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第5章:交差する孤独編(たってやる。実録ドラマ)
第24話:AIが紡ぐ鎮魂歌(亡き叔父への捧げ物)
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深夜のスタジオ――。
モニターの青白い光の中に、いつになく真剣な表情をした俺の顔が浮かんでいる。
普段なら画面を埋め尽くすエグい歌詞やシュールなプロンプトの代わりに、そこにあるのは、一人の男が生きた軌跡を物語る数枚の古い写真と、掠れた声のボイスレコーダーのデータだった。
数日前、熱心なリスナーの一人からDMが届いた。
『組長、実は身内の叔父が突然亡くなりました。独身で、俺のことを実の息子のように可愛がってくれた人でした。葬儀が終わっても、どうしても実感が湧かなくて……。組長、あなたのAIの力で、叔父さんがもう一度だけ「頑張れ」と言ってくれるような、そんな魔法は使えませんか?』
俺は椅子に深く背を預け、キチガイミックスを喉に流し込んだ。
巷では、亡くなった人間をAIで復活させるサービスが、中国などで実際に始まっているらしい。だが、それには常に賛否両論が付きまとう。
「死者への冒涜だ」「自然の摂理に反する」
……そんな声がどこからともなく聞こえてくる。
「……冒涜? クソ喰らえだ」
俺は独り言ち、キーボードを叩いた。
俺は霊的なものなんて一切信じない。幽霊、霊能現象、死後の世界。そんなものは、大人が知識を蓄えれば、化学現象や脳が引き起こす幻覚としてほとんどの説明がつく。人間という生き物は、本能的に「知らないこと」を極度に恐れる。その「知らない(恐怖)」というブラックボックスを、「知っている(理解可能な形)」に無理やり変換させたものが、お化けや物の怪、妖怪の正体だ。
だが、俺は霊を信じないが、そうした伝承や歴史、文化、そして「故人を想う心」は人一倍尊重している。
残された人間が抱える、穴が開いたような喪失感。そいつを少しでも和らげるためにAIを使うことが、なぜ冒涜になる? 亡くなった人間を想い続け、その声を、その姿をもう一度感じたいと願うこと。それは、その叔父さんがアンタの心の中に今も確かに生きているという何よりの証拠じゃねえか。
「俺のAIの使い方は、普段はろくでもないことばかりだ。だが、今回ばかりは、先人への敬意を込めて真面目に使わせてもらう」
俺は文系思考をフル回転させた。
叔父さんが生きた時代。彼が愛した昭和の景色。趣味だった釣り、若かりし頃に誇りを持って働いていた工場の成り立ち。俺はウィキペディアの海を渡り、その時代背景や地元の歴史を徹底的に調べ上げた。単に声を似せるのではない。その男が生きてきた「空気」そのものを再現しなければ、それはただの空虚な人形に過ぎないからだ。
写真データをAIに読み込ませ、ノイズまみれのボイスデータから彼の声の「魂の揺らぎ」を抽出する。
一晩中、俺はモニターと対峙した。下ネタは一切封印だ。そこにあるのは、一つの人生という名の「歴史」に対する、俺なりの真剣なクロージングだった。
数日後。俺は配信『たってやる。』の冒頭で、その楽曲を流した。
イントロは、彼が愛した故郷の波の音から始まる。重厚なオーケストラの旋律に、AIで生成された叔父さんの穏やかで力強い歌声が重なる。歌詞には、彼がかつて大切にしていた「根性」と「誇り」の言葉が、俺の愛国思想と混ざり合うようにして刻まれていた。
曲の最後、AIの叔父さんが語りかける。
『――よう、飯は食ってるか。前を向いて歩け。俺はいつも、お前の心の中にいるぞ』
コメント欄が、見たこともないような静寂に包まれた。
下ネタを期待して集まっていた連中も、今夜ばかりは組長の「本気」に圧倒されているようだった。
