元英雄のおっさん、記憶喪失の少女と家族になりました。

☆ほしい

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第10話 じゃあね、わたしも、ないしょ!

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星が、夜空に瞬き始めた。

フィリアは草むらに座り込んだまま、上を見上げて目を輝かせている。

「おとうさん、あれ、みて!」

「あん?」

フィリアが指さした先には、大きな流れ星が走っていた。

「ながれぼしっ!」

「……そうだな」

俺も、思わず空を見上げた。

火の粉みてぇに、夜空を流れる光。

願い事をするなんて習慣、昔は鼻で笑っていたっけな。

けど、今は──。

「おとうさん、お願いした?」

「ああ」

「なにを?」

「──秘密だ」

フィリアは、むぅっと頬を膨らませた。

「ずるい!」

「しょうがねぇだろ。願い事ってのは、口に出したら叶わねぇんだとよ」

「むぅ……」

それでも、フィリアはすぐに顔を綻ばせた。

「じゃあね、わたしも、ないしょ!」

「そりゃいいこった」

きゃははっと笑う声が、森に弾けた。

……本当に、不思議なもんだ。

ついこの前まで、俺の世界は灰色だった。

ただ、生きているだけの毎日だった。

それが、たった一人の小さな娘が現れただけで、こんなにも世界が色づくとは。

「……フィリア」

「なあに?」

「寒くねぇか?」

「ううん! ぜんぜん!」

小さな身体が、心なしか震えていたが、俺は何も言わず、そっと自分のローブを脱いでフィリアにかけてやった。

「おとうさん、あったかい!」

「風邪ひかれちゃ困るからな」

フィリアは、ローブに顔をうずめて、嬉しそうにくすぐったそうな声を上げた。



小屋へ戻った俺たちは、また焚き火の前に座った。

毛布に包まったフィリアは、満腹で、少しうとうとしている。

「おとうさん……」

「ああ」

「わたしね、おとうさんと、ずっといっしょがいい」

「ああ。俺もだ」

「いっぱい、おべんきょうして、いっぱいつよくなって、そしたら……」

フィリアは、ぱちりと目を開いた。

「おとうさんを、まもる!」

「……」

胸の奥が、ぎゅっとなる。

こいつは、こんなにも小さいのに、俺を守ろうとしてる。

そんなこと、俺の役目だってのに。

「ありがとな」

「えへへ!」

フィリアは、照れたように毛布に顔を隠した。



夜が更けるにつれて、森の気配が濃くなっていく。

火の爆ぜる音だけが、小屋の中に満ちていた。

俺は、フィリアが完全に寝入ったのを見届けてから、立ち上がった。

そっと小屋の外へ出る。

夜風が、肌を刺した。

──気配を、感じた。

誰かが、森に入り込んでいる。

普通の旅人や狩人じゃねぇ。足取りが静かすぎる。

獣でもない。これは、人間だ。

それも、訓練された連中だ。

「……早ぇな」

誰にも見つからず、ひっそりと暮らすつもりだった。

けど──やっぱり、甘くはなかったか。

「フィリアを狙ってきた連中か、それとも……」

森に身を潜め、気配を探る。

三人、いや四人か。距離はまだあるが、確実にこっちへ向かってきている。

……どうするか。

迎え撃つか、それとも逃げるか。

──いや。

逃げるって選択肢は、俺にはねぇ。

「……待ってろよ、フィリア」

小屋に戻り、剣を手に取った。

まだ錆びちゃいねぇ、この腕で。
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