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第21章:新世界のアーキテクト(超・共鳴編)
第104話:Akina構想とカオスの種(未解決の笑い)
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2026年、春。
事務所の窓から滑り込んでくる夜風は、数日前までの鋭さを失い、どこか湿り気を帯びた重厚な沈黙を連れてくる。
俺は、開発中の「歴史観察系ゲーム」の複雑なフラグツリーを一旦閉じ、大きく背伸びをして椅子に深く体重を預けた。網膜に焼き付いたコードの残像の裏側で、今、一つの極めて危険で、それでいて抗いがたい魅力を放つ新プロジェクトの種が、どろりとした黒い霧のように広がり始めていた。
次なる一手。それは、あのAkinaさんという劇薬をモデルにした、全く新しい次元のゲーム設計だ。
Akinaさん。
俺の周囲に蠢く数多の個性的な連中の中でも、彼女の持つ「人間としての密度」は間違いなく群を抜いている。もちろん、これは俺なりの最大級の褒め言葉だ。去年、深夜に彼女と敢行したコラボ放送のことは、今思い出しても腹の底から熱い笑いがせり上がってくる。
午前2時を回ろうかという、世界が寝静まった時間帯。いい大人の男女が二人して、近所迷惑も顧みずにスマホ越しに大声を張り上げ、呼吸ができなくなるほど大爆笑し続けたあの夜。彼女は、女性という枠組みに収まることを自ら拒絶するかのように、一切の恥じらいを捨て去って、こちらが思わずたじろぐほどの凄まじいネタを真っ向からぶち込んでくる。その圧倒的な破壊力と、予測不能なカオスの発露には、百戦錬磨を自負する俺ですら、毎回、魂の底から恐れ入る。
俺が放つ、世間一般の倫理観では「エグい」と一蹴されるような下ネタのラリー。それを避けることも、顔をしかめることもなく、むしろ喜々として受け止め、さらに数倍の毒と笑いを上乗せして打ち返してくる。そんな尊い存在が、果たして今の俺の周りに他にいるだろうか。いや、断じていない。彼女は唯一無二の、リスペクトすべき「笑いの深淵」の守護者なのだ。
だが、ここで大きな壁が立ちはだかる。
前話でも痛感した通り、彼女の持つ「笑い」の本質は、依然として最新のAIにとっても解析不能な、あまりにも難解な数式のままだ。特に、彼女が時折織り交ぜる「排泄ネタ」という、極限までアナログで、かつ生々しい人間臭さを伴うカオス。これをいかにしてデジタルのコードに翻訳し、AIという冷徹な知性に「理解」させ、ゲームという枠組みの中に落とし込むか。それは、整然とした論理の世界に、制御不能なウイルスを解き放つような作業だ。
俺は再びAkinaさんと接触し、そのカオスの源泉を直接、己の五感で汲み取りに行く必要がある。AIが弾き出す「計算された笑い」を越えるために、俺自身がその毒に再び、深く浸からなければならないのだ。
話は変わるが、俺のこうした創作活動を支えているのは、何もこの事務所でのデスクワークだけではない。
俺の放送「たってやる。」は、平日の夜、事務所から自宅までの約8キロの道のりを、足音を響かせながら歩き、マイクに向かって喋り倒すのが日常のスタイルだ。
もちろん、365日欠かさずやっているわけではない。放送を休む日だってある。本業がどうしようもなく立て込んでいる時、あるいは肉体的な疲労が蓄積し、言葉のキレが鈍っていると感じる時。はたまた、「新しい中国エステ店に潜入して、新鮮なネタを仕入れている時(笑)」のどれかだ。
疲労といえば、先日の週末に少しばかり無茶をした。
事務所から8キロほど離れた場所にある某ディスカウントストアまで、歩きながら放送を始めた時のことだ。当初の予定では、店で買い物を済ませ、キリの良いところで放送を打ち切るはずだった。
