うっかり女神のせいで未開の半島に転移したけど、無限収納と頑丈な体があれば余裕でした

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最高の露天風呂が完成してから、俺たちの生活はさらに快適なものになった。
汗をかいたら、すぐに崖の上の湯船に飛び込み、体を綺麗にする。
目の前に広がる青い海を眺めながら、温かいお湯に体を預けるのは最高の贅沢だった。
女神リズ様がくれた『泡ぶくぶくストーン』という道具も、ミャオは大変気に入っていた。
ラベンダーの香りがするふわふわの泡に包まれて、彼女はいつも嬉しそうに鼻歌を歌っていた。

風呂上がりの食事は、もちろん燻製が主役だ。
薄く切った燻製をさっと炙って、シャキシャキの葉っぱと一緒に食べるのが日課だった。
あるいは、分厚く切って、熱した石の上でステーキのように焼く日もあった。
燻製はスープに入れても、良い出汁が出て本当に絶品だった。
グレートボアの肉は、どう調理しても美味いので、俺たちは毎日飽きなかった。
俺とミャオは、飽きることなく燻製料理を堪能していた。

「んー、今日の燻製も、とってもおいしいね、ミナト」
ミャオは口いっぱいに燻製を頬張りながら、幸せそうにそう言った。
その口の周りには、肉の脂がついてテカテカと光っている。
「ああ、美味いな。燻製作りは、本当に大成功だった」
俺はミャオの口元を、親指でそっと拭ってやった。
彼女はもう、それを恥ずかしがることもない。
すっかり、俺に懐いてくれている証拠なのだろうと思う。

そんな穏やかな日々が、しばらく続いていた。
ある日の夕食後、俺たちはいつものように焚き火を囲んで話をしていた。
夜空には、白く輝く満月が浮かんでいる。
「ミナト、この燻製って、本当にたくさんあるよね」
ミャオが、ふと思い出したように言った。
空間収納に保管してある、燻製の山のことを言っているのだろう。
「ああ、グレートボア一頭分だからな。これだけあれば、ミャオの村の皆が冬の間、毎日お腹いっぱい食べても無くならないだろう」
「うん。早く、みんなに食べさせてあげたいな。お母さんにも、お父さんにも」
ミャオはそう言うと、少しだけ遠い目をした。
故郷に残してきた、家族や仲間の顔を思い浮かべているのだろう。
「みんな、私が帰ってくるのを、今か今かと待ってるはずだから」

その言葉に、俺は少しだけ胸がちくりと痛んだ。
ミャオとの生活は、本当に楽しくて、充実している。
だが、この共同生活は、彼女が村に帰るまでの期間限定のものなのだ。
いつかは、彼女を故郷に送り届けてやらないといけない。
「そうだな。そろそろ、本気で村に帰る準備を始めないといけないな」
俺が言うと、ミャオはこくりと頷いた。
その表情は、少しだけ寂しそうにも見えた。
「でも、燻製だけじゃなくて、塩もたくさん持って帰ってあげたい。ミナトが作った、あの真っ白できれいな塩をね」
「ああ、もちろんそのつもりだ。塩は、いくらでも作れるからな」
「それから、私が覚えた料理の作り方も、みんなに教えてあげたいな。パンケーキとか、ステーキとか、串焼きとか、全部」
ミャオは指を折りながら、楽しそうに話し始めた。
「ミナトが作ってくれた、木の器やフォークも欲しいな。それに、レンガの作り方も、みんなに教えてあげたい」
彼女の夢は、この島での生活のように、どんどん膨らんでいくようだった。
この島で経験した全てのことを、村に持ち帰りたいのだろう。

「おいおい、そんなにたくさんの荷物、一体どうやって運ぶんだ?」
俺が笑いながら言うと、ミャオは「あ、」とした顔で固まった。
どうやら、そこまで考えていなかったらしい。
ミャオの村は、この場所から山を一つ越えた、森の奥にあると聞いている。
小さな女の子の足で、何日もかかる険しい道のりのはずだ。
燻製肉だけでも、とんでもない量と重さになる。
それを、どうやって運ぶか。
それが、一番の大きな問題だった。

「うーん、村のみんなで何度も往復すれば、何とかなるかな」
ミャオが、苦し紛れに言った。
「それじゃ、日が暮れちまうどころか、季節が変わっちまうぞ」
俺は、腕を組んで考え込んだ。
何か、たくさんの荷物を一度に運べる良い方法はないだろうか。
車輪があれば、荷車が作れる。
だが、頑丈で真円の車輪を作るのは、今の俺の技術ではかなり難しい。
それなら、そりはどうだろうか。
地面を滑らせて運ぶそりなら、構造も簡単で、これなら俺でも作れるかもしれない。

