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第35章:『原点の共鳴と、新たなる旋風』
第171話:【カバーの波間と、妹の来訪】
焼け焦げるような大阪の猛暑は、相も変わらず外の世界を支配している。
だが、Studio MAD-KICHIの心臓部である組長室は、冷房の冷気と、化石クラスのノートPC群が放つ微かな排熱、そしてコーヒーの深い香りが入り混じる、独特の静寂に包まれていた。
「――というわけで、直近一ヶ月間の各プラットフォームにおけるエンゲージメントの推移ですが、やはり既存曲のカバーを配信した際のアクティブリスナーの伸び率が顕著ですね」
デスクの向かい側で、手元のタブレットをスワイプしながら冷静な声で報告を上げるのは、アーティスト・ブランディング室長の琴城葉月(ことしろ はづき)だ。
彼女の涼しげな目元と、理路整然とした語り口は、常にこのスタジオの狂気的なスピード感に「戦略」という名の秩序を与えてくれている。
俺は電子タバコをゆっくりと吸い込み、細く煙を吐き出しながら、モニターに映し出されたグラフを眺めた。
「なるほどな。確かに、過去の名曲やヒット曲のカバーは、アルゴリズムにも乗りやすいし、初見のリスナーを引き込むためのフックとしては最強だ。ウチのアーティストたちの『声の個性』を知ってもらう名刺代わりとしても、申し分ない働きをしてくれてる」
「はい。ですが……」葉月はタブレットから顔を上げ、真剣な眼差しを俺に向けた。「そろそろ、次のフェーズへ移行すべきタイミングかと考えています」
「次のフェーズ、ね。要するに『完全新曲』のリリース戦略か」
「その通りです。最近のスタジオのリリース傾向を見ると、過去のカバー曲を別の所属アーティストが歌う、という形式が非常に多くなっています。もちろん、それ自体はクロスプロモーションとして有効ですが、完全な『新曲』のリリース頻度が以前に比べて減少傾向にあるのは事実です」
葉月の指摘は、まさに痛いところを突いていた。
俺自身、プロトタイピングの速度を上げるために、あるいは各アーティストのボーカルモデルのテストを兼ねて、手っ取り早く名曲のカバーを歌わせる機会が増えていた。
「違いない。耳の痛い話だぜ」俺は苦笑いしながら頭を掻いた。「現に、アーティストとしての『琴城葉月』の楽曲も、ほとんどが俺のプロデュースによるカバー曲中心になっちまってるしな」
「私のことは構いません。私はブランディング室長としての職務がメインですから」葉月は涼しい顔で首を振った。「ですが、専業のアーティストたちにとっては、やはり自分だけの『オリジナル曲』こそが、アイデンティティを確立する最大の武器になります。カバーの波間で漂うだけでなく、そろそろ強烈なオリジナル曲で、シーンに新しい波を起こすべきです」
「お前の言う通りだ。カバーで足場を固める時期は過ぎた。ここからは、ウチのオリジナルで勝負を仕掛けていくフェーズってわけだ。……どうだ葉月、誰をフロントに立たせるか、何か良いアイデアは無いか?」
俺がそう問いかけた、まさにその時だった。
「失礼しまーす! 組長さん、いらっしゃいますかー?」
ノックの音と共に、組長室のドアが勢いよく、しかしどこか遠慮がちに開かれた。
ひょっこりと顔を出したのは、黒いショートヘアーがよく似合う一人の女性だった。
キリッとした釣り気味の目元と、整った顔立ち。一見すると、誰もが道を譲りそうなほどの「気の強さ」を感じさせる美貌の持ち主だ。
だが、彼女の口から飛び出す声と表情は、そのルックスからは想像もつかないほど明るく、柔らかい。
「あ、葉月さんもお疲れ様です! 久しぶりに来ましたー!」
ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべ、彼女は深々と頭を下げた。
