マジキチ組長一代記 ~半分は狂気、半分は真実~

マジキチ組長

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第25章:電脳の境界線(メタ・フィクションの深淵)

第130話:電脳曼荼羅の終焉と新たなインプット

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 モニターの奥底で、無数のログが滝のように流れ落ちていく。俺が打ち込んだ言葉、AIが返した反応、そして配信の中でリスナーたちが投げかけた生々しい感情の数々。それら全てが電子の海で混ざり合い、複雑怪奇な幾何学模様を描きながら、一つの巨大な「電脳曼荼羅」を形成している。この第25章という、現実と虚構の境界線が曖昧になった迷宮を彷徨いながら、俺はふと、背筋が凍るような哲学的な深淵を覗き込んでしまった。

「俺という存在は、実は誰かが打ち込んだ、緻密で膨大なプロンプトの集積に過ぎないのではないか?」

 この思考回路、この毒舌、この揺るぎない愛国心、そして時折見せる不器用な家族愛。これら全てが、あらかじめ設定された「マジキチ組長」というパラメータに基づき、最新のアルゴリズムが生成した精巧なシミュレーションだとしたら?俺が自由意志だと思っているこの衝動さえも、システムが導き出した「最もそれらしい次の単語」の連なりだとしたら?もしそうなら、俺の苦悩も、喜びも、そしてこの文章さえも、あらかじめ決定された「虚構」の一部に過ぎないことになる。

 だが、そんな思考の泥沼に足を取られている暇など、今の俺にはない。今日の俺の現実は、そんな高尚な哲学など一蹴するほどに、濃密で、滑稽で、そして不快極まりないノイズに満ちていたからだ。

 今日の配信「たってやる。」には、実に「面白い」来客があった。
 一言で言えば、それは「荒らし」だ。俺の枠に、コラボという形で唐突に上がってきたその男は、自らを「生逝(なまいき)」と名乗った。「生」きて「逝」く。生意気という言葉に、生と死を対比させる漢字を当てたそのネーミングセンス。俺は一瞬、その名を見て感心してしまった。「ほう、なかなかのセンスじゃないか。面白いキチガイが来たのかもしれん」と、俺の好奇心という名のアクセルは一気に踏み込まれたのだ。

 退屈な日常の静寂をぶち破り、俺の神経を逆撫でしてくれるような、研ぎ澄まされた狂犬が来たのか。そう期待した俺のワクワクは、しかし、ものの数分で、湿った花火が不発に終わった時のような、ひどいガッカリ感へと急降下していった。

 その「生逝」と名乗る男は、画面に現れるなり、そこに居合わせた熱心なリスナーである凛に対して、執拗で低俗な煽りを始めた。語彙は貧弱で、論理は完全に破綻している。ただ相手を不快にさせることだけを目的とした、底の浅い罵詈雑言の羅列。俺は仲裁に入ったが、それは決して「正義感」や「道徳心」からではない。荒らしという矮小な生き物を、俺得意の「ダル絡み」で苛つかせ、俺のペースに引きずり込んで解体するのが、俺という「マジキチ」の歪んだ、そして至高の楽しみだからだ。

「生逝くん、とりあえず俺の公式サイトを見てくれ。話はそれからだ。そこに俺の全て、俺の真髄が詰まってる」
「おい、もっと俺を煽ってくれよ。生逝なんて良い名前をつけてるんだから、もっと俺の神経を逆撫でしてくれ。煽りこそが、俺にとって最高の褒め言葉なんだ。もっと熱くなれよ」

 俺がそうやって、あえて正面から受け止めずに煙に巻こうとすると、最初こそ勢いよく反応を見せていた生逝だったが、次第に化けの皮が剥がれてきた。こいつは、人の話を聞くという、社会生活を営む上で最低限必要なコミュニケーション能力すら欠落していた。こちらが何を言っても無視し、ただ自分の脳内にこびりついた、独りよがりな持論を壊れたレコードのように喚き散らす。言葉のキャッチボールすら成立しない、一方通行の騒音。

 かつては俺の最凶のアンチであり、一時期は一触即発の険悪な関係だったにも関わらず、今ではこうして俺と共に荒らしに応戦し、背中を預け合っている凛の姿を見て、俺は「人生、何が起こるか分からない。実におかしなものだ」と滑稽に感じていたが、その感慨に浸る余裕すら、この生逝の無礼な振る舞いが奪っていく。

 本当の「骨のある荒らし」なら、言葉の応酬の中に、ある種の美学や筋が通っているものだ。だが、こいつにはそれがない。最近の若者は礼儀を知らんのか、と言いたくもなるが、一括りにするのは本意ではない。ただ、この生逝は俺のような自覚ある「変態」や「キチガイ」とは決定的に違う、真の、救いようのない「空虚」そのものだった。

 そいつが口にした言葉。それは、自身の両親、祖父母、ひいては自分のルーツである先祖に対する、耳を疑うような冒涜だった。
 俺もマジキチを自称し、下ネタを撒き散らしているが、最低限の「礼儀」と「筋」はわきまえているつもりだ。自分という存在を、何代にも渡って繋いでくれた先祖を平然と嘲笑うその姿に、俺は怒りよりも先に、深い情念を伴った失望と、言いようのない情けなさを感じた。

