バトルが神ゲーと名高い鬱展開エロゲにモブとして転生した俺、原作知識と隠し仕様を駆使して推しヒロインたちを救います

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俺は目の前に広がる光景に、頭を抱えていた。
のどかな田園風景。素朴な木造の家々が並ぶ。
村の中央には小さな教会と、一本の大きなシンボルツリーがあった。
どこからどう見ても、ファンタジー世界の片田舎だ。
そして俺の今の名前はアッシュ。
このエリル村《むら》に住む、ごく普通の村人Aである。
なぜこんなことになっているのか。
理由は一つしかなかった。
俺は前世でやり込みまくった、鬱展開エロゲに転生してしまったのだ。
その名も『堕天《だてん》のヴァルキュリア』。
シナリオは胸糞悪いのオンパレードだった。
ヒロインたちは軒並み悲惨な目に遭い、救いのないバッドエンドを迎える。
そんなクソゲーなのに、バトルシステムだけが神がかっていた。
アクティブタイム・スキルチェインと呼ばれる戦闘は戦略性が高くて奥が深い。
俺はそのバトルに魅了されてしまった。
あらゆる仕様の穴を見つけるまでやり込んだ、廃人プレイヤーだったのだ。
「よりにもよって、この世界かよ」
俺は思わず天を仰ぐ。
しかも俺が転生したこのエリル村《むら》は、物語の序盤で魔物の大群に襲われる。
そして壊滅する運命にあった。
つまり俺の死亡フラグは、すでに点灯しているわけだ。
冗談じゃない。
前世では過労死寸前まで働いた。
やっと解放されたと思ったら、今度は魔物に殺されるなんて。
そんな未来は絶対に御免だ。
それに何より許せないことがある。
このゲームのヒロインたちは、俺の「推し」だったのだ。
慈愛に満ちた聖女《せいじょ》のクローディア。
気高く美しい天才女剣士《おんなけんし》のセレスティア。
少し内気だが心優しい魔女《まじょ》のリリアナ。
彼女たちが原作のシナリオ通りに悲惨な目に遭う未来。
それを知っていて、見過ごすことなんてできるはずがなかった。
「よし。俺が全員救ってやる」
幸い俺には、他の誰にもない武器がある。
この世界の隅々まで知り尽くした、膨大な原作知識だ。
隠しアイテムの場所や、効率的なレベル上げルート。
強敵の弱点も全て頭に入っている。
そして開発者すら意図していなかったであろう、システムのバグや裏技の数々も。
これらを駆使すれば、ただのモブ村民である俺でもやれることはあるはずだ。
「まずは生き残らないと始まらないな」
俺は思考を切り替えた。
エリル村《むら》が襲われるのは、確かゲーム開始から一週間後。
時間はあまり残されていない。
俺はまず自分の能力を確認することにした。
心の中で「ステータス」と念じる。
すると目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。
ゲームと全く同じ仕様だ。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:アッシュ
職業:村人 Lv.1
HP:30/30
MP:10/10
STR(筋力):5
VIT(体力):6
AGI(敏捷):7
INT(知力):8
MND(精神力):7
LUK(幸運):50

スキル:なし
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「うわ、弱っ」
思わず声が出た。
戦闘能力は、そこらへんのスライムに毛が生えた程度だ。
だが俺は一つの数値に目を留めた。
LUK(幸運)が50。
これは初期レベルのキャラクターとしては、異常に高い数値だった。
原作ゲームでは一部のモブキャラクターに、特定の条件で成長する「隠しキャラ」が存在した。
このアッシュという村人も、その一人なのかもしれない。
そして俺にはもう一つ、転生特典らしき力があった。
「アイテムボックス」
念じると目の前に、四次元ポケットのような空間が広がる。
容量は無限だった。
これは原作ゲームにはなかった、俺だけのオリジナル能力だ。
「これがあれば、色々とやれるな」
俺はにやりと口角を上げた。
最初の計画はこうだ。
村が襲われる前に、生き残るための準備を完璧に整える。
そのためにはまず、アイテムの回収が必要だ。
俺は誰にも見られないように、こっそりと村を抜け出した。
向かう先は村の東に広がる「迷いの森」。
ここはゲーム序盤のフィールドで、弱い魔物しか出現しない。
だがプレイヤーのほとんどが気づかない隠しアイテムが、いくつも眠っているのだ。
「確か、この辺りの木の根元に……あった」
俺は大きな木の根元に茂る草むらをかき分ける。
すると地面に埋もれるようにして、小さな革袋が隠されていた。
中には傷を癒す「ポーション」が三本。
毒を治す「アンチドート」が三本入っていた。
序盤では非常に貴重な回復アイテムだ。
俺はそれを惜しげもなくアイテムボックスに収納した。
「次は、あそこの崖だな」
森を抜け、俺は切り立った崖へと向かう。
崖の中腹には、一見するとただの岩壁にしか見えない場所に隠された洞窟がある。
俺は崖の窪みに足をかけ、慎重に登っていった。
村人レベルの身体能力では、少し骨が折れる作業だ。
