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第12話 摩天楼の建設と呪いの高価買取
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村の入り口では、昨日とは別の騎士たちが、馬を連ねて立ち往生していた。
彼らは、黄金色に輝く小麦畑と、村から漂うピザの香りに鼻を震わせている。
その顔には、隠しきれない困惑と、強烈な空腹の色が浮かんでいた。
王都から派遣された彼らは、荒れ果てた死の土地を予想していたのだろう。
しかし、目の前にあるのは、黄金の海のような豊穣な大地だ。
「……これは、幻影なのか? あの荒れ果てた辺境が、なぜこんなに……。」
先頭に立つ騎士が、信じられないという顔で、私の姿を見つめた。
彼の鎧には、王家の紋章とは別に、歴戦の将軍を示す記章が輝いている。
ロイド将軍。かつて私が王宮にいた頃、唯一普通に接してくれた武人だ。
彼は、私の激変した容姿と、村の豊かさの間で視線を彷徨わせている。
「いい匂いだろう? 焼きたてのピザよ。」
私は、手に持った熱々のピザの箱を、彼に向かって揺らしてみせた。
箱の隙間から、濃厚なチーズとトマトの香りがふわりと漂い出る。
「カ、カトリーヌ様なのか? その美しさは、一体……。」
ロイド将軍は、馬から降りると、あまりの眩しさに目を細めて跪いた。
かつては私の護衛を務めていた彼も、今の姿には魂を奪われたようだ。
私の肌は、食べた呪いの魔力で、白磁のように透き通り発光している。
ただ立っているだけで、周囲の空気が浄化され、花が咲きそうなほどだ。
「お嬢様。不審者は、こちらで処理いたしましょうか?」
フェンリルが、銀色の牙をチラリと見せて、将軍たちを威嚇した。
彼の喉の奥から、低く重い唸り声が響き、空気がビリビリと震える。
伝説の神獣の威圧感に、将軍の連れてきた馬たちが一斉に足を竦ませた。
「ヒヒィィーン!」
馬たちが恐怖で嘶き、騎士たちは手綱を抑えるのに必死になっている。
「いいのよ。彼は、昔ちょっとだけ優しくしてくれた人だから。」
私は、フェンリルを手で制し、ロイド将軍の前に歩み寄った。
「将軍。あなた、王子の命令で私を捕まえに来たのでしょう?」
「はっ……。陛下と殿下より、直々に帰還命令が出ております。」
ロイド将軍は、苦渋の表情でうつむき、言葉を絞り出した。
「ですが、今の貴方様を見れば分かります。あの方々の目は節穴でした。」
彼は、私の輝く姿を見て、王都の判断が過ちだったと悟ったようだ。
「分かっているなら話は早いわ。これを持って帰りなさい。」
私は、箱を開けて、湯気を立てる一切れのピザを差し出した。
とろりと溶けたチーズが糸を引き、バジルの爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「これを食べて、王都に帰りなさい。私を連れ戻すのは、もう諦めて。」
「これは……。なんと食欲をそそる香りだ……。」
ロイド将軍は、震える手でピザを受け取ると、夢中で口に運んだ。
三日三晩、不味い携帯食料で強行軍をしてきた彼には、毒のような魅力だ。
ガブリ。
彼がピザを齧った瞬間、ザクッというクリスピーな音が響いた。
「……っ! なんという旨味だ。脳が痺れるほどのおいしさだ!」
将軍の目がカッと見開かれ、その体から金色の光が吹き出した。
ピザに込めた私の魔力が、彼の疲労した肉体を瞬時に修復していく。
