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第5話 呪いの遺品は、磨けば国宝に化ける
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屋敷の一階部分は、ヴァイスとジークの協力……という名の、私のスパルタ指導によって、ほぼ「居住可能レベル」まで回復した。
カビの異臭は消え、代わりに私が調合したラベンダーとユーカリの清涼な香りが、廊下を渡る風に乗って漂っている。
だが、特殊清掃員の仕事は、単に汚れを落とすことだけではない。
「遺品整理」。
そこに残された物の価値を見極め、あるべき場所へ戻すこと。
それが、死んでいった者たちや、置き去りにされた場所への最大の敬意だ。
「……うわぁ。これは、重症ね」
私は屋敷の三階にある、かつての「宝物庫」と思われる扉を開けた。
そこは、埃の重みで棚がたわみ、正体不明の「呪詛のヘドロ」が、まるで巨大なアメーバのように部屋全体を覆っていた。
ここにあるのは、歴代の王族が「不吉だ」として投げ捨ててきた、呪われた品々の墓場。
「リリア、ここは危ない。ヴァイスでさえ、この部屋の気配には怯えている」
背後からジークが心配そうに声をかける。
彼の言う通り、部屋の奥からは、触れるだけで精神を削り取るような、湿った呻き声が聞こえてくる。
だが、私の目には、そのヘドロの下で泣いている「宝物」たちの声が聞こえていた。
「大丈夫よ。ただの整理整頓、分別の時間よ」
私は「魔導高圧洗浄機(ポータブル型)」を肩に担ぎ直した。
これは、公爵家から持ち出した魔道具を改造し、私の洗浄スキルを増幅させるように調整したものだ。
トリガーを引くと、純白の魔力水が勢いよく噴射される。
「[徹底洗浄・広域拡散(エリア・クリーン)]!」
シュアアアアアッ!
真っ黒なヘドロが、洗浄液に触れた瞬間、悲鳴を上げて蒸発していく。
呪いとは、強い執着や怨念が魔力と結びついた「有機的な汚れ」だ。
ならば、その結合を分子レベルで断ち切ればいい。
私は一歩ずつ、部屋の奥へと進んでいく。
床に転がっている、錆びだらけの剣。
宝石が脱落し、泥にまみれた冠。
それら一つ一つに、私は丁寧に「除霊洗剤」を撒いていく。
「……あ。これ、もしかして」
部屋の隅、ひときわ濃い闇に包まれていた一角に、妙な形の物体が転まっていた。
一見すると、ただの歪な鉄の塊。
しかし、その隙間に溜まった汚れを取り除くと、中から精緻な歯車と、魔導回路のラインが浮き上がってきた。
「鑑定。……[古代魔導掃除機・プロトタイプ:ヴォルテックス]。……うそ。これ、失われた古代文明の遺物じゃない」
手に取ると、懐かしい感触がした。
前世で愛用していた、あの業務用掃除機によく似た重心のバランス。
どうやら、強力な魔力を吸い込んで浄化し、推進力に変えるという、清掃のために生まれてきたようなアーティファクトらしい。
ただ、あまりにも多くの「呪いの魔力」を吸い込みすぎて、詰まって動かなくなっていたようだ。
「よしよし、苦しかったわね。今、オーバーホールしてあげるから」
私は工具(魔力で尖らせたピンセット)を取り出し、複雑な回路の間に詰まった「呪いの埃」を、一本ずつ丁寧に取り除いていく。
ジークとヴァイスが、入り口で呆気にとられた様子でそれを見守っていた。
数百年、誰も触れることすらできなかった呪具を、まるで時計修理のように淡々と解体していく令嬢の姿は、彼らの目にはどう映っているのだろうか。
「……ふぅ。これでどうかしら」
