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太陽
しおりを挟む【日輪空破】。
直径十メートルはある巨大な火球を自在に操る上位合体魔法の一つ。
火属性の上位魔法【プロミネンス】と、風属性の上位魔法【ストーム】を掛け合わせることで発動できる、灼熱の業火。
この合体魔法を一人で扱える魔術師は、オーデン王国中を探しても数十人しかいなだろう。
天才のエイム・フィールですら、おいそれと扱うことは難しい。
――それをマックスさんが連発している? あり得ません、そんなこと。
味方であるリツカですら、そう戸惑ってしまっていた。
「死ね! ノーマルが!」
火球の一つに乗りながら移動するマックスは、因縁の相手――レグを追う。
「レグさん!」
「あ、エルマ。無事だったか」
エルマの声に気づいたレグは、普段通りの間の抜けた調子で答える……が。
その顔には、若干の焦りが見えた。
「ちょっとさすがに、あの魔法はやばいから逃げてたんだ。エルマも逃げ……」
レグの視界に、傷だらけのサナの姿と倒れたキャロルが入ってくる。
「……」
彼は一瞬、唇を噛んだ。
「マックスさん! 一旦攻撃を止めてください!」
刀を納めたリツカが、火球に乗るマックスへ向けて叫ぶ。
「邪魔するなリツカ! そのノーマルはここで焼き尽くす!」
「そんな上位魔法を当てれば死んでしまうかもしれません! 失格になってもいいんですか!」
「知ったことか!」
珍しく語気を強くするリツカの声に耳を貸さず、マックスは両手に魔力を込め始めた。
そして彼も、地上にいるエルマやサナに気づく。
「丁度いい、あの時邪魔してきた女に、落第魔女もいるじゃないか! お前たちは絶対に殺す!」
マックスの周囲に、赤褐色の魔素が渦巻き出した。
今までよりも強く、濃い魔素が、彼の両手に凝縮されていく。
「やめてください! この近くにはあなた方の仲間も倒れているんです! 彼らまで巻き添えになってしまいます!」
エルマも声を荒げてマックスを制止しようとする。
「……それがどうした。落第組にやられる程度の魔術師は、この学園に必要ない! 諸共焼き尽くしてやる!」
二人のやり取りを聞いたリツカが、刀の柄に手をかけた。
「……今の話は本当ですか、落第魔女」
「はい。氷の魔法を使う方と水の魔法を使う方が、近くで気を失っています……彼の魔法が発動すれば、ただでは済まないでしょう」
「……わかりました」
リツカは静かに目を閉じ。
刀を抜く。
「ルーベル流剣術――【結晶塊】!」
「【日輪空破】‼」
太陽と結晶が、ぶつかり合う。
◇
数分前。
生徒たちを監督してた教師陣に、衝撃が走っていた。
「あれは上位合体魔法⁉ エイム・フィール以外に使える一年生がいるというのか⁉」
「しかも何発も撃ってるぞ! ありえない!」
「一年生レベルがあの魔法を食らったら、大怪我じゃすまないぞ!」
演習場内が映し出された結晶を見ながら、複数人の教師が慌てふためいている。
そんな中、冷静に状況を分析するエルフ――メンデル・オルゾの姿があった。
「……」
彼はゆっくりと歩き、ある人物の元へ向かう。
上位魔法学主任――トルテン・バッハの元へ。
「トルテン先生、少しよろしいですか」
「……何ですか、メンデル先生」
「いえ、マックスくんが素晴らしい魔法を使っているにもかかわらず、驚かないのが不思議でして……誤解を恐れずに言えば、数日前までの彼にあれ程の実力はなかったはずですから」
「……そうでしょうか。あいつの実力を見誤ったのでは? 奴も優秀な魔術師、本気を出せば上位合体魔法を使えたのでしょう」
「僕には到底そうは思えないですがね……例えば、何者かがマックスくんに力を与えている、とか……そっちの方がしっくりきますねえ」
「……何が言いたいんですか、メンデル先生」
こちらに目を合わせようとしないトルテンの横で、メンデルは不敵に笑う。
「仮に、学園ソロモン上位魔法学主任程の実力がある魔術師が彼に力を貸していたとすれば、その痕跡を見つけることは困難でしょう。演習会での不正行為は昔からあるらしいですし、学長が放置している以上、僕も深くは気にしません」
「……」
「ですが、もし――」
彼は、トルテンの肩にそっと手を置く。
「もし僕のクラスの生徒が死ぬようなことがあれば……その時は、どうなるかわかりませんよ。例え、死んだのが呪いの子だとしてもね」
メンデルの顔から――笑みが消えた。
「……それを私に言われても困りますな」
トルテンは表情を変えず、淡々と答える。
「……ま、僕は生徒を信じていますから、そんな大事にはならないでしょう。本当に危なそうなら、ここからいくらでも止められますしねこ(・)こ(・)か(・)ら(・)い(・)く(・)ら(・)で(・)も(・)止(・)め(・)ら(・)れ(・)ま(・)す(・)し(・)ね(・)」
「……ふん」
メンデルはトルテンに背を向け、演習場を見つめた。
――そう、信じていますよ、レグくん。君の力なら、何とかできると。
彼は、優しく微笑む。
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