「体が熱い! 力が……力が湧いてくる!」
彼は一口食べただけで、目から大粒の涙を溢れさせて跪いた。
「カトリーヌ様。あなたは、もはや我々が触れられるお方ではない……。」
「分かったなら、早く行きなさい。これ以上はおやつの邪魔よ。」
私は、冷たく言い放ち、彼らを村の外へと追い払った。
「全軍、撤退だ! 我々は、女神の土地を侵すべきではない!」
ロイド将軍は、部下たちに大声で号令をかけ、馬首を巡らせた。
将軍たちは、ピザの余韻に浸りながら、フラフラと王都へ引き返していった。
彼らの背中には、もう私に敵対する意志など微塵も感じられない。
あるのは、圧倒的な「味」への敗北感と、私への畏敬の念だけだ。
「ふふ、単純でいい人たちね。」
私は、彼らが残していった砂煙を見送りながら、満足げに笑った。
「さて。主、次の計画へ進みましょう。村に新しい商業ギルドを招きます。」
フェンリルが、私の背後で、銀色の髪を風に靡かせながら提案した。
彼の美しい顔には、冷徹な策士としての表情が浮かんでいる。
「この村の生産力は、もはや一国の需要を超えています。」
「小麦、野菜、そして龍の素材。これらを放置するのは損失です。」
「ええ。この村の特産品を、世界中に売りさばいてやるわ。」
私は、村の中央にある広場を指差し、魔力を一気に解放した。
食べた龍の呪いが、私の体内で膨大な創造エネルギーに変わっている。
イメージするのは、前世で見た、天を突くような摩天楼だ。
「出よ! 魔導トレードセンター!」
ズズズズズ……ッ!
大地が重く唸り、広場の地面が盛り上がり始めた。
「な、なんだ!? 地震か!?」
村人たちが驚いて空を見上げる中、地面から巨大な石柱がそびえ立った。
それは、まるで生き物のようにぐんぐんと空へ伸びていく。
外壁は、ダイヤモンドのように硬質な透明ガラスで覆われている。
日光を反射してキラキラと輝くその姿は、この世界にはない異質の美だ。
ガラス張りの美しい建物が、あっという間に雲を突き抜ける高さになった。
前世の超高層ビルの記憶を形にした、近代的なデザインの建物だ。
エントランスは自動ドアで、中には魔力で動くエレベーターも完備している。
「な、なんだこれは。一瞬で、巨大な宮殿が建ってしまったぞ!」
バレル伯爵が、目を丸くして、建物の壁を恐る恐る触っていた。
「継ぎ目がない……。石を積み上げたのではなく、一体成型だと!?」
「こんな建築魔法、王宮の建築士が百年かかっても不可能だぞ!」
彼は、建物の周りをグルグルと回り、興奮して叫んでいる。
「伯爵、驚くのはまだ早いわよ。中を見てごらんなさい。」
私が指を鳴らすと、ガラスの扉がスッと音もなく左右に開いた。
中からは、魔導空調によって冷やされた、快適な冷気が流れ出てくる。
「ここは、世界中の商人たちが集まる、交易の拠点になるわ。」
広いロビーには、大理石の床が広がり、天井にはシャンデリアが輝く。
壁一面には、株価ボードのように、商品の価格が表示される魔導スクリーン。
私は、トレードセンターの中に、魔法の通信機をいくつも設置した。
これを使えば、遠く離れた場所の商人とも、瞬時に会話ができる。
「よし。まずは、美食家ギルドのピエールに連絡を取りましょう。」
私は、通信機に魔力を流し、ピエールの姿を空中に投影させた。
空中に浮かんだホログラム映像に、ピエールの顔が映し出される。
『お、お嬢様! お久しぶりです!』
ピエールは、画面越しでも分かるほど、やつれた顔をしていた。
