毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン

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13.氷の花

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 デビュタントの夜会の翌日、国王陛下から呼び出しが来た。公式なものではなく、私的なお茶会だ。国王陛下がお茶会に出席なさることは珍しい。

 国王陛下の私的なサロンに赴くと、そこには国王陛下、王妃殿下、バシュロ殿下、リゼット第一王女殿下、セリーナ第二王女殿下の王家全員が揃っていた。

 礼をして入室すると椅子を進められたので座った。
 給仕も侍女もメイドもいない。王族の方々だけだ。

「今日呼んだのは、其方にこれを授けるためだ」
 国王陛下が小さな銀色の箱を指した。
「バシュロ」
 国王陛下が促すと、バシュロ殿下が立ち上がって箱を取り、私の方へ向かってきた。立ち上がってバシュロ殿下を見ると、私の前で箱を開けた。青いベルベットで内張りされた箱には、小さな青い花の装身具が入っていた。
 真ん中にカットされて煌めく青い石が嵌っており、花弁も青い石だ。

「それは王家に伝わる『氷の花』という宝石をピアスに加工したものだ。成人の祝いに授けよう」
 驚く前に、バシュロ殿下が私の左耳のいつも着けているサファイアのソリティアのピアスの少し上に当てた。
 宝飾品はたくさん贈られているのだが、正式に側妃になるまでは、普段はこのピアスとネックレスのみを着用する許しをいただいているのだ。

 チクっと痛みが走り、カチリと音がした。

「これで君の血と登録が済んだよ。君以外には使うこともできないし、君が死ぬまで外せない」
 バシュロ殿下が説明する。
「これは魔法道具で、邪な気持ちを持って近づいたり君に危害を加えたりする者を凍らせるような冷気を与えて麻痺させる護身具だ。万一の場合は氷の矢が出る」
 私はバシュロ殿下の顔を見て、それから国王陛下へ向き直り礼をとった。
「このような貴重なものをありがとうございます」
 国王陛下は微笑んだ。
「さ、座るといい」
 王妃殿下がベルを振ると、給仕とメイドが入ってきてテーブルの上が設えられた。

 小さくて可愛い菓子類や、サンドウィッチやキッシュなどのセイボリーとお茶だ。

 そしてまるで何気ない会話のように、私には驚くような内容の話をしだした。

「アンダーソン伯爵だが、未だにあのヘレンとか言う娘を側妃に加えろと言うのだ。あまりにしつこいので官職を剥奪してやった」
「まったく、親子そろって恥と言うものを知らないのですわ」
 王妃殿下が相槌を打つ。

「他にも自分の娘を側妃に加えたい者がおってな…」
 国王陛下は紅茶を一口飲んでから続けた。
「学院もあと一年だが、もうバシュロもリゼットもいない。其方の身を守る者は其方だけだ。もちろん、警護はつけるが見落としがあるかもしれぬ」
「あなたを蹴落とそうと、罠をかけてくる女性もですが、殿方も出るでしょう」
 思わずぞっとした。

「私はベル以外の側妃はいりませんからね」
 バシュロ殿下は今年に入ってから、私を「ベル」という愛称で呼ぶようになった。自分のことは「殿下」を外せとおっしゃる。習い性と危機感で、「殿下」を外すことはできない。
 きっとオティーリエ王女はおもしろくないだろう。最近ますます、オティーリエ王女の手紙は熱烈なものになっており、「側妃なんていやです」と何度も訴えてきている。

「お気遣い、ありがとうございます」
 改めてお礼を言うと、国王陛下も王妃殿下も笑顔になる。

 その後は当たり障りのない会話が続き、和やかにお茶会は住んだ。

 一か月後、リゼット様はダイアード公爵家へ降嫁されていった。

 私の最後の学年が始まり、授業や生徒会の運営で忙しかったが、国王陛下や王妃殿下がおっしゃったように、よからぬ思いを持って私に近づいてくる人が少なからずいたようだ。
 魔法道具のピアスは自動発動して、そういった輩を容赦なく凍えさせたからだ。

 妹のコリンヌもよからぬ思いで近づいて来ようとしたが、途中で動けなくなっていた。

 いつしか私は「氷の花」と呼ばれるようになった。魔法道具と同じ名だ。
 最初に私を「氷の花」と呼んだのはリゼット様だ。
 その通り名は、リゼット様にとっては誉め言葉だったが、一部の人達の間では違う意味合いを持っている。

 その一方で、純粋な好意を寄せてくれる方々との親交を強めていった。
 氷の花のピアスは、信頼できる人を篩にかけてくれた。

 在学中、私は好意を寄せてくれる人達との交流を大切にした。
 生徒会では後輩を導きつつ、引継ぎをしていった。
 そして学年も身分の上下も関係なく、勉強会を定期的に開いて人脈を広げていった。

 とうとう最終学年が終わり、卒業の時を迎えた。飛び級をしているので卒業できたことが嬉しかった。もし飛び級できなかったら、卒業を待たずに学院をやめて入内しなくてはならなかったからだ。

 私は一旦王宮を退き、プライブ伯爵家で準備をすることになった。入内は一か月後だったが、プライブ伯爵家では準備が万端に調えられており、義理の娘にするには過分な物が数多くあった。

 入内の一週間前、私は義父母に付き添われて王宮に入った。
 王宮の入り口で、私と義父母は涙ながらに別れを惜しんだ。
 本当の家族との別れは嬉しかったが、プライブ家との別れは悲しかった。

 今日、ここから王宮に入ると、おそらく一生プライブ伯爵家には帰れないのだ。
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