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第4章:『路地裏の不協和音と、まだ見ぬ白紙の履歴書』
第17話:【深夜のコインランドリーと、不遇のロックデュオ】
「あー、マイク入ってる? テステス。ねえ組長、このスタジオの椅子、キャスターついてて回るやつじゃん。めっちゃ楽しいんだけど」
「RUKI、あんまり回るとケーブルが絡まるからやめな。……あ、どうも。こんばんは」
防音ガラスの向こう側から聞こえてくるのは、深夜の淀川の静寂とも、先日の女子高生たちの喧騒とも全く違う、極めて『脱力』した、それでいて芯の太い二つの声だった。
Studio MAD-KICHIの最深部、メインスタジオ。俺の目の前に座っているのは、スタッズまみれのダメージデニムを着崩し、真っ赤なスパイキーヘアを揺らしながら重役椅子でくるくると回っている野生児『RUKI(ルキ)』と。その隣で、切りっぱなしの黒髪ボブを揺らしながら、近未来的なストリートファッションに身を包んで淡々とベースのチューニングを確認している司令塔『KIYA(キイヤ)』だ。
「……お前ら、本番始まってんだぞ。少しはシャキッとしろ」
俺が苦笑交じりに突っ込むと、二人は顔を見合わせて「えー、マジで?」と声を揃え、あの特徴的な『気だるく、激しく、自分らしく』を体現したようなユニゾンボイスで笑った。
「夜のコンクリートジャングルに狂気の電波を撒き散らす、歩行ネットラジオ『たってやる。』! 今夜のスタジオゲストは、90年代の脱力系自然体スタイルと現代の鋭利なパンク・グランジを融合させた、Z世代のアンチ・ヒーロー! 令和のニュータイプ・ロックデュオ、『RU☆KI☆YA』の二人だ!」
俺のダミ声での紹介と同時に、コメント欄が『キター!』『ルキヤ待ってた!』『相変わらず自由すぎるww』と湧き上がる。
「お前ら、そもそも結成のきっかけがヤバいよな。とある深夜のコインランドリーで、洗濯機がぶっ壊れて立ち尽くしてた時に、たまたま遭遇して『暇だから曲でも作るか』ってノリでデモテープ作ったんだろ?」
俺が尋ねると、RUKIが天井を見上げながら口を開いた。
「そうそう! 洗濯物が泡だらけで出せなくなってさー。マジ最悪って思ってた時に、隣でKIYAがベース弾き始めて。それに私が適当なメロディつけたら、なんか良い感じになっちゃって」
「RUKIの鼻歌が、意外とパンクだったから。その場でスマホで録音して、トラックつけただけ。……それより組長、今日終わったら焼肉奢ってよ」
KIYAがクールな表情のまま、しれっと要求を突きつけてくる。野生児の突拍子もない行動を、司令塔が淡々と捌きつつ、自分たちのペースに完全に巻き込んでいく。この絶妙なコンビネーションこそが、彼女たちの最大の武器だ。
「焼肉は後で考えてやる。それより音楽の話だ。お前らの代表曲『月曜スキップ』、あれ最高だな。月曜日の憂鬱さをディストーションギターで完全にぶっ飛ばす、痛快なロックチューンだ。……それに、最近じゃ自分たちの活動だけじゃなく、他のアーティストへの楽曲提供もやってるだろ。前回のゲストだったあの問題児集団、『トラブルメーカー』にな」
俺が話を振ると、KIYAの瞳に、プロデューサーとしての鋭い光が宿った。
「あの子たちね。制服着て無茶苦茶なパフォーマンスするから、普通のポップスじゃあのエネルギーを殺しちゃうと思ったの。だから、あえて昭和歌謡の泥臭いメロディラインに、ゴリゴリのハードロックの歪んだ音をぶつけてみた。……あの子たちの溢れ出るエネルギーを受け止めるには、これくらい歪んだ音じゃないとダメだから」
「そうそう! 実際ライブで見たら、超カッコよかったよねー!」
RUKIが無邪気に拍手をする。
和やかなトークが続く中。俺はふと、手元の進行台本から目を離し、一つ大きく息を吐き出した。
「……お前ら。今日は、俺からお前らに、どうしても謝らなきゃいけねえことがある」