「あらピエール。随分と顔色が悪いわね。何かあったの?」
『お嬢様! あのピザ、あのピザの味が忘れられなくて死にそうです!』
画面の中のピエールが、狂ったように叫びながら身を乗り出してきた。
『あれ以来、何を食べても味がしないのです! 砂を噛むようです!』
『どうか、どうかもう一度、あの神の料理を食べさせてください!』
彼は、画面に顔を押し付けんばかりの勢いで懇願してくる。
その目は血走り、完全な禁断症状に陥っているようだった。
「落ち着きなさい。今、あなたにビジネスの提案があるの。」
私は、ニヤリと不敵に笑い、彼に特別な契約を持ちかけた。
「世界中の美食家と商人を集めなさい。最高の品を売ってあげるわ。」
「ただし、支払いは金貨ではないわよ。もっと面白いものを用意して。」
『は、はいっ! 仰せのままに! すぐに手配いたします!』
ピエールは、首がもげるほど激しく頷き、通信を切った。
彼の行動力は凄まじかった。
数日後、村の入り口には、世界中から集まった商人の馬車が列をなした。
地平線の彼方まで続く馬車の列は、壮観の一言に尽きる。
「カトリーヌ様の魔導具を買いに来たぞ! 金ならいくらでもある!」
「あの龍の肉を売ってくれ! 一口で百万ゴールド出す!」
商人たちは、血眼になって、私の村の製品を買い漁ろうとしている。
彼らは、私が作った魔導冷蔵庫や、浄化された野菜を見て発狂していた。
「こんな透明な氷を作る機械、見たことがない!」
「このトマト、宝石のように輝いているぞ! 家宝にする!」
彼らは競り合うように値段を吊り上げ、争奪戦を繰り広げている。
私は、彼ら一人一人から、入村料として『呪われた宝具』を受け取った。
広場の中央には、禍々しいオーラを放つ品々が山積みになっている。
持ち主を不幸にする首飾り、触れた者を狂わせる鏡、血を吸う短剣。
どれもが、国一つを滅ぼしかねない、特級の呪物ばかりだ。
「呪いを集めるのが、私の趣味なのよ。たくさん持ってきてね。」
私は、商人たちが恐る恐る差し出した『赤き蛇の壺』を手に取った。
蓋を開けると、ドス黒い蛇のような瘴気が、鎌首をもたげて襲いかかる。
「ひぃっ! 出た! 触れたら全身が腐るという毒の霧だ!」
商人が悲鳴を上げて逃げ出す中、私はその霧をパクリと食べた。
「あぐ。ん、これはピリ辛で、キムチのような味がするわね。」
口の中で弾ける辛味と、発酵したような深い旨味。
ご飯が欲しくなるような、食欲をそそる味だ。
「次はこれね。『嘆きの仮面』かしら。」
私は、泣き叫ぶような顔をした仮面から、灰色の呪いを吸い取った。
「んーっ、酸っぱい! レモンのように爽やかで、目が覚めるわ!」
呪いを食べるたびに、私の魔力は指数関数的に膨れ上がっていく。
肌の輝きが増し、髪は流れる星屑のように煌めき始めた。
美貌も、もはや神話の女神さえも凌駕するレベルに達していた。
「ああっ……。カトリーヌ様を見ているだけで、寿命が延びるようだ。」
「あのお姿こそが、最高の芸術品だ。全財産を捧げても惜しくない。」
商人たちは、私の姿を拝みながら、涙を流して商品を買い求めた。
村人たちは、商人たちから支払われる大金で、誰もが大金持ちになった。
ボロボロだった服は最高級のシルクに変わり、家は豪邸に建て替えられた。
道端には、子供たちが遊びで使う金貨が転がっているほどだ。
「お嬢様。もう、この村には飢えも貧困もありませんな。」
ガレスが、金貨が詰まった袋を抱えて、感無量といった様子で笑った。
彼の鎧も、私が新調したミスリル製になり、ピカピカに輝いている。
