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調理室でにょにょにょ!
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デリックと別れ、庭から屋敷内へと入った。一階入り口から、調理室へと向かう。両手に抱えたカゴの中には、デリックから貰った紅茶の元となる茶葉が入っている。まだ、紅茶になっていないのに、仄かに漂う紅茶の優しい香りに心が休まる。
「ふざけるな!!」
ある扉の前を通り掛かった瞬間、中から怒鳴り声が聞こえてきて驚き、足が止まった。今の声は、グランデだ。いつも冷静沈着なグランデの声が、怒りに任せた低い声に変わっていた。何が中で起きているのだろう。気になり、扉をこっそり開けて中の様子を窺おうと思ったが、グランデが客の応対中である事を思い出した。
俺に会わせたくない客ってどんな奴だろう。気にはなるが、グランデに覗いたのがバレた時、俺はどうなる。半殺しで済むだろうか。それよりも、庭で待っていて下さいと言われていたのだった。ここに居るのがバレたら、間違いなく言葉だけで氷漬けにされるだろう。想像するだけで、背筋に寒気が走った。何事もなかった様に、音を立てぬ様、抜き足差し足でその場を後にした。
屋敷の廊下を歩き続け、ようやく調理室を見つけた。そっと扉を開け中を窺う。レンガ作りの部屋は、窓を開け換気しているのに、それでも調理中にでる湯気で湿気と熱気で一杯だった。そんな中で、数名の料理人が働いていた。一人は、フライパンを振りご飯の様なものを炒め、もう一人は包丁を手にし芋の皮を剥いている。皆、忙しそうだ。その中で、一人が何やら本を見ながら、うんうんと唸っているのを見つけた。彼なら、話しかけても怒られないかもしれない。そっと、調理室に入って、彼に近づく。クリーム色の髪を後ろに一本で縛り、その頭の上に調理帽を被っている。真っ白の調理服は所々汚れているが、ぽっこりのお腹……いや、豊満な体を汚れや火傷から守っているのがわかる。
「あ、あの……」
「すまないが、少し待っていてくれないかにょ。今、新たなひらめきが起きそうな気がするんだにょ」
「ひらめき……にょ?」
「そうだにょ。大事なひらめきだにょ」
「何の閃きなんだ?」
「新たなる創作の閃きだにょ! それに客の為、甘い肉料理を作らないといけないのだにょ。だが、仄かに甘く、輝く肉料理をご所望で困っているにょ」
本を見ながら、応対して来る彼は、相手がレイルであるという事に気づいていない様だ。それよりも、なんだろう。にょとかいう語尾、体型の良い男なのに、なんだか幼さとか愛らしさを感じる。
「甘く、輝く肉料理……。それなら、照り焼きとかどうだろう。あ、後、肉では無いけど、芋もちとか、かぼちゃもちとかも美味しいからおすすめ」
「てぇりやき? なんだにょ? その料理は……!」
「えーと、醤油と酒と、砂糖、みりんを混ぜて作るソースに、肉とか魚とかを絡めて焼くんだけど……」
「れ、レイル様!! なぜここにいらっしゃるんですか!?」
やっと、本から俺に目線を移してくれた。まぁ、色々と面倒な事に巻き込まれがちなので、さっさと要件をいう事にした。
「あ、あぁ。そうだった。この茶葉を使って、紅茶のお菓子とか作れないだろうか? 後、酒を使ったお菓子とかも作りたいんだが」
「そ、そうでは、ありません!」
あれ? 『にょ』という語尾がなくなった。それに、タメ口もなくなり、少し寂しい気がする。
「どういう意味だ。俺は、自分の屋敷の厨房に来てはいけないのか?」
「い、いえ。その……」
言いづらそうにしている姿を見ると、またかと思ってしまう。もう、レイルの尻拭いばかりで正直疲れた。
「なんだ。言いたい事があれば、正直に言え」
「は、はい……。もう、お前の顔や声は見聞きたくないとおっしゃられておりましたので……その」
レイルよ。お前は子ども以下の我が儘坊主か。
「お、俺がいつ、その様な事を言った。最近風邪で寝込んでいたからな。記憶が定かではない」
「はい。三週間ほど前に、そ、その、レイル様と廊下でぶつかってしまいまして……そ、それで、ついつい、そ、その……」
随分と言いづらい様だ。このコックは何をして、レイルを怒らせたんだ。
「それでなんだ?」
「驚いたものでして、その、にょっと方言が出てしまいまして……」
「ほ、方言? その語尾に、『にょ』っと言っていたのは方言なのか!?」
「は、はい。グレジアナ地方出身でして」
グレジアナ地方は、レイルの領地から西にだいぶ離れた所にある場所だ。あそこは、ゲーム上であまり話として出てきていない場所である為、そんな言葉があるとは知らなかった。だが、語尾に『にょ』なんて方言としてありなのだろうか。
「グレジアナ地方の出なのか。そうか」
「はい。それを隠していたのですが、バレてしまいまして……」
「それで、俺はなんて言った」
「……その言葉が……気持ち悪いから、二度と俺の前に出てくるなと」
そんな言葉を言ったのかレイル。人には譲れない部分や変えられない所があるというのに……。
「すま……心無いことを言った。申し訳ない」
言葉と共に、頭を下げる。俺の所為ではないが、傷ついたであろうコックの救いに少しでもなって欲しいと思った。俺の言葉に傷ついた父の様になって欲しくない。
