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一章
意味☆
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俺の憧れの人は、近くにいる。とてつもなく近くに。
兄さんは、とにかくすごい人だった。
幼い頃から両親に期待を添えられ、それに答えるかのように成長を遂げていた。
孤高なれど、至高に辿り着くための道を進む。
そんな兄が俺の誇りであり、目標だった。
いつの日か、兄はギターを弾くようになり、名門大学の医学部へと進学し、音楽と医療に熱心に向き合っていた。
そんな兄を真似して、小学生の頃からギターを始めた。
楽しくて、楽しくてずっと練習してるうちに、いつの間にか俺の周りには人が居なくなっていた。
「あいつだけ目立つんだよな...。」
「自慢したいだけかよ」
言葉の数々には、褒め言葉のひとつもなく、あったのは罵倒、妬み、侮辱の言葉だけだった...。そして、いつの日か俺は音楽を嫌い始めた。
中学生の頃には音楽に一切関わることをやめ、サッカーに熱を費やした。努力が実れば仲間と共有して笑い合える。俺の理想とするものがそこにはあった。でも、心のどこかでは音楽を辞めたことに対する後悔が渦巻いていた。
中学の頃の成果が実り、県内有数の進学校に推薦で入学することが出来た。でも、そこは俺にとって劣悪な環境でしかなかった。
サッカー部の活動はほぼ無し。部室にたむろってゲームする、駄べることしかしない。
そんな環境はあれにとって苦痛でしかなかった。
あの日、いつも通りに部室に行くと先輩たちからイチャモンを付けられ殴られた。自分が殴られる分には問題はなかった。でも、唯一無二の親友をバカにされたことは絶対に許せなかった。
「売れない小説家なんかと絡んでるんだってな!!落ちこぼれと絡んでるから...」
気づいた時には、先輩の顔は歪んでいた。
手には血が、地面には白い歯が落ちていた。
その後は先輩たちと大乱闘。幸いなことに、体を鍛えてたおかげで、6対1だったが倒れることはなかった。
喧嘩に勝ったと同時に、俺の高校サッカーは幕を閉じた。
「おーい!聞いてるかー?」
気がつくと、そこには不思議そうにこちらを覗き込む親友の顔があった。
「なんでもねーっよっと」
なんとなくデコピンをかまし、椅子から立ち上がる。
「ほら、練習行くんだろ」
ギターケースとカバンを手に取り、教室を後にした。
ー自宅 地下スタジオー
両親共々、医療従事者のため家にいることは少ない。それなのに、家は無駄に広く、兄と俺のために作られたスタジオもある。
お父さんのドラム、兄の古いギター、貰い物のベース、新品のキーボード。最低限のものは揃っている10畳ほどの部屋だ。
「よし、じゃあ行くぞ」
「う、うん!」
ギターの音が部屋に響き渡る。それに合わせるかのように、もうひとつのギターの音が重なり合う。何事にも変えられないような快感が身体中を駆け巡り、その場をもっと熱くさせる。
何とか1曲弾き終わり、見合わせる顔は汗と笑顔で輝いている。
「流石、単。上手いなぁ...。」
「瞳こそ、初めて2週間の奴の動きじゃなかったぞ」
お互いを称えあい、そして、競い合う。俺が求める関係がそこにはあった。幼い頃から求めていた感情が、今になってやっと手に入ったのだ。
その日は、8曲弾き、練習は終いになった。
ー自宅 リビングー
「ねぇ、単」
課題に頭を悩ませていた瞳が口を開く。
「ん?どうした?また、わからない部分か?」
「ううん。1個提案があるんだよ」
机の下に置いてあるバッグから何かを取り出した。
瞳の手に握られていたのは、新品の1冊のノートだった。
「僕、曲を作ろうと思うんだ。」
意外すぎる提案だった。
まだ、バンドメンバーも揃っていない。しかも、ボーカルさえもいないのに、なぜこの考えに至るのか。怒りを通り越して、呆れてしまう。
「お前さ...。バンドメンバーも見つかってないんだぞ?」