「よし、ミャオ。荷物を運ぶための、大きなそりを作ろう」
「そり?」とミャオは不思議そうにした。
「ああ。木の板を組み合わせて、その上に荷物をたくさん乗せるんだ。それを、引っ張って運ぶのさ」
「へえ、そんな便利なものがあるんだね」
ミャオは、感心したように目を輝かせた。
「それから、ミャオの旅のための装備も、ちゃんと作らないとな」
「私の、装備?」
「そうだ。険しい山道を歩くんだから、頑丈な服と靴が必要だろ。それに、夜の寒さをしのぐための、暖かい毛皮のマントもいるな」
俺は、ミャオの小さな体を見つめた。
今彼女が着ている服は、この島に来た時のぼろぼろの服を、俺が少しだけ修繕したものだ。
これでは、過酷な旅に耐えられないだろう。

「服や靴の材料は、あれを使おう」
俺は、にやりと笑って言った。
空間収納から、巨大なグレートボアの皮を取り出す。
解体した時に、丁寧にとっておいたものだ。
塩漬けにして、腐らないように処理してある。
「うわあ、大きい」とミャオは目を丸くした。
「この皮をなめして、丈夫でしなやかな革に変えるんだ。そうすれば、最高の服と靴が作れるぞ」
「かわ、にするの?」
「ああ。少し、時間と手間がかかるがな」
皮を革に変える工程、つまり「皮なめし」は、根気のいる作業だ。
だが、それをやり遂げれば、布よりもずっと頑丈で長持ちする素材が手に入る。
ミャオの安全な旅のためには、絶対に欠かせない作業だった。
「よし、そうと決まれば、明日から早速、皮なめしを始めるぞ」
俺が宣言すると、ミャオは元気よく「うん」と頷いた。

翌日から、俺たちの新しい仕事が始まった。
まずは、塩漬けにされたグレートボアの皮を、川の水で洗うことから始める。
皮についた余分な塩分や、こびりついた汚れを綺麗に洗い流すのだ。
皮はとてつもなく大きく、そして重い。
俺とミャオは二人で力を合わせ、巨大な皮を川の中へと運んだ。
そして、川の流れに晒しながら、硬い石でごしごしと擦っていく。
冷たい水の中での作業は、思った以上に骨が折れる。
だが、俺には神頑丈スキルがあるし、ミャオも文句一つ言わずに一生懸命手伝ってくれた。

次に、皮についている毛を、全て取り除く作業に取り掛かる。
これには、アルカリ性の液体に皮を浸す必要があった。
俺は、焚き火でできた木灰を、水に溶かして灰汁を作った。
そして、その灰汁を溜めた大きな樽の中に、重たい皮を沈める。
この状態で、数日間置いておくのだ。
こうすることで、毛が抜けやすくなる。
「なんだか、すごく大変な作業なんだね。革を作るのって」
ミャオが、感心したように言った。
「ああ。だからこそ、革製品は価値があるんだ」
俺たちは、皮が灰汁に浸かるのを待つ間、そり作りのための木材を集めることにした。
そりの材料には、硬くて丈夫な木がいい。
それでいて、地面を滑りやすいように、木目がまっすぐな木が理想だ。
ミャオは、森の案内役として、最適な木を探してくれた。
「ミナト、この木はどうかな。村では、弓を作る時に使う、すごく硬い木だよ」
ミャオが指差したのは、幹が黒くて、ごつごつした木だった。
俺が叩いてみると、コンコンと金属のような音がする。
これは、確かに頑丈そうだ。

俺は、その木を手刀で切り倒し、拠点まで運んだ。
そして、手斧とナイフを使って、少しずつそりの形に加工していく。
荷台となる板と、地面を滑るための二本の滑走部。
シンプルな構造だが、それだけに各部品の強度が重要になる。
俺は、時間をかけて丁寧に、木材を削り出していった。
その作業の様子を、ミャオはいつも隣で興味深そうに眺めている。
時々、俺が削った木くずを拾い上げて、その匂いを嗅いだりしていた。
「ミナトは、本当に物作りが上手だね。見ていて、全然飽きないよ」
「そうか。俺はただ、手を動かしてるのが好きなだけだ」
そんな会話をしながら、俺たちの穏やかな時間は過ぎていった。
数日後、灰汁に浸しておいた皮を引き上げてみると、面白いように毛がするりと抜けた。
俺たちは、木の板を使って、皮に残った毛や脂肪を、綺麗にこそぎ落としていく。
これもまた、地道で根気のいる作業だった。
だが、全ての処理を終えた皮は、まるで別物のように綺麗になっていた。
「わあ、つるつるになったね」
ミャオが、嬉しそうな声を上げる。
だが、皮なめしの工程は、まだ終わらない。
このまま乾かすと、皮はカチカチに硬くなってしまう。
しなやかな革にするためには、ここからさらに重要な工程が待っているのだ。

俺は、皮を乾かしながら、何度も何度も揉みほぐした。
手で揉み、足で踏み、木の棒で叩く。
皮の繊維を、徹底的にほぐしていくのだ。
「ミナト、何してるの。お肉を、柔らかくしてる時みたいだね」
「はは、まあ、似たようなもんだな。革も、こうやって愛情を込めてやらないと、良いものにはならないんだ」
俺の言葉に、ミャオも真似をして、小さな体で一生懸命に皮を踏み始めた。
その姿が、なんだかとても微笑ましい。
俺たちの、ミャオを村へ帰すための準備は、まだ始まったばかりだった。
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