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16.明かされた罪
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懇親会は気の抜けたものだった。
ジェイムズ王子がアレクサをエスコートするように入場したし、当の本人が上の空のまま終わったのだ。
このままでは自分が最有力候補として印象づけてしまうではないか。
アレクサは苛立った。
懇親会の三週間後、アレクサは王立学園の試験を受け、無事合格して高等部の二年生に編入された。一歳上のジェイムズ王子と同じ学年だ。
アレクサは着実に修めれば、二年で卒業して専科へ進むことができる。
「わたくしが王都に残りましょうか?」
母はアレクサを王都に残して領地に帰ることを心配した。
「いいえ。このタウンハウスならば、人手がそろっているから安心して」
母と宰相の役職に就いている父以外の家人は、とうに領地に戻っていた。もちろん、タウンハウスには必要な使用人が残っていたし、祖父が護衛もつけていた。
この護衛達がいつもわたくしを尾行していたのね。
アレクサは気づかなかったことが少しおもしろくなかったが、優秀さは認めていた。
「お母様は領地でやることがあるでしょう?それにクローディア叔母様が寂しがるわ。わたくしは大丈夫です」
アレクサはもちろん勉学に励むつもりだが、街歩きも再会しようと思っていた。社交と勉強が忙しくて、ご無沙汰していた。
「お父様がいらっしゃるから、安心なさって」
アレクサは母を領地へ帰そうとしたが、結局母の領地での仕事は祖母と兄が引き継ぐことになった。母はどうしてもアレクサが心配で、王都に残ったのだ。
学園では学ぶのが楽しく、日々が過ぎて行った。時々ジェイムス王子がもの言いたげにアレクサを見ていることに気づいていたが、アレクサは首を振って制止した。
結局、アレクサが街へ出ることができたのは晩秋になってしまった。
なんとなく、いつもの通りに中央広場の噴水に出た。ここはジムスとの待ち合わせ場所だ。毎回会えるとは限らないが、アレクサはこの日は会える気がしていた。
予想通り、ジムスはそこにいた。
「やあ、久しぶり、レキシー」
「お久しぶり、ジムス」
いつものように軽い挨拶を交わした。
「あれから事件が進展したことを話したくてたまらなかったんだ」
「例の香水のことね」
二人は噴水の縁に腰かけ、周りを見回した。折よく人が少ない時間帯だった。
事件の進展をジムスことジェイムス王子は語った。
あれから懇親会にオリヴィアの香水をつけてきた令嬢を取り調べ、件の香水を押収した。三人の令嬢はオリヴィア・バッケスからその香水を買っていた。一回分の香水に金貨三枚という高値をつけていた。オリヴィア・バッケスは上位貴族への足掛かりができたと喜んでいたらしい。
王宮では、一気にスティンキー・ガールズとオリヴィア・バッケスを拘束し、家宅捜索を行った。オリヴィア・バッケスのタウンハウスからは、大量の件の香水と王太后が使った薬剤がみつかった。
その勢いのまま、軍をバッケス辺境伯家へ派遣した。バッケス辺境伯家を制圧したところ、そこでも香水と薬剤、その他正規ルートで仕入れた者ではない品物、つまり密貿易品が多数見つかったのだ。
バッケス辺境伯家ではカークス商会と手を組んで、隣国と密貿易を長年に渡って行っていたことがわかった。
そこにはオリヴィア・バッケスの母親、ミランダ・アリスターが関係していた。カークス商会の商会長が、ミランダが十三歳の時に関係を持った、彼女より三十年上の男アレン・カークスだった。
二人は密貿易を目論んで、オリヴィアにブラッツ・バッケスを手に入れさせたのだ。そしてオリヴィアから密貿易をすすめさせた。件の香水と薬剤の力で。
王太后への聞き取りも進み、彼女は先の国王を手にれるために、カークス商会から香水と薬剤を買っていたことがわかった。先代の商会長マット・カークスから品物を買っていた。王太后は香水は結婚するまでは使っていたが、その後は使わず薬剤を盛って先の国王を繋ぎとめていた。
