柱には龍の鱗を使い、光源には食べた呪いのエネルギーを封じ込める。
パッ、パッ、パッ! と音を立てて、村中に優しい光が灯った。
「明るい! 夜なのに、本が読めるほど明るいぞ!」
「これなら、夜に魔物が出てもすぐに気付けるわね!」
村人たちが家から飛び出してきて、光の柱に抱きついている。
さらに私は、それぞれの家にパイプを通し、新しい魔導具を設置した。
蛇口を捻るだけでお湯が出る『魔導給湯器』だ。
「お、お湯が出た! 薪で沸かさなくても、熱々のお湯が出るぞ!」
「なんてことだ。冬でも、震えながら体を拭かなくて済むんだ!」
村人たちの喜びの声が、あちこちの家から響き渡ってくる。
「お母さん、温かいよ! 魔法のお水だよ!」
子供たちの無邪気なはしゃぎ声が、私の耳に心地よく届いた。
私は、その幸せな声を聞きながら、自分用の特大バスルームを作った。
村一番の高台に、見晴らしの良い露天風呂を設置する。
龍の鱗を敷き詰めたバスタブに、花の香りがする魔導水を満たす。
「ふあぁ。やっぱり、お風呂は最高のご馳走だわ。」
私は、美しく整った自分の肢体を、温かいお湯の中に沈めた。
お湯に含まれる魔力が、肌の奥深くまで浸透していくのが分かる。
湯気に当たっただけで、髪の毛がさらにサラサラと輝きを増した。
「極楽、極楽。お肌がプルプルになっていくわ。」
水面に映る自分の顔は、王都にいた頃とは比べ物にならない。
透き通るような白さと、内側から発光するような生命力に満ちている。
「主。お着替えの準備が整いました。次の工程へ進みましょう。」
脱衣所の向こうから、フェンリルの落ち着いた声が聞こえてきた。
「ええ、すぐに行くわ。次は、食料の増産ね。」
私は、魔導乾燥機で一瞬にして髪を乾かすと、新しいドレスに身を包んだ。
村の広場に戻ると、そこには大量の木材と鉄くずが集められていた。
村の開拓において、食料の確保は最優先事項だ。
手作業で畑を耕していては、美味しい作物を育てるのに時間がかかりすぎる。
「フェンリル。これを使って、『自動耕運機』を作るわよ。」
「こううんき、ですか? 土を掘り返すための機械でしょうか。」
「そうよ。百人力のパワーで、荒野を一瞬で農地に変えるの。」
私は、鉄くずの山から、巨大な鎌のような形をした部品を作り出した。
それを鉄のフレームに固定し、魔力エンジンと連結させる。
「仕上げに、この古い鉄錆の呪いをおやつにするわ。」
私は、赤茶色に錆びついた鉄くずから、不気味な錆の瘴気を吸い取った。
鉄が腐食した嫌な臭いがするが、私にとってはご馳走の予感しかしない。
「あぐっ。ん、これは鉄分が豊富で、レバーのような味がするわね。」
口の中に、血の味がする濃厚な鉄分の旨味が広がった。
新鮮なレバーを、ごま油と塩で食べた時のようなコクがある。
「力がみなぎるわ! 貧血なんて無縁の体になりそう!」
食べた瞬間、私の魔力が機械の奥深くまで浸透し、回路を焼き付けた。
ボォォォッ! とエンジンが唸りを上げ、赤い光を放つ。
「起動。いけ、魔導トラクター・一号!」
私が合図を送ると、巨大な機械がガガガッと力強い音を立てて動き出した。
それは、硬い荒野の土を、まるでバターのように柔らかく掘り起こしていく。
「速い! なんだあの速度は! 走るように耕していくぞ!」
「牛が十頭かかっても、あんな速さで耕すのは不可能だ!」
「土が……カチカチだった土が、ふわふわの黒土に変わっている!」
農民たちが、トラクターの背中を追いかけながら、腰を抜かして驚いている。
トラクターが通った後には、栄養たっぷりの美しい畝が出来上がっていた。
「種まきも全自動よ。それっ!」
私は、耕されたばかりの土に、特別な魔導肥料をバラ撒いた。
パラパラと撒かれた肥料が、土の中でキラキラと光り輝く。
「明日の朝には、村中が黄金の小麦で埋め尽くされるわよ。」
私が予言した通り、翌朝、村は驚天動地の光景に包まれていた。
朝日で目を覚ました村人が、窓の外を見て絶叫したのだ。
「こ、これは夢か!? 世界が変わってしまったぞ!」
一晩で成長した小麦が、大人の背丈ほどもあり、重そうに頭を垂れている。