「まだよ。世界中の呪いを食べ尽くすまで、私の食欲は止まらないわ。」
私は、トレードセンターの最上階にある展望台に立った。
ここからは、私の領土が一望できる。
かつては死の荒野だった大地が、今は黄金色の麦畑に覆われている。
村は光に溢れ、人々の笑顔と活気で満ちていた。
私が食べた呪いの分だけ、この土地は豊かになり、幸せになったのだ。
「ふふ、いい眺めね。でも、まだまだ足りないわ。」
私は、村の高台から、広がる黄金の領土を眺めて微笑んだ。
視線を北の空へ向けると、そこには不穏な空気が渦巻いていた。
遠くの空に、王都から再び不穏な影が近づいているのが見えた。
どす黒い雲が空を覆い、雷鳴が轟いている。
あれは、ジュリアン王子と、彼を操る王宮の闇が放つ瘴気だ。
一度は撃退したが、彼らはまだ諦めていないらしい。
それどころか、国中の呪いを集めて、最後の賭けに出ようとしている。
「ジュリアン王子。次は、どんなおいしい絶望を持ってきてくれるのかしら。」
私は、期待に胸を膨らませながら、新しいデザートのレシピを書き留めた。
あの濃厚な悪意の味を思い出し、舌なめずりをする。
もっと強い呪いを、もっと絶望的な味を、私の胃袋は求めている。
「クゥーン……。」
足元で、人化した姿のフェンリルが、心配そうに私を見上げた。
「主、あまり無理をなさらぬよう。王都の闇は深いですぞ。」
「心配ないわ。闇が深ければ深いほど、味にコクが出るものよ。」
私は、足元にすり寄ってきた神獣の頭を、優しく撫で回した。
彼の銀色の髪は、最高級の絹糸のように手触りがいい。
「主。王都の瘴気が、さらに濃くなっております。回収時ですな。」
「ええ。食後のデザートには、ちょうどいい頃合いだわ。」
私は、テーブルの上にあった真っ赤なリンゴを一つ手に取った。
それは、私の村で採れた、魔力をたっぷり含んだ宝石のような果実だ。
キュッ、と服で磨くと、鏡のように私の顔を映し出した。
そこには、自信に満ち溢れた、世界で一番美しい私が映っている。
「いただきます!」
私は、大きく口を開けると、豪快に齧り付いた。
シャクッ!
瑞々しい音と共に、甘い果汁が口いっぱいに広がる。
「美味しい! やっぱり、私の作るものは世界一ね。」
次は、王都の呪いを一粒残らず、おいしく頂くことにしましょう。
彼らは、黄金色に輝く小麦畑と、村から漂うピザの香りに鼻を震わせている。
その顔には、隠しきれない困惑と、強烈な空腹の色が浮かんでいた。
王都から派遣された彼らは、荒れ果てた死の土地を予想していたのだろう。
しかし、目の前にあるのは、黄金の海のような豊穣な大地だ。
「……これは、幻影なのか? あの荒れ果てた辺境が、なぜこんなに……。」
先頭に立つ騎士が、信じられないという顔で、私の姿を見つめた。
彼の鎧には、王家の紋章とは別に、歴戦の将軍を示す記章が輝いている。
ロイド将軍。かつて私が王宮にいた頃、唯一普通に接してくれた武人だ。
彼は、私の激変した容姿と、村の豊かさの間で視線を彷徨わせている。
「いい匂いだろう? 焼きたてのピザよ。」
私は、手に持った熱々のピザの箱を、彼に向かって揺らしてみせた。
箱の隙間から、濃厚なチーズとトマトの香りがふわりと漂い出る。
「カ、カトリーヌ様なのか? その美しさは、一体……。」
ロイド将軍は、馬から降りると、あまりの眩しさに目を細めて跪いた。
かつては私の護衛を務めていた彼も、今の姿には魂を奪われたようだ。
