うっかり女神のせいで未開の半島に転移したけど、無限収納と頑丈な体があれば余裕でした

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出来上がったレンガを前に、俺とミャオは感心してそれを眺めていた。
赤褐色に焼かれたそれは、一つ一つがずっしりと重い。
表面には俺たちの指の跡が残り、手作りならではの温かみがあった。
叩くとコンコンと硬質な音がして、まさしく自然の土が人の手で石へと変わった証だった。

「すごい、本当に土が石になったみたいだね」
ミャオはまるで宝物でも見るかのように、レンガを一つそっと手に取る。
その感触を確かめるように、指先でゆっくりと表面を撫でた。
彼女の瞳は、未知の技術に対する好奇心と尊敬の気持ちでキラキラ輝いていた。

「ああ、我ながらこれ以上ない上出来だ。
これだけあれば計画通り、大きくて立派な燻製小屋が建てられるぞ」
俺は満足そうに頷くと、完成したレンガを一つずつ丁寧に拾い上げる。
まだ少し熱が残るそれを、落とさないよう慎重に運んだ。
そして、開けた場所にある建設予定地まで、何度も往復して積んでいく。
ミャオも俺の真似をして、小さな体で一生懸命レンガを運んでくれた。
もちろん俺が一度に五つ運ぶところを、彼女は一つ運ぶのがやっとだ。
それでもその健気な姿と、手伝いたいという気持ちが何より嬉しかった。

全てのレンガを運び終えると、燻製小屋の建設がついに始まる。
何事も、まずは基礎作りから始めなければならない。
建物全体の重さを支える、最も重要な部分である。
俺は地面に、燻製小屋の設計図となる長方形の線を引いた。
広さは、だいたい四畳半くらいだろうか。
今まで使っていた小さな燻製器と比べれば、まさに宮殿のような大きさになる。

「よしミャオ、この線の内側を少しだけ掘ってくれるか。深さは、俺の膝くらいでいい」
俺は自分の膝のあたりに、手で水平な線を示して見せた。

「分かったよ、ミナト!」
ミャオは元気よく返事をすると、早速その鋭い爪で土を掘り始めた。
彼女の爪はまるで上等なスコップのように、面白いほどよく土を掻き出していく。
ザッザッと小気味良い音が、周囲に響いた。
俺ももちろん手伝い、二人で黙々と地面を掘り進める。
神頑丈スキルを持つ俺と、獣人の優れた身体能力を持つミャオ。
俺たちの不思議なコンビにかかれば、普通なら一日かかる土木作業もあっという間だ。

ほんの一時間もしないうちに、燻製小屋の基礎となる長方形の溝が綺麗に掘り上がっていた。

「次は、この溝に石を敷き詰めていくぞ。地面を固めて、建物が重さで沈まないようにするためだ」
俺たちは近くの川原へ向かい、手頃な大きさの石を拾い集めた。
なるべく平らで、角ばった石が良い。
そういった石を探して、川岸を歩き回った。
そして掘った溝の底に、パズルのように隙間なく石を敷き詰めていく。
さらにその上から川の細かい砂をかけて、石と石の間のわずかな隙間を完全に埋めていった。
最後に二人で太い丸太を持ち上げ、何度も地面に叩きつける。
ドシン、ドシンという鈍い音を立てて、地面が固く締め固められていった。
これで、頑丈で信頼できる基礎の完成だ。

「ふぅ、こんなものかな。これで、土台は完璧だ」
俺は額から流れる汗を拭いながら、満足そうに呟いた。
ミャオは、自分たちが作り上げた頑丈な基礎を眺めて不思議そうな顔をしている。

「ミナト、どうしてこんな大変なことをするの。私の村で家を建てるときは、地面に直接柱を立てるだけだよ」

「それだと雨が降って地面がぬかるんだ時に、家が傾いてしまう可能性があるんだ。こうして基礎をしっかり作っておけば、何十年も建物はびくともしないのさ」

「え、ひゃくねんも大丈夫なの!?」
ミャオは信じられないといった様子で、大きく目を見開いている。
彼女の村の家は、おそらく数年から十数年もすれば建て替えが必要になるのだろう。
俺が当たり前のようにやっていることは、彼女の常識を一つ一つ覆していくようなものなのかもしれない。

基礎作りが終われば、次の工程はいよいよレンガを積み上げる作業だ。
だがただレンガを重ねていくだけでは、不安定ですぐに崩れてしまう。
レンガとレンガを強力にくっつけるための、特別な接着剤が必要だった。

「ミャオ、今度はモルタルっていうものを作るぞ」

「もるたる、ってなあに?」
またしても初めて聞く不思議な言葉に、ミャオは可愛らしく首を傾げた。

「レンガをくっつけるための、特別なセメントみたいなものなんだ。材料は、粘土と砂と石灰だよ」
粘土と砂は、幸いレンガを作った時の余りが十分にある。
一番の問題は、石灰だ。
だが幸いなことに、この島の海岸には貝殻がたくさん打ち上げられている。
食料にしたカキやホタテに似た、大きな二枚貝の殻が山ほどあった。
これを高温で焼くことで、材料となる生石灰を作ることができるのだ。

