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第10章:共鳴する魂の家族(リアル・コネクション編)
第50話:路地裏の酔いどれ賢者(40代・泥酔中年男性)
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第49話で18歳の少年に「社会という名の砂場」での遊び方を伝授し、深夜の行軍を終えた俺の元に、今度は「人生という迷宮」の最深部で泥酔している男が現れた。
第10章の締めくくりに相応しい、業の深いゲストだ。
夜の静寂を切り裂くように、モニター越しに繋がったのは「龍(たつ)」。40代。かつては社会の歯車だったのかもしれないが、今は生活保護を受給しながら、自室で安酒とタバコの煙にまみれて生きている男だ。俺は椅子に深く腰掛け、画面越しに漂ってくるアルコールの臭いを受け止めた。
「……あぁ、組長ぉ……。俺さ、もうダメなんだわ。この世の中、クソだろ? なぁ、聞いてるか? 宇宙の真理ってのはよ、この焼酎の瓶の底に沈んでるんだよ……。ガハハ、ゴホッ、ゴホッ!」
龍の声は、酒で焼け、情緒不安定に震えていた。
俺は冷静に返した。
「龍、また昼間から煽ってるのか。お前の真理は、いつも随分と安上がりな場所にあるんだな」
「うるせぇよ! 組長には分かんねぇんだ! 俺のこの、胸の奥で渦巻いてる、黒い太陽みたいな痛みがよぉ……! 政治が悪いんだ、昨日道ですれ違った犬が俺を笑ったんだ。あいつ、絶対にCIAの回し者だぞ……。あ、タバコ切れた。組長、俺、今から月まで買いに行ってくるわ」
支離滅裂。龍とのコラボはいつもこうだ。話の筋道なんてものは最初から存在しない。彼の中では、過去の恨みと未来への不安、そしてアルコールが見せる幻覚がマーブル模様に混ざり合っている。途中から収集がつかなくなるのはいつものことだ。
「おい、龍。CIAの話はいいから、ちゃんと座れ。お前、最近仕事を始めたって噂を聞いたぞ。あの『龍』が、ついに社会という砂場にスコップを持って現れたって、界隈じゃ持ちきりだ」
龍は一瞬、ハッとしたように黙り込んだが、すぐにまた泣き出しそうな声で叫び始めた。
「仕事ぉ!? あんなの、俺を監視するための罠だよ! 皿洗いしてたらよ、皿の裏にコードが書いてあったんだ……」
情緒不安定が加速し、もはや対話は不可能かと思われたその時、俺は「伝家の宝刀」を抜くことにした。龍のバグりきった脳内を強制再起動(リブート)させる、唯一の魔法の言葉だ。
「……龍、落ち着け。お前に大事なことを言うぞ。……『鹿のちんこ』」
静寂。
一瞬、ネットの回線が切れたかと思うほどの沈黙が流れた後、画面の向こうで爆発が起きた。
「ギャハハハハハハハハ! 鹿の! 鹿のちんこ!! ギャーッハッハッハ! 組長、それ反則だろ! なんだよ鹿のちんこって! 鹿だぞ!? あの角が生えてるやつが、そんなのぶら下げてんのかよ! ギャハハハ!」
龍はさっきまでの絶望が嘘のように、机を叩いてのたうち回り、大爆笑している。これだ。龍の話の内容についていけなくなり、収集がつかなくなったら、このワードを投げ込む。そうすれば、一旦すべてが有耶無耶になり、リセットされる。俺はこの「鹿のちんこリセット」を繰り返すことで、彼とのコラボという名の空中分解をなんとか繋ぎ止めていた。
「ガハハ! 笑えるうちはまだ大丈夫だ。龍、お前、皿の裏のコードはどうしたんだよ」
「コード? なんだそれ、食えるのか? ギャハハ! 鹿のちんこ食ったら解読できるかもな! ……はぁ。……あーあ、笑いすぎて腹痛ぇ」
龍は少しだけ落ち着きを取り戻し、新しいタバコに火をつけた。紫煙が画面を曇らせる。
「組長。……俺さ、本当は分かってるんだわ。仕事に行ってる時、自分がどれだけ役立たずか。若い奴に指図されて、手が震えてよ……。酒を飲まなきゃ、自分がゴミだってことに耐えられないんだ。生活保護で生きてる俺が、今更何を必死になってるんだろって……。情けなくて、涙が出てくるんだよ」
龍はポロポロと涙を流し始めた。今度の涙は、酒のせいだけではない。自分の現状と向き合おうとして、その重さに押しつぶされそうになっている、一人の男の真実の涙だった。
俺はモニターに近づき、画面を撫でるようにして、まるで彼の肩を抱き寄せるかのような距離で語りかけた。
