元英雄のおっさん、記憶喪失の少女と家族になりました。

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第7話 おとうさん、むにゃ……だいすき……

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小屋へ戻る道すがら、フィリアは俺の手をぎゅっと握りしめたままだった。

森の生き物たちの鳴き声が、だんだんと遠ざかっていく。日が落ち始め、辺りはうっすらと暗くなりかけている。

「……おとうさん」

フィリアが、ぽつりと俺を呼んだ。

「なんだ」

「わたし……さっき、こわくなかったの」

「ああ、見りゃわかる」

ウルバスを前にしても、泣き出さなかった。それどころか、俺を信じ切った目をしていた。

「なんかね、へんなの……ここが、ぽかぽかするの」

フィリアは、自分の胸に手を当てた。

「ぽかぽか?」

「うん! すごくあったかくて、ドキドキして、それで、どこかから、うわぁーって力が出そうな感じ!」

……うわぁーってなんだ。

だが、妙に気になった。

「力……?」

「うんっ!」

フィリアは、嬉しそうに頷く。

「わたし、あのとき、なにかできる気がしたの!」

「……」

その言葉に、俺の胸がわずかにざわつく。

思い出す。

フィリアが倒れていたとき、周囲に満ちていた異様な魔力の残滓。

あのときは気のせいかと思ったが──。

「フィリア」

「なあに?」

「何か、変な感覚とか、他に覚えてないか」

「んー……」

フィリアは小さな手で頬を押さえながら、うーんと唸った。

「……んとね、あのとき、おとうさんを守りたいって、すっごく思ったの」

「……」

守りたい、か。

まだ自覚はない。

だが、それだけで、本能的に力を引き出しかけたとすれば──。

こいつ、ただの子供じゃねぇな。

「いいか、フィリア」

「うん!」

「おまえの中には、すごい力があるかもしれない」

「すごい力……?」

「ああ。でもな、力ってのは、勝手に暴れたら危ないんだ。だから、これから少しずつ、俺が教えてやる」

「ほんとっ!?」

「本当だ」

フィリアは、ぱあっと顔を輝かせた。

「わたし、おとうさんに教えてもらうの、うれしい!」

「……そりゃ、よかった」

俺は頭を掻いた。

この子の中にある『何か』を、きちんと導いてやらなきゃならない。

下手すりゃ、暴走するかもしれねぇ。あの魔力の濃さは、普通じゃない。

「明日から、少しずつ訓練するぞ」

「うんっ!」

フィリアは勢いよく頷くと、また俺の腕に抱きついてきた。

「おとうさん、だいすき!」

「……ったく、調子のいいやつだな」

苦笑しながら、俺もそっとフィリアの頭に手を置いた。

この子の未来を守るために、俺はできることを全部やる。

それが、俺にできる唯一の贖罪だからだ。



小屋に戻ると、まずはフィリアを寝かしつけた。

薪を足して焚き火を強め、わらのベッドを整え、毛布を掛ける。

「おとうさんも、いっしょに!」

フィリアが、小さな手で毛布を持ち上げた。

「……後でな」

「やだー!」

ぐずるフィリアをなだめながら、俺はふと、手元に魔力を込めた。

解析魔法の応用、簡易診断術だ。

「──《簡易診断》」

微かな光がフィリアの身体を包み、すぐに俺の脳裏に情報が流れ込んできた。

【対象:フィリア(仮名)】 【魔力量:規格外】 【魔力適性:不明】 【魔力制御能力:皆無】

「……やっぱり、か」

思わず、低く呟いた。

この歳で、魔力量だけなら王国屈指の大賢者にも匹敵する──いや、それ以上かもしれねぇ。

しかも適性が『不明』だと?

通常、火・水・風・土など、どれかの属性に偏るもんだ。

それが、何一つ判別できないってことは──

「万能か、それとも……」

考え込む俺の膝の上で、フィリアがすやすやと寝息を立てている。

「おとうさん、むにゃ……だいすき……」

寝言まで言いやがる。

「……ああ。俺もだ」

そっと毛布をかけ直した。

この子の力が、祝福なのか、災厄なのか。

まだわからねぇ。

だが、どっちに転ぼうが、俺はこいつを守る。

それだけは、決めた。
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