俺の声のトーンが真剣なものに変わったのを感じ取り、RUKIの椅子の回転が止まり、KIYAもベースから手を離した。コメント欄も『え?』『組長どうした?』とざわめき始める。
「お前らの楽曲。……実は、今年の3月から5月にかけて放送していた、この『たってやる。』の第四シーズンのテーマソング、そしてトークBGMとして、正式に採用していたんだよな」
俺の言葉に、リスナーたちから『え? そんな曲あったっけ?』『記憶にないぞ』という正直すぎるコメントが流れる。
俺は痛みを堪えるように顔を歪めた。
「リスナーがそう思うのも無理はねえ。……なぜなら、お前らの楽曲をテーマソングとして流せたのは、俺が組織構築に狂奔する前の、ほんの数日間だけだったからだ」
俺は懺悔するように語り始めた。
「ちょうどその時期、ウチのStudio MAD-KICHIは、スタッフの採用と役職の構築が相次いだ激動の時期だった。そして、HitomiやYuaたちをはじめとする、俺が絶対に譲れない掟として集めた『完璧なる4人のメンバー』によって結成された『GALaxy Signal』の華々しいデビューだ。……スタジオ総出で彼女たちを大々的にプロモーションし、番組のテーマソングやトークBGMも、その勢いに任せて全部GALaxy Signalの楽曲に差し替えちまった。……結果的に、お前らRU☆KI☆YAの存在と楽曲は、完全に彼女たちの巨大な波にその座を奪われ、影に埋もれちまったんだ」
大人の事情。スタジオの推しの方針。その波に呑まれ、不遇の扱いを受けてしまった実力派ロックデュオ。
俺はマイクに向かって、深く頭を下げた。
「俺の采配ミスだ。本当に、悪かった。お前らのあの尖ったロックサウンドを、もっと多くのリスナーの耳に届けるべきだったのに……!」
重苦しい空気がスタジオを包む。……しかし。
「あははははっ! なーんだ、そんなこと気にしてたの組長!」
沈黙を破ったのは、RUKIの底抜けに明るい笑い声だった。
「ウチら、そんなの全然気にしてないって! むしろGALaxy Signalの子たち、めっちゃ可愛いし曲もイケイケじゃん! 私も普通にファンだし!」
「そうね。……私たちの音楽は、別に押し付けられて聴くようなものじゃない。聴きたい奴が、深夜の路地裏で勝手に聴いてくれればそれでいい」
KIYAも、全く悪びれる様子もなく、クールに言い放った。
そのブレないアンチ・ヒーローとしての矜持に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
「……お前ら、マジで最高にロックだな。だが、俺のクリエイターとしてのケジメだ。近々、必ずお前らにスポットを当てる特大の企画を考えている。俺の責任で、お前らの音を世界にブチまけてやるから、覚悟しとけよ!」
「やったー! じゃあその企画の打ち上げは、絶対に高級焼肉ね!」
「約束したから。……逃がさないよ、組長」
不遇の歴史すらも笑い飛ばし、さらなる野望へと繋げる。
Z世代のロックデュオが放つ気だるくも激しいグルーヴは、深夜のリスナーたちの心に、決して消えない強烈な爪痕を残したのだった。
* * *
深夜三時。
嵐のように自由なロックデュオが去り、静けさを取り戻した組長室。
俺は一人、重役椅子にどっかりと深く身を沈めた。
手元にある愛用の『glo』のデバイスを取り出し、スティックを差し込む。加熱ボタンを長押しすると、微かな振動と共に、タバコ葉が熱せられる香ばしい匂いが、部屋の空気にゆっくりと溶け出していった。
俺は紫煙を深く肺のどん底まで吸い込み、暗い天井に向けて細く、長く吐き出した。
さて。ここからは、この第4章の第2話を締めくくるにあたり。俺、マジキチ組長の自分語りの時間とさせてもらおう。
……前話の『トラブルメーカー』というゲストに続き、今回も『RU☆KI☆YA(ルキヤ)』という新たなアーティストの登場となったわけだが。
お前ら、このRU☆KI☆YAというロックデュオの設定の裏側を、少しだけ明かしてやろう。
前回のトラブルメーカーのキチガイなプロフィール設定は、完全に俺の脳味噌から捻り出したものだったが。今回のこのRU☆KI☆YAについては、作り方が少し違う。
