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第9章:暴走する電波の聖域(デジタル・フロンティア編)
第42話:バズりの落とし穴(ショート動画の罠)
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それは、本当に些細な、俺にとっては呼吸をするのと同じくらい当たり前の日常から始まった。
俺の日課。それは「股間に細長いものを当てて写真を撮る」ことだ。
基本は納豆巻きだ。あの絶妙な太さ、長さ、そして手に持った時の重量感が、俺の股間の豆タンクと奇跡的な親和性を見せる。だが、納豆巻きがない日もある。そんな時は、コンビニのソーセージパンだ。あるいは、飲みかけの500mlペットボトルだ。
とにかく、俺は「細長いもの」を見つけると、本能的にそれを股間にあてがい、スマホのシャッターを切る。そして、そのシュール極まりない画像を、運営しているオープンチャットに投下する。
『今日の俺のイチモツだ。拝め』
毎日のように繰り返されるこの儀式。リスナーたちも最初は困惑していたが、今では「これを見ないと一日が始まらない」と洗脳……いや、習慣化されている。
その日も、俺は納豆巻きを股間にセットし、完璧な角度で撮影した一枚をSNSにアップした。
タイトルは『納豆珍棒』。
いつも通り、数百の「いいね」がつけば上出来だと思っていた。
だが、ネットの神様(あるいは悪魔)は気まぐれだ。どういうわけか、その画像が海外のショート動画の素材として転載され、謎の音源と組み合わされた結果、一晩で数百万回再生という異常事態を引き起こしたのだ。
「……バズった、だと?」
翌日、俺のDMには英語、中国語、アラビア語、そして怪しい日本語のメッセージが殺到していた。
その中に、一通、やけに丁寧な日本語で書かれたスカウトメールがあった。
『はじめまして。株式会社ネクスト・バズ・クリエイションの佐々木と申します。貴殿の圧倒的なビジュアルとコンテンツ力に感銘を受けました。ぜひ、弊社専属のインフルエンサーとして契約しませんか? 貴殿なら、月収七桁も夢ではありません』
月収七桁。普通の人間なら目がくらむ数字だ。
だが、俺は鼻を鳴らした。
「面白い。この豆タンクをどう料理するつもりか、話だけは聞いてやろうじゃねえか」
週末、俺は指定された市内の洒落たカフェに向かった。
現れたのは、佐々木と名乗る二十代後半の男と、その部下らしき二人の若者。全員がハイブランドの服に身を包み、スマホを片時も離さない、典型的な「業界人」だ。
対する俺は、いつもの量販店のシャツに、短髪、そして眼光鋭い豆タンクスタイル。カフェの浮遊感が凄い。
「いやあ、お待ちしていました! 『納豆ニキ』さん!」
「……誰が納豆ニキだ。俺はマジキチ組長だ」
「あはは! キャラ作りも完璧ですね! その尖った感じ、最高です!」
佐々木はタブレットを開き、熱弁を振るい始めた。
要約するとこうだ。今の動画は面白いが、もっと「演出」が必要だ。納豆巻きだけじゃ地味だ。もっと派手な、例えば高級な恵方巻や、あるいは海外のカラフルなグミを大量に使って、過激なことをしよう。炎上ギリギリを攻めて、アンチを煽り、数字を稼ぐ。それが現代の錬金術だ、と。
「組長さん、正直、今のままだと飽きられます。もっとエグいことしましょう。食べ物を粗末にするような演出も、今は逆に『炎上商法』として美味しいんですよ」
隣にいた若いインフルエンサーの男が、チャラついた口調で補足した。
「そうそう。どうせアンチなんて『食べ物を粗末にするな』とか言ってくるんすよ。そういう偽善者を釣って、コメント稼ぐのが一番コスパいいんすよねー」
その瞬間、俺の手が止まった。アイスコーヒーを持つ手が微かに震える。
俺はゆっくりと顔を上げ、彼らを睨みつけた。
「……おい、若造。今、なんて言った?」
「え? いや、だからアンチなんて偽善者だって……」
「その通りだ。アンチの言うことは偽善だ。だがな、お前のその『釣ればいい』って腐った根性も、同じくらい気に入らねえな」
俺はテーブルに身を乗り出した。
俺は常々、自分の投稿に対して「食べ物を粗末にするな」という批判が来るたびに、こう反論してきた。
その声は、正義の皮を被った偽善だ。
そんなことを言うなら、お前は世界中の貧しい人々全員に施しを与えているのか? 自分の生活を切り詰めて、飢餓に苦しむ子供たちを救う活動をしているのか?