俺はミャオと一緒に再び海岸へ行き、大きな袋いっぱいに貝殻を集めてきた。
そしてレンガを焼いた時と全く同じ要領で、即席の窯をこしらえる。
その中で、大量の貝殻をじっくりと蒸し焼きにした。
数時間後、窯から取り出した貝殻は熱で真っ白な粉末に変わっていた。
これが、モルタルの主成分となる生石灰だ。

「わあ、硬かった貝殻が真っ白な砂になったみたい」
ミャオは、まるで魔法でも見ているかのように目を輝かせている。

「これに水を加えるとすごく熱くなるから、絶対に素手で触るなよ」
俺はミャオに注意しながら、生石灰に水を少しずつ加えていく。
じゅわっという激しい音と共に、もくもくと白い煙が立ち上った。
みるみるうちに生石灰は高熱を発し、水と反応して消石灰へと変化していく。
この消石灰に粘土と砂を丁寧に混ぜ合わせ、水を加えてよく練り上げた。
そうして出来上がったのが、灰色の粘り気のあるペーストだ。
これぞ、俺たちの作った即席モルタルである。

「よし、これで準備は万端だ。いよいよ、壁を積んでいくぞ」
俺は木で作った平たいコテを手に取ると、基礎の上にモルタルを薄く塗り広げた。
そしてその上に、記念すべき最初のレンガを一つ慎重に置く。
水の入ったお椀を水準器代わりにして、レンガが完全に水平になっているか確認する。
一つ目のレンガは全ての基準になるから、この作業は特に重要だ。
位置が完璧に決まったら、レンガの側面にモルタルを塗り次のレンガを置いていく。
その、地道な繰り返しの作業だ。
一段目、二段目とレンガの壁が少しずつ、しかし着実に高くなっていく。
その光景を、ミャオは息を呑んで見つめていた。

「すごい、本当にレンガがお互いにぴったりくっついていく」

「だろ、これが完全に乾けばもう絶対に離れない。石の壁と、同じくらい頑丈になるんだ」
俺が少し得意げに説明すると、ミャオはぱあっと目を輝かせた。

「私も、それやってみたい!」

「よし、じゃあ手伝ってくれるか。俺がモルタルを塗るから、ミャオはそこにレンガを置いてくれ」

「うん、まかせて!」
ミャオは、おそるおそるレンガを手に取る。
そして俺がモルタルを塗った場所に、それをそっと置いた。
少し曲がってしまったが、初めてにしては驚くほど上出来だ。
俺はコテの柄でレンガを軽く叩き、正しい位置に修正してやる。

「そうだ、すごく上手いじゃないか。その調子で頼む」
俺に褒められると、ミャオは嬉しそうにへへっとはにかんで笑った。
彼女はすぐにコツを掴み、驚くべき速さでテンポよくレンガを置いていく。
俺とミャオの、この世界で初めての共同建築作業。
それは言葉にしなくても、互いの呼吸がぴったりと合うような不思議な一体感があった。
作業に夢中になっていると、時間はあっという間に過ぎていく。
西の空が美しい茜色に染まる頃には、燻製小屋の壁は俺の腰の高さくらいまで積み上がっていた。

「ふぅ、今日はここまでだな」
俺は作業の手を止め、自分たちの仕事の成果をじっくりと眺めた。
歪みもなく、まっすぐに積み上がった赤褐色のレンガの壁。
それは、素人の仕事とは思えないほどの見事な出来栄えだった。

「わあ、なんだかお城の壁みたいでかっこいいね」
ミャオが、自分の仕事に誇らしげな声をあげた。

「はは、確かにな。これは、俺たちの最初の城だ」
俺たちは顔を見合わせて、満足感と共に笑い合った。
体は作業で少し疲れていたが、心は大きな達成感で満たされている。
今日の夕食は、特別にグレートボアのバラ肉を使って角煮もどきを作ることにした。
醤油がないので甘い樹液と岩塩、それから香り付けのスパイスで時間をかけてじっくり煮込んでいく。
とろとろに煮込まれた肉は、口の中でほろりと崩れるほど柔らかい。
濃厚なタレが染み込んだ肉は、まさに絶品だった。
ミャオもそのあまりの美味しさに、うっとりと目を細めている。

「んー、お肉がとろけるみたい。幸せの味がするよ」

「だろ、一生懸命働いた後の飯は、格別に美味いんだ」
俺たちは美味しい食事と、今日の仕事の成果を肴に語り合った。
そうして、とても楽しい夕食の時間を過ごした。
明日も、今日よりも高くなる壁の続きを積み上げていく。
そんなことを考えながら俺は、ミャオの嬉しそうな横顔をそっと見つめていた。
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