私の肌は、食べた呪いの魔力で、白磁のように透き通り発光している。
ただ立っているだけで、周囲の空気が浄化され、花が咲きそうなほどだ。
「お嬢様。不審者は、こちらで処理いたしましょうか?」
フェンリルが、銀色の牙をチラリと見せて、将軍たちを威嚇した。
彼の喉の奥から、低く重い唸り声が響き、空気がビリビリと震える。
伝説の神獣の威圧感に、将軍の連れてきた馬たちが一斉に足を竦ませた。
「ヒヒィィーン!」
馬たちが恐怖で嘶き、騎士たちは手綱を抑えるのに必死になっている。
「いいのよ。彼は、昔ちょっとだけ優しくしてくれた人だから。」
私は、フェンリルを手で制し、ロイド将軍の前に歩み寄った。
「将軍。あなた、王子の命令で私を捕まえに来たのでしょう?」
「はっ……。陛下と殿下より、直々に帰還命令が出ております。」
ロイド将軍は、苦渋の表情でうつむき、言葉を絞り出した。
「ですが、今の貴方様を見れば分かります。あの方々の目は節穴でした。」
彼は、私の輝く姿を見て、王都の判断が過ちだったと悟ったようだ。
「分かっているなら話は早いわ。これを持って帰りなさい。」
私は、箱を開けて、湯気を立てる一切れのピザを差し出した。
とろりと溶けたチーズが糸を引き、バジルの爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「これを食べて、王都に帰りなさい。私を連れ戻すのは、もう諦めて。」
「これは……。なんと食欲をそそる香りだ……。」
ロイド将軍は、震える手でピザを受け取ると、夢中で口に運んだ。
三日三晩、不味い携帯食料で強行軍をしてきた彼には、毒のような魅力だ。
ガブリ。
彼がピザを齧った瞬間、ザクッというクリスピーな音が響いた。
「……っ! なんという旨味だ。脳が痺れるほどのおいしさだ!」
将軍の目がカッと見開かれ、その体から金色の光が吹き出した。
ピザに込めた私の魔力が、彼の疲労した肉体を瞬時に修復していく。
「体が熱い! 力が……力が湧いてくる!」
彼は一口食べただけで、目から大粒の涙を溢れさせて跪いた。
「カトリーヌ様。あなたは、もはや我々が触れられるお方ではない……。」
「分かったなら、早く行きなさい。これ以上はおやつの邪魔よ。」
私は、冷たく言い放ち、彼らを村の外へと追い払った。
「全軍、撤退だ! 我々は、女神の土地を侵すべきではない!」
ロイド将軍は、部下たちに大声で号令をかけ、馬首を巡らせた。
将軍たちは、ピザの余韻に浸りながら、フラフラと王都へ引き返していった。
彼らの背中には、もう私に敵対する意志など微塵も感じられない。
あるのは、圧倒的な「味」への敗北感と、私への畏敬の念だけだ。
「ふふ、単純でいい人たちね。」
私は、彼らが残していった砂煙を見送りながら、満足げに笑った。
「さて。主、次の計画へ進みましょう。村に新しい商業ギルドを招きます。」
フェンリルが、私の背後で、銀色の髪を風に靡かせながら提案した。
彼の美しい顔には、冷徹な策士としての表情が浮かんでいる。
「この村の生産力は、もはや一国の需要を超えています。」
「小麦、野菜、そして龍の素材。これらを放置するのは損失です。」
「ええ。この村の特産品を、世界中に売りさばいてやるわ。」
私は、村の中央にある広場を指差し、魔力を一気に解放した。
食べた龍の呪いが、私の体内で膨大な創造エネルギーに変わっている。
イメージするのは、前世で見た、天を突くような摩天楼だ。
「出よ! 魔導トレードセンター!」
ズズズズズ……ッ!
