うっかり女神のせいで未開の半島に転移したけど、無限収納と頑丈な体があれば余裕でした

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翌朝、俺が目を覚ますと、ミャオの姿がベッドになかった。
一瞬、もう帰ってしまったのかと焦った。
だが、部屋の中を見渡すと、彼女はそこにいた。
俺が作ったテーブルや椅子を、興味深そうにぺたぺたと触っている。
壁にかけてある様々な道具を、不思議そうに眺めていたりもした。
まるで、未知の文明に触れた探検家のようである。

俺がベッドから起き上がると、その物音に気づいたミャオがびくっと肩を震わせた。
そして、慌てて俺の方に向き直る。
まだ少しだけ、緊張しているのかもしれない。
「おはよう、ミャオ。よく眠れたか?」
俺が優しく声をかけると、ミャオはこくこくと何度も頷いた。

「うん、おはよう、ミナト。すごく、よく眠れた。こんなにぐっすり眠ったの、久しぶり」
その言葉に、彼女がこれまでどれだけ過酷な状況にいたのかが窺えた。
「そうか、それは良かったな」
俺は立ち上がって、ぐっと大きく伸びをする。
「よし、じゃあ朝飯にしようか。今日は、ちょっと特別なものを作ってやるよ」

「とくべつ?」
ミャオは、不思議そうに首を傾げた。
その仕草が、子猫のようでとても微笑ましい。
俺は厨房スペースに向かうと、早速、調理に取り掛かった。
特別なもの、とは言ったものの、作るものはパンケーキもどきだ。
材料は、全てこの島で手に入れたものだ。

この島には、栗に似た木の実がたくさんなっている。
その実を石で丁寧に潰して、細かい粉にする。
それに、森で偶然見つけた、巨大な鳥の巣から拝借してきた卵を混ぜる。
鳥には本当に申し訳ないが、一つだけ、ありがたく頂いたのだ。
卵は、鶏卵の三倍くらいの大きさがある。
その黄身は、驚くほど濃厚な色をしていた。

これを木の棒でよくかき混ぜて、滑らかな生地を作っていく。
味付けは、ほんの少しの塩だけだ。
熱した石板に、生地を丸く流し込む。
じゅー、という良い音と共に、甘い香りが漂い始めた。
ミャオが、くんくんと鼻を鳴らしながら、俺の側に寄ってきた。

その目は、焼かれていく生地に釘付けになっている。
「ミナト、これ、なに? すごく、いい匂いがする」
「パンケーキ、みたいなものだ。まあ、食べてからのお楽しみだな」
生地の表面にぷつぷつと気泡が出てきたら、木のヘラでひっくり返す。
こんがりとした、綺麗な焼き色がついた。

我ながら、なかなかの出来栄えだ。
焼きあгаったパンケーキもどきを木の皿に乗せ、仕上げにかけるのは特製のシロップだ。
これは、メープルシロップに似た甘い樹液が採れる木を見つけたので、それを煮詰めて作ったものだ。
樹液を採るのも、煮詰めるのも、大変な作業だった。
黄金色のシロップを、パンケーキの上にとろりとかけていく。
それだけで、見た目がぐっと豪華になった。

「さあ、できたぞ。熱いから気をつけろよ」
俺はミャオの前に、パンケーキの皿を置いた。
ミャオは目をキラキラと輝かせ、目の前の未知の食べ物を見つめている。
木のフォークを手に取り、おそるおそるパンケーキを一口大に切った。
そして、それをぱくりと口に運ぶ。

もぐもぐと、小さな口で一生懸命に咀嚼している。
やがて、その顔がぱあっと輝いた。
「あ、あまい! おいしい! なにこれ、ふわふわしてる!」
ミャオは感動のあまり、椅子の上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
尻尾も、ぶんぶんと嬉しそうに揺れていた。

その反応は、作り手として最高の褒め言葉だ。
俺も、自分の分のパンケーキを食べる。
うん、これも美味い。
木の実の素朴な風味と、卵のコクが感じられる。
そこに、濃厚な甘さのシロップが絶妙に絡みつく。
これは、前世で食べたどんな高級なパンケーキよりも、美味しく感じられた。

ミャオは、夢中になってパンケーキを平らげた。
口の周りにシロップをつけながら、満足そうに息をついている。
「ミナトは、すごい。魔法使いみたいだ。なんでも作れるんだね」
ミャオは尊敬の眼差しで、俺を見て言った。

「はは、魔法なんて使えないさ。ただの、ちょっとした知識だよ」
俺は照れ隠しに、ミャオの口元についたシロップを指で拭ってやった。
ミャオは少し驚いた顔をしたが、されるがままになっている。
だいぶ、俺に慣れてくれたようだ。
食事を終え、一息ついていると、ミャオがぽつりぽつりと自分のことを話し始めた。

