バトルが神ゲーと名高い鬱展開エロゲにモブとして転生した俺、原作知識と隠し仕様を駆使して推しヒロインたちを救います

☆ほしい

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運命の日、その朝は物音一つ聞こえなかった。
俺は夜明けと共に目を覚まし、最後の準備に取り掛かる。
家の周りに仕掛けた罠を一つ一つ点検し、正常に作動するかを確認していく。
「よし、まずは落とし穴からだ」
偽装は完璧か。強度も問題ない。
「次は拘束用の蔦《つた》だな」
俺は蔦を力一杯引っ張ってみる。十分な強度だ。
毒矢の発射装置にも異常はない。
全てが俺の計画通りに仕上がっていた。
俺は家の裏に設置した自作の投石器を見上げた。
「あとは、こいつだけだな」
昨夜のうちに、いつでも発射できる状態にしてある。
弾丸である「魔力溜まりの石」は、すでに装填済みだ。
あとは敵が射程圏内に入るのを待つだけ。
俺はアイテムボックスからパンと干し肉を取り出し、簡単な朝食を済ませた。
不思議と、緊張はなかった。
やるべきことは全てやったのだ。
後は、結果がついてくるだけ。
俺は家の屋根に登り、東の森を見据える。
【隠密】スキルで気配を消し、ひたすらその時を待った。
太陽が昇り、村が朝の活動を始める。
鳥のさえずりが聞こえてきた。
どこかの家からは朝食の匂いが漂ってくる。
あまりにも平和な光景が広がっていた。
これが嵐の前の出来事だと知っているのは、俺だけだった。
そして、その時は訪れた。
東の森から、一斉に鳥が飛び立つのを俺は見た。
地平線の向こうから黒い津波のようなものが押し寄せてくる。
魔物の大群だ。
「……来たか」
俺は小さく呟いた。
魔物の群れは、一直線にこのエリル村《むら》を目指してくる。
その数は百は下らないだろう。
先頭を走るのは身軽なゴブリンたちだ。
その後ろから棍棒を担いだオークたちが地響きを立てて続く。
群れの中央には、ひときわ巨大な三体のオーガが見えた。
それを率いるホブゴブリンの姿もある。
村の鐘がけたたましく鳴り響いた。
誰かが見張り台から魔物の接近に気づいたのだろう。
村中に人々の悲鳴と怒号が響き渡った。
「魔物だー! 魔物が攻めてきたぞー!」
「みんな、教会へ逃げろ!」
村人たちが我先にと安全な場所へ逃げ惑う。
だが魔物の足はそれよりも遥かに速かった。
あっという間に村の東側から魔物がなだれ込んでくる。
家々が破壊され、畑が踏み荒らされていく。
地獄絵図の始まりだった。
しかし、俺は冷静だった。
俺の家は村の東の外れにある。
最初に魔物の猛攻に晒される場所だ。
それも計算のうちだった。
案の定、十数匹のゴブリンが俺の家めがけて殺到してきた。
獲物を見つけたとでも言いたげな卑しい笑みを浮かべている。
だが、そこは俺が作り上げた死の領域だった。
先頭の一匹が家の前の地面を踏み抜いた瞬間。
「ギャン!?」
地面に隠されていた落とし穴に見事に落下した。
穴の底に仕掛けられた鋭い杭が、その体を串刺しにする。
後に続こうとしたゴブリンたちも次々と罠の餌食になっていった。
地面から飛び出す毒矢。
足を絡め取る蔦《つた》の罠。
目くらましに仕掛けた獣の糞。
俺の家の周りはゴブリンたちの断末魔の叫びで満たされた。
「よし、順調だ」
俺は屋根の上からその光景を見下ろす。
第一陣はこれでほぼ壊滅させた。
だが、本番はこれからだ。
後方からオークの部隊がやってくる。
彼らはゴブリンよりも知能が高く、用心深い。
地面の罠を警戒しながらゆっくりと距離を詰めてきた。
「グルル……」
オークの一匹が地面に不自然な盛り上がりがあることに気づき、棍棒でそれを叩いた。
途端に地面から大量の煙が噴き出す。
俺が仕掛けた催涙効果のある薬草を混ぜた煙幕だ。
「グオッ!? 目が、目がぁ!」
オークたちが目や喉の痛みに苦しみ、陣形を乱す。
俺はその隙を見逃さなかった。
屋根の上から練習を重ねた【魔力弾】を連射する。
狙うのは煙の中で混乱しているオークたちの頭だ。
一発の威力は低いが、急所に的確に当てれば足止めくらいにはなる。
数発の【魔力弾】がオークの頭部に命中した。
致命傷にはならない。
だが脳震盪を起こしてその場に倒れ込む。
統制を失ったオークたちはもはやただの的だった。
俺は淡々と【魔力弾】を撃ち続け、一体、また一体とオークを無力化していく。
その間も俺の目は常に敵の本隊、中央にいるホブゴブリンから離さなかった。
奴らが投石器の射程圏内に入るのを今か今かと待ち構える。
ホブゴブリンは前線が混乱していることに気づいたようだ。
忌々しげに舌打ちすると、手に持った黒い角笛を天に掲げた。
ブオオオオオオ……!
不気味で低い音が戦場に響き渡る。
すると混乱していたオークたちが正気を取り戻したように動きを止めた。
そして一斉に俺の家の方を睨みつける。
角笛の力で再び統制を取り戻したのだ。
「ちっ、厄介なものを……」
だが、それも想定内だ。
むしろ好都合だった。
敵が俺に注意を向けてくれたおかげで、奴らは絶好の射撃ポイントへと自ら足を踏み入れてくれた。
ホブゴブリンは三体のオーガに何かを命じる。
オーガたちは雄叫びを上げると、俺の家に向かって突進を開始した。
その巨体から繰り出される突撃は、さながら城攻めの破城槌のようだ。
家の周りに仕掛けたチャチな罠などいとも簡単に踏み潰していく。
俺は屋根から飛び降り、投石器の後ろに立った。
オーガたちがすぐそこまで迫っている。
家が破壊されるのも時間の問題だろう。
だが、俺の表情に焦りはなかった。
俺の狙いはオーガではない。
その後ろで悠然と構えているホブゴブリン。
ただ一点だけを見据える。
オーガの巨体が俺の視界を塞いだ。
だが俺は【鑑定】スキルで、障害物の向こう側にあるホブゴブリンの正確な位置を把握していた。
風の強さ、湿度、距離。
全ての計算はすでに頭の中で完了している。
俺は投石器の発射レバーに手をかけた。
これが外れれば全てが終わる。
だが俺には成功する確信があった。
俺は息を吸い込む。
そして全ての力を込めてレバーを引いた。
投石器のアームが轟音と共にしなり、装填されていた「魔力溜まりの石」が空へと放たれる。
黒い弾丸は綺麗な放物線を描きながら空を切り裂いていく。
それはまるで黒い流星のようだった。
オーガたちが空を飛ぶそれに気づき、何事かと見上げる。
ホブゴブリンもまた自分の頭上へと迫る小さな黒い点に気づいたようだった。
その顔に初めて焦りの色が浮かぶ。
だが、もう遅い。
俺の放った一撃は、寸分の狂いもなく、目標へと吸い込まれていった。
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