彼女の名前は、SYUTOU(シュウトウ)。
Studio MAD-KICHIの初期から所属している古参アーティストの一人であり、そして何より、あの姉御肌で圧の強い看板アーティスト・SYUNKAの実の妹である。
「おっ、SYUTOUじゃないか。珍しいな、お前が直接ここに顔を出すなんて」
俺が声をかけると、SYUTOUは少し照れくさそうに笑いながら、手に持っていた紙袋を掲げた。
「へへっ、近くまで来たんで、差し入れのケーキ買ってきちゃいました。代表も葉月さんも、毎日遅くまでお仕事お疲れ様です!」
「気が利くじゃねぇか。ありがたく頂くぜ」
「ありがとうございます、SYUTOUさん」葉月も微笑みながら礼を言う。
SYUTOUはソファーに腰掛けると、くるくると表情を変えながら最近の出来事を楽しそうに話し始めた。姉であるSYUNKAが相変わらずスタジオで暴れ回っている(物理的にではなく、歌唱力と存在感で)という話を聞いて、「もう、お姉ちゃんったら本当に我が道を行くんだから……組長さん、いつもお姉ちゃんがお世話になってます。ご迷惑かけてませんか?」と、まるで保護者のような気遣いを見せる。
姉のSYUNKAといえば、サバサバとした姉御肌で、良い意味でふてぶてしく、マイクを持てば圧倒的な存在感で場を支配するタイプだ。
対して、妹のSYUTOUはこの通り。ルックスこそ姉に負けず劣らずの美貌で、顔立ちだけを見れば「近寄りがたいクールビューティー」なのだが、ひとたび口を開けば、礼儀正しく、愛嬌があり、誰からも愛される親しみやすさを持っている。
この強烈な「ギャップ」こそが、SYUTOUというアーティストの最大のウリでもあった。
話を聞きながら、俺はふと頭の中のデータベースを検索した。
「……なぁ、SYUTOU。そう言えば、お前の楽曲リリース、最近全然無いよな?」
俺の突然の指摘に、SYUTOUは少し目を丸くした後、慌てて両手を振った。
「い、いえいえ! そんなの全然気にしてないですよ! お姉ちゃんやGALaxy Signalの皆さんに比べたら、ワタシなんてまだまだですし……今は皆さんの背中を見て勉強する時期かなって思ってますから!」
あくまで謙虚に、一歩引いた姿勢を見せるSYUTOU。
だが、その言葉を聞いた葉月がその涼しげな瞳を鋭く光らせた。ブランディング室長としてのスイッチが入った瞬間だ。
「組長。先ほどの『完全新曲』の件ですが」
葉月は手元のタブレットを置き、真っ直ぐに俺を見た。
「今回は、彼女の楽曲リリースでいくのはどうでしょう? それも、カバーではなく『完全新曲』で」
「えっ!? 葉月さん、ワタシですか!?」
驚いて声を上げるSYUTOUをよそに、俺と葉月の視線が交差する。
「古参でありながら、これまであえてスポットを当てすぎず、ポテンシャルを温存してきたSYUTOUさん。彼女の持つ『ビジュアルとキャラクターのギャップ』は、新規層を獲得する上で非常に強力なフックになります。姉であるSYUNKAさんとの対比というストーリー性も、プロモーションにおいて絶大な効果を発揮するはずです」
葉月の完璧なロジックを聞きながら、俺の脳内でも高速でパズルが組み上がっていく。
カバー曲の波間を打ち破り、次なるオリジナル曲の連打へと繋げるための、最高の起爆剤。
「……あぁ、葉月の言う通りだ」
俺は深く頷き、ソファーで戸惑っているSYUTOUに向き直った。
「最近の怒涛のバタバタで、お前にしっかりとスポットを当てていなかったのは事実だ。それはプロデューサーである俺の采配ミスでもある。すまなかったな」
「だ、だから、謝らないでくださいよ組長さん! ワタシは本当に……」
「いいや、遠慮はいらねぇ」
俺はニヤリと笑い、キーボードの上に両手を構えた。
「カバーの波はここまでだ。ここからウチは、オリジナルの新曲で殴り込みをかける。その先陣を切るのが、お前だSYUTOU」