見渡す限りの黄金色が、朝風に吹かれてザワザワと波打っていた。
「実が、実がぎっしり詰まっている。一粒が、親指くらい大きいぞ!」
「これが、一晩で育ったというのか。奇跡だ。お嬢様は神様だ!」
収穫に駆けつけた村人たちが、涙を流しながら、黄金の海に飛び込んだ。
「重い! 一束刈るだけで、袋がいっぱいになる!」
「こんな豊作、生まれて初めてだ! 一生食うに困らないぞ!」
私は、収穫されたばかりの小麦を、すぐに魔導製粉機に投入した。
ゴゴゴゴ……という音がして、真っ白で細やかな小麦粉が溢れ出てくる。
「いい香り。太陽の恵みをたっぷり吸い込んだ匂いがするわ。」
私は粉を指ですくい、その品質を確かめてニッコリと笑った。
「さあ、今日は村中の皆で、焼き立てのピザを作りましょう!」
「ピザ……? それは、どのような料理なのですか?」
ガレスが、聞いたことのない名前に首を傾げている。
「平たく伸ばしたパンに、美味しい具材を山ほど乗せて焼くのよ。」
私は、魔力で即座に発酵させた生地を、空中に高く放り投げた。
クルクルと回転しながら、生地は空中で綺麗な円形に広がっていく。
そこに、完熟トマトを煮詰めた特製ソースをたっぷりと塗る。
「お嬢様、私にも……私にも生地を回させてください!」
騎士たちが、子供のように目を輝かせて、ピザ作りに参加し始めた。
ガレスが不器用な手つきで生地を伸ばし、その上に具材を乗せていく。
「お、お嬢様。これ、すごく楽しいですな!」
「俺の生地、四角くなっちまった! でも美味そうだ!」
「そうでしょう? 料理は、皆でするのが一番のスパイスよ。」
私は、仕上げに真っ白なチーズを、これでもかというほど乗せた。
これは、フェンリルが集めてきた龍の乳から作ったモッツァレラだ。
「さあ、焼くわよ! 火力最大!」
巨大な魔導オーブンから、香ばしいチーズの匂いが溢れ出してきた。
焼けたばかりのピザが、次々とテーブルの上に並べられていく。
焦げたチーズの香りが、村人たちの食欲を極限まで刺激する。
「いただきます!」
村人と騎士、そして捕虜の兵士までもが、一緒にピザにかぶりついた。
カリッ、サクッ。
心地よい音と共に、彼らの動きがピタリと止まる。
「う、うまい。このトロトロに溶けたチーズは、何だ!」
「濃厚だ! 口の中いっぱいにミルクの甘みが広がる!」
「龍の乳で作った、特製のモッツァレラよ。コクがあるでしょう?」
チーズが糸を引き、彼らの口元まで伸びて絡みつく。
「生地が、外はカリッとしているのに、中はモチモチだ。止まらない!」
「トマトの酸味が、チーズの脂っこさを消してくれる! 無限に食えるぞ!」
人々は、顔を真っ赤にして、熱々のピザを口いっぱいに頬張った。
「体が熱い! 力が……力が湧いてくるようだ!」
魔力が込められたピザは、食べた人の活力を限界まで引き出していく。
彼らの肌ツヤが良くなり、筋肉が盛り上がっていくのが見えた。
「お嬢様、俺、今まで生きてて一番幸せです!」
涙を流しながらピザを食べる兵士を見て、私も幸せな気分になった。
「お嬢様。王都の使者が、また街道の入り口で見ているようです。」
フェンリルが、私の背後で耳をピクリと動かし、静かに告げた。
彼は手にしたピザを優雅に食べながら、鋭い視線を森へ向けている。
「あら。まだ諦めていなかったのね。しつこい人たちだわ。」
私は、ピザの端っこを齧りながら、涼しい顔で立ち上がった。
口の中に残る、龍のチーズの濃厚な余韻を楽しむ。
「せっかくのピザパーティーだもの。彼らにも、一欠片くらいあげようかしら。」
「いいえ、主。あのような者たちには、毒でも食わせておけば十分です。」
フェンリルが、氷のような冷たい視線を森へと向けた。
彼の主に対する忠誠心は、時に過保護すぎるほどだ。
「そうね。でも、毒も私が食べれば、おいしいおやつになるんだけどな。」
私は、手に持っていたピザの箱を抱えて、軽やかに歩き出した。
「なんだこれは。一瞬で、三日分の泥汚れが消えたぞ!」
「おまけに、この石鹸のような良い香りは何だ。鼻が幸せだ!」
裸で待機している兵士たちが、機械の性能に度肝を抜かれている。
