バトルが神ゲーと名高い鬱展開エロゲにモブとして転生した俺、原作知識と隠し仕様を駆使して推しヒロインたちを救います

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「陽光の花」を手に、俺は再びティムの家を訪れた。
夜だというのに、家の中にはまだ明かりが灯っている。
俺が扉を叩くと、ティムの母親が疲れ切った顔で出てきた。
「アッシュさん。どうして、また……?」
「約束のものを、持ってきました」
俺はアイテムボックスから、黄金色に輝く花を取り出して見せる。
彼女は、それが何なのか分からないようだった。
だが、その花が放つ、温かく神聖なオーラには何かを感じ取ったらしい。
「これは……?」
「旦那さんの病気を治す薬です。これを煎じて飲ませてください」
俺は詳しい説明はせず、簡潔に告げた。
彼女は半信半疑のまま、それでも俺の真剣な目に何かを感じたのか、黙って花を受け取った。
俺は、やるべきことはやった、と踵を返そうとした。
その時、家の中からティムが飛び出してきた。
そして、俺の服の裾を掴む。
「アッシュ兄ちゃん……!」
その目には、涙が溜まっている。
「父ちゃん、助かるの……?」
「ああ、きっと大丈夫だ」
俺は彼の頭を優しく撫でた。
何の保証もない言葉だ。
だが、なぜか、そう断言できる自信があった。
「ありがとう……!ありがとう、兄ちゃん!」
ティムは、声を上げて泣きじゃくった。
俺はそんな彼に、もう一度だけ微笑みかける。
そして、今度こそその場を去った。
これで、一つの気がかりはなくなった。
後は、村を襲う魔物たちに、どう対処するかだ。
家に帰り、俺はベッドに倒れ込む。
明日からは、迎撃準備の最終段階に入らなければならない。
襲撃まで、あと二日。
俺はそっと目を閉じた。
翌朝、俺はいつもより早く目を覚ました。
空はまだ薄暗い。
今日一日は、情報収集と罠の強化に費やすつもりだ。
俺はまず、村の周辺をくまなく見て回った。
【鑑定】スキルを使い、地面に残された魔物の痕跡を調べる。
やはり、昨日までとは明らかに様子が違っていた。
ゴブリンやオークのものらしき足跡が、森のあちこちに増えている。
しかも、そのどれもが、村の東側へと向かっていた。
東の森。
原作ゲームで、魔物たちが襲撃の拠点としていた場所だ。
やはり、シナリオ通りに事は進んでいるらしい。
だが、一つだけ気になることがあった。
足跡の中に、ゴブリンやオークのものより、遥かに巨大で深い爪痕を残すものがあったのだ。
【鑑定】してみると、結果は【オーガの足跡】と表示された。
「オーガ、だと……?」
俺は眉をひそめた。
オーガは、オークの上位種にあたる強力な魔物だ。
原作ゲームでは、エリル村《むら》の襲撃イベントには登場しなかったはず。
これは、一体どういうことだ。
俺の知らないところで、何かが変わり始めているのか。
あるいは、俺が介入したことで、運命の歯車が予期せぬ方向へと回り始めたのか。
どちらにせよ、厄介なことになった。
オーガが一匹いるだけで、敵の戦力は大幅に跳ね上がる。
俺が仕掛けた罠も、ゴブリンやオークは足止めできても、オーガには通用しないかもしれない。
「直接、確かめに行くしかないか」
俺は覚悟を決め、東の森へと足を踏み入れた。
【隠密】スキルを最大限に発動させ、息を殺して進む。
森の奥深くへ進むにつれて、魔物の気配はどんどん濃くなっていく。
やがて、木々の向こうに、開けた場所が見えてきた。
そこは、古い遺跡のような場所だった。
そして、そこに集結している魔物の群れを見て、俺は息をのんだ。
ゴブリンが数十匹。
オークが十数匹。
そして、その中央に、三体のオーガが鎮座している。
リーダー格なのだろう。
一体だけ、ひときわ体の大きなホブゴブリンがいた。
オーガのそばで何やら指示を飛ばしている。
「これは、予想以上だな」
原作の襲撃イベントとは、規模が違いすぎる。
これでは、ただの村人である俺が一人で立ち向かっても、勝ち目はない。
俺は冷静に、敵の戦力と配置を分析する。
何か、弱点はないか。
何か、勝機に繋がる糸口はないか。
俺は【鑑定】スキルを、敵全体に向けて使用した。
個々のステータスが表示されるが、特に目立った弱点はない。
やはり、正攻法では無理だ。
俺が諦めかけて、その場を離れようとした時だった。
リーダー格のホブゴブリンが手にしているものに、目が留まった。
それは、禍々しい紋様が刻まれた、黒い角笛だった。
俺はそれに、集中的に【鑑定】スキルを使う。
【軍団指揮の角笛:下級の魔物たちを操り、統率する力を持つ魔道具。破壊されると、指揮系統が混乱し、魔物たちは統制を失う】
「これだ!」
俺は心の中で叫んだ。
あの角笛さえ破壊できれば、敵の群れは烏合の衆と化す。
そうなれば、俺の仕掛けた罠で、各個撃破することも可能になるはずだ。
問題は、どうやってあの角笛を破壊するか、だ。
ホブゴブリンは、常にオーガに守られている。
正面から近づくのは、自殺行為に等しい。
遠距離から、何かで狙撃するしかない。
【魔力弾】では、威力が足りなすぎる。
何か、もっと強力な一撃を放てる手段は……。
俺の脳裏に、一つのアイテムが浮かんだ。
行商人から手に入れた、「魔力溜まりの石」。
あの石に込められた膨大な魔力を、もし一気に解放できたら……。
とんでもない破壊力を生み出す、爆弾のようなものが作れるかもしれない。
だが、今の俺に、そんな高度な魔道具を作り出す知識も技術もない。
アイテムボックスの中で、ただ眠らせておくだけでは宝の持ち腐れだ。
「いや、待てよ」
俺は、一つの可能性に思い至った。
魔道具として加工するのではなく、石そのものを、直接ぶつけるというのはどうだろうか。
単純だが、あるいはそれが一番効果的かもしれない。
高純度の魔力を帯びた石だ。
強い衝撃を与えれば、不安定になって暴走する可能性がある。
賭けだ。
だが、他に方法は思いつかなかった。
俺は偵察を終え、慎重にその場を離れた。
村に戻り、俺はすぐに最後の準備に取り掛かる。
まずは、投石器の作成だ。
家の近くにある丈夫な木と、丈夫な蔦《つた》を使って、簡易的なカタパルトを作る。
前世の知識が、こんなところで役立つとは思わなかった。
狙うは、東の森の遺跡。
ここからなら、ギリギリ射程圏内に入るはずだ。
次に、弾となる「魔力溜まりの石」の準備をする。
そのままではただの石なので、少しだけ細工をした。
石の周りに、ブラッドサッカーの羽と、ロックトカゲの鱗を細かく砕いたものを塗りつけた。
これは、飛行中の軌道を安定させるための、俺なりの工夫だ。
全ての準備を終えた頃には、もう日は暮れかけていた。
いよいよ、明日が運命の日だ。
俺は自作の投石器の前に立ち、東の森を見据える。
夜の闇が、ゆっくりと世界を包み込んでいく。
俺は、ただ息を潜めて、その時が来るのを待っていた。
これから始まるのは、ただのモブ村民による、壮大な運命への反逆だ。
俺は不敵に笑うと、最後の罠の調整に取り掛かった。
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