うっかり女神のせいで未開の半島に転移したけど、無限収納と頑丈な体があれば余裕でした

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翌朝、俺は鳥のさえずりで目を覚ました。
ログハウスの窓から差し込む朝日が、部屋の中を明るく照らす。
俺はベッドから起き上がると、ぐっと大きく伸びをした。
神頑丈スキルのおかげで、体のどこにも疲れは残っていない。
今日も、清々しい一日の始まりだ。
俺は、まず最初に昨日作ったばかりの畑の様子を見に行く。
植えたばかりの種が、どうなっているか気になったからだ。
畑に着くと、俺は畝の一つに小さな変化が起きていることに気づいた。
黒い土の表面から、可愛らしい緑色の双葉がちょこんと顔を出す。
それは、俺が植えた豆の種から出た最初の芽だった。

「おお、もう芽が出たのか」
俺は、思わず声を上げた。
たった一晩で、命が芽吹いたのだ。
その小さな双葉を見ていると、なんだかとても感動的な気持ちになる。
俺は、その小さな芽を傷つけないようにそっと指で触れてみる。
朝露に濡れた葉は、柔らかくて生命力に満ち溢れていた。

「元気に、大きくなれよ」
俺は、まるで我が子に語りかけるように優しく声をかけた。
植物を育てるという行為は、こんなにも心を豊かにしてくれるのか。
俺は、畑仕事の本当の楽しさを少しだけ理解した気がした。
他の畝も見て回ると、芋を植えた場所の土が少し盛り上がっている。
まだ芽は出ていないが、土の中で何かが始まろうとしている証拠だ。
俺は、畑の周りに動物除けの簡単な柵を作ることにした。
せっかく育てた野菜を、獣に食べられてはたまらないからな。
手頃な木の枝を何本か集めてきて、地面に打ち込んでいく。
石で叩いて、深くしっかりと固定した。
そして、丈夫な蔓を編んで枝と枝の間を繋いで柵にした。
見た目は悪いが、これでも無いよりはずっといいだろう。

俺は、木の皮で作ったジョウロで畑全体に丁寧に水を撒いていく。
川から汲んできた、冷たくて綺麗な水だ。
俺の愛情とこの水で、きっと野菜たちはすくすくと育ってくれるだろう。
数ヶ月後の、収穫の時期が今からとても楽しみになった。
畑の水やりを終えると、俺は今日の予定を考える。
特に、やらなければいけない緊急の仕事はない。
たまには、のんびりと拠点の周りを散策してみるのもいいかもしれない。
何か、新しい発見があるかもしれないからだ。

「よし、今日は探検の日にしよう」
俺は、そうと決めた。
アイテムボックスがあるので、何か見つけても収納には困らない。
俺は、水筒と携帯食料だけを持つと軽やかな足取りでログハウスを出発した。
まずは、まだ足を踏み入れていない森の西側を探索してみる。
森の中は、木々の緑が目に鮮やかで歩いているだけで気持ちがいい。
見たこともない色鮮やかな花が咲いていたり、面白い形のキノコが生えたりする。
俺は、食べられそうなものや何かに使えそうなものを見つけるたび、アイテムボックスに収納していく。
毒があるかもしれないものは、ちゃんと印をつけて分けておく。
後で、図鑑のようなものを作ってみるのも面白いかもしれないな。
これは熱を下げる効果がある葉っぱで、これは傷口の消毒に使える樹液だ。
一人で生き抜くためには、こういう知識が何よりも重要になる。

しばらく森の中を歩いていると、甘い花の香りが風に乗って漂ってきた。
その香りに誘われるように、俺は森の奥へと進んでいく。
やがて、少し開けた場所に辿り着いた。
そこには、見たこともないほど巨大な木が一本だけそびえ立つ。
幹の太さは、大人が五人がかりで手を繋いでも届かないだろう。
そして、その木の枝には蜜で満たされた蜂の巣のようなものが、いくつもぶら下がっていた。

「これは、蜂蜜か?」
俺は、ごくりと喉を鳴らした。
甘いものは、この世界では貴重品だ。
パンケーキにかけるシロップは、樹液を煮詰めて作っている。蜂蜜があれば料理の幅が広がるだろう。
俺は、木の幹を登り蜂の巣の一つに近づいてみた。
幸い、周りに蜂の姿は見当たらない。
巣は、薄い膜のようなもので覆われており中には黄金色の液体が詰まっていた。
俺は、指先でそっと膜を破り中の液体を少しだけ舐めてみる。