「代表……」
「よっしゃ、そうと決まれば善は急げだ。お前のポテンシャルを120%引き出す、とびきりいい曲を用意してやるよ。楽しみに待ってろ!」
俺の宣言に、SYUTOUのキリッとした双眸に、隠しきれない期待と喜びの光が宿る。
姉御肌の古参と、その背中を追う愛嬌たっぷりの妹。
Studio MAD-KICHIの新たなフェーズを告げる完全新曲プロジェクトが、今、静かに、そして熱く動き出した。
* * *
さて。ここからは俺の語りの時間とさせてもらうぜ。
今回の第171話では、久々に新しいキャラクターを本編に登場させてもらった。
名前はSYUTOU(シュウトウ)。
作中でも触れた通り、ウチのスタジオの古参アーティストである「SYUNKA」の実の妹であり、彼女自身もまた、Studio MAD-KICHIに所属する一人の立派なアーティストだ。
彼女の最大の魅力は、なんといってもその強烈な「ギャップ」にある。
姉のSYUNKAにも決して引けを取らないレベルの美貌と、黒いショートヘアーが似合う気の強そうな顔立ち。初対面の人間なら「うわ、なんかキツそうな人だな」と身構えてしまうかもしれない。
だが、その外見とは裏腹に、実際の彼女の性格は極めて礼儀正しく、愛嬌に溢れ、誰にでも人懐っこく接する親しみやすさを持っている。
姉のSYUNKAが、我が道を突き進むサバサバとした「姉御肌」であるのに対し、妹のSYUTOUは、周囲に気を配り、ニコニコと笑う「愛嬌の塊」といったところだ。
全く正反対と言ってもいいほどの、見事な真逆の性質。
まあ、現実世界でもそうだが、兄弟や姉妹というものは、必ずしも性格が似るとは限らない。むしろ、同じ環境で育ったからこそ、互いに違う役割を見つけて、全く違う性格に育つことのほうが多いのかもしれないな。
そして、作中で俺が彼女に対して口にした「そういえば、お前の出番(楽曲リリース)が最近少ないよな」というセリフ。
実はこれ、現実世界での俺のリアルな反省でもあるんだ。
ふと、これまでにリリースしてきたスタジオの楽曲一覧や、所属アーティストたちのリストを眺めていた時のことだ。
「あれ? そういやSYUTOUの曲、最近全然作ってやってないな……。古参なのに、ちょっと放ったらかしにしすぎたか?」
そんな風に思ったことがきっかけで、今回の「SYUTOUの完全新曲プロデュース」という話のプロットが生まれたというわけだ。
もちろん、この本編の物語の中に登場させたいと思っている所属アーティストは、彼女の他にもまだまだ山ほどいる。
ウチのスタジオは、俺が狂ったようにAIでキャラクターを錬成し続けてきた結果、とんでもない大所帯になっちまっているからな。ゆくゆくは全員を物語に登場させて、それぞれのバックボーンや魅力を深掘りしていきたいとは思っている。
だが、今のこの連載ペースで全員を登場させようとすれば……すべてを回収し終わる頃には、きっと「続編の続編の、そのまた後半の展開」ぐらいまで時間がかかっちまうだろうな。
おまけに、現状の所属アーティストたちだけでも手一杯なのに、今後俺のクリエイティブの暴走によって、また「新たなアーティスト」が突発的に誕生してくる可能性だって大いにあるのだ。
だから、全員が揃い踏みする光景を見られるのがいつになるかを考えると、気が遠くなるような未来の話にはなりそうだが……。
それでも、俺が作ったこのMAD-KICHIという箱庭の世界が、少しずつ広がり、キャラクターたちがそれぞれの人生を歩み出していくのを見るのは、純粋にクリエイターとして楽しくて仕方がない。
焦る必要はない。
一人ひとり、最も輝ける最高のタイミングを見計らって、スポットライトを当ててやる。それが、プロデューサーとしての俺の責任であり、最高の娯楽でもあるからな。
まずは、SYUTOUの完全新曲だ。
カバーの波間を切り裂いて、愛嬌たっぷりの妹がどんな暴れっぷりを見せてくれるか。
