バトルが神ゲーと名高い鬱展開エロゲにモブとして転生した俺、原作知識と隠し仕様を駆使して推しヒロインたちを救います

☆ほしい

文字の大きさ
5 / 8

しおりを挟む
俺が魔法スキル【魔力弾】を手に入れてから、一夜が明けた。
村の襲撃予定日まで、残された時間はあと三日だ。
時間は刻一刻と迫っている。
俺は朝食もそこそこに、家の裏にある小さな広場へ向かった。
さっそく新しいスキルの練習を始める。
「【魔力弾】」
俺は右手を前に突き出し、そう唱えた。
手のひらに、バスケットボール大の光の玉が生まれる。
昨夜試した時よりも、明らかにサイズが大きくなっていた。
一晩でスキルが成長したのか、それとも俺の魔力量が増えた影響だろうか。
俺はそれを、的代わりに置いた岩に向かって放った。
光の玉は、ひゅっと風を切る音を立てて飛んでいく。
そして、岩に命中した。
ドゴン、と鈍い音が響き、岩の表面がわずかに欠ける。
「威力は、相変わらず大したことないな」
オークを棍棒で殴った方が、よほどダメージを与えられそうだ。
だが、このスキルの真価は威力ではない。
遠距離から、魔力さえあれば無限に撃てるという点が重要だ。
それに、スキルチェインの起点としても使えるはずである。
俺は次に、連携を試してみることにした。
【パリィ】で相手の攻撃を弾いた直後に、【魔力弾】を叩き込む。
そんなイメージトレーニングを繰り返す。
実際に敵がいないと練習にならないが、動きの確認くらいはできる。
「やっぱり、新しいスキルがもっと欲しいな」
現状、俺の攻撃手段はショートソードと【魔力弾】しかない。
多数の魔物を相手にするには、あまりにも心許なかった。
原作知識を漁り、他に序盤で習得できるスキルがないか思い出す。
いくつか候補はあったが、どれも特定の場所へ行ったり、特殊なアイテムが必要だったりする。
今からそれをこなす時間は、残念ながらなかった。
「今は、手持ちのカードで最善を尽くすしかないか」
俺は気持ちを切り替え、再び【魔力弾】を放つ練習に集中した。
何度も撃ち込んでいるうちに、少しずつコツが掴めてくる。
魔力の消費を抑えながら、連射する技術。
光の玉のサイズを、自在にコントロールする方法。
昼過ぎまで練習を続け、【魔力弾】のスキルレベルは2に上がっていた。
威力も、心なしか少しだけ増したような気がする。
練習を終えた俺は、村の中を散策することにした。
襲撃前の、最後の平和な日常。
それを、目に焼き付けておきたかったからだ。
村の中央広場では、子供たちが元気に走り回っている。
農夫たちは畑仕事に精を出し、女たちは井戸端会議に花を咲かせていた。
誰もが、すぐそこに迫る脅威に気づいていない。
俺がこの光景を守らなければならないのだ。
「おや、アッシュじゃないか。精が出るねえ」
声をかけてきたのは、村で唯一の鍛冶屋を営む、頑固親父のバルガスさんだ。
筋骨隆々とした体に、厳つい顔をしている。
原作ゲームでは、主人公の武具を何度も鍛え上げてくれる、重要なNPCだった。
「バルガスさん、こんにちは」
「おう。お前さん、最近森で魔物狩りをしているそうじゃないか。村の連中が噂してたぞ」
どうやら、俺の行動は少しずつ村人の間でも知られ始めているらしい。
「ええ、まあ。ちょっとした護身術の練習ですよ」
「ふん、感心なこった。だが、使うもんは相変わらず、そんな錆びたナマクラかい?」
バルガスさんは、俺が腰に差しているショートソードを指差した。
そして、馬鹿にしたように笑う。
「こいつが、なかなか手に馴染んでまして」
俺がそう言うと、バルガスさんは呆れたようにため息をつく。
「まあいい。もし武器が欲しくなったら、いつでも来な。ちっとばかし、まけてやるぜ」
そう言って、彼は自分の工房へと戻っていった。
ぶっきらぼうだが、根は優しい人だ。
彼のような村人たちを、死なせるわけにはいかない。
俺は再び、村の中を歩き始めた。
すると、路地裏の方から、子供の泣き声が聞こえてきた。
気になって覗いてみると、三人のガキ大将が一人の男の子を取り囲んでいた。
いじめているところだった。
「おい、ティム!お前の父ちゃん、病気で働けねえんだってな!」
「お前んち、貧乏なんだろ!これを食ってろ!」
ガキ大将の一人が、地面の泥を掴んだ。
ティムと呼ばれた男の子に投げつけようとする。
俺は、思わずその腕を掴んで止めていた。
「な、なんだよ、お前!」
ガキ大将が、俺を睨みつけてくる。
俺は何も言わず、ただ低い声で言った。
「やめとけ」
