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二人しか知らない秘密・後編(柊山視点)
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「敬久さん、今、丁度揚げたてみたいですよ」
連休三日目はショッピングモール近くのコロッケを売っている肉屋に来ていた。コロッケは正面入口ではなく、店横の窓から販売している。
まだ十一時前なのに、すでに四名程並んでいた。窓の中で揚げている厨房が見え、開けたガラス戸には年季の入ったコロッケの値段表が貼り付けられている。
「良いね。買って食べようか」
「はい、そうしましょう」
遥君は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、オレ買って来ますね。敬久さん、味は何が良いですが?」
「ありがとう。じゃあカレー味をお願いできるかな」
「分かりました。オレも同じのにしようかな……」
遥君はそう呟きながら、スタスタと列に向かって行った。回転率は良いのですぐに購入できそうだ。販売窓口横には自動販売機と小さなベンチが二台あり、イートインスペースになっている。遥君を待っている間そちらに移動した。
――今日、遥君は夕方まで側にいてくれると言っていたけれど、時間が経つのが早く感じるなあ……
これからショッピングモールで日用品を見たり、遥君が僕の家に置く用の衣類を見たりと楽しく過ごす予定だけれど、きっとあっという間だろう。
――買い物が終わったら僕の家に戻って……遥君、この間みたいにうちで夕食とお風呂を済ませていかないかな……でも、彼も自分の生活があるし、毎回引き止めていたら困るよな
三連休を過ごしてわがままのし通しだったように思う。特に彼が『お願い』に弱いのを良いことに、様々な要求をした。
――僕のこともっと叱ってくれて良いのになあ
身勝手なことを考えながら自動販売機の横に立っていると、遥君が戻って来た。
「お待たせしました。こっちがカレーコロッケです」
包み紙に入ったコロッケを嬉しそうに渡して来た。黄金色のコロッケは包み紙越しにも熱さが伝わって来る。
「ありがとう、遥君」
「ベンチ空いていますね。座って食べましょうよ」
「そうだね。座ろうか」
遥君に促され、一緒にベンチに座った。周囲にはひと抱え程のコロッケが入った紙袋を持つ人や、揚げたてをかじりながら去って行く人など、様々だ。
遥君はニコニコとしながらコロッケをサクリとかじった。僕も同じようにコロッケを一口かじった。ほくほくしたじゃがいもの食感とスパイスの風味が口の中に広がり、思わず笑顔になってしまった。しかし揚げたてなので気を抜くと口の中を火傷しそうな程熱い。
「中々、熱いですね……揚げたて」
「うん、少し冷まそうかな。熱い内に全部食べたいけれど……」
「本当そうですよね……」
彼はフーフーとコロッケを冷ましている。
「君は何味にしたの?」
「オレは牛肉コロッケにしました」
「ああ、シンプルで美味しいよね」
「はい、カレー味が一番好きなんですが、先日食べたので……」
――遥君と他愛ない会話をするの、好きだなあ。仕事の時では見られない彼を、独り占めしているようで
遥君はコロッケを冷ましながら慎重にかじっている。僕もそんな彼に習って火傷しないようにコロッケをサクサクとたいらげた。
「……美味しかったなあ。帰りも夕食用に買いに来ようかな」
「あ、良いですね。オレもそうしようかな」
「じゃあ、帰りも寄ろうか」
僕は右肩をポリポリと掻きながら返事をすると、遥君は目を伏せた。
「どうしたの?」
「……いや、あの、右肩……痒いですか……?」
「あっ、ああ……」
自分でも無意識に右肩を掻いていたので慌てた。右肩は遥君の噛み跡がある場所だ。僕が強く噛むようにねだり、彼の歯型をつけてもらった。
――たまに痒くて、無意識に掻いてしまうな……
「全然平気だよ。何にも問題ないからね?」
「そ、そうですか」
あまり掻いていると、もう痕をつけてもらえないような気がしたので右肩をポンポンと叩きながら言った。
「僕達の秘密、もっと、沢山欲しいくらいだよ」
遥君の太腿の内側には赤い痕がある。僕と彼しか知らない秘密だ。
「……そ、そうですね」
遥君は少しソワソワしながら言った。
「…………オレも、もっと、欲しいです……秘密」
赤い頬で目をそらしながら言われた。ここが外でなければ抱きしめて色々している所だった。
――マンションに帰ったら、遥君に触らせてもらおう
