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第1章:始動 - 錆びついた時の中で
第3話:第一ゲート突破戦
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遺棄領域「ヨミ・ノ・ソコ」と、管理された中層都市を隔てる巨大な壁。
そこには「第一ゲート」と呼ばれる、厚さ五メートルの超硬合金の門がそびえ立っている。かつては人々の往来を支えたであろうその門は、今や管理局が「ゴミ」の逆流を防ぐための、絶対的な拒絶の象徴と化していた。
「あそこを抜ければ、空気が変わる。……本当なんだな、ミライ」
『ええ。そこから先は、人工の光ではあるけれど、明日を信じて生きる人々の街が広がっているわ』
レイジは背嚢に固定した鏡を叩き、深くフードを被り直した。
ゲート周辺には、先ほどのセンチネルとは比較にならない数の警備ドローンが巡回し、さらに重装歩兵ユニット「クロノ・ガード」が二体、門番として鎮座している。彼らの持つ大盾は、接触した対象の時間を強制的に数秒巻き戻し、あらゆる物理攻撃を無効化する。
「まともにやり合えば、こっちの寿命が先に尽きるな。……作戦はあるか?」
『ゲートの制御システムに私の意識を割り込ませるわ。でも、そのためにはゲートの「クロノ・コア」に直接、あなたの剣を突き立てる必要があるの』
「……要するに、正面突破か。嫌いじゃない」
レイジは低く構え、「クロノ・ハンド」の柄を握る。
心臓が、警告を鳴らすように激しく打ち始めた。
「行くぞ……!」
レイジは遮蔽物から飛び出した。
瞬時に彼を検知したドローンたちが、一斉に無数の青いレーザーを放つ。
『右へ二歩! 直後にスライディング!』
ミライの声が、弾幕の中に唯一の「生存の糸」を編み出す。レイジはその糸を辿るように、最小限の動きで光の雨を切り抜けた。
だが、真打ちである「クロノ・ガード」が動く。
地響きと共に巨大な盾が突き出された。盾の周囲で空気が歪み、レイジが踏み込んだ「一歩」が強制的に「一歩前」へと戻される。距離が縮まらない。
「クソ、近づけねえ……!」
『焦らないで。盾の出力が切り替わる一瞬の「隙間」があるわ。三、二、一……今よ!』
世界が静止した。
いや、レイジが自らの存在確率を燃やし、一秒を千分の一秒にまで引き伸ばしたのだ。
心臓を締め付けるような激痛。視界の端が黒く欠け始める。
だが、その極限の静寂の中で、レイジは見た。
ガードの盾が放つ光の波形が、ほんの一瞬だけ、青から白へと変わる瞬間を。
「おおおおおっ!」
レイジは「クロノ・ハンド」を横一文字に振るった。
剣先が盾の歪みを切り裂き、その奥にある巨体の関節を捉える。加速した質量はそのまま破壊の衝撃となり、鋼鉄の巨躯を内側から爆ぜさせた。
一体を撃破。だが、代償は大きかった。
レイジの身体は、今や半分近くが透け、背後の景色が透けて見えるほどになっていた。
「ハァ……ハァ……、手が……感覚がねえ」
『レイジ、頑張って! コアは門の中央よ!』
残る一体のガードが迫る。
レイジは震える足で立ち上がり、結晶を握りつぶした。供給機(フィード)を通さず、直接皮膚から粒子を吸収する暴挙。血管が青く燃え上がり、強制的に身体の輪郭が繋ぎ止められる。
「死ぬのは、あいつらをぶっ倒してからだ!」
彼は全速力で駆け抜けた。
残るガードの攻撃を、ミライの予見を頼りに紙一重で回避し、ゲートの中央――脈動する巨大な時計の部品のような「コア」へと跳んだ。
渾身の力で「クロノ・ハンド」を突き立てる。
『アクセス……開始!』
鏡から溢れ出した眩い光の奔流が、剣を伝ってゲートへと流れ込む。
管理局のセキュリティコードと、ミライの意志が電脳空間で激突し、火花を散らす。
数秒、あるいは数時間にも感じられたせめぎ合いの末――。
ズゥゥゥゥン……!