大した活動もしていないくせに、安全圏から「粗末にするな」と石を投げる。もし、マザー・テレサのような人間が言うなら甘んじて受け入れよう。だが、何もしていない人間が言うのは滑稽でしかない。
「いいか、ここは日本だ。そして、俺が股間に当ててる納豆巻きもソーセージパンも、全て俺が自分の金で買ったものだ。自分の所有物をどう扱おうが、法に触れない限り俺の自由だ。誰に指図される筋合いもねえ」
俺は佐々木たちの顔を順に見回した。
「それにな、俺は食べ物を『粗末』にしてるつもりは毛頭ねえ。俺には心に刻んでいる言葉がある。あるレジェンドとも言えるお笑いコンビの一人が言った名言だ」
俺は声を張り上げた。
『それで皆の笑いを誘うのであれば、食べ物も本望だろう。食べ物とは別の目的、人を笑わすという使命で人生を全うしたといえよう』
「……聞いたか? これが『表現』の真髄だ。俺の納豆巻きは、俺の股間で輝き、リスナーを爆笑させ、その使命を全うして俺の胃袋に収まる。そこには『笑い』という付加価値が生まれてるんだよ。お前らが言ってるのは、数字のために食べ物をゴミのように扱うことだろ? 笑いも感動もねえ、ただの承認欲求の道具にする。それは『粗末』にしてるって言うんだよ」
佐々木たちの顔から笑みが消えた。
空気が凍りつく。だが、俺は止まらない。
「お前ら、数字、数字って言ってるが、その数字の向こうにいる人間を笑わせる覚悟はあるのか? 自分の切り売りで稼いだ金で食う飯は美味いか?」
「……っ、な、何なんですか、あなた! せっかくプロデュースしてやろうって言ってるのに!」
若者が立ち上がり、声を荒げた。
「時代遅れなんですよ! 今は過程なんてどうでもいい、バズったもん勝ちなんだよ!」
俺は静かに立ち上がり、勘定をテーブルに叩きつけた。
「……そうか。なら、教えてやるよ。本当の『勝つ』ってことがどういうことかをな」
俺は彼らの腕を掴んだ。万力のような力で。
「痛っ! 何するんすか!」
「ついて来い。今から俺の『スタジオ』に案内してやる」
「は? スタジオ? ……撮影っすか?」
佐々木たちは戸惑いながらも、俺の気迫に押されて店を出た。
俺が彼らを連れて行ったのは、煌びやかなスタジオではない。
深夜の街。果てしなく続くアスファルトの道――俺の行軍ルートだ。
「ここから八キロだ。歩くぞ」
「は? 八キロ? タクシー呼びますよ」
「許さん。スマホもしまうな。配信したきゃしてもいいが、絶対に足を止めるな」
俺は豆タンクのような速度で歩き始めた。
最初は文句を垂れていた彼らも、一キロ、二キロと進むにつれて口数が減っていく。革靴や洒落たスニーカーが悲鳴を上げ、整えられた髪が汗で張り付く。
「ハァ……ハァ……もう無理っす……これ、何の意味があるんすか……!」
「意味? ねえよそんなもん!」
俺は振り返らずに叫んだ。
「俺は毎日これをやってる! 誰のためでもねえ、自分のためだ! 『いいね』なんてつかなくても、俺の心臓と筋肉が『生きてる』って叫んでりゃそれでいいんだよ!」
四キロ地点。彼らはもはやゾンビのように足を引きずっていた。
普段、加工アプリの中で生きている彼らにとって、この生々しい肉体の疲労は未知の恐怖だろう。
「お前ら、普段画面ばっかり見てるから、自分が何者か分からなくなるんだ。汗をかけ。痛みを覚えろ。それがリアルだ」
六キロ地点。若者の一人が座り込もうとした。
俺は立ち止まり、彼に手を差し伸べた……わけではない。コンビニ袋から、一本のソーセージパンを取り出し、彼の目の前に突きつけた。
「……食え」
「え……?」
「腹減ったろ。食え」
「でも……これ、撮影用じゃ……」
「バカ野郎! 食べ物だ! 撮影もクソもあるか! 今、お前の身体が欲してるなら、それが一番美味い食い方だ!」
若者は震える手でパンを受け取り、袋を破ってかぶりついた。
