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モンス飯亭へ向かう途中、ほんの少しだけ遠回りしたのは……気の迷い、じゃなくて、胃の余白がもうちょっと欲しかったから。
いや、ほんとに、ほんのちょっとだけ。赤鉄ハイと魔界茸の余韻をきれいに着地させるには、ちょっと散歩が最適なんだって、私の足が言ってた。
(とはいえ……この時間、混んでるかなあ)
通りを曲がって、モンス飯亭の木製の看板が目に入ったとたん、胸がふわっと軽くなる。
私にとって、あの席は特等席っていうより“帰ってくる場所”みたいなものだから。
「あっ、いらっしゃいませ、佐倉さん!」
中に入ると、カウンター奥から聞き慣れた声。
制服姿のままの私に気づいて、バイトのミナがぱたぱたと顔を出してくれる。
「今日、空いてますよー。例のやつ、仕込んでます」
「うわ……始まってるんだ。やっぱり来てよかった~」
「ふふ、もうすぐ出せますから、席で待っててくださいねっ」
案内されたカウンターの端っこ。
背もたれのない丸椅子に腰を落ち着けると、肩の力がすうっと抜けていく。
目の前にはメニュー板。
でも今日はもう、注文するまでもないって気がしてた。
「はい、お通しです~」
そう言って出されたのは、ひとくちサイズの〈トードナッツ〉。
ダンジョン産のツチガエルの脚を揚げて、甘辛のタレで絡めた小皿料理。
見た目は、ちょっとだけ……びっくりするけど、味は絶品。
「……ふふ、あいかわらず、ここは初手から飛ばしてくるなぁ」
かぷっと噛むと、カリッとして、次にほろっとほどける。
甘辛いタレのあとに、ほんのり野趣。
そして、それを流し込むべく供されたのは――
「本日の限定ドリンク、“ヒンヤリ白桃泡酒”ですっ。数量限定!」
「えっ、白桃……泡……?」
目の前に置かれたグラスは、淡い桃色。
炭酸の泡がしゅわしゅわと上がって、香りだけでもう癒される。
一口、ちびり。
「ん……うわ、すご……」
甘くて、でも甘すぎない。
後味がさっぱりしてて、口の中がすっきりリセットされる。
(これ……もう、何杯でも飲めちゃうやつ……)
甘いお酒って、食中には合わないかもって思ってたけど、この泡酒は違う。
口の中を優しく洗い流してくれて、次のひとくちが楽しみになる。
「お待たせしました~!」
その声とともに、木製の小皿がトンと置かれる。
「本日限定!〈ミニドラゴンの肋骨肉ステーキ〉……の、試作版!」
出た。きた。ついに来た。
――けど、“試作”?
「えへへ、まだ本番サイズじゃないんです。今日は試食用。味だけでも楽しんでもらおうって」
(そういうの、すごくうれしい)
プレートに乗っているのは、分厚い肋骨の一部。
肉はたっぷり、焼き目がしっかり。上には刻みハーブとキノコのソース。
「……いただきますっ」
ナイフなんていらない。
フォークですっと切れるくらい、やわらかい。
ひとくちで、口の中が――
「……わああ、なんだこれ……」
ぷるぷる、じゅわじゅわ、もちもち、そしてホロホロ。
全部が一度にくるのに、バラバラじゃない。
噛んでる間じゅう、ずっと幸せが続く。
「佐倉さんの顔見ればわかります~。うん、成功ですっ!」
ミナの得意げな顔に、思わずふふっと笑っちゃう。
「これは……正式版、すっごく楽しみにしていいってことだね?」
「はいっ! 明日からスタートなんで、また来てくださいね!」
「……明日、定時で帰れますようにっ!」
甘い泡酒で流し込みながら、私はもう、次の夜のことを考えてる。
おいしいものが待ってる予感って、それだけで一日がんばれる魔法みたいなもの。
さあ――明日も早起きしなきゃ。
いや、ほんとに、ほんのちょっとだけ。赤鉄ハイと魔界茸の余韻をきれいに着地させるには、ちょっと散歩が最適なんだって、私の足が言ってた。
(とはいえ……この時間、混んでるかなあ)
通りを曲がって、モンス飯亭の木製の看板が目に入ったとたん、胸がふわっと軽くなる。
私にとって、あの席は特等席っていうより“帰ってくる場所”みたいなものだから。
「あっ、いらっしゃいませ、佐倉さん!」
中に入ると、カウンター奥から聞き慣れた声。
制服姿のままの私に気づいて、バイトのミナがぱたぱたと顔を出してくれる。
「今日、空いてますよー。例のやつ、仕込んでます」
「うわ……始まってるんだ。やっぱり来てよかった~」
「ふふ、もうすぐ出せますから、席で待っててくださいねっ」
案内されたカウンターの端っこ。
背もたれのない丸椅子に腰を落ち着けると、肩の力がすうっと抜けていく。
目の前にはメニュー板。
でも今日はもう、注文するまでもないって気がしてた。
「はい、お通しです~」
そう言って出されたのは、ひとくちサイズの〈トードナッツ〉。
ダンジョン産のツチガエルの脚を揚げて、甘辛のタレで絡めた小皿料理。
見た目は、ちょっとだけ……びっくりするけど、味は絶品。
「……ふふ、あいかわらず、ここは初手から飛ばしてくるなぁ」
かぷっと噛むと、カリッとして、次にほろっとほどける。
甘辛いタレのあとに、ほんのり野趣。
そして、それを流し込むべく供されたのは――
「本日の限定ドリンク、“ヒンヤリ白桃泡酒”ですっ。数量限定!」
「えっ、白桃……泡……?」
目の前に置かれたグラスは、淡い桃色。
炭酸の泡がしゅわしゅわと上がって、香りだけでもう癒される。
一口、ちびり。
「ん……うわ、すご……」
甘くて、でも甘すぎない。
後味がさっぱりしてて、口の中がすっきりリセットされる。
(これ……もう、何杯でも飲めちゃうやつ……)
甘いお酒って、食中には合わないかもって思ってたけど、この泡酒は違う。
口の中を優しく洗い流してくれて、次のひとくちが楽しみになる。
「お待たせしました~!」
その声とともに、木製の小皿がトンと置かれる。
「本日限定!〈ミニドラゴンの肋骨肉ステーキ〉……の、試作版!」
出た。きた。ついに来た。
――けど、“試作”?
「えへへ、まだ本番サイズじゃないんです。今日は試食用。味だけでも楽しんでもらおうって」
(そういうの、すごくうれしい)
プレートに乗っているのは、分厚い肋骨の一部。
肉はたっぷり、焼き目がしっかり。上には刻みハーブとキノコのソース。
「……いただきますっ」
ナイフなんていらない。
フォークですっと切れるくらい、やわらかい。
ひとくちで、口の中が――
「……わああ、なんだこれ……」
ぷるぷる、じゅわじゅわ、もちもち、そしてホロホロ。
全部が一度にくるのに、バラバラじゃない。
噛んでる間じゅう、ずっと幸せが続く。
「佐倉さんの顔見ればわかります~。うん、成功ですっ!」
ミナの得意げな顔に、思わずふふっと笑っちゃう。
「これは……正式版、すっごく楽しみにしていいってことだね?」
「はいっ! 明日からスタートなんで、また来てくださいね!」
「……明日、定時で帰れますようにっ!」
甘い泡酒で流し込みながら、私はもう、次の夜のことを考えてる。
おいしいものが待ってる予感って、それだけで一日がんばれる魔法みたいなもの。
さあ――明日も早起きしなきゃ。
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