しかし、いざ喋り始めると、俺のトークに自分自身で火がついてしまった。その時のリスナーは、画面の向こうにわずか一人。だが、俺にとってリスナーの数なんてものは、トークの熱量には一ミリも関係ない。一人の魂に深く刺さる言葉を投げ続けるうちに、脳内にはアドレナリンが激しく噴出し、俺はディスカウントストアを出てからも、夜の静寂を切り裂くようにひたすら歩き続けてしまったのだ。
結果、気づけば3時間をかけて、11キロの道のりを喋り倒しながら完走していた。その瞬間は、疲労なんて微塵も感じなかった。むしろ、全能感に近い高揚感に包まれ、体は羽が生えたように軽かった。
だが、現実は残酷だ。土日をゆっくりと休養に充て、万全の態勢で体力を回復させたつもりで迎えた月曜日。俺の体に、抗いようのない異変が訪れた。足腰に、ズシリと重い、鉛のような疲労の波が、週初めになってようやく押し寄せてきたのだ。
「……やはり、俺も歳相応の体力、ということか」
40代。精神は20代の若造と変わらぬ好奇心に満ちているが、肉体は確実に、時間の経過という絶対的な物理法則に従っている。
月曜の夜、俺は激しく葛藤した。距離を短縮し、放送時間も30分程度に抑えれば、何とか形にはなるのではないか。だが、俺という人間は、一度マイクを握り、言葉を紡ぎ始めれば、90分はほぼ確実に超えてしまう業の深い性分だ。中途半端な熱量で、自分を騙しながら喋ることは、俺の表現者としてのプライドが断じて許さなかった。
この週初めに、疲労にさらなる疲労を塗り重ねることは、自らの活動寿命を削り取る「自殺行為」に等しい。そう冷静に判断した俺は、きっぱりと放送を休止することを選んだ。
俺は、常に全力で放送をやりたい。
かつて、酷い風邪を引いた状態で、朦朧とする意識の中で放送を強行したことがある。あの時の、言葉が空転し、思考が霧に包まれるようなもやもやとした感覚は、今でも鮮明に、苦い記憶として残っている。体力の低下は、そのままトークの推進力に直結するのだ。気の利いた皮肉も、相手の意表を突く切り返しも、心身が万全でなければ、その輝きは瞬時に失われてしまう。
精神面を研ぎ澄ませるのは当然だが、まずは体調を完璧に整えてこそ、プロの活動と言える。
40代という、決して若くはない年齢ではあるが、毎日8キロを歩き続けるという習慣は、結果として俺の基礎体力を支える重要な基盤になっているはずだ。幸いなことに、俺は食べ物の好き嫌いが一切ない。出されたものは、どんなものでも感謝して胃袋に収める。この強靭な消化能力と食生活の安定も、俺のタフな活動を裏側で支える不可欠なピースだ。
体調を整え、肉体と精神が、一本の鋼のように完璧にリンクした万全の状態となった時。
その時こそ、先ほどのような「Akinaさんをいかにしてゲームという仮想空間に降臨させるか」という、史上最高にマジキチでクリエイティブなアイデアが、爆発的なエネルギーを伴って生まれるのだ。
俺は椅子から立ち上がり、軽く膝を曲げて、自分の足腰の感覚を確かめた。週初めの重苦しい疲労は、確実に、そして静かに抜け始めている。
「Akinaという制御不能なカオスを、AIという精密な秩序で包み込む……」
その矛盾に満ちた難題を想像するだけで、俺の中の創作意欲が、ふつふつと地底の溶岩のように湧き上がってくるのを感じる。AIに人間の美しき汚濁を、高潔なる排泄の哲学を教え込む作業。それは、これまでのどんな高度なシステム開発よりも困難を極め、そして同時に、最高にエキサイティングな挑戦になるだろう。
俺の足は、まだ止まらない
毎日の8キロの散歩も、AIとの終わりなき対話も、すべてはこの「次なる狂気」を具現化するためにある。
精神、肉体、そして枯れることのない好奇心。この三つが最高潮のシンクロを見せた時、俺は再びキーボードを叩き、あるいは夜の路上で、魂を乗せたマイクを握るだろう。
Akinaさん、首を長くして待っておけ。あんたのその濃すぎるエキスを、俺がAIという最先端のフィルターを通して、世界が震撼し、膝から崩れ落ちるような究極のエンターテインメントに昇華してやるからな。