涙目で、咀嚼する。
「……うまい……っす……」
「だろうな。それが『生きてる』ってことだ。お前の身体の中で、そのパンは今、最高に輝いてるぞ」
八キロ完走。
スタート地点に戻ってきた時、彼らはボロ雑巾のようになっていた。ハイブランドの服はヨレヨレ、メイクは落ち、見る影もない。
だが、その顔つきは、カフェにいた時の薄っぺらいものではなかった。
疲労困憊の中に、どこか憑き物が落ちたような、人間らしい表情が浮かんでいた。
「……佐々木さん、お前ら。俺は契約しねえ」
俺は息一つ切らさずに言った。
「俺はこれからも、自分の金で買った納豆巻きを股間に当てる。誰に何と言われようがな。それが俺の表現であり、俺の生き様だ。お前らも、数字の奴隷になる前に、まずは自分の足で地面を踏んでみろ」
佐々木は深々と頭を下げた。
「……参りました。僕らが浅はかでした。……納豆ニキ、いえ、組長。勉強させていただきました」
彼らが去った後、俺は独り、夜明け前の街に残された。
ポケットから、さっきのコンビニで買ったもう一本のソーセージパンを取り出す。
そして、誰に見せるわけでもなく、スッと股間に当てた。
「……うん、今日もいい反り具合だ」
シャッターを切る。
これはバズるためじゃない。俺が今日も俺であることを確認するための、神聖なる儀式だ。
投稿ボタンを押す。
キャプションは一言。
『ソーセージパンは、俺の朝勃ちと共に天に召される』
食べ物への感謝。笑いへの使命。そして、自己の解放。
それらが三位一体となったこの一枚は、きっとまた誰かを不快にさせ、そして誰かを腹の底から笑わせるだろう。
バズりの罠を筋肉で粉砕した豆タンクは、今日もまた、細長いものを求めてコンビニを彷徨う。
偽善者どもよ、聞け。これが俺の、正真正銘の「いただきます」だ。
俺の日課。それは「股間に細長いものを当てて写真を撮る」ことだ。
基本は納豆巻きだ。あの絶妙な太さ、長さ、そして手に持った時の重量感が、俺の股間の豆タンクと奇跡的な親和性を見せる。だが、納豆巻きがない日もある。そんな時は、コンビニのソーセージパンだ。あるいは、飲みかけの500mlペットボトルだ。
とにかく、俺は「細長いもの」を見つけると、本能的にそれを股間にあてがい、スマホのシャッターを切る。そして、そのシュール極まりない画像を、運営しているオープンチャットに投下する。
『今日の俺のイチモツだ。拝め』
毎日のように繰り返されるこの儀式。リスナーたちも最初は困惑していたが、今では「これを見ないと一日が始まらない」と洗脳……いや、習慣化されている。
その日も、俺は納豆巻きを股間にセットし、完璧な角度で撮影した一枚をSNSにアップした。
タイトルは『納豆珍棒』。
いつも通り、数百の「いいね」がつけば上出来だと思っていた。
だが、ネットの神様(あるいは悪魔)は気まぐれだ。どういうわけか、その画像が海外のショート動画の素材として転載され、謎の音源と組み合わされた結果、一晩で数百万回再生という異常事態を引き起こしたのだ。
「……バズった、だと?」
翌日、俺のDMには英語、中国語、アラビア語、そして怪しい日本語のメッセージが殺到していた。
その中に、一通、やけに丁寧な日本語で書かれたスカウトメールがあった。
『はじめまして。株式会社ネクスト・バズ・クリエイションの佐々木と申します。貴殿の圧倒的なビジュアルとコンテンツ力に感銘を受けました。ぜひ、弊社専属のインフルエンサーとして契約しませんか? 貴殿なら、月収七桁も夢ではありません』
月収七桁。普通の人間なら目がくらむ数字だ。
だが、俺は鼻を鳴らした。
「面白い。この豆タンクをどう料理するつもりか、話だけは聞いてやろうじゃねえか」
週末、俺は指定された市内の洒落たカフェに向かった。
