【完結/R18】恋人として君と過ごす日々

テルマ江

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また君と星を見上げて・後編(柊山視点)

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 僕は今、旅館のロビーラウンジで一人ジンジャエールを飲んでいる。ピリッとした生姜が炭酸と合わさって口当たりが良い。

 アンティーク調の机や椅子が並べられたロビーラウンジは昔にタイムスリップしたような趣がある。食事の時間も過ぎたので周囲の宿泊客達は浴衣姿でお茶やケーキを楽しみつつ談笑している。

――カフェメニューもけっこう充実していて良いなあ。遥君と来たかったな

 僕は周囲の会話をBGM代わりにメニュー表のページを捲った。

 遥君と何故一緒にいないのかと言えば「先に部屋に戻ります」と言われたからだ。喧嘩をしたといったことではない。そもそも僕と遥君は喧嘩という喧嘩はしたことがない。

 それは夕食後に散歩がてら旅館の庭を見ていた時に遡る。日が落ちてライトアップされた庭を歩きながら「夜はまだ寒いね」だとか「来年も君と来たいな」といった他愛無い会話をしていた。別館の温泉にも行ってみようと誘うと、遥君はもじもじとして僕に耳打ちして来た。

「先に戻って今夜のその……体の準備をしてきて良いですか」と、くすぐったくなるような声色で囁かれた。そんな風にあの遥君に言われて僕が断れるわけがない。

 僕達二人のために必要なことなので「手伝うよ」と言ったけれど、きっぱりと「それは嫌です」と断られた。基本的に僕に「お願い」されると遥君は断れないのに、このことに関してははっきり「嫌です」と断られ続けている。

――準備するのを僕も手伝いたいなって普段からそれとなく聞いているけれど、頑なに断られているな

 男性同士でそういった行為をする場合は受け入れる側の負担が大きい。遥君が大変なのに僕だけが美味しい所を持って行っているような気分になる。

――デリケートなことだから無理に手伝うのは絶対にダメだとしても……遥君の大変さを少しでも分けてもらえたらな

 旅先でそういった準備を行うのは更に大変そうだ。せめて側にいようと思っていたのにそれも困った顔で断られた。

――待っている間、襖一枚隔てただけの場所に僕がいるっていう状態は遥君的には恥ずかしいらしい

 今日泊まる部屋は基本的に和室なので開放感のある造りになっている。準備が整うまで僕が待っているのが恥ずかしいと言った。

――普段もドア一枚隔てているだけなんだけれど……何というか、気密性の問題になるのだろうか?

 確かに僕のマンションは部屋と部屋の間に廊下があり、ドアも鍵がかかる仕様で壁も薄くはない。 

――遥君が嫌がることはしたくないからな。来年旅行に行く時は洋室がメインの宿泊施設を予約しよう

 頭の中で勝手に来年も遥君と旅行する予定を立てて一人でうんうんと頷いた。

 遥君は僕を部屋から閉め出すような形になったので申し訳なさそうだった。彼が心苦しくなる必要はないので「そんな顔しないでよ」と頭を撫でた。

 普段なら外でそういうことをすると咎められるか逃げられるかするのだけれど、庭園は薄暗かったためか見逃してもらえた。

 そして彼を部屋まで送り届けたので、僕は旅館内をぶらぶらしているのだった。

 すでにお土産売り場を物色してからテラスにある休憩スペースで外を眺め、今はロビーラウンジに来ていた。

――別館の温泉に一人で行ってみようかな? でも別館も遥君と行きたかったなあ……

 夕食前に二人で旅館内の温泉巡りをしたのはとても良い思い出になった。公共の場なのでイチャついていたわけではないけれど、遥君と並んで温泉の効能の看板を読んだり、露天風呂で暗くなっていく空を見上げた。

――お湯も良かったし、遥君も楽しそうだったし……良い思い出が出来た

 一人で思い出し笑いをしてしまったので誤魔化すようにジンジャエールを飲んだ。

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