「レイル様、頭を上げて下さい! あぁ。もう良いのでにょ」
頭を上げて、彼を見ると彼は、歯を見せてにっと笑っていた。
「ふざけるな!!」
ある扉の前を通り掛かった瞬間、中から怒鳴り声が聞こえてきて驚き、足が止まった。今の声は、グランデだ。いつも冷静沈着なグランデの声が、怒りに任せた低い声に変わっていた。何が中で起きているのだろう。気になり、扉をこっそり開けて中の様子を窺おうと思ったが、グランデが客の応対中である事を思い出した。
俺に会わせたくない客ってどんな奴だろう。気にはなるが、グランデに覗いたのがバレた時、俺はどうなる。半殺しで済むだろうか。それよりも、庭で待っていて下さいと言われていたのだった。ここに居るのがバレたら、間違いなく言葉だけで氷漬けにされるだろう。想像するだけで、背筋に寒気が走った。何事もなかった様に、音を立てぬ様、抜き足差し足でその場を後にした。
屋敷の廊下を歩き続け、ようやく調理室を見つけた。そっと扉を開け中を窺う。レンガ作りの部屋は、窓を開け換気しているのに、それでも調理中にでる湯気で湿気と熱気で一杯だった。そんな中で、数名の料理人が働いていた。一人は、フライパンを振りご飯の様なものを炒め、もう一人は包丁を手にし芋の皮を剥いている。皆、忙しそうだ。その中で、一人が何やら本を見ながら、うんうんと唸っているのを見つけた。彼なら、話しかけても怒られないかもしれない。そっと、調理室に入って、彼に近づく。クリーム色の髪を後ろに一本で縛り、その頭の上に調理帽を被っている。真っ白の調理服は所々汚れているが、ぽっこりのお腹……いや、豊満な体を汚れや火傷から守っているのがわかる。
「あ、あの……」
「すまないが、少し待っていてくれないかにょ。今、新たなひらめきが起きそうな気がするんだにょ」
「ひらめき……にょ?」
「そうだにょ。大事なひらめきだにょ」
「何の閃きなんだ?」
「新たなる創作の閃きだにょ! それに客の為、甘い肉料理を作らないといけないのだにょ。だが、仄かに甘く、輝く肉料理をご所望で困っているにょ」
本を見ながら、応対して来る彼は、相手がレイルであるという事に気づいていない様だ。それよりも、なんだろう。にょとかいう語尾、体型の良い男なのに、なんだか幼さとか愛らしさを感じる。
「甘く、輝く肉料理……。それなら、照り焼きとかどうだろう。あ、後、肉では無いけど、芋もちとか、かぼちゃもちとかも美味しいからおすすめ」
「てぇりやき? なんだにょ? その料理は……!」
「えーと、醤油と酒と、砂糖、みりんを混ぜて作るソースに、肉とか魚とかを絡めて焼くんだけど……」
「れ、レイル様!! なぜここにいらっしゃるんですか!?」
やっと、本から俺に目線を移してくれた。まぁ、色々と面倒な事に巻き込まれがちなので、さっさと要件をいう事にした。
「あ、あぁ。そうだった。この茶葉を使って、紅茶のお菓子とか作れないだろうか? 後、酒を使ったお菓子とかも作りたいんだが」
「そ、そうでは、ありません!」
あれ? 『にょ』という語尾がなくなった。それに、タメ口もなくなり、少し寂しい気がする。
「どういう意味だ。俺は、自分の屋敷の厨房に来てはいけないのか?」
「い、いえ。その……」
言いづらそうにしている姿を見ると、またかと思ってしまう。もう、レイルの尻拭いばかりで正直疲れた。
「なんだ。言いたい事があれば、正直に言え」
「は、はい……。もう、お前の顔や声は見聞きたくないとおっしゃられておりましたので……その」
レイルよ。お前は子ども以下の我が儘坊主か。
「お、俺がいつ、その様な事を言った。最近風邪で寝込んでいたからな。記憶が定かではない」
「はい。三週間ほど前に、そ、その、レイル様と廊下でぶつかってしまいまして……そ、それで、ついつい、そ、その……」
随分と言いづらい様だ。このコックは何をして、レイルを怒らせたんだ。
「それでなんだ?」
「驚いたものでして、その、にょっと方言が出てしまいまして……」
「ほ、方言? その語尾に、『にょ』っと言っていたのは方言なのか!?」
「は、はい。グレジアナ地方出身でして」
グレジアナ地方は、レイルの領地から西にだいぶ離れた所にある場所だ。あそこは、ゲーム上であまり話として出てきていない場所である為、そんな言葉があるとは知らなかった。だが、語尾に『にょ』なんて方言としてありなのだろうか。
「グレジアナ地方の出なのか。そうか」
「はい。それを隠していたのですが、バレてしまいまして……」
「それで、俺はなんて言った」
「……その言葉が……気持ち悪いから、二度と俺の前に出てくるなと」
そんな言葉を言ったのかレイル。人には譲れない部分や変えられない所があるというのに……。
「すま……心無いことを言った。申し訳ない」
言葉と共に、頭を下げる。俺の所為ではないが、傷ついたであろうコックの救いに少しでもなって欲しいと思った。俺の言葉に傷ついた父の様になって欲しくない。
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頭を上げて、彼を見ると彼は、歯を見せてにっと笑っていた。
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