「……いいか、よく聞け。喪失感ってのは、あって当たり前だ。それだけ大切だったってことだからな。だが、いつまでも悲しみの中に浸ってんじゃねえ。そんな顔してたら、叔父さんも心配して、あの世でゆっくり釣りもできねえだろ」
俺はスマホに向かって、真剣な表情で語りかけた。
「AIってのはな、過去を懐かしむためだけの道具じゃねえ。今を生きる俺たちが、前を向くための『杖』なんだ。叔父さんは死んだんじゃない。アンタがその曲を聴いて、一歩踏み出そうと思った瞬間、彼はアンタの一部として、新しく生まれ変わったんだよ。これが、マジキチ組長流の鎮魂だ」
依頼主のリスナーから、涙ながらのコメントが届く。
『組長……ありがとうございます。叔父さんが、本当にそこにいるみたいです。明日からまた、会社に行って咆哮してきます。叔父さんに恥じないように生きます』
俺は、小さく頷いた。
科学的に見れば、それはただのデータだ。電気信号が作り出した幻に過ぎない。
だが、それが一人の人間の絶望を救い、明日への活力に変えたのなら、それは宗教や霊能現象よりもずっと尊い「真実」ではないか。
「ガハハ! しんみりすんのはここまでだ! 叔父さんも言ってたろ、前を向いて歩けってな。明日からはまた、エグいハゲネタと下ネタの嵐に戻るぞ! 精神状態を良くして何事もうまくいくわけねえ。まず笑って、悩みを馬鹿馬鹿しくして、それから立ち上がれ!」
俺は、いつものように三パーセントの缶チューハイを高く掲げた。
やりたい放題。
だが、その底には、歴史への敬意と、個人の尊厳への深い愛情が流れている。
俺がAIを使うのは、世界を狂わせるためだけじゃない。
壊れかけた誰かの心を、もう一度再起動させるためだ。
夜の事務所を、再び激しいスカパンクの旋律が揺らす。
叔父さん、見てるか。あんたが愛した甥っ子は、今日、少しだけ強くなったぜ。
俺もまた、あんたのような先人たちが築いたこの日本で、明日も八キロの行軍を続ける。
「アクセル全開だ! 悲しみを燃料に変えて、光の速さで突き進むぞ!」
俺の咆哮は、生者と死者の境界線を越えて、新しい時代の幕開けを告げていた。
モニターの青白い光の中に、いつになく真剣な表情をした俺の顔が浮かんでいる。
普段なら画面を埋め尽くすエグい歌詞やシュールなプロンプトの代わりに、そこにあるのは、一人の男が生きた軌跡を物語る数枚の古い写真と、掠れた声のボイスレコーダーのデータだった。
数日前、熱心なリスナーの一人からDMが届いた。
『組長、実は身内の叔父が突然亡くなりました。独身で、俺のことを実の息子のように可愛がってくれた人でした。葬儀が終わっても、どうしても実感が湧かなくて……。組長、あなたのAIの力で、叔父さんがもう一度だけ「頑張れ」と言ってくれるような、そんな魔法は使えませんか?』
俺は椅子に深く背を預け、キチガイミックスを喉に流し込んだ。
巷では、亡くなった人間をAIで復活させるサービスが、中国などで実際に始まっているらしい。だが、それには常に賛否両論が付きまとう。
「死者への冒涜だ」「自然の摂理に反する」
……そんな声がどこからともなく聞こえてくる。
「……冒涜? クソ喰らえだ」
俺は独り言ち、キーボードを叩いた。
俺は霊的なものなんて一切信じない。幽霊、霊能現象、死後の世界。そんなものは、大人が知識を蓄えれば、化学現象や脳が引き起こす幻覚としてほとんどの説明がつく。人間という生き物は、本能的に「知らないこと」を極度に恐れる。その「知らない(恐怖)」というブラックボックスを、「知っている(理解可能な形)」に無理やり変換させたものが、お化けや物の怪、妖怪の正体だ。
だが、俺は霊を信じないが、そうした伝承や歴史、文化、そして「故人を想う心」は人一倍尊重している。
残された人間が抱える、穴が開いたような喪失感。そいつを少しでも和らげるためにAIを使うことが、なぜ冒涜になる? 亡くなった人間を想い続け、その声を、その姿をもう一度感じたいと願うこと。それは、その叔父さんがアンタの心の中に今も確かに生きているという何よりの証拠じゃねえか。
