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チーム 004
しおりを挟む「俺は――エルマとチームを組みたい」
レグの言葉によって――ピタリと、周囲の空気が止まった。
「……確かに、同じクラスにいる以上仲間だけどよ……あいつは魔術師だぜ。わざわざチームを組む必要もねえと思うけどな」
シルバが冷たく言い放つ。いや、これでも大分優しい意見ではあるのだ……少なくとも、エルマを仲間だとは認めているのだから。
人間と獣人のチームに魔術師が加わるなど、異例中の異例。
今年は人数の関係上そうならざるを得ないが、自ら進んで魔術師と組みたがる者は、恐らく皆無だろう。
もし仮に、エルマが魔法使えるなら話は違っていたかもしれない……その力を利用しようと、チームを組む者もいたかもしれない。
だが――彼女は魔法を使えないのだ。
力のない魔術師……そんな存在と一緒に戦いたいと思う人間は、この世界にはいない。
レグ・ラスター以外には。
「詳しくは言えないけど……俺は、エルマのためにこの学園で成り上がるって決めたんだ。その決意を、変えることはできない」
レグは強く宣言する。
今まで見たことのない彼の態度に、シルバとサナは息を飲んだ。
――……いや、私は見た。昨日、レグが私とエルマさんを助けに来てくれた時……。
サナは思い出す。
『……友達を傷つける奴は、許さない!』
魔術師たちにそう言い放った、レグの姿を。
「もし、二人がエルマと組めないって言うなら……申し訳ないけど、俺も二人とチームは組めない。我儘言ってごめん」
彼は二人に頭を下げた。
魔術師が如何に他の種族から忌み嫌われているのかを知ってしまったレグは、この要求が無理筋なことを理解している。
だとしても、曲げることはできない。
自分一人のためではなく――エルマ・フィールの誇りを守るために戦うと、そう決めたから。
「……俺は、別にいいけどよ」
シルバはそう言って、ちらりと横を見る。
獣人である彼は、その習性故に仲間意識が強い。それは魔術師への憎しみよりも、同じクラスのエルマを認める方に心が傾いているということだ。
だが――サナ。
エルマに対して剣を向けたこともある程魔術師を敵視する彼女が認めるのか……シルバは心配する。
「……」
そんな心配をよそに、サナが突然歩き出した。
その視線の先には――青い髪の魔術師。
「お、おい」
シルバが止めようとするが、彼女はずんずんと歩を進めていく。
そして、チーム決めが始まってから唯一座ったままだったエルマの目の前に――毅然と仁王立ちした。
「……サナさん」
自分が誰にも必要とされないとわかって大人しくしていたエルマは、急に現れたサナに驚く。
「エルマさん……いえ、エルマ」
彼女は敬称を外した。
その意図がわからず、エルマは混乱する……ただでさえ、昨日サナが自分のために戦ってくれたことに、頭が追いついていないというのに。
「私は、魔術師たちが大嫌いよ」
サナは断言する。
その赤い瞳を、メラメラと燃やしながら。
「魔法が使えるからって、高慢になれる魔術師たちが大嫌いよ。魔法が使えないからって、人間や獣人を差別する魔術師たちが大嫌いよ。私たちの努力を一瞬で越えてくる、理不尽な強さを持つ魔術師たちが大嫌いよ」
彼女は止まらない。
己の憎悪を――吐き出していく。
「人間が魔術師に何をしたっていうの? 私たちはただ、この世界に生まれただけ。たまたま魔素を持っていないだけ。たまたま魔力がないだけ。なのに……なのにどうして、私たちを下等だって嘲笑うの!」
燃えるような瞳が。
赤く赤く、揺れている。
「大っ嫌いよ! 理由なく威張り散らかす魔術師たちも、意味なく虐げてくる魔術師たちも、友情を踏みにじる魔術師たちも……全員、大っ嫌いなのよ!」
ざわついていたクラスメイトが、サナの叫びを聞いて口を閉じる。
「サナさん……」
「でも!」
でも。
そう――彼女は続けた。
「あなたは違うんだって……そう思ってもいいの? エルマ・フィールのことを……私は信じてもいいの?」
先程までの叫びは消え、サナは静かに問いかける。
思い出すのは、昨日のエルマの話。
魔法が使えぬ落第魔女として生まれ、その存在をなかった者にされて生きてきた――彼女の人生。
家族にも、使用人にも、赤の他人にも――全てに無視されて生きてきた、彼女の十五年。
それでも、誇りを守るために一人で戦った――
彼女の生き様。
「……」
エルマは、レグを見る。
自分を変えるという決意を示した、レグの顔を見る。
彼はただ――頷いた。
「……私は、一人で生きてきました。それが当たり前だと、そう思って生きてきました。自分一人の力で強くあらねばならないと、そう覚悟して生きてきました」
エルマは視線を目の前に戻す。
そこには、人間の少女がいる。
「私は魔術師です。そのことに誇りを持っています。でも、それ以前に……私は一人の、エルマ・フィールです。サナさんに信じてもらえる程、できた身ではありませんが……もし私を、魔術師としてではなく、エルマ・フィールとして見てくれるなら……私は、あなたを裏切りません」
自分が誇りを捨てそうになった時。
助けに来てくれたのは――サナだった。
それは、返すべき恩義。
エルマ・フィールとして、為すべきこと。
「……わかったわ」
サナは手を伸ばす。
レグやシルバにしたように――まっすぐに。
「よろしく、エルマ。魔法が使えないって馬鹿にした奴ら、見返してやりましょう」
「……よろしくお願いします、サナさん」
エルマはその手を握り返す。
固く、強く。
「そこはさん付けなのね……なんかこっちが恥ずかしいじゃない」
「すみません、その方が落ち着くので……」
こうして。
レグ・ラスターのチームのメンバーは、四人になった。
残る枠は、あと一人。
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