「……いいか、龍。よく聞け。酒を飲んで、自分の情けなさに泣けるうちは、まだお前の心は死んじゃいねえんだよ。本当の『死』ってのはな、感情が消えることだ。自分がゴミだと思って泣けるのは、お前の中にまだ『もっと輝きたい』っていうマジキチな情熱が残ってる証拠なんだよ」
「……組長……」
「仕事が辛い? 当たり前だ。40過ぎて、ブランクがあって、それでもお前は外に出たんだろ。皿の裏にコードが見えるまで必死に皿を洗ったんだろ。それはな、お前が自分の足で『たってやる。』と決めたからだ。生活保護だろうが何だろうが、お前が今、その手で何かを掴もうとしている事実は、誰にも否定させねえ」
龍は鼻を啜りながら、じわじわと俺の言葉を噛み締めているようだった。
「いいか、龍。お前は賢者だよ。路地裏で泥を啜り、酒に溺れ、どん底を見たからこそ見える真理がある。お前が今日一日を生き抜いたこと、それだけで十分マジキチの合格点だ。明日の皿洗いが怖くなったら、また俺のところに来い。何度でもリセットしてやる」
「……組長。……俺、明日も仕事、行ってみるわ。鹿のちんこ握りしめてよ……。ギャハハ!」
「おう、その意気だ。ただし、現場でそれを叫ぶなよ。即BANされるからな」
通話を切ると、事務所には深い静寂が戻った。
龍。不安定で、支離滅裂で、愛すべき酔いどれの賢者。
彼のような奴らが、夜な夜な俺の元に集まってくる。
それは、俺が完成された人間じゃないからだ。
俺もまた、いらちで、下ネタが好きで、暗闇の中を8キロ歩き続ける、ただのマジキチだからだ。
俺は立ち上がり、残ったコーヒーを飲み干した。
2026年、1月。大阪の夜風はどこまでも鋭い。
だが、俺の心は龍の涙と笑いで、熱く脈打っていた。
「……さて。第10章、魂の家族たちの巡礼も、これで一区切りか」
俺はリュックを背負い、深夜の街へと踏み出した。
ハゲの情熱、なめこの誇り、18歳の出陣、そして泥酔した賢者の涙。
どいつもこいつも、このクソッタレな世界で、必死に自分の居場所を、自分の『直立』を探している。
俺はアスファルトを力強く踏みしめる。
「たってやる。……世界中の龍たちが、酒の海を泳ぎ切り、眩しい朝日に鹿のちんこを突き立てるその日までな!」
深夜の路地裏に、俺の豪快な笑い声が響き渡った。
行軍は続く。物語は終わらない。
次は第11章。さらに深まるマジキチの深淵、そして新たなる刺客との遭遇。
俺の、そして俺たちの「たってやる。」伝説は、ここからが本番だ。
「ガハハ! 龍、明日も皿、ピカピカに磨いてこいよ!」
第50話、完。
第10章の締めくくりに相応しい、業の深いゲストだ。
夜の静寂を切り裂くように、モニター越しに繋がったのは「龍(たつ)」。40代。かつては社会の歯車だったのかもしれないが、今は生活保護を受給しながら、自室で安酒とタバコの煙にまみれて生きている男だ。俺は椅子に深く腰掛け、画面越しに漂ってくるアルコールの臭いを受け止めた。
「……あぁ、組長ぉ……。俺さ、もうダメなんだわ。この世の中、クソだろ? なぁ、聞いてるか? 宇宙の真理ってのはよ、この焼酎の瓶の底に沈んでるんだよ……。ガハハ、ゴホッ、ゴホッ!」
龍の声は、酒で焼け、情緒不安定に震えていた。
俺は冷静に返した。
「龍、また昼間から煽ってるのか。お前の真理は、いつも随分と安上がりな場所にあるんだな」
「うるせぇよ! 組長には分かんねぇんだ! 俺のこの、胸の奥で渦巻いてる、黒い太陽みたいな痛みがよぉ……! 政治が悪いんだ、昨日道ですれ違った犬が俺を笑ったんだ。あいつ、絶対にCIAの回し者だぞ……。あ、タバコ切れた。組長、俺、今から月まで買いに行ってくるわ」
支離滅裂。龍とのコラボはいつもこうだ。話の筋道なんてものは最初から存在しない。彼の中では、過去の恨みと未来への不安、そしてアルコールが見せる幻覚がマーブル模様に混ざり合っている。途中から収集がつかなくなるのはいつものことだ。
「おい、龍。CIAの話はいいから、ちゃんと座れ。お前、最近仕事を始めたって噂を聞いたぞ。あの『龍』が、ついに社会という砂場にスコップを持って現れたって、界隈じゃ持ちきりだ」
龍は一瞬、ハッとしたように黙り込んだが、すぐにまた泣き出しそうな声で叫び始めた。
「仕事ぉ!? あんなの、俺を監視するための罠だよ! 皿洗いしてたらよ、皿の裏にコードが書いてあったんだ……」
情緒不安定が加速し、もはや対話は不可能かと思われたその時、俺は「伝家の宝刀」を抜くことにした。龍のバグりきった脳内を強制再起動(リブート)させる、唯一の魔法の言葉だ。