最後に、最高級の「魔導オイル(精製済み)」を一滴、メイン回路に垂らす。
その瞬間。
ヴォルテックスが、ヴォォォォン……と、心地よい低い唸り声を上げ、全体が青白い光に包まれた。
「起動確認。……すごい。これ、半径十メートルの瘴気を一瞬で吸引・分解できるわ。清掃効率が三倍に跳ね上がるわね」
私は満足げに頷いた。
これがあれば、この屋敷だけじゃない。周囲の「嘆きの森」さえも、一晩で公園のように綺麗にできるかもしれない。
「リリア……君は、一体何者なんだ? その力は、聖女の浄化魔法とも、宮廷魔導師の結界術とも違う……」
ジークが、恐る恐る尋ねてきた。
私はヴォルテックスを肩に担ぎ、不敵に笑う。
「言ったでしょ? 私はただのお掃除係。……でも、プロの掃除屋を敵に回すと、世界中の汚れをあなたの部屋に集めてあげることもできるわよ?」
「……それは、どんな攻撃魔法より恐ろしいな」
ジークが本気で顔を青くした。
私は笑いながら、宝物庫から次々と「国宝級の遺品」を運び出した。
磨き上げられた黄金の剣。
一点の曇りもなくなった真実の鏡。
それらを廊下に並べると、先ほどまで「お化け屋敷」だった空間が、まるで「大英博物館」のような威厳を放ち始める。
その時だ。
屋敷の結界が、外からの強い魔力によって激しく揺さぶられた。
「リリア! 外に、巨大な魔力の反応が……! これは、王宮の直轄魔導師団だ!」
ヴァイスが鋭い咆哮を上げ、窓の外を威嚇する。
見下ろせば、森の入り口に、白装束に身を包んだ集団が集結していた。
中央には、あのカイル王子の側近であり、私のことを「公爵家の恥」と罵っていた宮廷魔導師長の姿が見える。
「どうやら、ギデオンたちが泣きついたみたいね。せっかく綺麗にしたばかりなのに、また土足で上がろうとする不届き者が増えたわ」
私はヴォルテックスの出力を最大に設定した。
新しい道具は、現場で試すのが一番だ。
「ジーク、ヴァイス。迎撃の準備を。……あ、でも殺さないでね。死体が出ると、掃除が大変だから。気絶させて、ホウキで掃き出す程度にしておいて」
私は、窓から颯爽と飛び出した。
手には、呪いを吸い込み、輝きを取り戻した古代の掃除機を握りしめて。
カビの異臭は消え、代わりに私が調合したラベンダーとユーカリの清涼な香りが、廊下を渡る風に乗って漂っている。
だが、特殊清掃員の仕事は、単に汚れを落とすことだけではない。
「遺品整理」。
そこに残された物の価値を見極め、あるべき場所へ戻すこと。
それが、死んでいった者たちや、置き去りにされた場所への最大の敬意だ。
「……うわぁ。これは、重症ね」
私は屋敷の三階にある、かつての「宝物庫」と思われる扉を開けた。
そこは、埃の重みで棚がたわみ、正体不明の「呪詛のヘドロ」が、まるで巨大なアメーバのように部屋全体を覆っていた。
ここにあるのは、歴代の王族が「不吉だ」として投げ捨ててきた、呪われた品々の墓場。
「リリア、ここは危ない。ヴァイスでさえ、この部屋の気配には怯えている」
背後からジークが心配そうに声をかける。
彼の言う通り、部屋の奥からは、触れるだけで精神を削り取るような、湿った呻き声が聞こえてくる。
だが、私の目には、そのヘドロの下で泣いている「宝物」たちの声が聞こえていた。
「大丈夫よ。ただの整理整頓、分別の時間よ」
私は「魔導高圧洗浄機(ポータブル型)」を肩に担ぎ直した。
これは、公爵家から持ち出した魔道具を改造し、私の洗浄スキルを増幅させるように調整したものだ。
トリガーを引くと、純白の魔力水が勢いよく噴射される。
「[徹底洗浄・広域拡散(エリア・クリーン)]!」
シュアアアアアッ!