「え?見つかったよ?明日紹介するって言ったじゃん」
「は???」
兄さんは、とにかくすごい人だった。
幼い頃から両親に期待を添えられ、それに答えるかのように成長を遂げていた。
孤高なれど、至高に辿り着くための道を進む。
そんな兄が俺の誇りであり、目標だった。
いつの日か、兄はギターを弾くようになり、名門大学の医学部へと進学し、音楽と医療に熱心に向き合っていた。
そんな兄を真似して、小学生の頃からギターを始めた。
楽しくて、楽しくてずっと練習してるうちに、いつの間にか俺の周りには人が居なくなっていた。
「あいつだけ目立つんだよな...。」
「自慢したいだけかよ」
言葉の数々には、褒め言葉のひとつもなく、あったのは罵倒、妬み、侮辱の言葉だけだった...。そして、いつの日か俺は音楽を嫌い始めた。
中学生の頃には音楽に一切関わることをやめ、サッカーに熱を費やした。努力が実れば仲間と共有して笑い合える。俺の理想とするものがそこにはあった。でも、心のどこかでは音楽を辞めたことに対する後悔が渦巻いていた。
中学の頃の成果が実り、県内有数の進学校に推薦で入学することが出来た。でも、そこは俺にとって劣悪な環境でしかなかった。
サッカー部の活動はほぼ無し。部室にたむろってゲームする、駄べることしかしない。
そんな環境はあれにとって苦痛でしかなかった。
あの日、いつも通りに部室に行くと先輩たちからイチャモンを付けられ殴られた。自分が殴られる分には問題はなかった。でも、唯一無二の親友をバカにされたことは絶対に許せなかった。
「売れない小説家なんかと絡んでるんだってな!!落ちこぼれと絡んでるから...」
気づいた時には、先輩の顔は歪んでいた。
手には血が、地面には白い歯が落ちていた。
その後は先輩たちと大乱闘。幸いなことに、体を鍛えてたおかげで、6対1だったが倒れることはなかった。
喧嘩に勝ったと同時に、俺の高校サッカーは幕を閉じた。
「おーい!聞いてるかー?」
気がつくと、そこには不思議そうにこちらを覗き込む親友の顔があった。
「なんでもねーっよっと」
なんとなくデコピンをかまし、椅子から立ち上がる。
「ほら、練習行くんだろ」
ギターケースとカバンを手に取り、教室を後にした。
ー自宅 地下スタジオー
両親共々、医療従事者のため家にいることは少ない。それなのに、家は無駄に広く、兄と俺のために作られたスタジオもある。
お父さんのドラム、兄の古いギター、貰い物のベース、新品のキーボード。最低限のものは揃っている10畳ほどの部屋だ。
「よし、じゃあ行くぞ」
「う、うん!」
ギターの音が部屋に響き渡る。それに合わせるかのように、もうひとつのギターの音が重なり合う。何事にも変えられないような快感が身体中を駆け巡り、その場をもっと熱くさせる。
何とか1曲弾き終わり、見合わせる顔は汗と笑顔で輝いている。
「流石、単。上手いなぁ...。」
「瞳こそ、初めて2週間の奴の動きじゃなかったぞ」
お互いを称えあい、そして、競い合う。俺が求める関係がそこにはあった。幼い頃から求めていた感情が、今になってやっと手に入ったのだ。
その日は、8曲弾き、練習は終いになった。
ー自宅 リビングー
「ねぇ、単」
課題に頭を悩ませていた瞳が口を開く。
「ん?どうした?また、わからない部分か?」
「ううん。1個提案があるんだよ」
机の下に置いてあるバッグから何かを取り出した。
瞳の手に握られていたのは、新品の1冊のノートだった。
「僕、曲を作ろうと思うんだ。」
意外すぎる提案だった。
まだ、バンドメンバーも揃っていない。しかも、ボーカルさえもいないのに、なぜこの考えに至るのか。怒りを通り越して、呆れてしまう。
「お前さ...。バンドメンバーも見つかってないんだぞ?」
「え?見つかったよ?明日紹介するって言ったじゃん」
「は???」
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