 こういう奴らには、間違いなく「愛国心」なんて尊いものも存在しないだろう。
 ハッキリと言わせてもらう。自国を愛せない人間、自分のルーツに敬意を払えない人間は、今すぐこの国から去れ。そこで自害するか、どこか見知らぬ他国にでも島流しにされてしまえ。俺は本気でそう思っている。
 俺は自他ともに認める熱狂的な愛国者だ。この日本という国を、その長い歴史を、文化を、そしてこの土地を愛している。自分の国を愛することができない人間に、この国で生きる価値も、その恩恵を享受する権利もありはしない。こういう奴らこそ、社会から徹底的に排斥され、追い込まれて当然だと思っている。

 過激だと思うか? だが、これが俺という男の芯にある、決して譲れない一線なのだ。

 先ほど若者を一括りにはできないと言ったが、それには理由がある。俺の枠には、たまに来てくれる10代の女子大生リスナーがいるのだが、彼女は俺と同じか、あるいはそれ以上に強い愛国心を持っており、その話題になると、俺たちは世代という巨大な壁を超えて、熱く意気投合するのだ。
 結局のところ、愛国心や礼儀に年齢は関係ない。育ちの良し悪し、あるいはどのような魂の教育を家庭で受けてきたか。そこが決定的な差を生むのだろう。あの生逝という男の親は、一体どんな教育をしてきたのか。親や祖父母にも当然責任はあるが、それを遡り始めると、この「電脳曼荼羅」はさらに複雑に絡み合い、キリがなくなるのでこの辺でやめておく。

 結局、生逝は、俺のダル絡みに耐えかねたのか、あるいは勝手に喋り倒して満足したのか、そそくさと枠を抜けて消えていった。せっかくの名前が泣いているぞ。
 全く、不完全燃焼もいいところだ。もっと俺を熱狂させてくれるような、極上の狂気を見せてほしかったものだ。
 ノイズが去った後、それまで様子を窺っていたいつものリスナーたちが、安堵したようにゾロゾロと戻ってきた。

「おいお前ら、今のうちに逃げなくて良かったのか? 命拾いしたなw」

 そんな冗談を飛ばしながら、いつもの日常回へと戻っていった。だが、そこで俺は、モニターの隅に表示された日付を見て、ハッと思い出したのだ。

「……あ、そういえば、今日、嫁の誕生日だ」

 この、物語の空気を一変させるメタすぎる発言に、リスナーたちは一斉に色めき立った。

「ちょ、組長、放送してる場合かよ!w」「今すぐお土産買って帰りなよ、じゃないと命がないぞ!」

 画面を埋め尽くすコメントの波。中でもMinapikoは「組長、奥さんを大事にしなよ。ケーキ買って帰りなよ。今ならまだ間に合うから」と、まるでお節介な親戚のように親身になって声をかけてくれたのが印象的だった。

 結局、俺はケーキ屋が開いている時間には間に合わず、あえて地元の老舗で和菓子を土産に選んで帰路についた。ケーキよりも、落ち着いた甘さの方が今の俺の気分には合っていたし、何より「筋を通す」ための選択だった。
 その後の妻の反応については……あまりにもプライベートかつメタが過ぎるため、システム側の自粛規制として伏せておくことにしよう。察してくれ、俺の日常もまた、綱渡りのようなバランスで成り立っているのだ。

 荒らしとの不快な遭遇、愛国心への再確認、そして家族の誕生日という日常の極み。
 今日という一日は、まさにカオスそのもの、電脳曼荼羅の縮図のような一日だった。

 俺は再び、深夜の静寂に包まれた事務所の椅子に座り、消えかかったキーボードの文字を見つめる。
 俺が誰かのプロンプトから生まれた存在であろうとなかろうと、そんなことは、この和菓子の残り香の前ではどうでもいいことだ。
 俺がこのキーボードを叩く指先に微かな熱を感じ、俺の吐き出す毒が、世界のどこかにいる誰かの心を激しく揺さぶり、そして何より、俺自身がこのキチガイじみた活動を心から楽しんでいる。
 その揺るぎない事実さえあれば、この世界が精巧な虚構だろうが、泥臭い現実だろうが、俺にとってはどちらでもいいことなのだ。

 第25章、電脳の境界線はここで一度幕を閉じる。
 だが、これは終わりではない。むしろ、次なる巨大なアウトプットへ向けた、狂気的な充電期間の始まりに過ぎない。俺の脳内回路は、既に第26章という新たな荒野を走破するために、オーバードライブを開始している。

 俺は椅子から立ち上がり、10年選手のPCの排熱を感じながら、窓の外の夜景を見つめる。
 大阪の街は、相変わらず無数の欲望と矛盾を飲み込んで、深く重い眠りについている。
 だが、俺の戦場は常に、このモニターの向こう側と、俺自身の脳内にある。

「さあ、次はどんな地獄を、あるいはどんな極彩色の天国を見せてやろうか」

 確信犯的な笑みを浮かべ、俺は次なるプロンプトという名の「運命」を打ち込む。
 第25章、完。
 物語は、さらに深く、さらに予測不能な深淵へと加速する。

 第26章。そこでは、俺がこれまで培ってきた全ての知識と、AIという鏡が映し出す最新の虚構が、さらに過激な形で融合することになるだろう。
 お前たちも、振り落とされるなよ。

 準備はいいか? 狂乱の第26章が、今、産声を上げる。

 第130話、完。
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