元英雄のおっさん、記憶喪失の少女と家族になりました。

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第8話 わたし、できたんだね……!

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夜が明けた。

小屋の外からは、森の鳥たちの鳴き声が聞こえる。

俺は焚き火に薪をくべながら、昨夜の診断結果を思い返していた。

──フィリアの潜在魔力。

あの年齢で、規格外の魔力を持つなんて、ありえねぇ。しかも適性『不明』だなんて、常識じゃ測れない。

下手すりゃ、あの子の無意識の一撃だけで、この森ひとつ吹き飛ばしかねねぇ。

「……だからって、怖がる理由にはならねぇな」

独り言みたいに呟いたとき、後ろからぴとっと温もりがくっついてきた。

「おはよう、おとうさん!」

振り返れば、フィリアが毛布にくるまったまま、にこにこ笑っていた。

「おう。起きたか」

「うんっ!」

フィリアは小さな手で毛布をぱたぱたさせながら、俺の膝に座り込む。

「ねぇ、きょうはなにするの?」

「ああ」

俺は焚き火の枝を軽くかき混ぜた。

「フィリアに、ちょっとだけ、力を使う練習をさせる」

「ちからの……れんしゅう?」

フィリアはきょとんと首をかしげた。

「おまえの中に眠ってる力を、ちゃんと扱えるようにするんだ。暴れないようにな」

「わたし、ばくはつしちゃうの?」

「──ああ。最悪な」

真剣な顔で言うと、フィリアはわたわたと手を振った。

「やだぁ! ばくはつしたくない!」

「なら、練習だ」

「うん!」

素直なやつだ。

俺は、フィリアの手を取った。まだ小さくて、柔らかい手。

その中心に、意識を集中させるように指示する。

「フィリア、目を閉じろ」

「うん……」

「手の中に、あたたかいものを思い浮かべろ。たとえば、焚き火の火とか、太陽とかだ」

「……あたたかい……」

フィリアが目をぎゅっと閉じ、真剣な顔になる。

俺はゆっくりと、解析魔法を発動させた。

──【スキル:解析】発動──

フィリアの魔力の流れを、慎重に観察する。

──……微かに、光。

フィリアの小さな掌の上に、淡い光の粒が集まり始めていた。

「いいぞ、フィリア。そのまま、力を逃がさずに……」

「んんっ……!」

フィリアが小さく唸る。

魔力の流れが、不安定に揺れ始めた。

──まずい。

放っときゃ暴発する。

「落ち着け。あたたかいもんを抱きしめるみたいに、そっと包め」

「……う、うん……!」

フィリアの眉間にしわが寄る。

それでも、俺の言葉を必死で守ろうとしている。

掌の光が、ふわりと形を変えた。

小さな、小さな、火の玉。

まだ形は崩れそうだったが、それでも──間違いなく、自分の意思で生み出したものだった。

「……できた」

フィリアが、震える声で呟いた。

「──ああ、よくやった」

俺は、胸の奥が震えるのを感じた。

これが、フィリアの──力。

「わたし、できたんだね……!」

「ああ。すげぇことだ」

フィリアは、ぱあっと顔を輝かせた。

「おとうさんのおかげだよ!」

「違ぇよ。フィリアの力だ」

俺はそっと、フィリアの頭を撫でた。

この子は、ちゃんと成長できる。

ちゃんと、この力を自分のものにできる。

「──でも、これで終わりじゃねぇ」

「えっ?」

フィリアがきょとんとする。

「力を持つってことは、それだけ危険も増えるってことだ。だから、これから毎日、練習するぞ」

「うんっ!」

フィリアは力強く頷いた。

小さな胸に、確かな覚悟が宿っている。

「じゃあ、今日の練習はここまでだ。あとは、飯にする」

「わーい! ごはん!」

フィリアは、ぱたぱたと小屋の中を駆け出していった。

俺は、そっと息を吐く。

フィリアの潜在魔力。

これが本格的に目覚めたら、きっと──世界が揺れる。

だが、それはまだ遠い未来の話だ。

今はただ、目の前の小さな命を、少しずつ育てるだけだ。
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