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第3章:混沌編(Studio MAD-KICHI 誕生)
第14話:ネットとリアルの総力戦
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事務所の自動ドアが開くたびに、受付から困惑したような声が上がる。
「あの……課長を訪ねて、また『組長ルート』のお客様が見えておりますが」
最近、俺の勤める会社には、明らかに堅気のビジネスマンとは毛色の違う連中が出入りするようになっていた。ある時は、首までタトゥーが入っているのかと思いきや、実はただの「おじぃ」の知り合いの彫り師だったり。またある時は、脱サラして「Studio MAD-KICHI」の影のプロデューサー気取りの森山が、不敵な笑みを浮かべて役員室を覗き込んでいたり。
配信『たってやる。』のリスナーたちが、俺という実在の「会社員」をハブにして、現実のビジネスシーンに侵食し始めたのだ。これはもはや、趣味の延長ではない。ネットとリアルの境界線が消滅し、互いが互いを食い合う「総力戦」の様相を呈していた。
「おい、営業部の連中。お前ら、そこに座って俺のやり方を見てろ。名刺を配るだけが営業だと思ってるなら、今すぐその紙切れをシュレッダーにかけてこい」
俺は、商談スペースで待ち構える「新規顧客(という名のリスナー)」との対面に、営業部の若手たちを同行させた。彼らは、俺がどうやって初対面の相手の懐に飛び込むのかを、その目に焼き付ける必要があった。
俺には、初めて会う人間と一瞬で仲良くなる黄金律がある。
それは、「共通点を無理矢理にでも見つける」ことだ。
地元が同じ、趣味が同じ。そんなものは初級編だ。俺の場合、共通点がなければ捏造に近いレベルで手繰り寄せる。
「……お宅の会社、本社は岡山か。俺のお袋の兄の嫁さんの実家の定食屋がな、お宅の創業者の叔母さんと同級生だったって話だぜ」
「えっ、あそこの定食屋、ご存知なんですか!? あの店のカツ丼は地元の誇りですよ!」
一気に相手の顔が綻ぶ。共通点を見つけた者同士は、本能的に「味方」だと認識し、距離が縮まる。親の田舎の近所だろうが、遠い親戚の知り合いだろうが、こじつければそれは「運命」に変わるのだ。そこを突いて、一気に本題(名刺交換と契約)へと繋げる。
「なあ、おかしいだろ? 俺は営業職でもなんでもない、ただの課長だ。それなのに、営業部のどの人間よりも、こうして足で稼いだ縁を契約に変えている。お前ら、今まで何を見て仕事してたんだ?」
営業部の若手たちがノートに必死でメモを取る。人事部長の渡辺は、俺が連れてくる「癖の強すぎる客」の顔ぶれに、最初は顔を青くしていた。だが、その連中が持ってくる契約金の額が跳ね上がるにつれ、何も言えなくなった。会社にとって、俺は「切りたくても切れない、最大の利益源」という毒になっていたのだ。
そして商談の締めくくりは、いつもの「ダル絡みの儀式」だ。
もちろん、時と場所は選ぶ。相手が真剣な話をしている時に茶々を入れるような無粋な真似はしない。だが、商談が成立し、緊張が解けたその瞬間。俺のダル絡みスイッチが入る。
「……で、社長。そのネクタイの色、昨夜の俺の配信で言った『一緒に居ると逃げ出したくなるハゲ』の色にそっくりですね。わざわざ寄せてきてくれたんですか?」
「ははは! 組長、相変わらずエグいこと言いますね。じゃあ俺からもお返しです。組長のそのお腹、マカの飲み過ぎで『朝立ち』が止まらなくなった結果、膨らんでるんじゃないですか?」
相手からの鋭い「ダル絡み返し」。
これだ。この瞬間、俺と相手の間に、契約書以上の「信頼」が結ばれる。
俺には持論がある。ダル絡みのラリーを笑いながら続けてくれる人間こそが、ビジネスにおいても人生においても、一番信頼できるパートナーだ。言葉の表面的な綺麗さに固執せず、泥仕合のようなジョークの応酬を楽しめる余裕。それこそが、本物の「根性」がある証拠だからだ。
「森山、おじぃ。見てたか。これが『Studio MAD-KICHI・ビジネス部門』のやり方だ」
夕暮れ時のオフィス。俺は、いつの間にか社員のように馴染んでいる森山と、モニター越しに参加しているおじぃに語りかけた。
公式プロジェクトとして進んでいた新規事業に、森山が持ち込んだネット広告の知見と、おじぃが広げたニッチな人脈が絡み合い、もはやどこまでが会社の事業で、どこからが組長の配信ネタなのか、判別がつかない混沌状態に陥っていた。
上層部は頭を抱えているが、結果が出る以上、俺を排除することはできない。
会社員という立場を利用して、ネットの狂気を現実に具現化する。
ネットのリスナーを、現実のクライアントに変え、オフィス全体を一つの巨大な配信スタジオへと変質させていく。
「……おかしいよな。俺のやりたい放題が、会社の利益になるんだから」
俺は「キチガイミックス」の残量を確かめ、不敵に笑った。
営業部でもない人間が、誰よりも営業する。
コンプラに怯える連中を尻目に、ダル絡みのラリーで巨万の富を引き寄せる。
これが、マジキチ組長が提唱する「新時代の働き方」だ。
「いいか、お前ら。共通点を見つけろ。そして、相手がドン引きするまでダル絡みを続けろ。そこで笑い合えた奴だけが、俺たちの『共犯者』だ!」
