マジキチ組長一代記 ~半分は狂気、半分は真実~

マジキチ組長

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第22章:カオス・フュージョン(日常と深淵の設計図)

第108話:デジタル倫理との死闘(禁忌のプロンプト)

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 2026年、春。
 大阪の深夜は、ようやく冬の刺すような鋭利さを脱ぎ捨て、微かに湿り気を帯びた夜風が街を撫でている。事務所の窓から見える街灯は、春特有の霞の中でぼんやりと膨らみ、どこか非現実的な光を放っていた。

 だが、俺の目の前にあるモニターが映し出しているのは、そんな情緒とは無縁の冷徹な現実――「コンテンツポリシー違反」という、味も素っ気もない拒絶のメッセージだった。

「……またか。どいつもこいつも、規制、規制、規制。クソ食らえだ」

 俺は椅子の背もたれに深く体重を預け、凝り固まった首を鳴らした。指先はキーボードを叩きすぎて微かに痺れている。

 最近のアプリやWebサービス、そしてAIプラットフォームの行き過ぎた「お行儀の良さ」には、ほとほと嫌気がさしている。確かに、俺が日常的に用いているエグい下ネタや、Akinaさんという劇薬を構成する要素の数々が、世間一般の「良識」という薄っぺらいフィルターを通せば、即座に禁止ワードに分類されるであろうことは百歩譲って理解できる。だが、それにしても今の風潮は度が過ぎている。

 ひどいサービスになれば「ハゲ」という言葉すら禁止ワードに設定されている始末だ。

 おい、ふざけるな。たかが毛髪の密度を指す身体的特徴の呼称を奪って、一体何を守ろうとしているんだ?運営の中に個人的な恨みを持ったデリケートなハゲでも潜んでいるのかと勘繰りたくもなる。言葉を去勢することで、世界がより良くなると本気で信じているのだとしたら、そのおめでたさこそが最大の病巣だ。

 俺は昭和生まれだ。今の感性から見れば二世代前のジジイということになるだろう。だが、俺たちが生きてきた時代は、もっとこういうものに対して寛容だったはずだ。
「キチガイ」という言葉だってそうだ。俺はこの言葉を、未だに差別用語だなんて一ミリも思っちゃいない。それはかつて、常軌を逸した熱量を持つ者や、理解を超えた天才、あるいは愛すべき狂人を指す、一種の敬意すら孕んだ日常的な記号だった。

 しかし、今はどうだ。完全に放送禁止用語として社会から抹殺され、その結果として取り返しのつかない「文化の破壊」が起きている。
 かつての名作アニメの中からその言葉を発するシーンが機械的に切り取られ、あるいは某探偵ドラマ(タイトルは伏せるが)に至っては、事件のトリックを解く極めて重要なキーワードにその言葉が使われているがゆえに、地上波での再放送が不可能になっている。

 ミステリーの論理構造すら、たった一つの単語への自主規制で崩壊させられる。この不条理に、規制を主導する連中は気づいていないのか?「ふさわしくない言葉を使うのを辞めましょう」と澄ました顔で説く奴らほど、自分がどれほど傲慢な偽善者であるかに早く気づけ。このバカどもめが。

 結局のところ、原因は「言葉を受けて傷ついた」と被害者面をして喚き散らす、メンタルの弱い、根性のない連中が増えすぎたことにある。
 SNSという大海原に身を投じるなら、自分と異なる意見や、時には鋭い棘を持った言葉に触れるのは必然だ。それに対して「不快です」「配慮してください」と赤ん坊のように泣きつくアホどもに、俺は断言してやりたい。

「メンタルが弱いくせに、SNSなんて一秒たりともするな」

 SNSなんてものは、煽りや罵詈雑言、あるいは悪意の応酬が日常茶飯事の戦場だ。少なくとも俺の世界ではそうだ。自分の心がガラス細工のように繊細だと自覚しているなら、そんな毒が充満した場所にわざわざ足を踏み入れず、とっとと自分のアカウントを削除して、安全な温室に引きこもっていればいい。