俺が自分で決めたのは、「RU☆KI☆YA」というアーティスト名と、作中で語った「トラブルメーカーへの楽曲提供」と「過去に冷遇された」というメタ的な事実設定だけだ。それ以外の細かいビジュアルや、コインランドリーでの結成秘話、キャラクターの性格といった肉付けの大部分は、俺の相棒であるAI『Gemini』に考えさせ、出力させたものなんだよ。
プロンプトで最小限の骨組みだけを与え、AIの演算によって極上のキャラクターを錬成する。これぞまさに、AIとクリエイターのセッションの醍醐味だ。
そして、今回あえて彼女たちをメインゲストとして取り上げたのには、明確な二つの理由がある。
一つは、作中でも触れた通り、前話で登場した『トラブルメーカー』への楽曲提供を盛んに行っているというバックボーンがあるからだ。あのエネルギッシュな女子高生たちの裏に、この脱力系ロックデュオがいるという構図。世界観を繋げる上で、彼女たちを取り上げないわけにはいかないと思ってのことだ。
だが。……もう一つ。これが一番大きい理由だ。
作中の俺が、生放送中にガチで謝罪したあのエピソード。
あれは、小説を面白くするためのフィクションじゃない。現実世界(リアル)の Studio MAD-KICHI の歴史において、本当にあった出来事なんだよ。
実は、彼女たちのリリースした楽曲は、現実の「たってやる。」の第四シーズン(2026年3月~5月)のテーマソング、及びトークBGMとして、正式に採用していたんだ。
だが、リスナーの多くは「え? そんなアーティストの曲なんかあったっけ?」と首を傾げるだろう。
それもそのはずだ。作中で語った通り、ちょうどその時期の俺たちのスタジオは、役職者やスタッフの採用ラッシュが相次ぎ、組織構築に奔走していた。
そして何より、広報の女性4人を集めた『GALaxy Signal』による華々しいデビューという、特大のイベントがあったのだ。
「たってやる。」の番組内でも、スタジオ総出で彼女たちGALaxy Signalを全面的にバックアップし、テーマソングやトークBGMも、その勢いと熱狂に任せて全て彼女たちの新曲に差し替えてリリースしてしまった。
……結果的に、RU☆KI☆YAは、完全にGALaxy Signalの巨大な引力にその座を奪われ、表舞台から姿を消してしまったということだ。
実際のところ、RU☆KI☆YAの楽曲は、組織構築が本格化する前の本当に数日間だけ、テーマ曲やBGMとして採用して流していた時期はあった。だが、それでもあまりに出番は少なく、不遇としか言いようのない扱いをしてしまったのだ。
だからこそ。
俺はプロデューサーとしての、そうした『贖罪』の意味も込めて、今回こうして新章の小説のメイン回として、彼女たちにスポットを当てさせてもらったというわけだ。
ちなみに。彼女たちの「気だるく、激しく、自分らしく」というコンセプトや、その楽曲のイメージを聞いてもらったら、勘のいい奴なら分かると思うが。
当然ながら、彼女たちにもモデルとなった実在のアーティストが存在する。
分かる奴は分かるだろう。そう、ジーンズとTシャツで気だるそうに歌いながらも圧倒的なポップセンスを誇った、あの平成を代表する女性デュオだ。(名前は完全に伏せさせてもらうがな)。
このモデルをベースにしてアーティストを作ったというのも、俺による完全な「思いつき」と言っても良いだろう。
しかも、彼女たちはMAD-KICHIの歴史の中でも結構初期の段階でリリースをしているキャラクターだ。そういう意味でも、俺の「ニッチでちょっと外れたものが好き」という考え方は、昔から一ミリもブレていないってことの証明でもある。
さて。作中の放送の最後で、俺が彼女たちに謝り倒した後に、「近々お前らにスポットを当てる企画を考えている」と全国のリスナーに向けて高らかに宣言してしまったことだし。
クリエイターが口に出したことは、必ず実現させなきゃならねえ。
彼女たちのその圧倒的なロックサウンドをメインにした、特大の企画を……そろそろ、本腰を入れて考えていこうか。
