マジキチ組長一代記 ~半分は狂気、半分は真実~

マジキチ組長

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第3章:混沌編(Studio MAD-KICHI 誕生)

第15話:マジキチ組長一代記:第一幕完(境界線なき独白)

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 夜の事務所は、静まり返っているようでいて、実は無数の電子の鼓動が脈打っている。
 俺は今、会社の広報用放送ブースに座っている。本来なら「今期の業績」や「コンプライアンスの遵守」を社内にアナウンスするためのこの場所を、俺は今夜、全世界への配信拠点、すなわち『Studio MAD-KICHI』の本営として占拠していた。

 スマホの画面越しに、おじぃや森山、そして数千人のリスナーたちが固唾を飲んで待っている。俺がこれから行うのは、社内広報と自身の配信『たってやる。』を完全にミックスした、前代未聞の「魂の放送」だ。

「よお、お前ら。そして、どこかで隠れて聴いている社内の臆病なネズミども。……今夜も、ありのままの真実を語ってやる。覚悟はいいか?」

 俺の配信のモットーは、いつだって「ありのまま」だ。世の中の人間が、体面や羞恥心という名の下に隠したがるドブのような真実を、俺は白日の下に晒す。それが『Studio MAD-KICHI』の流儀だからだ。

「最近、俺の体に起きた悲劇から話そう。風呂場でな……あろうことか排泄物を漏らしたんだ。だが、俺は動じない。シャワーの最大水圧でそいつを粉々に砕き、排水溝へと葬り去ってやった。粘度はちょうど、某カレーショップのカレーソースレベルだったから、実にあっさりと流れていったよ。仕上げにバスマジックリンで香り付けをすれば、そこはもう聖域だ。……汚いか? 笑わせるな。これが、生きるということの、最も生々しい断面だろうが!」

 コメント欄が爆速で流れる。ドン引きする者、爆笑する者。だが俺は、さらにアクセルを踏み込む。この「恥」を捨て去る姿勢こそが、組織に縛られた人間たちには決して真似できない、自由の証なのだ。

「そんな俺だが、キチガイミックスのおかげで、性欲だけは二十代の若造にも負けん。先日も中国エステに突入したんだが、出てきたのはベトナム人の女性だった。ベトナム語なんて一言もわからん。だが、俺たちにはスマホという武器がある。画面越しに意思疎通をしながらプレイする。これこそが現代のリアルな国際交流だ」

 俺は、放送ブースのマイクを握りしめ、熱を込めて語り続ける。

「一回戦が終わっても、俺の猛り狂うリンゴは収まらん。第二ラウンドをお願いすると、彼女がスマホの翻訳機を俺に見せてきた。そこには『もう一回欲しいですか?』という無機質な文字。俺が力強く『はい』と答えると、返ってきたのは『2,000円』という無慈悲な見積もりだった」

 俺の財布には、あいにく千円札一枚しかなかった。だが、ここで引き下がるのは男がすたる。俺は、そのベトナム人女性の目をじっと見つめ、真剣な表情で、心を込めて彼女を褒めちぎった。

「いいか、女性を褒める時に恥ずかしがるな。恥ずかしがりながら褒めるのは、ただのキモい、痛い奴だ。そんな中途半端な真似をするくらいなら、一生黙ってろ。俺は彼女が本当にタイプだったから、自然と、しかし魂を込めて伝えたんだ。『お前のその瞳は、ハノイの星空よりも美しい。その指先には、マカをも凌駕する癒やしがある』と。真剣に褒められて、嬉しくない女性はいない。……結果、彼女はニッコリ笑って、千円で承諾してくれたよ」

 これが、俺の言う「コミュニケーション」だ。
 共通点を見つけ、恥を捨て、相手の懐に飛び込む。それは営業でも、夜の店でも、そしてこの腐りきった会社組織の中でも同じだ。

「渡辺部長、聴いてるか? お前らが会議室でこねくり回している綺麗事よりも、俺がエステでベトナム人女性と交わした千円の交渉の方が、よっぽど本質的な経済活動なんだよ! 組織の中にありながら、誰よりも自由で、誰よりも欲望に忠実な男。それが俺だ!」

 俺の声は、社内の全スピーカーを伝って、誰もいない会議室や、重役たちの個室にも響き渡っていたはずだ。これは、マジキチ組長による、既存の社会システムへの「宣戦布告」だった。

 会社員として、有能に利益を上げ続ける。
 表現者として、排泄も下ネタも隠さず晒し続ける。
 この二面性こそが、俺という人間を唯一無二の「組長」へと昇華させる。

「やりたい放題。……そう、これが俺の一代記、第一幕の終わりだ。だがな、お前ら。これはまだ序章に過ぎない。俺の狂気は、これからもっと広がり、世界を、この会社を、そしてお前らの退屈な日常を、さらにエグく、シュールに塗り替えていくからな!」

 俺は配信を終了し、放送ブースのメインスイッチを切った。
 静寂が戻った。だが、俺の心臓はキチガイミックスの脈動で、かつてないほど激しく打ち鳴らされている。

 事務所の外へ出ると、夜風が火照った顔に心地よい。
 明日も、俺はスーツを着てここに来るだろう。そして、誰よりも早く覚醒し、リンゴの硬さを誇る生命力を持って、また「たってやる。」と呟くのだ。

「……おじぃ、森山。見てろよ。第二幕は、もっと酷いぞ」

 俺は、誰もいない夜の路上で、月に向かって高らかに笑い声を上げた。
 境界線はもうない。
 俺が歩く八キロの道こそが、この世界の真実のランウェイなのだ。
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