彼女の一族は、猫の獣人族らしい。
この半島の、ずっと奥にある森の中に集落を作って暮らしているそうだ。
昔は、森の恵みだけで十分に暮らしていけたらしい。
だが数年前から、森の様子が少しずつおかしくなってきたという。
獲物が急に減り、木の実もあまり採れなくなったそうだ。

原因は、全く分からない。
集落の長老たちも、ずっと頭を悩ませていた。
そして、このままでは冬を越せないかもしれない、という話になった。
そこでまだ若くて身軽なミャオが、新しい土地と食料を探すための斥候として、一人で旅に出されたというわけだ。
「そうだったのか……。大変だったな、一人で」

「うん。でも、みんなのためだから。それに、ミナトに会えたから、良かった」
ミャオはそう言って、にぱっと笑った。
その笑顔は、まるで太陽のように明るかった。
俺はそんなミャオの頭を、もう一度優しく撫でた。
「なあ、ミャオ。よかったら、しばらくここにいないか?」

俺は、一つの提案をしてみた。
「俺の仕事を手伝ってくれたら、毎日お腹いっぱい食べさせてやる。それに、お前の村に持って帰るための保存食も、一緒に作ろう」
俺の言葉に、ミャオはきょとんとした顔をした。
そして意味が分かると、勢いよく椅子から立ち上がった。
「本当!? いいの!?」

「ああ、もちろん。一人じゃ、何かと大変だからな。ミャオがいてくれると助かる」
本当は、一人でも全く問題ないのだが。
神頑丈スキルと空間収納があれば、この半島で生きていくのは余裕だ。
だが、俺はミャオと一緒にいたいと思ったのだ。
この小さな頑張り屋の少女を、助けてやりたいと。
それに、彼女の森の知識は、俺にとっても大きな助けになるだろう。

純粋に、そう思った。
「やる! やる! ミャオ、手伝う!」
ミャオは満面の笑みで、何度も頷いた。
こうして、俺とミャオの奇妙な共同生活が、本格的に始まった。
まずは、ミャオ専用の生活道具を揃えるところからだ。

食器、カトラリー、それから作業用の道具。
俺は手頃な木材を見つけると、手刀で次々と加工していく。
その様子を、ミャオはあんぐりと口を開けて見ていた。
「ミナト……やっぱり、人間じゃないでしょ……」
「ははは、どうだろうな」
俺は曖昧に笑って、誤魔化す。

まさか、女神様のうっかりでこうなった、とは言えない。
ミャオは、手先がとても器用だった。
俺が作ったカゴを見様見真-似で、あっという間に同じものを作ってしまった。
蔓を編むスピードは、俺よりもずっと速い。
獣人族は、みんなこうなのだろうか。

彼女は、森の知識も豊富だった。
食べられる木の実や薬草、毒のある植物についても詳しかった。
これは、俺にとって非常にありがたい情報だ。
二人でいると、作業が格段にはかどる。
何より、話し相手がいるというのが、こんなにも楽しいことだとは知らなかった。
このログハウスは、ミャオの明るい声で、いつも賑やかになった。

その日の夕食後、俺たちは焚き火を囲んで話をしていた。
今日の夕飯は、海で捕まえたイカを使った料理だ。
新鮮な刺し身と、ゲソを焼いたもの。
ミャオは初めて食べるイカの食感に、また感動していた。
「海の幸もすごいけど、森にも美味しいものはたくさんあるんだよ」
ミャオが、ふと思い出したように言った。

「へえ、例えばどんなものだ?」
「グレートボアっていう、すっごく大きな猪がいるの。そのお肉、とっても美味しいんだ。でも、すごく強くて、すばしっこいから、なかなか捕まえられないんだけどね」
グレートボア、か。
その名前に、俺は興味をそそられた。
大きな猪、というのはいいな。

燻製肉の材料には、もってこいじゃないか。
それに、まだ食べたことのない肉、というのも魅力的だ。
「なあ、ミャオ。そのグレートボアって、どこにいるんだ?」
「え? うーん、森の奥の方に行けば、たまに見かけるかな。でも、本当に危ないよ?村の腕利きの狩人でも、何人も怪我させられてるんだから」
ミャオは、心配そうな顔で俺を見る。
村の腕利きの狩人でも苦戦する相手か。
それは、確かに手強そうな相手だ。

だが、俺には神頑丈スキルがある。
怪我をする心配は、全くない。
それに俺のキック力なら、大木さえへし折れるのだ。
イノシシの一匹や二匹、どうにでもなるだろう。
「よし、決めた」
俺は立ち上がって、にやりと笑った。

「明日は、そのグレートボアとやらを狩りに行こうぜ」
「ええっ!? ほ、本気で言ってるの!?」
ミャオは驚いて、素っ頓狂な声を上げた。
俺の無謀な提案に、彼女は心底、呆れているようだった。
だがその瞳の奥には、かすかな期待の色も浮かんでいるように見えた。
「もちろん本気だ。最高のディナーを作ってやるよ」
俺は自信満々に、そう宣言した。
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