大地が重く唸り、広場の地面が盛り上がり始めた。
「な、なんだ!? 地震か!?」
村人たちが驚いて空を見上げる中、地面から巨大な石柱がそびえ立った。
それは、まるで生き物のようにぐんぐんと空へ伸びていく。
外壁は、ダイヤモンドのように硬質な透明ガラスで覆われている。
日光を反射してキラキラと輝くその姿は、この世界にはない異質の美だ。
ガラス張りの美しい建物が、あっという間に雲を突き抜ける高さになった。
前世の超高層ビルの記憶を形にした、近代的なデザインの建物だ。
エントランスは自動ドアで、中には魔力で動くエレベーターも完備している。
「な、なんだこれは。一瞬で、巨大な宮殿が建ってしまったぞ!」
バレル伯爵が、目を丸くして、建物の壁を恐る恐る触っていた。
「継ぎ目がない……。石を積み上げたのではなく、一体成型だと!?」
「こんな建築魔法、王宮の建築士が百年かかっても不可能だぞ!」
彼は、建物の周りをグルグルと回り、興奮して叫んでいる。
「伯爵、驚くのはまだ早いわよ。中を見てごらんなさい。」
私が指を鳴らすと、ガラスの扉がスッと音もなく左右に開いた。
中からは、魔導空調によって冷やされた、快適な冷気が流れ出てくる。
「ここは、世界中の商人たちが集まる、交易の拠点になるわ。」
広いロビーには、大理石の床が広がり、天井にはシャンデリアが輝く。
壁一面には、株価ボードのように、商品の価格が表示される魔導スクリーン。
私は、トレードセンターの中に、魔法の通信機をいくつも設置した。
これを使えば、遠く離れた場所の商人とも、瞬時に会話ができる。
「よし。まずは、美食家ギルドのピエールに連絡を取りましょう。」
私は、通信機に魔力を流し、ピエールの姿を空中に投影させた。
空中に浮かんだホログラム映像に、ピエールの顔が映し出される。
『お、お嬢様! お久しぶりです!』
ピエールは、画面越しでも分かるほど、やつれた顔をしていた。
「あらピエール。随分と顔色が悪いわね。何かあったの?」
『お嬢様! あのピザ、あのピザの味が忘れられなくて死にそうです!』
画面の中のピエールが、狂ったように叫びながら身を乗り出してきた。
『あれ以来、何を食べても味がしないのです! 砂を噛むようです!』
『どうか、どうかもう一度、あの神の料理を食べさせてください!』
彼は、画面に顔を押し付けんばかりの勢いで懇願してくる。
その目は血走り、完全な禁断症状に陥っているようだった。
「落ち着きなさい。今、あなたにビジネスの提案があるの。」
私は、ニヤリと不敵に笑い、彼に特別な契約を持ちかけた。
「世界中の美食家と商人を集めなさい。最高の品を売ってあげるわ。」
「ただし、支払いは金貨ではないわよ。もっと面白いものを用意して。」
『は、はいっ! 仰せのままに! すぐに手配いたします!』
ピエールは、首がもげるほど激しく頷き、通信を切った。
彼の行動力は凄まじかった。
数日後、村の入り口には、世界中から集まった商人の馬車が列をなした。
地平線の彼方まで続く馬車の列は、壮観の一言に尽きる。
「カトリーヌ様の魔導具を買いに来たぞ! 金ならいくらでもある!」
「あの龍の肉を売ってくれ! 一口で百万ゴールド出す!」
商人たちは、血眼になって、私の村の製品を買い漁ろうとしている。
彼らは、私が作った魔導冷蔵庫や、浄化された野菜を見て発狂していた。
「こんな透明な氷を作る機械、見たことがない!」
「このトマト、宝石のように輝いているぞ! 家宝にする!」
彼らは競り合うように値段を吊り上げ、争奪戦を繰り広げている。
私は、彼ら一人一人から、入村料として『呪われた宝具』を受け取った。
広場の中央には、禍々しいオーラを放つ品々が山積みになっている。
持ち主を不幸にする首飾り、触れた者を狂わせる鏡、血を吸う短剣。
どれもが、国一つを滅ぼしかねない、特級の呪物ばかりだ。
「呪いを集めるのが、私の趣味なのよ。たくさん持ってきてね。」
私は、商人たちが恐る恐る差し出した『赤き蛇の壺』を手に取った。
蓋を開けると、ドス黒い蛇のような瘴気が、鎌首をもたげて襲いかかる。
「ひぃっ! 出た! 触れたら全身が腐るという毒の霧だ!」
商人が悲鳴を上げて逃げ出す中、私はその霧をパクリと食べた。
「あぐ。ん、これはピリ辛で、キムチのような味がするわね。」
口の中で弾ける辛味と、発酵したような深い旨味。