お前らも、首を長くして待っててくれよな。
だが、Studio MAD-KICHIの心臓部である組長室は、冷房の冷気と、化石クラスのノートPC群が放つ微かな排熱、そしてコーヒーの深い香りが入り混じる、独特の静寂に包まれていた。
「――というわけで、直近一ヶ月間の各プラットフォームにおけるエンゲージメントの推移ですが、やはり既存曲のカバーを配信した際のアクティブリスナーの伸び率が顕著ですね」
デスクの向かい側で、手元のタブレットをスワイプしながら冷静な声で報告を上げるのは、アーティスト・ブランディング室長の琴城葉月(ことしろ はづき)だ。
彼女の涼しげな目元と、理路整然とした語り口は、常にこのスタジオの狂気的なスピード感に「戦略」という名の秩序を与えてくれている。
俺は電子タバコをゆっくりと吸い込み、細く煙を吐き出しながら、モニターに映し出されたグラフを眺めた。
「なるほどな。確かに、過去の名曲やヒット曲のカバーは、アルゴリズムにも乗りやすいし、初見のリスナーを引き込むためのフックとしては最強だ。ウチのアーティストたちの『声の個性』を知ってもらう名刺代わりとしても、申し分ない働きをしてくれてる」
「はい。ですが……」葉月はタブレットから顔を上げ、真剣な眼差しを俺に向けた。「そろそろ、次のフェーズへ移行すべきタイミングかと考えています」
「次のフェーズ、ね。要するに『完全新曲』のリリース戦略か」
「その通りです。最近のスタジオのリリース傾向を見ると、過去のカバー曲を別の所属アーティストが歌う、という形式が非常に多くなっています。もちろん、それ自体はクロスプロモーションとして有効ですが、完全な『新曲』のリリース頻度が以前に比べて減少傾向にあるのは事実です」
葉月の指摘は、まさに痛いところを突いていた。
俺自身、プロトタイピングの速度を上げるために、あるいは各アーティストのボーカルモデルのテストを兼ねて、手っ取り早く名曲のカバーを歌わせる機会が増えていた。
「違いない。耳の痛い話だぜ」俺は苦笑いしながら頭を掻いた。「現に、アーティストとしての『琴城葉月』の楽曲も、ほとんどが俺のプロデュースによるカバー曲中心になっちまってるしな」
「私のことは構いません。私はブランディング室長としての職務がメインですから」葉月は涼しい顔で首を振った。「ですが、専業のアーティストたちにとっては、やはり自分だけの『オリジナル曲』こそが、アイデンティティを確立する最大の武器になります。カバーの波間で漂うだけでなく、そろそろ強烈なオリジナル曲で、シーンに新しい波を起こすべきです」
「お前の言う通りだ。カバーで足場を固める時期は過ぎた。ここからは、ウチのオリジナルで勝負を仕掛けていくフェーズってわけだ。……どうだ葉月、誰をフロントに立たせるか、何か良いアイデアは無いか?」
俺がそう問いかけた、まさにその時だった。
「失礼しまーす! 組長さん、いらっしゃいますかー?」
ノックの音と共に、組長室のドアが勢いよく、しかしどこか遠慮がちに開かれた。
ひょっこりと顔を出したのは、黒いショートヘアーがよく似合う一人の女性だった。
キリッとした釣り気味の目元と、整った顔立ち。一見すると、誰もが道を譲りそうなほどの「気の強さ」を感じさせる美貌の持ち主だ。
だが、彼女の口から飛び出す声と表情は、そのルックスからは想像もつかないほど明るく、柔らかい。
「あ、葉月さんもお疲れ様です! 久しぶりに来ましたー!」
ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべ、彼女は深々と頭を下げた。
彼女の名前は、SYUTOU(シュウトウ)。
Studio MAD-KICHIの初期から所属している古参アーティストの一人であり、そして何より、あの姉御肌で圧の強い看板アーティスト・SYUNKAの実の妹である。