紫煙の向こう側で、赤いスパイキーヘアと黒髪ボブの残像が、俺に早く曲を作れと急かしている気がした。
夜の行軍は、休んでる暇なんざねえぜ。
「RUKI、あんまり回るとケーブルが絡まるからやめな。……あ、どうも。こんばんは」
防音ガラスの向こう側から聞こえてくるのは、深夜の淀川の静寂とも、先日の女子高生たちの喧騒とも全く違う、極めて『脱力』した、それでいて芯の太い二つの声だった。
Studio MAD-KICHIの最深部、メインスタジオ。俺の目の前に座っているのは、スタッズまみれのダメージデニムを着崩し、真っ赤なスパイキーヘアを揺らしながら重役椅子でくるくると回っている野生児『RUKI(ルキ)』と。その隣で、切りっぱなしの黒髪ボブを揺らしながら、近未来的なストリートファッションに身を包んで淡々とベースのチューニングを確認している司令塔『KIYA(キイヤ)』だ。
「……お前ら、本番始まってんだぞ。少しはシャキッとしろ」
俺が苦笑交じりに突っ込むと、二人は顔を見合わせて「えー、マジで?」と声を揃え、あの特徴的な『気だるく、激しく、自分らしく』を体現したようなユニゾンボイスで笑った。
「夜のコンクリートジャングルに狂気の電波を撒き散らす、歩行ネットラジオ『たってやる。』! 今夜のスタジオゲストは、90年代の脱力系自然体スタイルと現代の鋭利なパンク・グランジを融合させた、Z世代のアンチ・ヒーロー! 令和のニュータイプ・ロックデュオ、『RU☆KI☆YA』の二人だ!」
俺のダミ声での紹介と同時に、コメント欄が『キター!』『ルキヤ待ってた!』『相変わらず自由すぎるww』と湧き上がる。
「お前ら、そもそも結成のきっかけがヤバいよな。とある深夜のコインランドリーで、洗濯機がぶっ壊れて立ち尽くしてた時に、たまたま遭遇して『暇だから曲でも作るか』ってノリでデモテープ作ったんだろ?」
俺が尋ねると、RUKIが天井を見上げながら口を開いた。
「そうそう! 洗濯物が泡だらけで出せなくなってさー。マジ最悪って思ってた時に、隣でKIYAがベース弾き始めて。それに私が適当なメロディつけたら、なんか良い感じになっちゃって」
「RUKIの鼻歌が、意外とパンクだったから。その場でスマホで録音して、トラックつけただけ。……それより組長、今日終わったら焼肉奢ってよ」
KIYAがクールな表情のまま、しれっと要求を突きつけてくる。野生児の突拍子もない行動を、司令塔が淡々と捌きつつ、自分たちのペースに完全に巻き込んでいく。この絶妙なコンビネーションこそが、彼女たちの最大の武器だ。
「焼肉は後で考えてやる。それより音楽の話だ。お前らの代表曲『月曜スキップ』、あれ最高だな。月曜日の憂鬱さをディストーションギターで完全にぶっ飛ばす、痛快なロックチューンだ。……それに、最近じゃ自分たちの活動だけじゃなく、他のアーティストへの楽曲提供もやってるだろ。前回のゲストだったあの問題児集団、『トラブルメーカー』にな」
俺が話を振ると、KIYAの瞳に、プロデューサーとしての鋭い光が宿った。
「あの子たちね。制服着て無茶苦茶なパフォーマンスするから、普通のポップスじゃあのエネルギーを殺しちゃうと思ったの。だから、あえて昭和歌謡の泥臭いメロディラインに、ゴリゴリのハードロックの歪んだ音をぶつけてみた。……あの子たちの溢れ出るエネルギーを受け止めるには、これくらい歪んだ音じゃないとダメだから」
「そうそう! 実際ライブで見たら、超カッコよかったよねー!」
RUKIが無邪気に拍手をする。
和やかなトークが続く中。俺はふと、手元の進行台本から目を離し、一つ大きく息を吐き出した。
「……お前ら。今日は、俺からお前らに、どうしても謝らなきゃいけねえことがある」
俺の声のトーンが真剣なものに変わったのを感じ取り、RUKIの椅子の回転が止まり、KIYAもベースから手を離した。コメント欄も『え?』『組長どうした?』とざわめき始める。