よこしまな想いを抱きながら、努めて穏やかに「僕と一緒だね」と返事をした。遥君は目を白黒させている。僕は彼が今度はどんな秘密をくれるのかと思うと、心踊るような気分だった。
連休三日目はショッピングモール近くのコロッケを売っている肉屋に来ていた。コロッケは正面入口ではなく、店横の窓から販売している。
まだ十一時前なのに、すでに四名程並んでいた。窓の中で揚げている厨房が見え、開けたガラス戸には年季の入ったコロッケの値段表が貼り付けられている。
「良いね。買って食べようか」
「はい、そうしましょう」
遥君は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、オレ買って来ますね。敬久さん、味は何が良いですが?」
「ありがとう。じゃあカレー味をお願いできるかな」
「分かりました。オレも同じのにしようかな……」
遥君はそう呟きながら、スタスタと列に向かって行った。回転率は良いのですぐに購入できそうだ。販売窓口横には自動販売機と小さなベンチが二台あり、イートインスペースになっている。遥君を待っている間そちらに移動した。
――今日、遥君は夕方まで側にいてくれると言っていたけれど、時間が経つのが早く感じるなあ……
これからショッピングモールで日用品を見たり、遥君が僕の家に置く用の衣類を見たりと楽しく過ごす予定だけれど、きっとあっという間だろう。
――買い物が終わったら僕の家に戻って……遥君、この間みたいにうちで夕食とお風呂を済ませていかないかな……でも、彼も自分の生活があるし、毎回引き止めていたら困るよな
三連休を過ごしてわがままのし通しだったように思う。特に彼が『お願い』に弱いのを良いことに、様々な要求をした。
――僕のこともっと叱ってくれて良いのになあ
身勝手なことを考えながら自動販売機の横に立っていると、遥君が戻って来た。
「お待たせしました。こっちがカレーコロッケです」
包み紙に入ったコロッケを嬉しそうに渡して来た。黄金色のコロッケは包み紙越しにも熱さが伝わって来る。
「ありがとう、遥君」
「ベンチ空いていますね。座って食べましょうよ」
「そうだね。座ろうか」
遥君に促され、一緒にベンチに座った。周囲にはひと抱え程のコロッケが入った紙袋を持つ人や、揚げたてをかじりながら去って行く人など、様々だ。
遥君はニコニコとしながらコロッケをサクリとかじった。僕も同じようにコロッケを一口かじった。ほくほくしたじゃがいもの食感とスパイスの風味が口の中に広がり、思わず笑顔になってしまった。しかし揚げたてなので気を抜くと口の中を火傷しそうな程熱い。
「中々、熱いですね……揚げたて」
「うん、少し冷まそうかな。熱い内に全部食べたいけれど……」
「本当そうですよね……」
彼はフーフーとコロッケを冷ましている。
「君は何味にしたの?」
「オレは牛肉コロッケにしました」
「ああ、シンプルで美味しいよね」
「はい、カレー味が一番好きなんですが、先日食べたので……」
――遥君と他愛ない会話をするの、好きだなあ。仕事の時では見られない彼を、独り占めしているようで
遥君はコロッケを冷ましながら慎重にかじっている。僕もそんな彼に習って火傷しないようにコロッケをサクサクとたいらげた。
「……美味しかったなあ。帰りも夕食用に買いに来ようかな」
「あ、良いですね。オレもそうしようかな」
「じゃあ、帰りも寄ろうか」
僕は右肩をポリポリと掻きながら返事をすると、遥君は目を伏せた。
「どうしたの?」
「……いや、あの、右肩……痒いですか……?」
「あっ、ああ……」
自分でも無意識に右肩を掻いていたので慌てた。右肩は遥君の噛み跡がある場所だ。僕が強く噛むようにねだり、彼の歯型をつけてもらった。
――たまに痒くて、無意識に掻いてしまうな……
「全然平気だよ。何にも問題ないからね?」
「そ、そうですか」
あまり掻いていると、もう痕をつけてもらえないような気がしたので右肩をポンポンと叩きながら言った。
「僕達の秘密、もっと、沢山欲しいくらいだよ」
遥君の太腿の内側には赤い痕がある。僕と彼しか知らない秘密だ。
「……そ、そうですね」
遥君は少しソワソワしながら言った。
「…………オレも、もっと、欲しいです……秘密」
赤い頬で目をそらしながら言われた。ここが外でなければ抱きしめて色々している所だった。
――マンションに帰ったら、遥君に触らせてもらおう
よこしまな想いを抱きながら、努めて穏やかに「僕と一緒だね」と返事をした。遥君は目を白黒させている。僕は彼が今度はどんな秘密をくれるのかと思うと、心踊るような気分だった。
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