「おっ、SYUTOUじゃないか。珍しいな、お前が直接ここに顔を出すなんて」
俺が声をかけると、SYUTOUは少し照れくさそうに笑いながら、手に持っていた紙袋を掲げた。
「へへっ、近くまで来たんで、差し入れのケーキ買ってきちゃいました。代表も葉月さんも、毎日遅くまでお仕事お疲れ様です!」
「気が利くじゃねぇか。ありがたく頂くぜ」
「ありがとうございます、SYUTOUさん」葉月も微笑みながら礼を言う。
SYUTOUはソファーに腰掛けると、くるくると表情を変えながら最近の出来事を楽しそうに話し始めた。姉であるSYUNKAが相変わらずスタジオで暴れ回っている(物理的にではなく、歌唱力と存在感で)という話を聞いて、「もう、お姉ちゃんったら本当に我が道を行くんだから……組長さん、いつもお姉ちゃんがお世話になってます。ご迷惑かけてませんか?」と、まるで保護者のような気遣いを見せる。
姉のSYUNKAといえば、サバサバとした姉御肌で、良い意味でふてぶてしく、マイクを持てば圧倒的な存在感で場を支配するタイプだ。
対して、妹のSYUTOUはこの通り。ルックスこそ姉に負けず劣らずの美貌で、顔立ちだけを見れば「近寄りがたいクールビューティー」なのだが、ひとたび口を開けば、礼儀正しく、愛嬌があり、誰からも愛される親しみやすさを持っている。
この強烈な「ギャップ」こそが、SYUTOUというアーティストの最大のウリでもあった。
話を聞きながら、俺はふと頭の中のデータベースを検索した。
「……なぁ、SYUTOU。そう言えば、お前の楽曲リリース、最近全然無いよな?」
俺の突然の指摘に、SYUTOUは少し目を丸くした後、慌てて両手を振った。
「い、いえいえ! そんなの全然気にしてないですよ! お姉ちゃんやGALaxy Signalの皆さんに比べたら、ワタシなんてまだまだですし……今は皆さんの背中を見て勉強する時期かなって思ってますから!」
あくまで謙虚に、一歩引いた姿勢を見せるSYUTOU。
だが、その言葉を聞いた葉月がその涼しげな瞳を鋭く光らせた。ブランディング室長としてのスイッチが入った瞬間だ。
「組長。先ほどの『完全新曲』の件ですが」
葉月は手元のタブレットを置き、真っ直ぐに俺を見た。
「今回は、彼女の楽曲リリースでいくのはどうでしょう? それも、カバーではなく『完全新曲』で」
「えっ!? 葉月さん、ワタシですか!?」
驚いて声を上げるSYUTOUをよそに、俺と葉月の視線が交差する。
「古参でありながら、これまであえてスポットを当てすぎず、ポテンシャルを温存してきたSYUTOUさん。彼女の持つ『ビジュアルとキャラクターのギャップ』は、新規層を獲得する上で非常に強力なフックになります。姉であるSYUNKAさんとの対比というストーリー性も、プロモーションにおいて絶大な効果を発揮するはずです」
葉月の完璧なロジックを聞きながら、俺の脳内でも高速でパズルが組み上がっていく。
カバー曲の波間を打ち破り、次なるオリジナル曲の連打へと繋げるための、最高の起爆剤。
「……あぁ、葉月の言う通りだ」
俺は深く頷き、ソファーで戸惑っているSYUTOUに向き直った。
「最近の怒涛のバタバタで、お前にしっかりとスポットを当てていなかったのは事実だ。それはプロデューサーである俺の采配ミスでもある。すまなかったな」
「だ、だから、謝らないでくださいよ組長さん! ワタシは本当に……」
「いいや、遠慮はいらねぇ」
俺はニヤリと笑い、キーボードの上に両手を構えた。
「カバーの波はここまでだ。ここからウチは、オリジナルの新曲で殴り込みをかける。その先陣を切るのが、お前だSYUTOU」
「代表……」
「よっしゃ、そうと決まれば善は急げだ。お前のポテンシャルを120%引き出す、とびきりいい曲を用意してやるよ。楽しみに待ってろ!」