「お前らの楽曲。……実は、今年の3月から5月にかけて放送していた、この『たってやる。』の第四シーズンのテーマソング、そしてトークBGMとして、正式に採用していたんだよな」
俺の言葉に、リスナーたちから『え? そんな曲あったっけ?』『記憶にないぞ』という正直すぎるコメントが流れる。
俺は痛みを堪えるように顔を歪めた。
「リスナーがそう思うのも無理はねえ。……なぜなら、お前らの楽曲をテーマソングとして流せたのは、俺が組織構築に狂奔する前の、ほんの数日間だけだったからだ」
俺は懺悔するように語り始めた。
「ちょうどその時期、ウチのStudio MAD-KICHIは、スタッフの採用と役職の構築が相次いだ激動の時期だった。そして、HitomiやYuaたちをはじめとする、俺が絶対に譲れない掟として集めた『完璧なる4人のメンバー』によって結成された『GALaxy Signal』の華々しいデビューだ。……スタジオ総出で彼女たちを大々的にプロモーションし、番組のテーマソングやトークBGMも、その勢いに任せて全部GALaxy Signalの楽曲に差し替えちまった。……結果的に、お前らRU☆KI☆YAの存在と楽曲は、完全に彼女たちの巨大な波にその座を奪われ、影に埋もれちまったんだ」
大人の事情。スタジオの推しの方針。その波に呑まれ、不遇の扱いを受けてしまった実力派ロックデュオ。
俺はマイクに向かって、深く頭を下げた。
「俺の采配ミスだ。本当に、悪かった。お前らのあの尖ったロックサウンドを、もっと多くのリスナーの耳に届けるべきだったのに……!」
重苦しい空気がスタジオを包む。……しかし。
「あははははっ! なーんだ、そんなこと気にしてたの組長!」
沈黙を破ったのは、RUKIの底抜けに明るい笑い声だった。
「ウチら、そんなの全然気にしてないって! むしろGALaxy Signalの子たち、めっちゃ可愛いし曲もイケイケじゃん! 私も普通にファンだし!」
「そうね。……私たちの音楽は、別に押し付けられて聴くようなものじゃない。聴きたい奴が、深夜の路地裏で勝手に聴いてくれればそれでいい」
KIYAも、全く悪びれる様子もなく、クールに言い放った。
そのブレないアンチ・ヒーローとしての矜持に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
「……お前ら、マジで最高にロックだな。だが、俺のクリエイターとしてのケジメだ。近々、必ずお前らにスポットを当てる特大の企画を考えている。俺の責任で、お前らの音を世界にブチまけてやるから、覚悟しとけよ!」
「やったー! じゃあその企画の打ち上げは、絶対に高級焼肉ね!」
「約束したから。……逃がさないよ、組長」
不遇の歴史すらも笑い飛ばし、さらなる野望へと繋げる。
Z世代のロックデュオが放つ気だるくも激しいグルーヴは、深夜のリスナーたちの心に、決して消えない強烈な爪痕を残したのだった。
* * *
深夜三時。
嵐のように自由なロックデュオが去り、静けさを取り戻した組長室。
俺は一人、重役椅子にどっかりと深く身を沈めた。
手元にある愛用の『glo』のデバイスを取り出し、スティックを差し込む。加熱ボタンを長押しすると、微かな振動と共に、タバコ葉が熱せられる香ばしい匂いが、部屋の空気にゆっくりと溶け出していった。
俺は紫煙を深く肺のどん底まで吸い込み、暗い天井に向けて細く、長く吐き出した。
さて。ここからは、この第4章の第2話を締めくくるにあたり。俺、マジキチ組長の自分語りの時間とさせてもらおう。
……前話の『トラブルメーカー』というゲストに続き、今回も『RU☆KI☆YA(ルキヤ)』という新たなアーティストの登場となったわけだが。
お前ら、このRU☆KI☆YAというロックデュオの設定の裏側を、少しだけ明かしてやろう。
前回のトラブルメーカーのキチガイなプロフィール設定は、完全に俺の脳味噌から捻り出したものだったが。今回のこのRU☆KI☆YAについては、作り方が少し違う。
