社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。

七渕ハチ

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第二章『回復代行結社でござる』

第57話 廃墟への道

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 コヨミさんの先導に従って別の配信区域に向かう。マップの広さを考えると一か所に留まり誰かが来るのを待った方が効率はいい。移動中の急な遭遇にも怖さがあった。

 しかし、回復をした後に潜み続けるのもまた危険だ。警戒されるのは当然で、集まるのは配信に映りたいプレイヤーたちだ。戦闘が終わっても待機する可能性が高かった。

 残ったギルドをずっと支援するのであれば見逃してくれるかもしれないが、気持ち的に不利な側へ肩入れしたくなる。せっかくのイベントだ。非効率万歳で自分なりに楽しみたかった。

『一度どこかへ身を隠してください』

 連絡が入って立ち止まる。何があったのか疑問を覚える前に沼地から伸びる森へ飛び込む。木の陰に隠れて息を潜めた。

「キュル助、カモフラージュ」

「キュル!」

 スキルのかけ直しで効果時間を伸ばして地図を確かめる。離れていたコヨミさんが近くに戻ってきて自分の位置と重なった。パーティメンバーには透明も半透明に見えている。顔を上げると飛び下りてくるところだった。

「偵察ありがとうございます」

「何組かのパーティが移動中でした。散発的に戦闘が起こるかと」

 どうやら、あのまま進んでいると囲まれていたらしい。周りに見えなくても巻き込まれることはある。事前に対処できて助かった。

「おそらく向かうのは我々と同じ場所でござろう」

「配信区域ですか」

 興味本位で映りに行くプレイヤーやギルドのアピール、または戦いを望んでなど。理由を様々に集まる人気スポットになっているのか。さすがに隠れて回復をするのは珍しいと自分でも思うが。

「後を追いながら行けば回復を撒けるでござるな!」

 確かに道中で戦闘が行われるのはチャンスだった。

「コヨミさんは他のプレイヤーへ回復をする以外に、やりたいことはありますか?」

「偵察を楽しませてもらっていますよ。やはり、プレイヤーの皆さまを相手にするのはモンスターと違って緊張感が生まれます。イベントでこその体験でござる」

 苦労をかけると考えていたが、楽しみにつながるのならよかった。

「では参りましょう! 進路は多少迂回しますが、途中まで森の端を行くでござる」

「分かりました」

 木の上に飛んで移動を始めたコヨミさんについていく。左手の深い森に注意し右手の草地にも視線を向ける。徐々に緊張もほぐれて余裕が出てきた。

『遠くにスキルか魔法の光が発生したでござる』

 走り出した後すぐの報告に緊張がまた戻る。同時に随分先で木を飛び下りる姿が見えた。一瞬でこの距離を広げられるとは。スキルはともかく、単純な走り方に問題がある気がしてきた。

「お待たせしました」

 腕の動かし方を工夫しながら走り、手を振っていたコヨミさんの元に着く。

「あっちでござるな」

 示された方向は微妙な傾斜の坂になっていて、戦闘の様子は確認できなかった。

「隠れる場所がないので拙者は待機で監視を行います。ナカノ殿は坂の向こう側だけを警戒してください」

「了解です」

 岩すらない草地での回復作業は危険だらけ。逃げ込める森の安全を保つのは大事だ。

 魔法のストックと透明化で準備は万端。足早に草地を駆けて坂を上った。

「あれか……」

 坂と坂の間で五人同士のパーティが争っている。戦力は等しくどちらを支援するか迷う前に、片方のプレイヤーが一人倒れた。

 均衡が崩れると攻めと守りが明確に分かれる。これで気兼ねなく魔法を解放できた。

 ターゲットは体力が減った前衛だ。範囲内に近寄り回復を放っても気づかれず、一度戻って坂の陰に隠れる。

「トリガー、詠唱」


――シュンッ!


「トリガー、ヒール。キュル助、カモフラージュ」

「キュル!」

 詠唱やスキルで透明化が解除されるため、開けた場所での支援は適度に抑えたい。今の目的地は配信区域で長居は無用。あくまで寄り道だと数度の回復で済ませる。

 初回のイベントですぐに逃げていたのを思えば、これでも粘っている方だ。相手がパーティ相手なのもあるけれど、背中を任せれる存在が大きかった。

「先で戦闘が起こる気配を感じたでござる」

「……行きましょう」

 坂を下って森へ戻るなり、コヨミさんが教えてくれる。気配とは恐れ入るが、またスキルや魔法が微かに見えたのか。

 引き続き警戒を丸投げに回復を振り撒いて行く。休息の暇なく争いに出会うことから人が集まるのが実感できた。

 明らかに沼地よりも人気に思える。イベント開始直後だったというのはあるが、戦いやすい地形が好まれるのだろう。向かう配信区域は地図上で古びた建物が密集する。障害物が多そうで支援にもうってつけだ。

 森が途切れた後の岩場はコヨミさんの指示に従い右に左に。挟まれると厄介なため移動に専念する。そして、見えてきたのは廃墟群だった。

「隠れられる場所は逆に危険も伴います。すでにどなたかが潜む可能性がござるゆえ」

 言われてみるとその通りで、魔導書へのストック中に狙われると一発退場だ。

「慎重さが求められますね」

「そこで、拙者に良い考えがあるでござる!」

 大きな声に周囲を気にするも近くに人の姿がないのは、すでにコヨミさんが確認済みか。

「……考えというのは?」

 先を続けず自信に満ちた表情を見せられたので、こちらから聞く。

「あれをご覧ください」

「木箱とタル、ですか」

 崩れた建物の側に置かれているオブジェクトだ。廃墟に合わせてボロボロ風だが中身は見えない。

「きっと中に入るとバレません。安心安全に回復できるかと!」

「あぁ……」

 何かが入ってるのかと思いきや、そうきたか。
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