現れたのは、佐々木と名乗る二十代後半の男と、その部下らしき二人の若者。全員がハイブランドの服に身を包み、スマホを片時も離さない、典型的な「業界人」だ。
対する俺は、いつもの量販店のシャツに、短髪、そして眼光鋭い豆タンクスタイル。カフェの浮遊感が凄い。
「いやあ、お待ちしていました! 『納豆ニキ』さん!」
「……誰が納豆ニキだ。俺はマジキチ組長だ」
「あはは! キャラ作りも完璧ですね! その尖った感じ、最高です!」
佐々木はタブレットを開き、熱弁を振るい始めた。
要約するとこうだ。今の動画は面白いが、もっと「演出」が必要だ。納豆巻きだけじゃ地味だ。もっと派手な、例えば高級な恵方巻や、あるいは海外のカラフルなグミを大量に使って、過激なことをしよう。炎上ギリギリを攻めて、アンチを煽り、数字を稼ぐ。それが現代の錬金術だ、と。
「組長さん、正直、今のままだと飽きられます。もっとエグいことしましょう。食べ物を粗末にするような演出も、今は逆に『炎上商法』として美味しいんですよ」
隣にいた若いインフルエンサーの男が、チャラついた口調で補足した。
「そうそう。どうせアンチなんて『食べ物を粗末にするな』とか言ってくるんすよ。そういう偽善者を釣って、コメント稼ぐのが一番コスパいいんすよねー」
その瞬間、俺の手が止まった。アイスコーヒーを持つ手が微かに震える。
俺はゆっくりと顔を上げ、彼らを睨みつけた。
「……おい、若造。今、なんて言った?」
「え? いや、だからアンチなんて偽善者だって……」
「その通りだ。アンチの言うことは偽善だ。だがな、お前のその『釣ればいい』って腐った根性も、同じくらい気に入らねえな」
俺はテーブルに身を乗り出した。
俺は常々、自分の投稿に対して「食べ物を粗末にするな」という批判が来るたびに、こう反論してきた。
その声は、正義の皮を被った偽善だ。
そんなことを言うなら、お前は世界中の貧しい人々全員に施しを与えているのか? 自分の生活を切り詰めて、飢餓に苦しむ子供たちを救う活動をしているのか?
大した活動もしていないくせに、安全圏から「粗末にするな」と石を投げる。もし、マザー・テレサのような人間が言うなら甘んじて受け入れよう。だが、何もしていない人間が言うのは滑稽でしかない。
「いいか、ここは日本だ。そして、俺が股間に当ててる納豆巻きもソーセージパンも、全て俺が自分の金で買ったものだ。自分の所有物をどう扱おうが、法に触れない限り俺の自由だ。誰に指図される筋合いもねえ」
俺は佐々木たちの顔を順に見回した。
「それにな、俺は食べ物を『粗末』にしてるつもりは毛頭ねえ。俺には心に刻んでいる言葉がある。あるレジェンドとも言えるお笑いコンビの一人が言った名言だ」
俺は声を張り上げた。
『それで皆の笑いを誘うのであれば、食べ物も本望だろう。食べ物とは別の目的、人を笑わすという使命で人生を全うしたといえよう』
「……聞いたか? これが『表現』の真髄だ。俺の納豆巻きは、俺の股間で輝き、リスナーを爆笑させ、その使命を全うして俺の胃袋に収まる。そこには『笑い』という付加価値が生まれてるんだよ。お前らが言ってるのは、数字のために食べ物をゴミのように扱うことだろ? 笑いも感動もねえ、ただの承認欲求の道具にする。それは『粗末』にしてるって言うんだよ」
佐々木たちの顔から笑みが消えた。
空気が凍りつく。だが、俺は止まらない。
「お前ら、数字、数字って言ってるが、その数字の向こうにいる人間を笑わせる覚悟はあるのか? 自分の切り売りで稼いだ金で食う飯は美味いか?」
「……っ、な、何なんですか、あなた! せっかくプロデュースしてやろうって言ってるのに!」
若者が立ち上がり、声を荒げた。
「時代遅れなんですよ! 今は過程なんてどうでもいい、バズったもん勝ちなんだよ!」
俺は静かに立ち上がり、勘定をテーブルに叩きつけた。
「……そうか。なら、教えてやるよ。本当の『勝つ』ってことがどういうことかをな」