俺の宣言に、SYUTOUのキリッとした双眸に、隠しきれない期待と喜びの光が宿る。
姉御肌の古参と、その背中を追う愛嬌たっぷりの妹。
Studio MAD-KICHIの新たなフェーズを告げる完全新曲プロジェクトが、今、静かに、そして熱く動き出した。
* * *
さて。ここからは俺の語りの時間とさせてもらうぜ。
今回の第171話では、久々に新しいキャラクターを本編に登場させてもらった。
名前はSYUTOU(シュウトウ)。
作中でも触れた通り、ウチのスタジオの古参アーティストである「SYUNKA」の実の妹であり、彼女自身もまた、Studio MAD-KICHIに所属する一人の立派なアーティストだ。
彼女の最大の魅力は、なんといってもその強烈な「ギャップ」にある。
姉のSYUNKAにも決して引けを取らないレベルの美貌と、黒いショートヘアーが似合う気の強そうな顔立ち。初対面の人間なら「うわ、なんかキツそうな人だな」と身構えてしまうかもしれない。
だが、その外見とは裏腹に、実際の彼女の性格は極めて礼儀正しく、愛嬌に溢れ、誰にでも人懐っこく接する親しみやすさを持っている。
姉のSYUNKAが、我が道を突き進むサバサバとした「姉御肌」であるのに対し、妹のSYUTOUは、周囲に気を配り、ニコニコと笑う「愛嬌の塊」といったところだ。
全く正反対と言ってもいいほどの、見事な真逆の性質。
まあ、現実世界でもそうだが、兄弟や姉妹というものは、必ずしも性格が似るとは限らない。むしろ、同じ環境で育ったからこそ、互いに違う役割を見つけて、全く違う性格に育つことのほうが多いのかもしれないな。
そして、作中で俺が彼女に対して口にした「そういえば、お前の出番(楽曲リリース)が最近少ないよな」というセリフ。
実はこれ、現実世界での俺のリアルな反省でもあるんだ。
ふと、これまでにリリースしてきたスタジオの楽曲一覧や、所属アーティストたちのリストを眺めていた時のことだ。
「あれ? そういやSYUTOUの曲、最近全然作ってやってないな……。古参なのに、ちょっと放ったらかしにしすぎたか?」
そんな風に思ったことがきっかけで、今回の「SYUTOUの完全新曲プロデュース」という話のプロットが生まれたというわけだ。
もちろん、この本編の物語の中に登場させたいと思っている所属アーティストは、彼女の他にもまだまだ山ほどいる。
ウチのスタジオは、俺が狂ったようにAIでキャラクターを錬成し続けてきた結果、とんでもない大所帯になっちまっているからな。ゆくゆくは全員を物語に登場させて、それぞれのバックボーンや魅力を深掘りしていきたいとは思っている。
だが、今のこの連載ペースで全員を登場させようとすれば……すべてを回収し終わる頃には、きっと「続編の続編の、そのまた後半の展開」ぐらいまで時間がかかっちまうだろうな。
おまけに、現状の所属アーティストたちだけでも手一杯なのに、今後俺のクリエイティブの暴走によって、また「新たなアーティスト」が突発的に誕生してくる可能性だって大いにあるのだ。
だから、全員が揃い踏みする光景を見られるのがいつになるかを考えると、気が遠くなるような未来の話にはなりそうだが……。
それでも、俺が作ったこのMAD-KICHIという箱庭の世界が、少しずつ広がり、キャラクターたちがそれぞれの人生を歩み出していくのを見るのは、純粋にクリエイターとして楽しくて仕方がない。
焦る必要はない。
一人ひとり、最も輝ける最高のタイミングを見計らって、スポットライトを当ててやる。それが、プロデューサーとしての俺の責任であり、最高の娯楽でもあるからな。
まずは、SYUTOUの完全新曲だ。
カバーの波間を切り裂いて、愛嬌たっぷりの妹がどんな暴れっぷりを見せてくれるか。
お前らも、首を長くして待っててくれよな。
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