真っ黒なヘドロが、洗浄液に触れた瞬間、悲鳴を上げて蒸発していく。
呪いとは、強い執着や怨念が魔力と結びついた「有機的な汚れ」だ。
ならば、その結合を分子レベルで断ち切ればいい。
私は一歩ずつ、部屋の奥へと進んでいく。
床に転がっている、錆びだらけの剣。
宝石が脱落し、泥にまみれた冠。
それら一つ一つに、私は丁寧に「除霊洗剤」を撒いていく。
「……あ。これ、もしかして」
部屋の隅、ひときわ濃い闇に包まれていた一角に、妙な形の物体が転まっていた。
一見すると、ただの歪な鉄の塊。
しかし、その隙間に溜まった汚れを取り除くと、中から精緻な歯車と、魔導回路のラインが浮き上がってきた。
「鑑定。……[古代魔導掃除機・プロトタイプ:ヴォルテックス]。……うそ。これ、失われた古代文明の遺物じゃない」
手に取ると、懐かしい感触がした。
前世で愛用していた、あの業務用掃除機によく似た重心のバランス。
どうやら、強力な魔力を吸い込んで浄化し、推進力に変えるという、清掃のために生まれてきたようなアーティファクトらしい。
ただ、あまりにも多くの「呪いの魔力」を吸い込みすぎて、詰まって動かなくなっていたようだ。
「よしよし、苦しかったわね。今、オーバーホールしてあげるから」
私は工具(魔力で尖らせたピンセット)を取り出し、複雑な回路の間に詰まった「呪いの埃」を、一本ずつ丁寧に取り除いていく。
ジークとヴァイスが、入り口で呆気にとられた様子でそれを見守っていた。
数百年、誰も触れることすらできなかった呪具を、まるで時計修理のように淡々と解体していく令嬢の姿は、彼らの目にはどう映っているのだろうか。
「……ふぅ。これでどうかしら」
最後に、最高級の「魔導オイル(精製済み)」を一滴、メイン回路に垂らす。
その瞬間。
ヴォルテックスが、ヴォォォォン……と、心地よい低い唸り声を上げ、全体が青白い光に包まれた。
「起動確認。……すごい。これ、半径十メートルの瘴気を一瞬で吸引・分解できるわ。清掃効率が三倍に跳ね上がるわね」
私は満足げに頷いた。
これがあれば、この屋敷だけじゃない。周囲の「嘆きの森」さえも、一晩で公園のように綺麗にできるかもしれない。
「リリア……君は、一体何者なんだ? その力は、聖女の浄化魔法とも、宮廷魔導師の結界術とも違う……」
ジークが、恐る恐る尋ねてきた。
私はヴォルテックスを肩に担ぎ、不敵に笑う。
「言ったでしょ? 私はただのお掃除係。……でも、プロの掃除屋を敵に回すと、世界中の汚れをあなたの部屋に集めてあげることもできるわよ?」
「……それは、どんな攻撃魔法より恐ろしいな」
ジークが本気で顔を青くした。
私は笑いながら、宝物庫から次々と「国宝級の遺品」を運び出した。
磨き上げられた黄金の剣。
一点の曇りもなくなった真実の鏡。
それらを廊下に並べると、先ほどまで「お化け屋敷」だった空間が、まるで「大英博物館」のような威厳を放ち始める。
その時だ。
屋敷の結界が、外からの強い魔力によって激しく揺さぶられた。
「リリア! 外に、巨大な魔力の反応が……! これは、王宮の直轄魔導師団だ!」
ヴァイスが鋭い咆哮を上げ、窓の外を威嚇する。
見下ろせば、森の入り口に、白装束に身を包んだ集団が集結していた。
中央には、あのカイル王子の側近であり、私のことを「公爵家の恥」と罵っていた宮廷魔導師長の姿が見える。
「どうやら、ギデオンたちが泣きついたみたいね。せっかく綺麗にしたばかりなのに、また土足で上がろうとする不届き者が増えたわ」
私はヴォルテックスの出力を最大に設定した。
新しい道具は、現場で試すのが一番だ。
「ジーク、ヴァイス。迎撃の準備を。……あ、でも殺さないでね。死体が出ると、掃除が大変だから。気絶させて、ホウキで掃き出す程度にしておいて」
私は、窓から颯爽と飛び出した。
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