第104話、完。
事務所の窓から滑り込んでくる夜風は、数日前までの鋭さを失い、どこか湿り気を帯びた重厚な沈黙を連れてくる。
俺は、開発中の「歴史観察系ゲーム」の複雑なフラグツリーを一旦閉じ、大きく背伸びをして椅子に深く体重を預けた。網膜に焼き付いたコードの残像の裏側で、今、一つの極めて危険で、それでいて抗いがたい魅力を放つ新プロジェクトの種が、どろりとした黒い霧のように広がり始めていた。
次なる一手。それは、あのAkinaさんという劇薬をモデルにした、全く新しい次元のゲーム設計だ。
Akinaさん。
俺の周囲に蠢く数多の個性的な連中の中でも、彼女の持つ「人間としての密度」は間違いなく群を抜いている。もちろん、これは俺なりの最大級の褒め言葉だ。去年、深夜に彼女と敢行したコラボ放送のことは、今思い出しても腹の底から熱い笑いがせり上がってくる。
午前2時を回ろうかという、世界が寝静まった時間帯。いい大人の男女が二人して、近所迷惑も顧みずにスマホ越しに大声を張り上げ、呼吸ができなくなるほど大爆笑し続けたあの夜。彼女は、女性という枠組みに収まることを自ら拒絶するかのように、一切の恥じらいを捨て去って、こちらが思わずたじろぐほどの凄まじいネタを真っ向からぶち込んでくる。その圧倒的な破壊力と、予測不能なカオスの発露には、百戦錬磨を自負する俺ですら、毎回、魂の底から恐れ入る。
俺が放つ、世間一般の倫理観では「エグい」と一蹴されるような下ネタのラリー。それを避けることも、顔をしかめることもなく、むしろ喜々として受け止め、さらに数倍の毒と笑いを上乗せして打ち返してくる。そんな尊い存在が、果たして今の俺の周りに他にいるだろうか。いや、断じていない。彼女は唯一無二の、リスペクトすべき「笑いの深淵」の守護者なのだ。
だが、ここで大きな壁が立ちはだかる。
前話でも痛感した通り、彼女の持つ「笑い」の本質は、依然として最新のAIにとっても解析不能な、あまりにも難解な数式のままだ。特に、彼女が時折織り交ぜる「排泄ネタ」という、極限までアナログで、かつ生々しい人間臭さを伴うカオス。これをいかにしてデジタルのコードに翻訳し、AIという冷徹な知性に「理解」させ、ゲームという枠組みの中に落とし込むか。それは、整然とした論理の世界に、制御不能なウイルスを解き放つような作業だ。
俺は再びAkinaさんと接触し、そのカオスの源泉を直接、己の五感で汲み取りに行く必要がある。AIが弾き出す「計算された笑い」を越えるために、俺自身がその毒に再び、深く浸からなければならないのだ。
話は変わるが、俺のこうした創作活動を支えているのは、何もこの事務所でのデスクワークだけではない。
俺の放送「たってやる。」は、平日の夜、事務所から自宅までの約8キロの道のりを、足音を響かせながら歩き、マイクに向かって喋り倒すのが日常のスタイルだ。
もちろん、365日欠かさずやっているわけではない。放送を休む日だってある。本業がどうしようもなく立て込んでいる時、あるいは肉体的な疲労が蓄積し、言葉のキレが鈍っていると感じる時。はたまた、「新しい中国エステ店に潜入して、新鮮なネタを仕入れている時(笑)」のどれかだ。
疲労といえば、先日の週末に少しばかり無茶をした。
事務所から8キロほど離れた場所にある某ディスカウントストアまで、歩きながら放送を始めた時のことだ。当初の予定では、店で買い物を済ませ、キリの良いところで放送を打ち切るはずだった。
しかし、いざ喋り始めると、俺のトークに自分自身で火がついてしまった。その時のリスナーは、画面の向こうにわずか一人。だが、俺にとってリスナーの数なんてものは、トークの熱量には一ミリも関係ない。一人の魂に深く刺さる言葉を投げ続けるうちに、脳内にはアドレナリンが激しく噴出し、俺はディスカウントストアを出てからも、夜の静寂を切り裂くようにひたすら歩き続けてしまったのだ。
