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第9話 いいにおい〜!
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小屋の中には、焚き火の上に吊るした鍋から、薬草と干し肉の香りが立ち込めていた。
「いいにおい~!」
フィリアが目を輝かせながら、くんくんと鼻を鳴らしている。……まぁ、あいつの鼻の良さには、感心するしかねぇな。
「もうちょいだ。我慢しろ」
「はーい!」
鍋をかき混ぜながら、フィリアを横目で見る。
毛布にくるまってごろごろ転がって、暇を持て余している様子だったが、鍋の匂いを嗅ぐたびに嬉しそうに身体を揺らしていた。
「おとうさん、すごいね! ごはんもつくれるし、おくすりもつくれるし、けものもやっつけられるし!」
「ああ。ほとんど生きるためだけに身につけたもんだ」
「すごいよー!」
ぱちぱちと小さな手を叩かれ、なんとも言えない気恥ずかしさが込み上げる。
褒められ慣れてねぇ。王国にいた頃は、手柄を立てたところで、誰も素直に褒めちゃくれなかった。
それでも、こいつに褒められると──悪い気はしねぇ。
「ほら、できたぞ」
「わーい!」
素焼きの皿に取り分けた簡素なスープを、フィリアの前に置いた。
「やけどすんなよ」
「うんっ!」
フィリアは、ふうふうとスープを冷ましながら、一口すすった。
「……あっついけど、おいしい!」
「そりゃよかった」
俺も自分の皿を取り、スープを口に運ぶ。
素朴な味だが、腹には優しい。滋養のある薬草も多めに入れてある。あいつの体力回復にはちょうどいい。
「おとうさん、これ、まいにちたべたい!」
「贅沢言うな」
「えへへ~」
嬉しそうに笑うフィリアに、俺もつられて口元が緩んだ。
*
飯を食い終わったあと、小屋の外に出た。
夕暮れが森を赤く染めている。空気が冷たく、鼻先がぴりっとした。
フィリアは俺の手を握ったまま、空を見上げていた。
「きれいだね、おとうさん」
「ああ」
「ねぇ、あしたもれんしゅうする?」
「するぞ。少しずつ、な」
「わたし、がんばる!」
「その意気だ」
フィリアはぐいっと胸を張った。
たったそれだけのことが、妙に頼もしく見える。
あの小さな火球ひとつ作っただけだってのに、こいつはすげぇ成長してる。恐れず、諦めず、ちゃんと前を向いている。
──生きるってのは、そういうことだ。
「おとうさん、あのね」
「なんだ」
「れんしゅう、たのしい!」
「……そうか」
俺は、ぽつりと呟いた。
魔法の訓練なんざ、本来は厳しくて、つらくて、血の滲むようなもんだ。
でも、こいつにとっては──楽しいことなんだな。
それなら、無理に厳しくする必要もねぇ。
「楽しくやろう。力はそのうち、勝手についてくる」
「うんっ!」
フィリアは、きらきらとした笑顔を俺に向けた。
俺は、その頭に手を置く。
白銀の髪が、夕陽に照らされて、ほのかに光っていた。
こいつはきっと──とんでもねぇ存在になる。
だが、それはまだ先の話だ。
今はただ、こうして一緒にいられる時間を大切にしたい。
「そろそろ中に戻るか」
「やだ!」
「……は?」
「もっとおそらみたいの!」
頑固に粘るフィリアに、俺は少しだけ笑った。
「なら、もうちょっとだけだ」
「やったぁ!」
フィリアはくるりと一回転して、草むらにぺたんと座った。
夕暮れの森で、ふたりきり。
小さな家族が、小さな奇跡を育てている。
「なぁ、フィリア」
「なぁに?」
「……これから、色んなことがあるかもしれねぇ」
「うん?」
「でも、絶対に離れねぇ。何があっても、一緒だ」