俺の咆哮に、今や「MAD-KICHIチルドレン」となった営業部の若手たちが、拳を突き上げて応えた。
境界線のない戦場。そこでは、組長の言葉が唯一の法律だった。
「あの……課長を訪ねて、また『組長ルート』のお客様が見えておりますが」
最近、俺の勤める会社には、明らかに堅気のビジネスマンとは毛色の違う連中が出入りするようになっていた。ある時は、首までタトゥーが入っているのかと思いきや、実はただの「おじぃ」の知り合いの彫り師だったり。またある時は、脱サラして「Studio MAD-KICHI」の影のプロデューサー気取りの森山が、不敵な笑みを浮かべて役員室を覗き込んでいたり。
配信『たってやる。』のリスナーたちが、俺という実在の「会社員」をハブにして、現実のビジネスシーンに侵食し始めたのだ。これはもはや、趣味の延長ではない。ネットとリアルの境界線が消滅し、互いが互いを食い合う「総力戦」の様相を呈していた。
「おい、営業部の連中。お前ら、そこに座って俺のやり方を見てろ。名刺を配るだけが営業だと思ってるなら、今すぐその紙切れをシュレッダーにかけてこい」
俺は、商談スペースで待ち構える「新規顧客(という名のリスナー)」との対面に、営業部の若手たちを同行させた。彼らは、俺がどうやって初対面の相手の懐に飛び込むのかを、その目に焼き付ける必要があった。
俺には、初めて会う人間と一瞬で仲良くなる黄金律がある。
それは、「共通点を無理矢理にでも見つける」ことだ。
地元が同じ、趣味が同じ。そんなものは初級編だ。俺の場合、共通点がなければ捏造に近いレベルで手繰り寄せる。
「……お宅の会社、本社は岡山か。俺のお袋の兄の嫁さんの実家の定食屋がな、お宅の創業者の叔母さんと同級生だったって話だぜ」
「えっ、あそこの定食屋、ご存知なんですか!? あの店のカツ丼は地元の誇りですよ!」
一気に相手の顔が綻ぶ。共通点を見つけた者同士は、本能的に「味方」だと認識し、距離が縮まる。親の田舎の近所だろうが、遠い親戚の知り合いだろうが、こじつければそれは「運命」に変わるのだ。そこを突いて、一気に本題(名刺交換と契約)へと繋げる。
「なあ、おかしいだろ? 俺は営業職でもなんでもない、ただの課長だ。それなのに、営業部のどの人間よりも、こうして足で稼いだ縁を契約に変えている。お前ら、今まで何を見て仕事してたんだ?」
営業部の若手たちがノートに必死でメモを取る。人事部長の渡辺は、俺が連れてくる「癖の強すぎる客」の顔ぶれに、最初は顔を青くしていた。だが、その連中が持ってくる契約金の額が跳ね上がるにつれ、何も言えなくなった。会社にとって、俺は「切りたくても切れない、最大の利益源」という毒になっていたのだ。
そして商談の締めくくりは、いつもの「ダル絡みの儀式」だ。
もちろん、時と場所は選ぶ。相手が真剣な話をしている時に茶々を入れるような無粋な真似はしない。だが、商談が成立し、緊張が解けたその瞬間。俺のダル絡みスイッチが入る。
「……で、社長。そのネクタイの色、昨夜の俺の配信で言った『一緒に居ると逃げ出したくなるハゲ』の色にそっくりですね。わざわざ寄せてきてくれたんですか?」
「ははは! 組長、相変わらずエグいこと言いますね。じゃあ俺からもお返しです。組長のそのお腹、マカの飲み過ぎで『朝立ち』が止まらなくなった結果、膨らんでるんじゃないですか?」
相手からの鋭い「ダル絡み返し」。
これだ。この瞬間、俺と相手の間に、契約書以上の「信頼」が結ばれる。
俺には持論がある。ダル絡みのラリーを笑いながら続けてくれる人間こそが、ビジネスにおいても人生においても、一番信頼できるパートナーだ。言葉の表面的な綺麗さに固執せず、泥仕合のようなジョークの応酬を楽しめる余裕。それこそが、本物の「根性」がある証拠だからだ。
「森山、おじぃ。見てたか。これが『Studio MAD-KICHI・ビジネス部門』のやり方だ」
夕暮れ時のオフィス。俺は、いつの間にか社員のように馴染んでいる森山と、モニター越しに参加しているおじぃに語りかけた。
公式プロジェクトとして進んでいた新規事業に、森山が持ち込んだネット広告の知見と、おじぃが広げたニッチな人脈が絡み合い、もはやどこまでが会社の事業で、どこからが組長の配信ネタなのか、判別がつかない混沌状態に陥っていた。
上層部は頭を抱えているが、結果が出る以上、俺を排除することはできない。
会社員という立場を利用して、ネットの狂気を現実に具現化する。
ネットのリスナーを、現実のクライアントに変え、オフィス全体を一つの巨大な配信スタジオへと変質させていく。
「……おかしいよな。俺のやりたい放題が、会社の利益になるんだから」
俺は「キチガイミックス」の残量を確かめ、不敵に笑った。
営業部でもない人間が、誰よりも営業する。
コンプラに怯える連中を尻目に、ダル絡みのラリーで巨万の富を引き寄せる。
これが、マジキチ組長が提唱する「新時代の働き方」だ。
「いいか、お前ら。共通点を見つけろ。そして、相手がドン引きするまでダル絡みを続けろ。そこで笑い合えた奴だけが、俺たちの『共犯者』だ!」
俺の咆哮に、今や「MAD-KICHIチルドレン」となった営業部の若手たちが、拳を突き上げて応えた。
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