「俺のAIの使い方は、普段はろくでもないことばかりだ。だが、今回ばかりは、先人への敬意を込めて真面目に使わせてもらう」
俺は文系思考をフル回転させた。
叔父さんが生きた時代。彼が愛した昭和の景色。趣味だった釣り、若かりし頃に誇りを持って働いていた工場の成り立ち。俺はウィキペディアの海を渡り、その時代背景や地元の歴史を徹底的に調べ上げた。単に声を似せるのではない。その男が生きてきた「空気」そのものを再現しなければ、それはただの空虚な人形に過ぎないからだ。
写真データをAIに読み込ませ、ノイズまみれのボイスデータから彼の声の「魂の揺らぎ」を抽出する。
一晩中、俺はモニターと対峙した。下ネタは一切封印だ。そこにあるのは、一つの人生という名の「歴史」に対する、俺なりの真剣なクロージングだった。
数日後。俺は配信『たってやる。』の冒頭で、その楽曲を流した。
イントロは、彼が愛した故郷の波の音から始まる。重厚なオーケストラの旋律に、AIで生成された叔父さんの穏やかで力強い歌声が重なる。歌詞には、彼がかつて大切にしていた「根性」と「誇り」の言葉が、俺の愛国思想と混ざり合うようにして刻まれていた。
曲の最後、AIの叔父さんが語りかける。
『――よう、飯は食ってるか。前を向いて歩け。俺はいつも、お前の心の中にいるぞ』
コメント欄が、見たこともないような静寂に包まれた。
下ネタを期待して集まっていた連中も、今夜ばかりは組長の「本気」に圧倒されているようだった。
「……いいか、よく聞け。喪失感ってのは、あって当たり前だ。それだけ大切だったってことだからな。だが、いつまでも悲しみの中に浸ってんじゃねえ。そんな顔してたら、叔父さんも心配して、あの世でゆっくり釣りもできねえだろ」
俺はスマホに向かって、真剣な表情で語りかけた。
「AIってのはな、過去を懐かしむためだけの道具じゃねえ。今を生きる俺たちが、前を向くための『杖』なんだ。叔父さんは死んだんじゃない。アンタがその曲を聴いて、一歩踏み出そうと思った瞬間、彼はアンタの一部として、新しく生まれ変わったんだよ。これが、マジキチ組長流の鎮魂だ」
依頼主のリスナーから、涙ながらのコメントが届く。
『組長……ありがとうございます。叔父さんが、本当にそこにいるみたいです。明日からまた、会社に行って咆哮してきます。叔父さんに恥じないように生きます』
俺は、小さく頷いた。
科学的に見れば、それはただのデータだ。電気信号が作り出した幻に過ぎない。
だが、それが一人の人間の絶望を救い、明日への活力に変えたのなら、それは宗教や霊能現象よりもずっと尊い「真実」ではないか。
「ガハハ! しんみりすんのはここまでだ! 叔父さんも言ってたろ、前を向いて歩けってな。明日からはまた、エグいハゲネタと下ネタの嵐に戻るぞ! 精神状態を良くして何事もうまくいくわけねえ。まず笑って、悩みを馬鹿馬鹿しくして、それから立ち上がれ!」
俺は、いつものように三パーセントの缶チューハイを高く掲げた。
やりたい放題。
だが、その底には、歴史への敬意と、個人の尊厳への深い愛情が流れている。
俺がAIを使うのは、世界を狂わせるためだけじゃない。
壊れかけた誰かの心を、もう一度再起動させるためだ。
夜の事務所を、再び激しいスカパンクの旋律が揺らす。
叔父さん、見てるか。あんたが愛した甥っ子は、今日、少しだけ強くなったぜ。
俺もまた、あんたのような先人たちが築いたこの日本で、明日も八キロの行軍を続ける。
「アクセル全開だ! 悲しみを燃料に変えて、光の速さで突き進むぞ!」
俺の咆哮は、生者と死者の境界線を越えて、新しい時代の幕開けを告げていた。
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