妖怪たちに愛されすぎる優しい和菓子職人

及川証 (アカシ)

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和菓子バトル―小豆農家の頑固爺―

45.美鈴、怒りの理由

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「先程の会話からして吉兵衛さんとはお知り合いだったんですね」

 大福餅が出来上がるまで生産者である康太にマナブがインタビューをする。

 「ああ、どっかで俺の小豆菓子を食ったらしくてな。最初は小豆目当てだったと思ってたんだが、あいつやけに憤慨しながら自作の菓子を持ってきてな。俺にって。んで食ってみたんだ」

 「そんとき柄にもなく涙が出ちまってよ」と懐かしそうに康太は笑う。

「涙?」

「ああ。そのおかげで俺はやりがいを見つけた。誇りを取り戻せたんだよ。その菓子1つでな」

「ほほう、ちなみにどんな?」

「羊羹だ」

「あー分かるっス!吉兵衛の練り羊羹あっしも大好き」

 話す内容はほぼ吉兵衛のことについて。
 美鈴は怒りで拳が震える。しかしそれを必死に隠し笑顔で3人に話しかける。

「こちらも練り羊羹を扱っております。よければ是非当店にお越しください。サービスしますよ?」

「そうっスね、機会があれば是非!」

 灯し火のその言葉が社交辞令だということは火を見るより明らか。

(えこひいきもいい加減にしなさいよっ!)

 ギリッと美鈴は奥歯を噛み締めるのだった。

「そろそろ出来るよ」

 吉兵衛の言葉に美鈴も我に返りタイマーを見た。あと数秒で蒸し上がる直前だった。

 ―――

「さあ、両名出来上がりました!見た目は美鈴さんの方が美味しそうですね!」

 吉兵衛の大福餅はつるりとした真っ白な雪肌に対し、美鈴のは豆が求肥に合わせられたなんとも目の引く見た目。カメラがお互いの大福餅がアップで映される。

(なんだか面妖だね。あの黒いのカメラで映したもんが日本中で見られるなんて)

 吉兵衛は昔なら到底考えられない光景に目を細めていると隣で低い声で美鈴が言う。

「随分と余裕そうね」

 カメラが向いていない隙を狙い美鈴は吉兵衛に鋭い視線を向ける。

「実を言うと私は勝った負けたってのは気にしちゃいないからね」

「ふざけないでっ!!」

 いきなりの怒声に吉兵衛だけではなく周りも驚き静まり返った。

「アナタがただの文化祭で出した金鍔で私がどれほど悔しい思いをしたか分かる?!SNSで「有間堂より美味しい」?店を持たない一般人に負けるこの気持ちがっ!!ただの娯楽で作る和菓子と私の和菓子は違―――」

「本当にそう思うっスか?」

 「本当に?」そう言ったのは灯し火。その顔は無表情。しかし奥底の怒りは皆感じ取れるくらい禍々しく恐ろしい物だった。

「アンタ、吉兵衛の手さばき見て何も感じなかったんスか?分からなければ三流もいいところっスよ」

「素人になにが分かるのっ!こっちは十年以上この仕事をやって――」

「的確に測って作るだけじゃないっすか。そんなの料理をしているやつなら誰でもできるっス」

 そう言いながら灯し火は吉兵衛の大福餅を差し出す。

「食べてみるっス。アンタの物とは天と地ほどの差だから」

 そういう灯し火の席には自分の大福餅。「手すら付けていないのに何が分かる」と言いたい美鈴だから灯し火の圧に押され渋々手を伸ばす。

「?!なにこれっ」

 まるで雲をつかんでいるような柔らかくしかしあんこが落ちないギリギリの求肥の大福餅。それは自然と美鈴の口に吸い込まれていく。

 ホクホクの甘く深い味わいの粒あん。大きな粒が一つ一つその存在感を感じられる。まだ温かいそれは豊潤な香りを求肥を噛んだ時に解き放たれ噛めば噛み締めるほどその風味はましていく。

「こんなの――どうやってっ」

「吉兵衛はな。素材の味を最大限に生かしてくれるんだよ。そういうやつは一握り以下しかいねえ。俺の知る限りではな」

 そう言いながら康太は美味そうに大福餅にかぶりつく。伸びる求肥がまた見るものからすれば食欲をそそる。

「吉兵衛は食材を見てから分量を決めてるんス。けどアンタは違う」

 図星を突かれ美鈴は俯く。

「こんなんじゃ、社員に笑われても仕方ないわね……老舗が趣味程度の菓子に負けたなんて」

「そんな社員さっさと切ってしまいな」

 予想外の言葉に美鈴は前を向く。そこにはニッコリと笑みを浮かべる吉兵衛。彼は美鈴の肩に手を置いた。

「お前さんは老舗として。私はたとえ趣味だとしても「誇り」を持って和菓子を作ってる。それが分からない奴なんて必要ない」

「でも私はアナタみたいに上手くないっ……」

「これから直していけばいい。分量を測るのは悪くないんだ。温度湿度も数字で見れるんだろ?そこも含めて作ればいいんだよ。お前さんならできる」

「まさか年下に励まされるなんてね」

「案外お前さんより年上かもしれないよ」

 そう吉兵衛は茶目っ気にウインクをしたのだった。



 
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