元英雄のおっさん、記憶喪失の少女と家族になりました。

☆ほしい

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第6話 けものさん……?

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「おとうさん、もっと探そう!」

フィリアが手をぶんぶん振りながら、先に行こうとするのを、俺は慌てて引き止めた。

「待て。足元、気をつけろ」

「うんっ!」

元気なのはいいが、まだ体力は戻りきってない。調子に乗った拍子に転んだら、また一からやり直しだ。

「おとうさん、あっちにもお花いっぱいだよ!」

「あんまり奥へは行かねぇぞ。獣が出るかもしれねぇ」

「けものさん……?」

フィリアが小首をかしげた。

「ああ。牙が鋭くて、すばしっこいやつらだ。襲われたら厄介だぞ」

「……おとうさんがいるから、だいじょうぶ!」

きっぱりと言い切ったあと、フィリアは俺ににっこり笑いかけた。

ったく。そんな無邪気な信頼、重すぎるってのに。

「だからって、無茶はするな。わかったな」

「わかってるよ!」

仕方ねぇ。目を離さずに進むしかない。

俺は草むらをかき分けながら、目についた薬草を摘んでいった。

ルーナ草、癒し草、それと腹持ちに効くマーレルの葉。どれもこの先の生活に必要だ。

フィリアも、俺の真似をして、小さな手で草を摘んでいる。器用さはないが、真剣な表情だけは一人前だ。

「おとうさん、これも?」

差し出されたのは、見慣れた薄紫色の花。

「……おう。それは傷を早く治す草だ」

「やった!」

フィリアは嬉しそうに胸を張った。

「すごいだろ!」

「ああ、すごいな」

わざとらしく褒めると、フィリアは顔を真っ赤にして照れた。

単純なやつだ。でも、それがいい。

「じゃあ、これも──」

言いかけたフィリアの手が、ぴたりと止まった。

「……?」

俺も身構えた。

森の空気が、変わった。

ざわ……ざわ……と葉の擦れる音が、妙に耳につく。

「フィリア、こっち来い」

「う、うん……!」

俺はすぐにフィリアを抱き上げ、腰の剣に手をかけた。

気配の正体を探るため、『解析』を起動する。

──【スキル:解析】発動──

視界の一部が、淡く光る。

草むらの向こう、十メートル先。そこに、影。

──小型魔獣、ウルバス。

牙と爪が鋭い、二足歩行型の獣。

「……厄介だな」

ウルバスは単体なら脅威じゃねぇが、群れで動く習性がある。

フィリアを抱えたままじゃ、逃げるにも戦うにも難しい。

「……フィリア」

「なあに……?」

「目を閉じてろ」

「……うん」

フィリアは、俺にぎゅっとしがみついた。

よし。

俺は、一歩踏み出した。

ウルバスの影が、ぴくりと動く。

こいつは縄張り意識が強い。目を合わせりゃ、向こうから仕掛けてくる。

なら──先に叩く。

俺は腰から剣を引き抜き、一気に踏み込んだ。

「がうっ!」

牙を剥き出しにして跳びかかってきたウルバスを、横薙ぎに薙ぎ払う。

ざしゅっ、と肉を裂く音。

ウルバスは悲鳴も上げずに地面に転がった。

すかさず周囲を警戒する。

……他には、いない。

単独だったか。

「……助かったな」

フィリアをそっと下ろす。

「おとうさん……こわいの、いなくなった?」

「ああ。もう平気だ」

「よかったぁ……」

フィリアは、ほっとして俺の腕にすがった。

「すごいね! おとうさん、すっごくつよい!」

「当然だろ」

俺は肩をすくめた。

魔導師団時代に比べりゃ、今の戦闘なんざ散歩みたいなもんだ。

だが、フィリアにとっては、命がけの戦いだった。

「怖かったか?」

「……ううん。だって、おとうさんがいるもん」

「……」

胸の奥が、じわっと熱くなる。

こいつは、どこまで俺を信じきってんだ。

「帰るぞ。今日はもう十分だ」

「うん!」

フィリアは元気よく返事をした。
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