重厚な音が響き、絶対の拒絶を誇っていた第一ゲートが、ゆっくりと上部へ持ち上がっていった。
「やった……か……」
レイジは剣を抜き、開いた隙間へと転がり込む。
その背後で、ゲートは無情にも再び閉じ、追いすがろうとする管理局のドローンたちを遮断した。
――静寂が訪れる。
だが、そこはもはや、錆と塵の死んだ街ではなかった。
顔を上げれば、見上げるほど高い天井には無数の人工光が灯り、遠くにはネオンサインの煌めきが見える。
整備された道路、流れる人造の空気。
中層界、「ネオ・エド・シティ」。
「ここが……」
『ようこそ、レイジ。ここが運命の第二段階よ』
ミライの声に安堵の色が混じる。
しかし、喜びも束の間だった。
ゲートのすぐそば、街の明かりに照らされた場所に、一人の男が立っていた。
管理局の制服を纏っているが、その纏う空気はこれまでの機械たちとは一線を画している。
男は優雅に、自分の懐中時計を確認し、レイジに視線を向けた。
「予定時刻より三分十二秒遅い。……期待外れだな、イレギュラー」
男が指を鳴らすと、周囲の街灯が一斉に赤く染まった。
レイジは剣を構え直すが、膝がガクガクと震え、力が入りきらない。
「あんた……誰だ」
「執行官ヴァイン。君という『誤植』を、歴史から消去しに来た者だ」
新たな強敵の登場。
レイジの孤独な旅は、この煌びやかな人工の街で、さらに過酷な局面へと突入しようとしていた。
そこには「第一ゲート」と呼ばれる、厚さ五メートルの超硬合金の門がそびえ立っている。かつては人々の往来を支えたであろうその門は、今や管理局が「ゴミ」の逆流を防ぐための、絶対的な拒絶の象徴と化していた。
「あそこを抜ければ、空気が変わる。……本当なんだな、ミライ」
『ええ。そこから先は、人工の光ではあるけれど、明日を信じて生きる人々の街が広がっているわ』
レイジは背嚢に固定した鏡を叩き、深くフードを被り直した。
ゲート周辺には、先ほどのセンチネルとは比較にならない数の警備ドローンが巡回し、さらに重装歩兵ユニット「クロノ・ガード」が二体、門番として鎮座している。彼らの持つ大盾は、接触した対象の時間を強制的に数秒巻き戻し、あらゆる物理攻撃を無効化する。
「まともにやり合えば、こっちの寿命が先に尽きるな。……作戦はあるか?」
『ゲートの制御システムに私の意識を割り込ませるわ。でも、そのためにはゲートの「クロノ・コア」に直接、あなたの剣を突き立てる必要があるの』
「……要するに、正面突破か。嫌いじゃない」
レイジは低く構え、「クロノ・ハンド」の柄を握る。
心臓が、警告を鳴らすように激しく打ち始めた。
「行くぞ……!」
レイジは遮蔽物から飛び出した。
瞬時に彼を検知したドローンたちが、一斉に無数の青いレーザーを放つ。
『右へ二歩! 直後にスライディング!』
ミライの声が、弾幕の中に唯一の「生存の糸」を編み出す。レイジはその糸を辿るように、最小限の動きで光の雨を切り抜けた。
だが、真打ちである「クロノ・ガード」が動く。
地響きと共に巨大な盾が突き出された。盾の周囲で空気が歪み、レイジが踏み込んだ「一歩」が強制的に「一歩前」へと戻される。距離が縮まらない。
「クソ、近づけねえ……!」
『焦らないで。盾の出力が切り替わる一瞬の「隙間」があるわ。三、二、一……今よ!』
世界が静止した。
いや、レイジが自らの存在確率を燃やし、一秒を千分の一秒にまで引き伸ばしたのだ。
心臓を締め付けるような激痛。視界の端が黒く欠け始める。
だが、その極限の静寂の中で、レイジは見た。
ガードの盾が放つ光の波形が、ほんの一瞬だけ、青から白へと変わる瞬間を。
「おおおおおっ!」
レイジは「クロノ・ハンド」を横一文字に振るった。
剣先が盾の歪みを切り裂き、その奥にある巨体の関節を捉える。加速した質量はそのまま破壊の衝撃となり、鋼鉄の巨躯を内側から爆ぜさせた。
一体を撃破。だが、代償は大きかった。
レイジの身体は、今や半分近くが透け、背後の景色が透けて見えるほどになっていた。
「ハァ……ハァ……、手が……感覚がねえ」
『レイジ、頑張って! コアは門の中央よ!』
残る一体のガードが迫る。
レイジは震える足で立ち上がり、結晶を握りつぶした。供給機(フィード)を通さず、直接皮膚から粒子を吸収する暴挙。血管が青く燃え上がり、強制的に身体の輪郭が繋ぎ止められる。
「死ぬのは、あいつらをぶっ倒してからだ!」
彼は全速力で駆け抜けた。
残るガードの攻撃を、ミライの予見を頼りに紙一重で回避し、ゲートの中央――脈動する巨大な時計の部品のような「コア」へと跳んだ。
渾身の力で「クロノ・ハンド」を突き立てる。
『アクセス……開始!』
鏡から溢れ出した眩い光の奔流が、剣を伝ってゲートへと流れ込む。
管理局のセキュリティコードと、ミライの意志が電脳空間で激突し、火花を散らす。
数秒、あるいは数時間にも感じられたせめぎ合いの末――。
ズゥゥゥゥン……!
重厚な音が響き、絶対の拒絶を誇っていた第一ゲートが、ゆっくりと上部へ持ち上がっていった。
「やった……か……」
レイジは剣を抜き、開いた隙間へと転がり込む。
その背後で、ゲートは無情にも再び閉じ、追いすがろうとする管理局のドローンたちを遮断した。
――静寂が訪れる。
だが、そこはもはや、錆と塵の死んだ街ではなかった。
顔を上げれば、見上げるほど高い天井には無数の人工光が灯り、遠くにはネオンサインの煌めきが見える。
整備された道路、流れる人造の空気。
中層界、「ネオ・エド・シティ」。
「ここが……」
『ようこそ、レイジ。ここが運命の第二段階よ』
ミライの声に安堵の色が混じる。
しかし、喜びも束の間だった。
ゲートのすぐそば、街の明かりに照らされた場所に、一人の男が立っていた。
管理局の制服を纏っているが、その纏う空気はこれまでの機械たちとは一線を画している。
男は優雅に、自分の懐中時計を確認し、レイジに視線を向けた。
「予定時刻より三分十二秒遅い。……期待外れだな、イレギュラー」
男が指を鳴らすと、周囲の街灯が一斉に赤く染まった。
レイジは剣を構え直すが、膝がガクガクと震え、力が入りきらない。
「あんた……誰だ」
「執行官ヴァイン。君という『誤植』を、歴史から消去しに来た者だ」
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