俺が自分で決めたのは、「RU☆KI☆YA」というアーティスト名と、作中で語った「トラブルメーカーへの楽曲提供」と「過去に冷遇された」というメタ的な事実設定だけだ。それ以外の細かいビジュアルや、コインランドリーでの結成秘話、キャラクターの性格といった肉付けの大部分は、俺の相棒であるAI『Gemini』に考えさせ、出力させたものなんだよ。
プロンプトで最小限の骨組みだけを与え、AIの演算によって極上のキャラクターを錬成する。これぞまさに、AIとクリエイターのセッションの醍醐味だ。
そして、今回あえて彼女たちをメインゲストとして取り上げたのには、明確な二つの理由がある。
一つは、作中でも触れた通り、前話で登場した『トラブルメーカー』への楽曲提供を盛んに行っているというバックボーンがあるからだ。あのエネルギッシュな女子高生たちの裏に、この脱力系ロックデュオがいるという構図。世界観を繋げる上で、彼女たちを取り上げないわけにはいかないと思ってのことだ。
だが。……もう一つ。これが一番大きい理由だ。
作中の俺が、生放送中にガチで謝罪したあのエピソード。
あれは、小説を面白くするためのフィクションじゃない。現実世界(リアル)の Studio MAD-KICHI の歴史において、本当にあった出来事なんだよ。
実は、彼女たちのリリースした楽曲は、現実の「たってやる。」の第四シーズン(2026年3月~5月)のテーマソング、及びトークBGMとして、正式に採用していたんだ。
だが、リスナーの多くは「え? そんなアーティストの曲なんかあったっけ?」と首を傾げるだろう。
それもそのはずだ。作中で語った通り、ちょうどその時期の俺たちのスタジオは、役職者やスタッフの採用ラッシュが相次ぎ、組織構築に奔走していた。
そして何より、広報の女性4人を集めた『GALaxy Signal』による華々しいデビューという、特大のイベントがあったのだ。
「たってやる。」の番組内でも、スタジオ総出で彼女たちGALaxy Signalを全面的にバックアップし、テーマソングやトークBGMも、その勢いと熱狂に任せて全て彼女たちの新曲に差し替えてリリースしてしまった。
……結果的に、RU☆KI☆YAは、完全にGALaxy Signalの巨大な引力にその座を奪われ、表舞台から姿を消してしまったということだ。
実際のところ、RU☆KI☆YAの楽曲は、組織構築が本格化する前の本当に数日間だけ、テーマ曲やBGMとして採用して流していた時期はあった。だが、それでもあまりに出番は少なく、不遇としか言いようのない扱いをしてしまったのだ。
だからこそ。
俺はプロデューサーとしての、そうした『贖罪』の意味も込めて、今回こうして新章の小説のメイン回として、彼女たちにスポットを当てさせてもらったというわけだ。
ちなみに。彼女たちの「気だるく、激しく、自分らしく」というコンセプトや、その楽曲のイメージを聞いてもらったら、勘のいい奴なら分かると思うが。
当然ながら、彼女たちにもモデルとなった実在のアーティストが存在する。
分かる奴は分かるだろう。そう、ジーンズとTシャツで気だるそうに歌いながらも圧倒的なポップセンスを誇った、あの平成を代表する女性デュオだ。(名前は完全に伏せさせてもらうがな)。
このモデルをベースにしてアーティストを作ったというのも、俺による完全な「思いつき」と言っても良いだろう。
しかも、彼女たちはMAD-KICHIの歴史の中でも結構初期の段階でリリースをしているキャラクターだ。そういう意味でも、俺の「ニッチでちょっと外れたものが好き」という考え方は、昔から一ミリもブレていないってことの証明でもある。
さて。作中の放送の最後で、俺が彼女たちに謝り倒した後に、「近々お前らにスポットを当てる企画を考えている」と全国のリスナーに向けて高らかに宣言してしまったことだし。
クリエイターが口に出したことは、必ず実現させなきゃならねえ。
彼女たちのその圧倒的なロックサウンドをメインにした、特大の企画を……そろそろ、本腰を入れて考えていこうか。
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