ご飯が欲しくなるような、食欲をそそる味だ。
「次はこれね。『嘆きの仮面』かしら。」
私は、泣き叫ぶような顔をした仮面から、灰色の呪いを吸い取った。
「んーっ、酸っぱい! レモンのように爽やかで、目が覚めるわ!」
呪いを食べるたびに、私の魔力は指数関数的に膨れ上がっていく。
肌の輝きが増し、髪は流れる星屑のように煌めき始めた。
美貌も、もはや神話の女神さえも凌駕するレベルに達していた。
「ああっ……。カトリーヌ様を見ているだけで、寿命が延びるようだ。」
「あのお姿こそが、最高の芸術品だ。全財産を捧げても惜しくない。」
商人たちは、私の姿を拝みながら、涙を流して商品を買い求めた。
村人たちは、商人たちから支払われる大金で、誰もが大金持ちになった。
ボロボロだった服は最高級のシルクに変わり、家は豪邸に建て替えられた。
道端には、子供たちが遊びで使う金貨が転がっているほどだ。
「お嬢様。もう、この村には飢えも貧困もありませんな。」
ガレスが、金貨が詰まった袋を抱えて、感無量といった様子で笑った。
彼の鎧も、私が新調したミスリル製になり、ピカピカに輝いている。
「まだよ。世界中の呪いを食べ尽くすまで、私の食欲は止まらないわ。」
私は、トレードセンターの最上階にある展望台に立った。
ここからは、私の領土が一望できる。
かつては死の荒野だった大地が、今は黄金色の麦畑に覆われている。
村は光に溢れ、人々の笑顔と活気で満ちていた。
私が食べた呪いの分だけ、この土地は豊かになり、幸せになったのだ。
「ふふ、いい眺めね。でも、まだまだ足りないわ。」
私は、村の高台から、広がる黄金の領土を眺めて微笑んだ。
視線を北の空へ向けると、そこには不穏な空気が渦巻いていた。
遠くの空に、王都から再び不穏な影が近づいているのが見えた。
どす黒い雲が空を覆い、雷鳴が轟いている。
あれは、ジュリアン王子と、彼を操る王宮の闇が放つ瘴気だ。
一度は撃退したが、彼らはまだ諦めていないらしい。
それどころか、国中の呪いを集めて、最後の賭けに出ようとしている。
「ジュリアン王子。次は、どんなおいしい絶望を持ってきてくれるのかしら。」
私は、期待に胸を膨らませながら、新しいデザートのレシピを書き留めた。
あの濃厚な悪意の味を思い出し、舌なめずりをする。
もっと強い呪いを、もっと絶望的な味を、私の胃袋は求めている。
「クゥーン……。」
足元で、人化した姿のフェンリルが、心配そうに私を見上げた。
「主、あまり無理をなさらぬよう。王都の闇は深いですぞ。」
「心配ないわ。闇が深ければ深いほど、味にコクが出るものよ。」
私は、足元にすり寄ってきた神獣の頭を、優しく撫で回した。
彼の銀色の髪は、最高級の絹糸のように手触りがいい。
「主。王都の瘴気が、さらに濃くなっております。回収時ですな。」
「ええ。食後のデザートには、ちょうどいい頃合いだわ。」
私は、テーブルの上にあった真っ赤なリンゴを一つ手に取った。
それは、私の村で採れた、魔力をたっぷり含んだ宝石のような果実だ。
キュッ、と服で磨くと、鏡のように私の顔を映し出した。
そこには、自信に満ち溢れた、世界で一番美しい私が映っている。
「いただきます!」
私は、大きく口を開けると、豪快に齧り付いた。
シャクッ!
瑞々しい音と共に、甘い果汁が口いっぱいに広がる。
「美味しい! やっぱり、私の作るものは世界一ね。」
次は、王都の呪いを一粒残らず、おいしく頂くことにしましょう。
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マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
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農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
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短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
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