タイムトラベラーレイジ ~螺旋の刻を穿つ~

マジキチ組長

文字の大きさ
5 / 6
第1章:始動 - 錆びついた時の中で

第3話:第一ゲート突破戦

しおりを挟む
 遺棄領域「ヨミ・ノ・ソコ」と、管理された中層都市を隔てる巨大な壁。
 そこには「第一ゲート」と呼ばれる、厚さ五メートルの超硬合金の門がそびえ立っている。かつては人々の往来を支えたであろうその門は、今や管理局が「ゴミ」の逆流を防ぐための、絶対的な拒絶の象徴と化していた。

「あそこを抜ければ、空気が変わる。……本当なんだな、ミライ」
『ええ。そこから先は、人工の光ではあるけれど、明日を信じて生きる人々の街が広がっているわ』

 レイジは背嚢に固定した鏡を叩き、深くフードを被り直した。
 ゲート周辺には、先ほどのセンチネルとは比較にならない数の警備ドローンが巡回し、さらに重装歩兵ユニット「クロノ・ガード」が二体、門番として鎮座している。彼らの持つ大盾は、接触した対象の時間を強制的に数秒巻き戻し、あらゆる物理攻撃を無効化する。

「まともにやり合えば、こっちの寿命が先に尽きるな。……作戦はあるか?」
『ゲートの制御システムに私の意識を割り込ませるわ。でも、そのためにはゲートの「クロノ・コア」に直接、あなたの剣を突き立てる必要があるの』
「……要するに、正面突破か。嫌いじゃない」

 レイジは低く構え、「クロノ・ハンド」の柄を握る。
 心臓が、警告を鳴らすように激しく打ち始めた。

「行くぞ……!」

 レイジは遮蔽物から飛び出した。
 瞬時に彼を検知したドローンたちが、一斉に無数の青いレーザーを放つ。

『右へ二歩! 直後にスライディング!』

 ミライの声が、弾幕の中に唯一の「生存の糸」を編み出す。レイジはその糸を辿るように、最小限の動きで光の雨を切り抜けた。

 だが、真打ちである「クロノ・ガード」が動く。
 地響きと共に巨大な盾が突き出された。盾の周囲で空気が歪み、レイジが踏み込んだ「一歩」が強制的に「一歩前」へと戻される。距離が縮まらない。

「クソ、近づけねえ……!」
『焦らないで。盾の出力が切り替わる一瞬の「隙間」があるわ。三、二、一……今よ!』

 世界が静止した。
 いや、レイジが自らの存在確率を燃やし、一秒を千分の一秒にまで引き伸ばしたのだ。
 心臓を締め付けるような激痛。視界の端が黒く欠け始める。
 だが、その極限の静寂の中で、レイジは見た。
 ガードの盾が放つ光の波形が、ほんの一瞬だけ、青から白へと変わる瞬間を。

「おおおおおっ!」

 レイジは「クロノ・ハンド」を横一文字に振るった。
 剣先が盾の歪みを切り裂き、その奥にある巨体の関節を捉える。加速した質量はそのまま破壊の衝撃となり、鋼鉄の巨躯を内側から爆ぜさせた。

 一体を撃破。だが、代償は大きかった。
 レイジの身体は、今や半分近くが透け、背後の景色が透けて見えるほどになっていた。

「ハァ……ハァ……、手が……感覚がねえ」
『レイジ、頑張って! コアは門の中央よ!』

 残る一体のガードが迫る。
 レイジは震える足で立ち上がり、結晶を握りつぶした。供給機(フィード)を通さず、直接皮膚から粒子を吸収する暴挙。血管が青く燃え上がり、強制的に身体の輪郭が繋ぎ止められる。

「死ぬのは、あいつらをぶっ倒してからだ!」

 彼は全速力で駆け抜けた。
 残るガードの攻撃を、ミライの予見を頼りに紙一重で回避し、ゲートの中央――脈動する巨大な時計の部品のような「コア」へと跳んだ。

 渾身の力で「クロノ・ハンド」を突き立てる。

『アクセス……開始!』

 鏡から溢れ出した眩い光の奔流が、剣を伝ってゲートへと流れ込む。
 管理局のセキュリティコードと、ミライの意志が電脳空間で激突し、火花を散らす。
 数秒、あるいは数時間にも感じられたせめぎ合いの末――。

 ズゥゥゥゥン……!

 重厚な音が響き、絶対の拒絶を誇っていた第一ゲートが、ゆっくりと上部へ持ち上がっていった。

「やった……か……」

 レイジは剣を抜き、開いた隙間へと転がり込む。
 その背後で、ゲートは無情にも再び閉じ、追いすがろうとする管理局のドローンたちを遮断した。

 ――静寂が訪れる。

 だが、そこはもはや、錆と塵の死んだ街ではなかった。
 顔を上げれば、見上げるほど高い天井には無数の人工光が灯り、遠くにはネオンサインの煌めきが見える。
 整備された道路、流れる人造の空気。
 
 中層界、「ネオ・エド・シティ」。

「ここが……」
『ようこそ、レイジ。ここが運命の第二段階よ』

 ミライの声に安堵の色が混じる。
 しかし、喜びも束の間だった。
 ゲートのすぐそば、街の明かりに照らされた場所に、一人の男が立っていた。

 管理局の制服を纏っているが、その纏う空気はこれまでの機械たちとは一線を画している。
 男は優雅に、自分の懐中時計を確認し、レイジに視線を向けた。

「予定時刻より三分十二秒遅い。……期待外れだな、イレギュラー」

 男が指を鳴らすと、周囲の街灯が一斉に赤く染まった。
 レイジは剣を構え直すが、膝がガクガクと震え、力が入りきらない。

「あんた……誰だ」
「執行官ヴァイン。君という『誤植』を、歴史から消去しに来た者だ」

 新たな強敵の登場。
 レイジの孤独な旅は、この煌びやかな人工の街で、さらに過酷な局面へと突入しようとしていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...