「……甘い!これは、間違いなく蜂蜜だ!」
しかも、ただの蜂蜜ではない。
花の香りが豊かで、驚くほど濃厚な味わいだ。
これは、極上の品である。
俺は、大喜びで手の届く範囲にある蜂の巣を全てアイテムボックスに収納した。
これで、当分の間は甘いものには困らないだろう。

思わぬ収穫に満足した俺は、森を抜けて海岸線へと出ることにした。
どこまでも続く、白い砂浜と青い海。
いつ見ても、飽きることのない美しい景色だ。
俺は、靴を脱いで裸足になると波打ち際をゆっくりと歩き始めた。
打ち寄せる波が、足元を優しく洗っていく。
その冷たさが、とても心地よかった。
しばらく海岸を歩いていると、俺は砂浜に見慣れないものが打ち上げられているのを発見した。
それは、黒くて大きな木の板のようなものだった。
長さは、三メートルほどだろうか。
表面は、潮水と太陽に晒されて少しだけ白っぽくなっている。
だが、明らかに人工的に加工されたものだと分かった。

「なんだ、これ。船の、残骸か?」
俺は、その木の板に近づき詳しく調べてみることにした。
板の表面には、釘か何かで打ち付けたような跡がいくつも残る。
そして、端の方には何か文字のようなものが刻まれていた。
それは、俺が遺跡で見た古代文字とはまた違う書体だった。
だが不思議なことに、俺はその文字の意味をなぜか理解することができた。
『……北の、王国……船……アルゴス……』
途切れ途切れで、それしか読み取れない。
だが、この木の板が北にあるどこかの王国から流れ着いた、アルゴス号という船の一部であることは間違いないようだった。

「北の王国、か」
俺は、ぽつりと呟いた。
このエデンワイルド半島の、さらに北にはちゃんとした人間の国があるらしい。
その国の船が、何らかの理由で難破しその一部がこの島に流れ着いたのだろう。
俺は、この島が世界から完全に孤立していないことを改めて実感した。
海の向こうには、俺がまだ知らない広大な世界が広がっているのだ。
少しだけ、外の世界への興味が湧いてきた。
だが、今の俺にはこの島での自由な暮らしの方がずっと魅力的に感じられる。
面倒な人間関係や、国のしがらみとはできるだけ無縁でいたいものだ。
俺は、その木の板をひっくり返してみた。
すると、裏側には何か金属の部品のようなものがいくつか取り付けられている。
錆びてはいるが、磨けばまだ使えそうなものもある。
硬い鉄で作られた、蝶番のような部品や頑丈な留め具などだ。
これらは、何か道具を作る時に役立つかもしれない。

「よし、これもらっておくか」
俺は、その木の板ごとアイテムボックスに収納した。
容量が無制限だと、こういう時に本当に助かる。
思わぬ発見をした俺は、満足して拠点へと戻ることにした。
今日の夕食は、森で手に入れた極上の蜂蜜を早速使ってみよう。
燻製肉に、蜂蜜を塗って焼いたらきっと美味いだろうな。
いわゆる、ハニーマスタードチキンのような感じになるはずだ。
新しい料理のアイデアが、次々と浮かんできた。
俺は、少しだけ早足でログハウスへの道を急いだ。
夜、俺は完成したばかりの燻製肉のハニーグリルを一人で味わっていた。
甘じょっぱい味付けが、肉の旨味と絶妙に絡み合って最高の味だ。
俺は、そんなことを考えながらふと昼間に拾った船の残骸のことを思い出した。
アイテムボックスから、その黒い木の板を取り出す。
そして、取り付けられていた金属の部品を一つ一つ丁寧に外していった。
錆を落として磨いてやると、金属は鈍い輝きを取り戻した。

「この蝶番、何かに使えそうだな」
例えば、ログハウスの窓を開閉式にするのに使えるかもしれない。
今の窓は、ただ穴が開いているだけだからな。
留め具は、新しい道具箱の鍵にでもしようか。
俺は、手に入れた部品を眺めながら明日は何を作ろうかと考え始めた。
この島での、物作りの日々はまだまだ尽きることがない。
俺は、そんな充実した毎日に心の底から満足していた。
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