彼らは王都のエリート兵士だが、こんな魔法は見たことがないはずだ。
「おい、俺の鎧の下着も洗ってくれ! 汗でベタベタなんだ!」
「ずるいぞ! 次は俺だ! その魔法の箱を使わせてくれ!」
数百人の男たちが、洗濯機の前に列を作って押し合いへし合いしている。
洗濯一つでここまで喜んでもらえるなら、作った甲斐があるというものだ。
私は、彼らが驚いている間に、次の魔導具の調整に取り掛かった。
「フェンリル。龍の骨、もっと細かく砕いてちょうだい。」
「御意。これでよろしいでしょうか、主。」
フェンリルが、大きな拳を振り上げ、龍の骨に向かって振り下ろした。
ドォォォン! という衝撃音が響き、硬い龍骨が粉々に粉砕される。
それは、まるで上質な大理石の粉のように、白く美しく輝いている。
「完璧よ。この粉末には、龍の魔力がたっぷりと残っているわ。」
私はその粉を、特別に精製した魔力水と混ぜ合わせた。
「粘り気が足りないわね。あっちの沼の呪いを少し混ぜましょう。」
私は、村の外れにある不気味な沼を指差した。
その沼からは、ベタベタとした黒い油のような瘴気が噴き出している。
長年、村人たちが恐れて近づかなかった「死の沼」だそうだ。
「主、あのような汚泥を建材に使うのですか?」
フェンリルが、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「ええ、見ていてちょうだい。最高の接着剤になるから。」
私は沼のほとりに立つと、ドロドロの黒い液体を手で掬い取った。
鼻を近づけると、ツンとする刺激臭の奥に、甘い香りが隠れている。
「……ん、これは黒蜜のような甘みがあるわね。隠し味に最高だわ。」
私は、沼の瘴気を手で掬い取ると、そのままペロリと一口食べた。
「お嬢様が、泥を食べたぞ!?」
見ていた兵士たちが、ギョッとして目を剥いた。
口の中に、濃厚なコクと粘り気のある甘さが一気に広がった。
和菓子にかける特製の黒蜜のように、舌に絡みつく甘美な味だ。
「んんっ、おいしい! 喉の奥までとろけるようね!」
食べた瞬間に魔力が溢れ出し、私の指先から黄金の糸が伸びる。
私の体内で変換された呪いが、強力な結合魔力となって放出されるのだ。
「よし。これで、最強の『魔導コンクリート』の完成よ!」
私は、黄金の糸を混ぜ合わせた液体を、地面に開いた大きな溝に流し込んだ。
黄金色に輝く液体は、地面に触れた瞬間にカチカチに硬まった。
その硬度は、鋼鉄をも凌ぎ、それでいて絹のように滑らかな質感だ。
「ガレス。兵士たちに、この液体を村の街道に敷き詰めさせて。」
「はっ。承知いたしました。これなら、馬車も快適に走れますな!」
ガレスは、新しい素材の感触を確かめて、興奮した声を上げた。
兵士たちは、清潔になった軍服に身を包み、必死に作業を開始した。
彼らは重いバケツにコンクリートを入れ、街道へと運んでいく。
「おい、この液体。持っているだけで、体が軽くなるぞ!」
一人の兵士が、信じられないという顔でバケツを持ち上げた。
「本当だ。重たいバケツが、まるで羽毛のように感じる!」
「足取りが軽い! これなら何往復でも走れるぞ!」
彼らは、魔導コンクリートから溢れる魔力の恩恵に驚愕していた。
私の作る道具には、使う人の疲労を軽減し、筋力を補助する力がある。
「すごい。あんなに重労働のはずなのに、皆が笑顔で働いている……。」
バレル伯爵が、広場で作業を見守りながら、感嘆の声を漏らした。
彼は王都での過酷な土木工事を知っているだけに、この光景が信じられないようだ。
「カトリーヌ様。あなたは、労働の概念さえも変えてしまうのですね。」
「楽しくない仕事なんて、効率が悪いですもの。私は楽をしたいだけよ。」
私は、涼しい顔で、次々と新しい設計図を空中に描いていった。
道路ができたら、次は夜道を照らす明かりが必要だ。
「光よ、集まれ! 夜を昼に変える太陽となれ!」
村の中央には、二十四時間明るい光を放つ『魔導街灯』が立ち並んだ。
柱には龍の鱗を使い、光源には食べた呪いのエネルギーを封じ込める。
パッ、パッ、パッ! と音を立てて、村中に優しい光が灯った。