結果、気づけば3時間をかけて、11キロの道のりを喋り倒しながら完走していた。その瞬間は、疲労なんて微塵も感じなかった。むしろ、全能感に近い高揚感に包まれ、体は羽が生えたように軽かった。
だが、現実は残酷だ。土日をゆっくりと休養に充て、万全の態勢で体力を回復させたつもりで迎えた月曜日。俺の体に、抗いようのない異変が訪れた。足腰に、ズシリと重い、鉛のような疲労の波が、週初めになってようやく押し寄せてきたのだ。
「……やはり、俺も歳相応の体力、ということか」
40代。精神は20代の若造と変わらぬ好奇心に満ちているが、肉体は確実に、時間の経過という絶対的な物理法則に従っている。
月曜の夜、俺は激しく葛藤した。距離を短縮し、放送時間も30分程度に抑えれば、何とか形にはなるのではないか。だが、俺という人間は、一度マイクを握り、言葉を紡ぎ始めれば、90分はほぼ確実に超えてしまう業の深い性分だ。中途半端な熱量で、自分を騙しながら喋ることは、俺の表現者としてのプライドが断じて許さなかった。
この週初めに、疲労にさらなる疲労を塗り重ねることは、自らの活動寿命を削り取る「自殺行為」に等しい。そう冷静に判断した俺は、きっぱりと放送を休止することを選んだ。
俺は、常に全力で放送をやりたい。
かつて、酷い風邪を引いた状態で、朦朧とする意識の中で放送を強行したことがある。あの時の、言葉が空転し、思考が霧に包まれるようなもやもやとした感覚は、今でも鮮明に、苦い記憶として残っている。体力の低下は、そのままトークの推進力に直結するのだ。気の利いた皮肉も、相手の意表を突く切り返しも、心身が万全でなければ、その輝きは瞬時に失われてしまう。
精神面を研ぎ澄ませるのは当然だが、まずは体調を完璧に整えてこそ、プロの活動と言える。
40代という、決して若くはない年齢ではあるが、毎日8キロを歩き続けるという習慣は、結果として俺の基礎体力を支える重要な基盤になっているはずだ。幸いなことに、俺は食べ物の好き嫌いが一切ない。出されたものは、どんなものでも感謝して胃袋に収める。この強靭な消化能力と食生活の安定も、俺のタフな活動を裏側で支える不可欠なピースだ。
体調を整え、肉体と精神が、一本の鋼のように完璧にリンクした万全の状態となった時。
その時こそ、先ほどのような「Akinaさんをいかにしてゲームという仮想空間に降臨させるか」という、史上最高にマジキチでクリエイティブなアイデアが、爆発的なエネルギーを伴って生まれるのだ。
俺は椅子から立ち上がり、軽く膝を曲げて、自分の足腰の感覚を確かめた。週初めの重苦しい疲労は、確実に、そして静かに抜け始めている。
「Akinaという制御不能なカオスを、AIという精密な秩序で包み込む……」
その矛盾に満ちた難題を想像するだけで、俺の中の創作意欲が、ふつふつと地底の溶岩のように湧き上がってくるのを感じる。AIに人間の美しき汚濁を、高潔なる排泄の哲学を教え込む作業。それは、これまでのどんな高度なシステム開発よりも困難を極め、そして同時に、最高にエキサイティングな挑戦になるだろう。
俺の足は、まだ止まらない
毎日の8キロの散歩も、AIとの終わりなき対話も、すべてはこの「次なる狂気」を具現化するためにある。
精神、肉体、そして枯れることのない好奇心。この三つが最高潮のシンクロを見せた時、俺は再びキーボードを叩き、あるいは夜の路上で、魂を乗せたマイクを握るだろう。
Akinaさん、首を長くして待っておけ。あんたのその濃すぎるエキスを、俺がAIという最先端のフィルターを通して、世界が震撼し、膝から崩れ落ちるような究極のエンターテインメントに昇華してやるからな。
第104話、完。
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