「……龍、落ち着け。お前に大事なことを言うぞ。……『鹿のちんこ』」
静寂。
一瞬、ネットの回線が切れたかと思うほどの沈黙が流れた後、画面の向こうで爆発が起きた。
「ギャハハハハハハハハ! 鹿の! 鹿のちんこ!! ギャーッハッハッハ! 組長、それ反則だろ! なんだよ鹿のちんこって! 鹿だぞ!? あの角が生えてるやつが、そんなのぶら下げてんのかよ! ギャハハハ!」
龍はさっきまでの絶望が嘘のように、机を叩いてのたうち回り、大爆笑している。これだ。龍の話の内容についていけなくなり、収集がつかなくなったら、このワードを投げ込む。そうすれば、一旦すべてが有耶無耶になり、リセットされる。俺はこの「鹿のちんこリセット」を繰り返すことで、彼とのコラボという名の空中分解をなんとか繋ぎ止めていた。
「ガハハ! 笑えるうちはまだ大丈夫だ。龍、お前、皿の裏のコードはどうしたんだよ」
「コード? なんだそれ、食えるのか? ギャハハ! 鹿のちんこ食ったら解読できるかもな! ……はぁ。……あーあ、笑いすぎて腹痛ぇ」
龍は少しだけ落ち着きを取り戻し、新しいタバコに火をつけた。紫煙が画面を曇らせる。
「組長。……俺さ、本当は分かってるんだわ。仕事に行ってる時、自分がどれだけ役立たずか。若い奴に指図されて、手が震えてよ……。酒を飲まなきゃ、自分がゴミだってことに耐えられないんだ。生活保護で生きてる俺が、今更何を必死になってるんだろって……。情けなくて、涙が出てくるんだよ」
龍はポロポロと涙を流し始めた。今度の涙は、酒のせいだけではない。自分の現状と向き合おうとして、その重さに押しつぶされそうになっている、一人の男の真実の涙だった。
俺はモニターに近づき、画面を撫でるようにして、まるで彼の肩を抱き寄せるかのような距離で語りかけた。
「……いいか、龍。よく聞け。酒を飲んで、自分の情けなさに泣けるうちは、まだお前の心は死んじゃいねえんだよ。本当の『死』ってのはな、感情が消えることだ。自分がゴミだと思って泣けるのは、お前の中にまだ『もっと輝きたい』っていうマジキチな情熱が残ってる証拠なんだよ」
「……組長……」
「仕事が辛い? 当たり前だ。40過ぎて、ブランクがあって、それでもお前は外に出たんだろ。皿の裏にコードが見えるまで必死に皿を洗ったんだろ。それはな、お前が自分の足で『たってやる。』と決めたからだ。生活保護だろうが何だろうが、お前が今、その手で何かを掴もうとしている事実は、誰にも否定させねえ」
龍は鼻を啜りながら、じわじわと俺の言葉を噛み締めているようだった。
「いいか、龍。お前は賢者だよ。路地裏で泥を啜り、酒に溺れ、どん底を見たからこそ見える真理がある。お前が今日一日を生き抜いたこと、それだけで十分マジキチの合格点だ。明日の皿洗いが怖くなったら、また俺のところに来い。何度でもリセットしてやる」
「……組長。……俺、明日も仕事、行ってみるわ。鹿のちんこ握りしめてよ……。ギャハハ!」
「おう、その意気だ。ただし、現場でそれを叫ぶなよ。即BANされるからな」
通話を切ると、事務所には深い静寂が戻った。
龍。不安定で、支離滅裂で、愛すべき酔いどれの賢者。
彼のような奴らが、夜な夜な俺の元に集まってくる。
それは、俺が完成された人間じゃないからだ。
俺もまた、いらちで、下ネタが好きで、暗闇の中を8キロ歩き続ける、ただのマジキチだからだ。
俺は立ち上がり、残ったコーヒーを飲み干した。
2026年、1月。大阪の夜風はどこまでも鋭い。
だが、俺の心は龍の涙と笑いで、熱く脈打っていた。
「……さて。第10章、魂の家族たちの巡礼も、これで一区切りか」
俺はリュックを背負い、深夜の街へと踏み出した。
ハゲの情熱、なめこの誇り、18歳の出陣、そして泥酔した賢者の涙。
どいつもこいつも、このクソッタレな世界で、必死に自分の居場所を、自分の『直立』を探している。
俺はアスファルトを力強く踏みしめる。
「たってやる。……世界中の龍たちが、酒の海を泳ぎ切り、眩しい朝日に鹿のちんこを突き立てるその日までな!」
深夜の路地裏に、俺の豪快な笑い声が響き渡った。
行軍は続く。物語は終わらない。
次は第11章。さらに深まるマジキチの深淵、そして新たなる刺客との遭遇。
俺の、そして俺たちの「たってやる。」伝説は、ここからが本番だ。
「ガハハ! 龍、明日も皿、ピカピカに磨いてこいよ!」
第50話、完。
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