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結晶剣士 対 落第剣士 001
しおりを挟む「エルマちゃん、大丈夫⁉」
キャロルが己の課題を克服し、精霊魔法を発動した後。
彼女は身に纏った魔素の力を使い、エルマとサナの氷を破壊した。
「だい、じょうぶです……助けてくれてありがとうございます、キャロルさん……」
「全然大丈夫じゃなさそうだよっ。待ってて、今回復魔法を使うからっ!」
キャロルは祈るように両手を合わせ、目を閉じる。
「【妖精の風】」
薄桜色の魔素が優しくエルマを包み込み、ヘレンに傷つけられた外傷を癒していった。
苦痛に歪んでいた彼女の顔が、段々と安らいでいく。
「さ、サナちゃんも!」
「いえ、私は平気よ。魔力がもったいないから温存しておいて頂戴……それよりも、使えたわね、精霊魔法」
「……う、うん。何とかなってみたい」
先程まで我を忘れて怒っていた自分が恥ずかしくなり、キャロルは耳を赤くした。
そんな彼女に向かって、サナが右手を伸ばす。
「ありがとう、キャロル。あなたのお陰で命拾いしたわ」
「そんな……私なんて、みんなの足を引っ張ってばかりで……」
「この状況を見て、あなたのことを足手まといだなんて思う人はいないわよ。いたら私がぶっ飛ばしてやるわ」
ニコッと笑うサナの手を、キャロルは握り返した。
そう、状況だけを見れば――快勝。
魔術師組のトップ、つまりはソロモン一年生のトップチームのメンバーを、戦闘不能になることなく二人倒したのだから。
シトラス・ホーク。
ヘレン・ウェイ。
水と氷を操る強大な魔術師を、落第組の落ちこぼれが降したのだ。
「監督してる先生たちも、度肝抜かれてるんじゃない? この調子で、エルマのお兄さんも倒しましょう!」
サナはガッツポーズをして気合を入れる。
「あ、動くのはもう少し待って、サナちゃん。私の【妖精の風】は、徐々に体力を回復していく魔法だから、エルマちゃんが戦えるようになるにはまだ時間がかかるよっ」
「……わかったわ。万全の状態になってから、敵を探しましょう」
大分マシになったとは言え、エルマの負ったダメージは相当大きい。せっかくの人数有利を活かすためにも、ここは休息をとった方が賢明だとサナは判断した。
「そうも、言っていられないかもしれません……」
木陰で休むエルマが、そう口に出す。
「どういうこと、エルマ」
「あの巨大な氷の壁……あれ程大きいものであれば、演習場の端からでも存在がわかってしまいます」
「……つまり、悠長にしてたら魔術師たちが集まってくるってことね」
「はい……逆に、レグさんやシルバさんは、敵の罠だと思って壁を越えてくることはないでしょう」
シルバは一刻も早く壁を越えようとしていたのでエルマの予想は外れたが……彼女の考え自体は的外れではない。
実際、氷の壁はエイム・フィールを呼び寄せる目印になっている。
「ってことは、とりあえず氷の向こう側に行った方がいいってことだよねっ」
「……キャロルの言う通りね。敵が集まる前に、まずはこの壁を越えましょう」
言っては見たものの、サナは頭を悩ませる。
――壁の高さは五十メートルくらいか……上からいくのはほぼ無理……。
上空を移動できる手段を持たない彼女たちにとって、この氷は見た目よりも強大な壁となっていた。
超えるのが無理ならば、壊すしかない。
「……私の【巨刀斬】で氷を砕けるかどうか、試してみるわ」
言って、サナは氷壁まで近づいていく。
――……魔力でコーティングされてる……破壊するには骨が折れそうね。
氷に触れて大体の強度を把握した彼女は、腰の剣を引き抜いた。
先程キャロルが放った高威力の精霊魔法を使う手もあるが、あれはやはり対人用の武器として温存しておきたい。
であれば、魔素をほとんど使っていない自分の魔具で、道を切り開く!
「キャロル! 少し時間がかかりそうだから、敵がくるか周りを警戒しておいて!」
「わ、わかったよ! 頑張って、サナちゃん!」
「いくわよ! エニグ……」
魔法を発動しようとした瞬間。
分厚い氷の壁の向こうに――何者かの気配を感じる。
――っ! まずい!
サナの剣士としての経験が、警鐘を鳴らした。
壁を挟んだ向こう側に。
強者がいると。
「キャロル! 下がって!」
彼女は魔法の発動を中断し、一気に後方へと駆け出す。そして木にもたれていたエルマを抱きかかえ、氷壁から距離を取ろうと走る。
「さ、サナさん?」
「ど、どうしたのサナちゃん」
状況を理解できていない二人は困惑するが――直後。
轟音が、辺りに響き渡った。
「ルーベル流剣術――【結晶塊】」
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