俺は彼らの腕を掴んだ。万力のような力で。
「痛っ! 何するんすか!」
「ついて来い。今から俺の『スタジオ』に案内してやる」
「は? スタジオ? ……撮影っすか?」
佐々木たちは戸惑いながらも、俺の気迫に押されて店を出た。
俺が彼らを連れて行ったのは、煌びやかなスタジオではない。
深夜の街。果てしなく続くアスファルトの道――俺の行軍ルートだ。
「ここから八キロだ。歩くぞ」
「は? 八キロ? タクシー呼びますよ」
「許さん。スマホもしまうな。配信したきゃしてもいいが、絶対に足を止めるな」
俺は豆タンクのような速度で歩き始めた。
最初は文句を垂れていた彼らも、一キロ、二キロと進むにつれて口数が減っていく。革靴や洒落たスニーカーが悲鳴を上げ、整えられた髪が汗で張り付く。
「ハァ……ハァ……もう無理っす……これ、何の意味があるんすか……!」
「意味? ねえよそんなもん!」
俺は振り返らずに叫んだ。
「俺は毎日これをやってる! 誰のためでもねえ、自分のためだ! 『いいね』なんてつかなくても、俺の心臓と筋肉が『生きてる』って叫んでりゃそれでいいんだよ!」
四キロ地点。彼らはもはやゾンビのように足を引きずっていた。
普段、加工アプリの中で生きている彼らにとって、この生々しい肉体の疲労は未知の恐怖だろう。
「お前ら、普段画面ばっかり見てるから、自分が何者か分からなくなるんだ。汗をかけ。痛みを覚えろ。それがリアルだ」
六キロ地点。若者の一人が座り込もうとした。
俺は立ち止まり、彼に手を差し伸べた……わけではない。コンビニ袋から、一本のソーセージパンを取り出し、彼の目の前に突きつけた。
「……食え」
「え……?」
「腹減ったろ。食え」
「でも……これ、撮影用じゃ……」
「バカ野郎! 食べ物だ! 撮影もクソもあるか! 今、お前の身体が欲してるなら、それが一番美味い食い方だ!」
若者は震える手でパンを受け取り、袋を破ってかぶりついた。
涙目で、咀嚼する。
「……うまい……っす……」
「だろうな。それが『生きてる』ってことだ。お前の身体の中で、そのパンは今、最高に輝いてるぞ」
八キロ完走。
スタート地点に戻ってきた時、彼らはボロ雑巾のようになっていた。ハイブランドの服はヨレヨレ、メイクは落ち、見る影もない。
だが、その顔つきは、カフェにいた時の薄っぺらいものではなかった。
疲労困憊の中に、どこか憑き物が落ちたような、人間らしい表情が浮かんでいた。
「……佐々木さん、お前ら。俺は契約しねえ」
俺は息一つ切らさずに言った。
「俺はこれからも、自分の金で買った納豆巻きを股間に当てる。誰に何と言われようがな。それが俺の表現であり、俺の生き様だ。お前らも、数字の奴隷になる前に、まずは自分の足で地面を踏んでみろ」
佐々木は深々と頭を下げた。
「……参りました。僕らが浅はかでした。……納豆ニキ、いえ、組長。勉強させていただきました」
彼らが去った後、俺は独り、夜明け前の街に残された。
ポケットから、さっきのコンビニで買ったもう一本のソーセージパンを取り出す。
そして、誰に見せるわけでもなく、スッと股間に当てた。
「……うん、今日もいい反り具合だ」
シャッターを切る。
これはバズるためじゃない。俺が今日も俺であることを確認するための、神聖なる儀式だ。
投稿ボタンを押す。
キャプションは一言。
『ソーセージパンは、俺の朝勃ちと共に天に召される』
食べ物への感謝。笑いへの使命。そして、自己の解放。
それらが三位一体となったこの一枚は、きっとまた誰かを不快にさせ、そして誰かを腹の底から笑わせるだろう。
バズりの罠を筋肉で粉砕した豆タンクは、今日もまた、細長いものを求めてコンビニを彷徨う。
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