香水と薬剤の分析も済んでいた。
香水は麻薬成分と催淫作用、そして弱いが確実な毒性があることが明らかになった。長期使用すれば、その毒性で体力も生命も削り取られる。ミランダ・アリスターとアレン・カークスは、その毒性と中毒性を知っていて、自らは使用していなかったのだ。
薬剤はもっと毒性と中毒性が高かった。
王太后は、その毒性を知らずに我が夫に微量ずつ薬剤を盛り続けていたのだ。
先の国王は薬剤の中毒になっており、クローデイアの断罪の折にはその薬剤と同じ香りの香水をつけた、オリヴィアの言うがままになっていたのだ。
一時同調してしまった現国王は、当時すでに妻帯していたため、その魅惑からすぐに抜け出すことができたのだ。
「バッケス辺境伯家の領地は、今王家の預かりになっているんだ」
ジムスが言う。
「今回の指揮を取ったのは、アレックス叔父様だ」
そして少し顔が曇る。
「アレックス叔父様は全てを公表したいんだ」
「そうすると、王太后様は罪に問われてしまうの?」
「そこなんだ」
ジムス、いや、ジェイムス王子の顔で続ける。
「毒性を知らなかったとはいえ、侍医の出す薬剤以外を盛り続けたことは、どうしたって見逃せない。隣国の密貿易事件もあるし、難しいところなんだ」
アレクサは思い出していた。
「全てに証拠が足りない」
と言っていたクローディア叔母を。
証拠はそろった。
あとは関係者それぞれの立場次第だ。
明らかな罪人は五人。王太后に香水と薬剤をすすめ売りつけた故マット・カークス。それらに毒性と中毒性があると知っていながら売り続けたアレン・カークスとそれを助けたミランダ・アリスター。密貿易をしていたブラッツ・バッケス。それをそそのかしたオリヴィア・バッケス。
五人の罪を公表して罰することは簡単だ。
しかしその裏には、王太后だけではなく自分の夫に薬剤を使い続けた女性が多くいることだろう。カークス商会は下級貴族や裕福な町人向けの商会だ。裾野はどこまで広がっているのだろう。
クローディア叔母の無実を完全に証明するには、どこまで暴けば十分なのか。
アレクサは自分の無力さを思い知らされた。
ジェイムズ王子がアレクサをエスコートするように入場したし、当の本人が上の空のまま終わったのだ。
このままでは自分が最有力候補として印象づけてしまうではないか。
アレクサは苛立った。
懇親会の三週間後、アレクサは王立学園の試験を受け、無事合格して高等部の二年生に編入された。一歳上のジェイムズ王子と同じ学年だ。
アレクサは着実に修めれば、二年で卒業して専科へ進むことができる。
「わたくしが王都に残りましょうか?」
母はアレクサを王都に残して領地に帰ることを心配した。
「いいえ。このタウンハウスならば、人手がそろっているから安心して」
母と宰相の役職に就いている父以外の家人は、とうに領地に戻っていた。もちろん、タウンハウスには必要な使用人が残っていたし、祖父が護衛もつけていた。
この護衛達がいつもわたくしを尾行していたのね。
アレクサは気づかなかったことが少しおもしろくなかったが、優秀さは認めていた。
「お母様は領地でやることがあるでしょう?それにクローディア叔母様が寂しがるわ。わたくしは大丈夫です」
アレクサはもちろん勉学に励むつもりだが、街歩きも再会しようと思っていた。社交と勉強が忙しくて、ご無沙汰していた。
「お父様がいらっしゃるから、安心なさって」
アレクサは母を領地へ帰そうとしたが、結局母の領地での仕事は祖母と兄が引き継ぐことになった。母はどうしてもアレクサが心配で、王都に残ったのだ。
学園では学ぶのが楽しく、日々が過ぎて行った。時々ジェイムス王子がもの言いたげにアレクサを見ていることに気づいていたが、アレクサは首を振って制止した。
結局、アレクサが街へ出ることができたのは晩秋になってしまった。
なんとなく、いつもの通りに中央広場の噴水に出た。ここはジムスとの待ち合わせ場所だ。毎回会えるとは限らないが、アレクサはこの日は会える気がしていた。
予想通り、ジムスはそこにいた。
「やあ、久しぶり、レキシー」