息を切らしながらも、俺はどうにか目的の場所へたどり着いた。
岩壁の特定の場所に手をかけると、ゴゴゴと音を立てて岩が動く。
隠し通路の出現だ。
洞窟の中はひんやりとしていて、薄暗かった。
奥へ進むと苔むした宝箱が一つ、ぽつんと置かれている。
「これこれ。これさえあれば、当面の武器には困らない」
宝箱を開けると中には一本のショートソードと、革製の盾が入っていた。
【錆びたショートソード】と【傷だらけのレザーシールド】。
名前だけ見るとガラクタのようだが、俺はこれらの真価を知っている。
これは特定の鍛冶屋に持っていくと、【伝説の勇者の剣(レプリカ)】と【英雄の盾(レプリカ)】に生まれ変わるイベントアイテムなのだ。
もちろん今の俺に、鍛冶屋へ持っていく時間も金もない。
だがただの鉄の剣よりは、遥かにましな武器になるだろう。
俺は剣と盾を装備し、再びステータスを開いた。
攻撃力と防御力が、わずかに上昇している。
「よしよし。順調だ」
俺は満足して洞窟を後にする。
次に向かうのは村の北にある沼地だ。
ここには厄介な毒を持つ魔物が多い。
そのため普通のプレイヤーは、序盤に近寄らない場所だった。
だがそれゆえに、見過ごされがちな貴重なアイテムが眠っている。
俺はアイテムボックスからアンチドートを一本取り出す。
いつでも使えるように準備しておいた。
沼地を進むと、足元からぶくぶくと泡が立つ。
「いたな」
泥水の中から紫色のカエル、ポイズントードが飛び出してきた。
「グェッ!」
ポイズントードは口から毒液を吐き出してくる。
俺はそれを盾で防ぎながら、ショートソードで斬りかかった。
戦闘は苦手だが、相手は最弱クラスの魔物だ。
数回斬りつけると、ポイズントードは断末魔を上げて消滅した。
ドロップアイテムは、もちろん「カエルの毒袋」だ。
これをいくつか集めておく。
後で罠作りに使えるからな。
俺は沼地の奥深くへと進んでいく。
目的は、この沼地にしか自生しない「月光草」という薬草だ。
月光草はMPを回復させる効果を持つ。
魔法が使えない俺には不要に思えるが、これはあるスキルの習得に必要なアイテムだった。
原作知識によればこの世界のスキルは、レベルアップ以外でも習得できる。
特定の行動やアイテムの使用によって、習得できるものがあるのだ。
「あった。ここだ」
沼地の中心に、ひときわ大きな岩があった。
その上に月光草は、ひっそりと生えていた。
月の光を浴びて、淡い銀色に輝いている。
俺は慎重にそれを摘み取り、アイテムボックスにしまった。
これで準備の第一段階は完了だ。
俺はエリル村《むら》へと引き返した。
村に戻ると、広場で村人たちがのんびりと談笑している。
誰もすぐそこまで迫っている危機に、気づいていない。
ゲームのシナリオ通りだった。
俺は村のまとめ役である、村長の家を訪ねた。
「村長、少しよろしいでしょうか」
「おお、アッシュか。どうしたんだい?」
白髭をたくわえた温和な村長が、笑顔で迎えてくれる。
「実は森の様子が少しおかしいんです。普段見かけない魔物の足跡を見つけました。もしかしたら何か良くないことの前触れかもしれません」
俺はできるだけ信じてもらえるように、真剣な表情で訴えた。
しかし村長の反応は芳しくない。
「はっはっは。心配性だな、アッシュは」
「この村はもう何十年も、大きな魔物に襲われたことなどない。大丈夫じゃよ」
「ですが、万が一ということもあります」
「まあ、念のため見回りの回数を増やしておこう。知らせてくれてありがとうな」
村長はそう言って、俺の肩をぽんと叩いた。
完全に子供の戯言《たわごと》としてしか、受け取られていない。
まあこうなることは、分かっていた。
村人たちに期待するのは、最初から無理な話だ。
自分の身は自分で守るしかない。
俺は村長の家を後にし、自分の家に帰った。
エリル村《むら》の端にある、小さな家だ。
ここが俺の作戦基地になる。
俺はアイテムボックスから、今日一日で集めた素材を取り出した。
カエルの毒袋、粘着性の高い木の樹液、硬い木の枝に丈夫な蔦《つた》。
これらを使って、魔物対策の罠を作るのだ。
「まずは毒矢からだな」
木の枝を削って矢を作り、その先端にポイズントードの毒を塗りたくる。
「次は落とし穴だ」
家の周りにいくつか穴を掘り、底に削った杭を立てた。
そして枯れ葉や枝で、巧妙に偽装していく。
他にも蔦を使った拘束用の罠や、獣の糞を使った目くらましも作った。
前世のサバイバル知識も総動員して、様々な罠を仕掛けていく。
日が暮れる頃には俺の家の周りは、さながら要塞のようになっていた。
「ふぅ、こんなものか」
俺は額の汗を拭った。
これで少しは時間を稼げるはずだ。
夕食を簡単に済ませ、俺はベッドに横になった。
明日からはレベル上げとスキル習得に集中しよう。
襲撃の日まで、残された時間はあと六日だ。
やるべきことは、まだ山ほどある。
俺はヒロインたちの笑顔を思い浮かべた。
あの笑顔を曇らせる未来など、俺が絶対に許さない。
たとえこの身が、ただのモブであろうとも。
俺はベッドの中で静かに拳を握り、異世界での最初の夜を終えたのだった。
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