俺の目には、自然と力がこもっていたらしい。
レベルを上げ、魔物と対峙してきたことで、以前の俺とは纏う空気が違っていたのかもしれない。
ガキ大将たちは、俺の気迫に押されたように、一瞬怯んだ。
「ち、ちぇっ!行くぞ、お前ら!」
捨て台詞を吐いて、三人はそそくさと逃げていった。
残されたのは、泥だらけで泣いているティムだけだった。
俺はしゃがみ込み、彼と視線を合わせる。
「大丈夫か?怪我はないか?」
ティムはこくりと頷いた。
だが、まだ涙は止まらない。
俺はアイテムボックスから綺麗な布を取り出し、彼の顔を拭いてやった。
「もう大丈夫だ。あいつらも、もう何もしないさ」
「うん。ありがとう、アッシュ兄ちゃん」
ティムはしゃくり上げながら、お礼を言った。
どうやら、俺のことは知っているらしい。
「ティム、だったな。どうしていじめられてたんだ?」
「父ちゃんが、病気だから。みんな、僕と遊んでくれないんだ」
ティムは俯いて、ぽつりぽつりと事情を話してくれた。
彼の父親は、元々は腕のいい猟師だったらしい。
だが、数ヶ月前に重い病にかかり、今では寝たきりの状態だという。
薬を買う金もなく、日に日に弱っていくばかりだと。
それを聞いて、俺は胸が痛んだ。
この世界では、病は死に直結する。
ポーションは傷は癒やせても、病を治すことはできない。
何か、俺にできることはないだろうか。
俺はティムを家に送っていくことにした。
彼の家は、村のはずれにある、今にも崩れそうな小さな小屋だった。
家の中に入ると、薬草の匂いと、重い空気が漂っている。
部屋の奥のベッドに、ティムの父親が横になっていた。
顔は青白く、呼吸も浅い。
素人目に見ても、かなり危険な状態だと分かった。
俺は【鑑定】スキルを使ってみる。
【アルマン:猟師 Lv.15】
【状態:呪病(衰弱)】
呪病。
それは、魔物の呪いによって引き起こされる特殊な病だ。
通常の薬では治せず、放置すれば確実に死に至る。
治すには、教会で高位の解呪の儀式を受けるしかない。
あるいは、特定の希少な薬草を煎じて飲ませるかだ。
もちろん、今のティムの家にそんな金はないだろう。
「兄ちゃん、誰だい?」
ベッドのそばで看病していたティムの母親が、訝しげな顔で俺を見た。
「こんにちは。ティム君を送ってきました、アッシュです」
「そうかい、すまないねえ」
母親の顔にも、深い疲労の色が浮かんでいる。
俺はティムの父親の容態を見て、覚悟を固めた。
「奥さん。旦那さんの病気、俺が治せるかもしれません」
「え?」
彼女は、俺が何を言っているのか分からない、という顔をした。
無理もない。
いきなり現れた見ず知らずの若者が、医者でも治せない病を治せると言っているのだから。
「少しだけ、時間をください。必ず、薬になるものを見つけてきます」
俺はそう言い残すと、ティムの家を後にした。
ティムが、心配そうな顔で俺を見送っている。
俺は彼に向かって、力強く頷いてみせた。
呪病を治す薬草。
その名は「陽光の花」。
原作ゲームでは、とあるダンジョンの奥深くにしか咲かない、超レアアイテムだ。
だが、俺はその花が、ごく稀に別の場所でも手に入ることを知っていた。
それは、ゲームの開発者が見逃した、システムの穴の一つ。
エリル村《むら》の近くにある、名もなき丘。
そこの、ある特定の時間にだけ、陽光の花が咲くポイントがあるのだ。
俺は時計代わりに太陽の位置を確認しながら、その丘へと急いだ。
襲撃まで時間がない中で、道草をしている余裕はない。
だが、目の前の命を見過ごすことなんて、俺にはできなかった。
これは、俺の自己満足だ。
それでも、やらなければならない。
丘の頂上に着くと、ちょうど夕日が地平線に沈もうとしていた。
俺が探しているポイントは、頂上にあるひときわ大きな岩の影。
太陽が完全に沈み、月が昇り始める、ほんの数分間。
その時間だけ、その場所には特別な魔力が満ちるのだ。
俺は息を殺して、その時を待った。
やがて、最後の太陽の光が消える。
世界が蒼い闇に包まれた。
すると、俺の目の前の地面から、ぽうっと淡い光が灯った。
光の中から、ゆっくりと黄金色の花が芽吹いていく。
そして、その美しい花びらを開いた。
「陽光の花、あった!」
俺は慎重にその花を摘み取り、アイテムボックスにしまった。
これで、ティムの父親は助かる。
俺は安堵のため息をつくと、急いで村へと引き返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...