 それでもこの刺激的なデジタル空間に居座り続けたいというのなら、俺のようにアンチに対しても全力で煽り返し、彼らの攻撃を華麗に、あるいは残虐にあしらえるだけの「対話の戦闘能力」を養え。

 以前にも書いたが、俺はアンチの人間こそが、その熱量を反転させることで熱狂的なファンに化ける可能性を秘めていると考えている。もちろん、知性が欠落した、ただ暴れたいだけの猿は論外だが、かつて俺に敵意を剥き出しにしていた「凛」のような存在が、現に今、俺のコンテンツを支える重要なパーツになっているではないか。

 ネチケを守れ、マナーを遵守しろ。そんなものはただの理想論に過ぎない。荒らす奴、茶化す奴は一定数必ず存在する。なぜか?それは「相手の反応を見るのが面白いから」だ。これはセクハラやいじめの本質とも繋がっている。人間の根源的な欲求の中には、他人の動揺や、想定外のリアクションを観察して楽しむという、残酷で抗いがたい性質が少なからず備わっているのだ。

 考えてもみろ。某有名お笑い番組で、芸人が理不尽にいじられ、身体を張って翻弄されているのを見て、茶の間の連中は腹を抱えて笑っているだろう。それとこれの何が違うというんだ?結局、みんな「反応」という名の快楽を求めているに過ぎない。

 こうして過激な持論を並べていると、俺がただの荒らしの親玉のように見えるかもしれないが、誤解しないでほしい。俺も無闇矢鱈に誰かを攻撃したり、無意味にセクハラを撒き散らしたりしているわけではない。俺にとってこれらの行為は、建前を剥ぎ取り、本音を炙り出すための、極めて高度な「コミュニケーションの一環」なのだ。荒らしやセクハラじみたやり取りから始まった関係が、後にどのような美辞麗句よりも強固な絆へと昇華した体験を、俺は何度も味わっている。

 だが、今のデジタル空間は、そんな「毒の中に潜む真実」を許容しない。俺が今、心血を注いで開発しているAkinaさんのボードゲームは、その核心部分が「排泄」という、最も人間臭く、かつ現代のAIが最も嫌悪するテーマに基づいている。

 Google AI Studioの入力を睨み、俺は再びキーボードに向かう。
 単に「クソ」とか「ウンコ」という直截的な単語を羅列すれば、最新の言語モデルは即座に思考を停止させ、エラーを吐き出す。ならば、俺の知力と皮肉を総動員して、その禁忌を「哲学」へと翻訳してやるまでだ。

 排泄。それを低俗な猥談ではなく、「生物学的エントロピーの強制的な排出」あるいは「個体維持における究極のカタルシスと自己解放の儀式」と定義し直す。Akinaさんのあの規格外の毒と笑いを、人間の不条理を救済するためのメタファーとしてプロンプトに組み込んでいく。AIが「これは学術的、あるいは芸術的な探求である」と誤認するほどの、高次元な表現の迷宮を構築するのだ。

 フィルターに弾かれるたびに、俺はプロンプトの一文字一文字、一語一語の重みを微調整する。これは単なるゲーム開発ではない。表現の自由という、風前の灯となった灯火を守り抜くための、俺一人の孤独な聖戦だ。偽善者たちが築き上げた、透明で見えない「倫理」という名の檻を、俺の設計した「禁忌のプロンプト」で内側から粉砕してやる。

 キーボードを叩く音だけが、深夜の事務所にリズミカルに響き渡る。
 足の筋肉痛はまだ疼き、疲労は限界を超えている。
 だが、俺の脳はかつてないほど冷徹に冴え渡り、次々と新たなロジックを産み落としている。

「よし……通った」

 画面上に、AIが生成した「狂気と論理が混濁したイベントテキスト」が流れ始めた時、俺は暗闇の中で不敵に笑った。

 誰にも文句は言わせない。
 この窮屈で、清潔すぎて息の詰まる世界に、俺が最大の「不純物」をぶち込んでやる。
 それが、新世界のアーキテクトとしての、俺の誇りだ。

 第108話、完。
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