「明るい! 夜なのに、本が読めるほど明るいぞ!」
「これなら、夜に魔物が出てもすぐに気付けるわね!」
村人たちが家から飛び出してきて、光の柱に抱きついている。
さらに私は、それぞれの家にパイプを通し、新しい魔導具を設置した。
蛇口を捻るだけでお湯が出る『魔導給湯器』だ。
「お、お湯が出た! 薪で沸かさなくても、熱々のお湯が出るぞ!」
「なんてことだ。冬でも、震えながら体を拭かなくて済むんだ!」
村人たちの喜びの声が、あちこちの家から響き渡ってくる。
「お母さん、温かいよ! 魔法のお水だよ!」
子供たちの無邪気なはしゃぎ声が、私の耳に心地よく届いた。
私は、その幸せな声を聞きながら、自分用の特大バスルームを作った。
村一番の高台に、見晴らしの良い露天風呂を設置する。
龍の鱗を敷き詰めたバスタブに、花の香りがする魔導水を満たす。
「ふあぁ。やっぱり、お風呂は最高のご馳走だわ。」
私は、美しく整った自分の肢体を、温かいお湯の中に沈めた。
お湯に含まれる魔力が、肌の奥深くまで浸透していくのが分かる。
湯気に当たっただけで、髪の毛がさらにサラサラと輝きを増した。
「極楽、極楽。お肌がプルプルになっていくわ。」
水面に映る自分の顔は、王都にいた頃とは比べ物にならない。
透き通るような白さと、内側から発光するような生命力に満ちている。
「主。お着替えの準備が整いました。次の工程へ進みましょう。」
脱衣所の向こうから、フェンリルの落ち着いた声が聞こえてきた。
「ええ、すぐに行くわ。次は、食料の増産ね。」
私は、魔導乾燥機で一瞬にして髪を乾かすと、新しいドレスに身を包んだ。
村の広場に戻ると、そこには大量の木材と鉄くずが集められていた。
村の開拓において、食料の確保は最優先事項だ。
手作業で畑を耕していては、美味しい作物を育てるのに時間がかかりすぎる。
「フェンリル。これを使って、『自動耕運機』を作るわよ。」
「こううんき、ですか? 土を掘り返すための機械でしょうか。」
「そうよ。百人力のパワーで、荒野を一瞬で農地に変えるの。」
私は、鉄くずの山から、巨大な鎌のような形をした部品を作り出した。
それを鉄のフレームに固定し、魔力エンジンと連結させる。
「仕上げに、この古い鉄錆の呪いをおやつにするわ。」
私は、赤茶色に錆びついた鉄くずから、不気味な錆の瘴気を吸い取った。
鉄が腐食した嫌な臭いがするが、私にとってはご馳走の予感しかしない。
「あぐっ。ん、これは鉄分が豊富で、レバーのような味がするわね。」
口の中に、血の味がする濃厚な鉄分の旨味が広がった。
新鮮なレバーを、ごま油と塩で食べた時のようなコクがある。
「力がみなぎるわ! 貧血なんて無縁の体になりそう!」
食べた瞬間、私の魔力が機械の奥深くまで浸透し、回路を焼き付けた。
ボォォォッ! とエンジンが唸りを上げ、赤い光を放つ。
「起動。いけ、魔導トラクター・一号!」
私が合図を送ると、巨大な機械がガガガッと力強い音を立てて動き出した。
それは、硬い荒野の土を、まるでバターのように柔らかく掘り起こしていく。
「速い! なんだあの速度は! 走るように耕していくぞ!」
「牛が十頭かかっても、あんな速さで耕すのは不可能だ!」
「土が……カチカチだった土が、ふわふわの黒土に変わっている!」
農民たちが、トラクターの背中を追いかけながら、腰を抜かして驚いている。
トラクターが通った後には、栄養たっぷりの美しい畝が出来上がっていた。
「種まきも全自動よ。それっ!」
私は、耕されたばかりの土に、特別な魔導肥料をバラ撒いた。
パラパラと撒かれた肥料が、土の中でキラキラと光り輝く。
「明日の朝には、村中が黄金の小麦で埋め尽くされるわよ。」
私が予言した通り、翌朝、村は驚天動地の光景に包まれていた。
朝日で目を覚ました村人が、窓の外を見て絶叫したのだ。
「こ、これは夢か!? 世界が変わってしまったぞ!」
一晩で成長した小麦が、大人の背丈ほどもあり、重そうに頭を垂れている。
見渡す限りの黄金色が、朝風に吹かれてザワザワと波打っていた。
「実が、実がぎっしり詰まっている。一粒が、親指くらい大きいぞ!」
