姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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30.孤児院とザイディー

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「ザイディー?」
 わたくしは三ガーデン・パーティーが終わって、エスコートしてくれる婚約者に問う。
「あなた、とても素敵な方ですものね。これからも色んな方々に愛を告げられてしまうのかしら?」
 嫉妬ではない。なにか虚無感があるのだ。

「シャイロ?どうしました?やきもち、というような感じには見えませんが」
 我が婚約者は本当に有能なのだ。

「ごめんなさい」
 わたくしはうなだれる。
「シャイロ?」
 ザイディーは姿勢を低くしてわたくしを下から見上げる。

「わたくし…」
 迷いながら言う。
「婚約者という立場や次期女王という肩書に甘えて、あなたに実を尽くすのを疎かにしていたのかもしれない…」
 ザイディーはわたくしを見つめる。
「政略結婚でもわたくしはあなたがお相手で本当に幸せなのです。今ではあなた以外考えられません」
「シャイロ」
 ザイディーは最近よくやるようになった片膝をつく姿勢になって言う。
「私は十年も前からあなたしか考えられません」
「十年前?」
 それはわたくしが孤児院に居た頃だ。

「孤児院にいたあなたを垣間見せてもらって、あなたを好きになったのです」
 初めて聞いたわ。
「あなたはたった七歳なのに他の子供の世話をして、自分のパンを分け与えていました。その姿に私は恋をしたのですよ」

 思わずわたくしは笑ってしまった。
「ブカブカの古着を着た子供に?」
「あなたの瞳の輝きに。柔らかそうな髪に触れて慰めたいと思いました」
「実際に顔合わせしたのは七年前よ?あれからわたくしがどんなに強情で気性が激しいか、わかっているでしょう?」
「今ではそこも好きですよ。いつもは抑えているその気持ちは、私にだけ見せて欲しいと思っています」

 わたくしとザイディーは見つめ合って微笑み合った。
「ありがとう」
 そしてしゃんと姿勢を正し告げた。
「行きましょう。わたくしが生き残ってあなたと添う人生のためなら、やり抜いて見せるわ」
 憂鬱と不安は小さくなり、わたくし達は会場へと進んで行った。

 道すがら思い出したことがある。
 わたくしが孤児院に居た頃、何度もパンやお菓子をくれた人がいた。後でそれはエイナイダ公爵とジンダール侯爵だったと知った。
 そのパンやお菓子は孤児院の小さな子を優先で分けていた。
 あの時の子達の喜ぶ様子が大好きで、今でも頻繁に差し入れをしている。世話役の神女達の数人から
「この子達は十五歳になればここを出て自立するのですよ。お菓子などめったに食べられないかもしれません。かえって残酷かもしれませんよ」
 と窘められたこともあったのだが、やめる気はない。
 おいしいものを知っていて「食べたい」と思う気持ち、居心地のいい生活を知っていて「そうなりたい」と思う気持ちは、きっと頑張る力になると思うのだ。

 子供達は流民だが、そのほとんどはこの国で身を立てるようになるだろう。
 その時に、一般教養や作法が身についているのといないのとでは、大きな違いが出てしまう。

 有望な子は学問をさらに学ばせることもできる。

 そしてその子供達が、我が国のために働いてくれれば、どちらにとっても有益でしかない。

 それがわたくしが慈善と言われるものに、力を注ぐ理由のひとつだ。

 わたくしが孤児院に居た頃、友達だった子や世話をしてくれた年上の子の幾人かは、学問を修め将来を有望視されている。

 出発点がどうであれ、人は自分の未来を決められるのだ。
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