「お久しぶり、ジムス」
いつものように軽い挨拶を交わした。
「あれから事件が進展したことを話したくてたまらなかったんだ」
「例の香水のことね」
二人は噴水の縁に腰かけ、周りを見回した。折よく人が少ない時間帯だった。
事件の進展をジムスことジェイムス王子は語った。
あれから懇親会にオリヴィアの香水をつけてきた令嬢を取り調べ、件の香水を押収した。三人の令嬢はオリヴィア・バッケスからその香水を買っていた。一回分の香水に金貨三枚という高値をつけていた。オリヴィア・バッケスは上位貴族への足掛かりができたと喜んでいたらしい。
王宮では、一気にスティンキー・ガールズとオリヴィア・バッケスを拘束し、家宅捜索を行った。オリヴィア・バッケスのタウンハウスからは、大量の件の香水と王太后が使った薬剤がみつかった。
その勢いのまま、軍をバッケス辺境伯家へ派遣した。バッケス辺境伯家を制圧したところ、そこでも香水と薬剤、その他正規ルートで仕入れた者ではない品物、つまり密貿易品が多数見つかったのだ。
バッケス辺境伯家ではカークス商会と手を組んで、隣国と密貿易を長年に渡って行っていたことがわかった。
そこにはオリヴィア・バッケスの母親、ミランダ・アリスターが関係していた。カークス商会の商会長が、ミランダが十三歳の時に関係を持った、彼女より三十年上の男アレン・カークスだった。
二人は密貿易を目論んで、オリヴィアにブラッツ・バッケスを手に入れさせたのだ。そしてオリヴィアから密貿易をすすめさせた。件の香水と薬剤の力で。
王太后への聞き取りも進み、彼女は先の国王を手にれるために、カークス商会から香水と薬剤を買っていたことがわかった。先代の商会長マット・カークスから品物を買っていた。王太后は香水は結婚するまでは使っていたが、その後は使わず薬剤を盛って先の国王を繋ぎとめていた。
香水と薬剤の分析も済んでいた。
香水は麻薬成分と催淫作用、そして弱いが確実な毒性があることが明らかになった。長期使用すれば、その毒性で体力も生命も削り取られる。ミランダ・アリスターとアレン・カークスは、その毒性と中毒性を知っていて、自らは使用していなかったのだ。
薬剤はもっと毒性と中毒性が高かった。
王太后は、その毒性を知らずに我が夫に微量ずつ薬剤を盛り続けていたのだ。
先の国王は薬剤の中毒になっており、クローデイアの断罪の折にはその薬剤と同じ香りの香水をつけた、オリヴィアの言うがままになっていたのだ。
一時同調してしまった現国王は、当時すでに妻帯していたため、その魅惑からすぐに抜け出すことができたのだ。
「バッケス辺境伯家の領地は、今王家の預かりになっているんだ」
ジムスが言う。
「今回の指揮を取ったのは、アレックス叔父様だ」
そして少し顔が曇る。
「アレックス叔父様は全てを公表したいんだ」
「そうすると、王太后様は罪に問われてしまうの?」
「そこなんだ」
ジムス、いや、ジェイムス王子の顔で続ける。
「毒性を知らなかったとはいえ、侍医の出す薬剤以外を盛り続けたことは、どうしたって見逃せない。隣国の密貿易事件もあるし、難しいところなんだ」
アレクサは思い出していた。
「全てに証拠が足りない」
と言っていたクローディア叔母を。
証拠はそろった。
あとは関係者それぞれの立場次第だ。
明らかな罪人は五人。王太后に香水と薬剤をすすめ売りつけた故マット・カークス。それらに毒性と中毒性があると知っていながら売り続けたアレン・カークスとそれを助けたミランダ・アリスター。密貿易をしていたブラッツ・バッケス。それをそそのかしたオリヴィア・バッケス。
五人の罪を公表して罰することは簡単だ。
しかしその裏には、王太后だけではなく自分の夫に薬剤を使い続けた女性が多くいることだろう。カークス商会は下級貴族や裕福な町人向けの商会だ。裾野はどこまで広がっているのだろう。
クローディア叔母の無実を完全に証明するには、どこまで暴けば十分なのか。
アレクサは自分の無力さを思い知らされた。
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