「これが、一晩で育ったというのか。奇跡だ。お嬢様は神様だ!」
収穫に駆けつけた村人たちが、涙を流しながら、黄金の海に飛び込んだ。
「重い! 一束刈るだけで、袋がいっぱいになる!」
「こんな豊作、生まれて初めてだ! 一生食うに困らないぞ!」
私は、収穫されたばかりの小麦を、すぐに魔導製粉機に投入した。
ゴゴゴゴ……という音がして、真っ白で細やかな小麦粉が溢れ出てくる。
「いい香り。太陽の恵みをたっぷり吸い込んだ匂いがするわ。」
私は粉を指ですくい、その品質を確かめてニッコリと笑った。
「さあ、今日は村中の皆で、焼き立てのピザを作りましょう!」
「ピザ……? それは、どのような料理なのですか?」
ガレスが、聞いたことのない名前に首を傾げている。
「平たく伸ばしたパンに、美味しい具材を山ほど乗せて焼くのよ。」
私は、魔力で即座に発酵させた生地を、空中に高く放り投げた。
クルクルと回転しながら、生地は空中で綺麗な円形に広がっていく。
そこに、完熟トマトを煮詰めた特製ソースをたっぷりと塗る。
「お嬢様、私にも……私にも生地を回させてください!」
騎士たちが、子供のように目を輝かせて、ピザ作りに参加し始めた。
ガレスが不器用な手つきで生地を伸ばし、その上に具材を乗せていく。
「お、お嬢様。これ、すごく楽しいですな!」
「俺の生地、四角くなっちまった! でも美味そうだ!」
「そうでしょう? 料理は、皆でするのが一番のスパイスよ。」
私は、仕上げに真っ白なチーズを、これでもかというほど乗せた。
これは、フェンリルが集めてきた龍の乳から作ったモッツァレラだ。
「さあ、焼くわよ! 火力最大!」
巨大な魔導オーブンから、香ばしいチーズの匂いが溢れ出してきた。
焼けたばかりのピザが、次々とテーブルの上に並べられていく。
焦げたチーズの香りが、村人たちの食欲を極限まで刺激する。
「いただきます!」
村人と騎士、そして捕虜の兵士までもが、一緒にピザにかぶりついた。
カリッ、サクッ。
心地よい音と共に、彼らの動きがピタリと止まる。
「う、うまい。このトロトロに溶けたチーズは、何だ!」
「濃厚だ! 口の中いっぱいにミルクの甘みが広がる!」
「龍の乳で作った、特製のモッツァレラよ。コクがあるでしょう?」
チーズが糸を引き、彼らの口元まで伸びて絡みつく。
「生地が、外はカリッとしているのに、中はモチモチだ。止まらない!」
「トマトの酸味が、チーズの脂っこさを消してくれる! 無限に食えるぞ!」
人々は、顔を真っ赤にして、熱々のピザを口いっぱいに頬張った。
「体が熱い! 力が……力が湧いてくるようだ!」
魔力が込められたピザは、食べた人の活力を限界まで引き出していく。
彼らの肌ツヤが良くなり、筋肉が盛り上がっていくのが見えた。
「お嬢様、俺、今まで生きてて一番幸せです!」
涙を流しながらピザを食べる兵士を見て、私も幸せな気分になった。
「お嬢様。王都の使者が、また街道の入り口で見ているようです。」
フェンリルが、私の背後で耳をピクリと動かし、静かに告げた。
彼は手にしたピザを優雅に食べながら、鋭い視線を森へ向けている。
「あら。まだ諦めていなかったのね。しつこい人たちだわ。」
私は、ピザの端っこを齧りながら、涼しい顔で立ち上がった。
口の中に残る、龍のチーズの濃厚な余韻を楽しむ。
「せっかくのピザパーティーだもの。彼らにも、一欠片くらいあげようかしら。」
「いいえ、主。あのような者たちには、毒でも食わせておけば十分です。」
フェンリルが、氷のような冷たい視線を森へと向けた。
彼の主に対する忠誠心は、時に過保護すぎるほどだ。
「そうね。でも、毒も私が食べれば、おいしいおやつになるんだけどな。」
私は、手に持っていたピザの箱を抱えて、軽やかに歩き出した。
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戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
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