「うんっ!」
フィリアは、満面の笑みで頷いた。
俺の言葉を、疑いもせず、信じてくれる。
「いいにおい~!」
フィリアが目を輝かせながら、くんくんと鼻を鳴らしている。……まぁ、あいつの鼻の良さには、感心するしかねぇな。
「もうちょいだ。我慢しろ」
「はーい!」
鍋をかき混ぜながら、フィリアを横目で見る。
毛布にくるまってごろごろ転がって、暇を持て余している様子だったが、鍋の匂いを嗅ぐたびに嬉しそうに身体を揺らしていた。
「おとうさん、すごいね! ごはんもつくれるし、おくすりもつくれるし、けものもやっつけられるし!」
「ああ。ほとんど生きるためだけに身につけたもんだ」
「すごいよー!」
ぱちぱちと小さな手を叩かれ、なんとも言えない気恥ずかしさが込み上げる。
褒められ慣れてねぇ。王国にいた頃は、手柄を立てたところで、誰も素直に褒めちゃくれなかった。
それでも、こいつに褒められると──悪い気はしねぇ。
「ほら、できたぞ」
「わーい!」
素焼きの皿に取り分けた簡素なスープを、フィリアの前に置いた。
「やけどすんなよ」
「うんっ!」
フィリアは、ふうふうとスープを冷ましながら、一口すすった。
「……あっついけど、おいしい!」
「そりゃよかった」
俺も自分の皿を取り、スープを口に運ぶ。
素朴な味だが、腹には優しい。滋養のある薬草も多めに入れてある。あいつの体力回復にはちょうどいい。
「おとうさん、これ、まいにちたべたい!」
「贅沢言うな」
「えへへ~」
嬉しそうに笑うフィリアに、俺もつられて口元が緩んだ。
*
飯を食い終わったあと、小屋の外に出た。
夕暮れが森を赤く染めている。空気が冷たく、鼻先がぴりっとした。
フィリアは俺の手を握ったまま、空を見上げていた。
「きれいだね、おとうさん」
「ああ」
「ねぇ、あしたもれんしゅうする?」
「するぞ。少しずつ、な」
「わたし、がんばる!」
「その意気だ」
フィリアはぐいっと胸を張った。
たったそれだけのことが、妙に頼もしく見える。
あの小さな火球ひとつ作っただけだってのに、こいつはすげぇ成長してる。恐れず、諦めず、ちゃんと前を向いている。
──生きるってのは、そういうことだ。
「おとうさん、あのね」
「なんだ」
「れんしゅう、たのしい!」
「……そうか」
俺は、ぽつりと呟いた。
魔法の訓練なんざ、本来は厳しくて、つらくて、血の滲むようなもんだ。
でも、こいつにとっては──楽しいことなんだな。
それなら、無理に厳しくする必要もねぇ。
「楽しくやろう。力はそのうち、勝手についてくる」
「うんっ!」
フィリアは、きらきらとした笑顔を俺に向けた。
俺は、その頭に手を置く。
白銀の髪が、夕陽に照らされて、ほのかに光っていた。
こいつはきっと──とんでもねぇ存在になる。
だが、それはまだ先の話だ。
今はただ、こうして一緒にいられる時間を大切にしたい。
「そろそろ中に戻るか」
「やだ!」
「……は?」
「もっとおそらみたいの!」
頑固に粘るフィリアに、俺は少しだけ笑った。
「なら、もうちょっとだけだ」
「やったぁ!」
フィリアはくるりと一回転して、草むらにぺたんと座った。
夕暮れの森で、ふたりきり。
小さな家族が、小さな奇跡を育てている。
「なぁ、フィリア」
「なぁに?」
「……これから、色んなことがあるかもしれねぇ」
「うん?」
「でも、絶対に離れねぇ。何があっても、一緒だ」
「うんっ!」
フィリアは、満面の笑みで頷いた。
俺の言葉を、疑いもせず、信じてくれる。
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