妖怪たちに愛されすぎる優しい和菓子職人

及川証 (アカシ)

文字の大きさ
45 / 104
和菓子バトル―小豆農家の頑固爺―

44.吉兵衛にとって使いやすい

しおりを挟む
「さあ!やってまいります!新番組日本一の和菓子をつくれ!次回は私マナブとー――」

「焔緋火車でお送りするっス!」

 テレビ慣れしている灯し火の隣で吉兵衛はガチガチに緊張していた。

(どうすればいいんだい??何か言うべきなのかい?立ったままでいいのかい??)

「続いて時田吉兵衛さん!今日の意気込みをお願いします!」

「いっ、意気込み?――えーっと、えーっと……先に美鈴の嬢ちゃんからじゃ駄目かい?」

 わたわたと手を動かし焦る様子にマナブは「やだなー」と笑いながら言う。

「美鈴さんならもう先にいいましたよ。緊張しすぎです!にしても吉兵衛さん、名前の通りといいますか古風なしゃべり方ですね」

「しょだっ――吉兵衛は昔っからこうっスね。あっしは逆にオリジナルティがあっていいと思うっス」

「ほほう、2人の過去それは気になりますね!」

「え、あっいや……」

 またもやマイクを向けられ言い淀む吉兵衛。

「マナブさんそれは後でのお楽しみとして、まずは本題に行きましょう?」

 微笑む美鈴。しかしその瞳は全く笑っていない。それに気づかずマナブは言う。

「おおっとこれは失礼しました!では改めて、今回のこの場所は丹波地方兵庫県と京都府にまたがる地域!小豆農家の鉄人佐々木康太さんの畑からお送りいたします!」

「何を映しとるか!俺は場所と小豆を提供しただけだっ関係ねえだろ!」

 そんなことを言われるとは思っていなかったマナブは一瞬固まるも咳払いをし番組の説明を始める。

「今回使うのはこの丹波大納言小豆!なんと、康太さんの作る大納言小豆は「幻の小豆」と有名なんです!和菓子職人であれば大金を積んででも手に入れたい代物!いやー楽しみですね!」

「金を積まれたからってそう簡単にはやらんわっ!人をなんだと思ってやがるっ」

 頑固親父もしくはガラの悪いジジイ全開の康太にもう司会のマナブは苦笑いを返すしかなかった。

 ―――

「さあ、両名キッチンにつきました!」

「吉兵衛のはどっちかって言うと台所っスけどね」

 「今回のお題は大福!スタートです!」という司会の開始合図とともに吉兵衛と美鈴は動き出す。

 美鈴は小豆を洗う。大粒の大納言小豆が水を纏い艶めくさまはまさに宝石のようだ。

「さあ、どうなるので――ん?」

 テキパキと動く美鈴からではない。どこからかカチ、カチという何か硬い物を叩くような音が聞こえて来た。

「あれは?」

「火打石っスね」

 「江戸時代か?!」というマナブのツッコミ。そしてカメラが吉兵衛を映す。
 薪に火を起こし少しづつ火力を上げていく。先程緊張していた彼はどこにもいない。
 火1つ油断してはならないという力強い視線に皆息を呑む。

「……おおっと、失礼しました!美鈴さんは――タイマーを設定した後、砂糖を測っています。やはり手慣れている無駄がない」

「……そうっスかね」

(あっしには無駄が多いように見えるっスけど)

 ボソリと灯し火は本音が漏れる。しかし、ここはテレビ。片方をえこひいきする場所ではないと思い直し咳払いで誤魔化した。

「どうしました?」

 マナブが視線を向け心配すると灯し火は「大丈夫っスちょっとエヘン虫が」と笑みで返した。

「吉兵衛さんは昔ながらの作り方って感じです!台所は少々使い勝手が悪そうですが」

 司会の言葉に「そんなことはないよ」と吉兵衛は茹でている小豆から視線を外すことなく答える。

「私にとっちゃ直に火が細かく操れる薪火は都合がいいんだよ」

 そう言いながら言う吉兵衛は見た目の歳以上の風格。何十年もこの仕事をやってきた職人だ。

「いいねえ、流石ワシの認めた男よ」

 上機嫌に吉兵衛を見る康太。

「康太のじいさん、また腕を上げたね?さらにいい小豆になってる」

「おっ、わかるか!こうでなけりゃ気前よくタダでやる甲斐がないからな!だからお前にやるのは気持ちいい」

「えっ、康太さん吉兵衛さんに小豆あげてるんですか?!しかも無料で?!」

「―――っ?!」

 マナブと何も言わないが驚きの表情の美鈴は吉兵衛を見た。本人は「申し訳ないから少しでも払いたいんだけどね」とこぼしながらは大福餅の皮である求肥ぎゅうひ作りに取り掛かる。米粉に水あめを混ぜ練り込んでいく。それを目分量。己の感覚だけで素早く確実に。

 一方、美鈴はすべての工程で測りを使い丁寧に仕上げていく。

 どちらも着実に形になってきた。

 あんを包む手さばき、スピードは吉兵衛も美鈴も負けてはいない。

「しばらくしたら出来上がるよ」

「15分蒸したら完成です」

「両者終盤を迎えました!完成が楽しみですね!」

 灯し火はマナブの言葉に「そうっスね」と何故か余裕の笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け 《あらすじ》 4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。 そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。 平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...