147 / 154
また君と星を見上げて・後編(柊山視点)
8
しおりを挟む
別館の温泉はいたってシンプルな造りだった。人が多かったので僕は湯船に軽く浸かってからサッと出た。お湯は相変わらず気持ち良かったけれど、隣に遥君がいないのを寂しく感じてしまったからだ。
別館の休憩スペースでまたぼんやりと窓から外を眺めていると携帯電話に遥君からメッセージが届いた。
『お疲れ様です。気を遣わせてしまって申し訳ありません』
『もう大丈夫なので部屋に戻って来てください』
『あなたに会いたいです』
いつも通り彼らしい業務連絡の様なメッセージだけれど「会いたいです」という言葉が少しだけ遅れて届いた。何だか甘酸っぱい気持ちになって胸がドキドキした。
――遥君はこういう所がすごく可愛いな。年甲斐もなく初恋のような気分になってしまった……
温泉の効能なのか恋人の可愛らしい行動のせいなのか、どちらが原因か分からないけれど体や顔が熱くなってきた。
――はぁ、戻ったら……沢山抱きしめよう
僕は別館から自分達の部屋がある本館に向かった。広々とした旅館は渡り廊下でそれぞれの施設へ繋がっている。ほとんどの廊下はガラス戸に覆われており、歩いている間も庭の景色が楽しめる造りだ。
ただ、今は一刻も早く遥君の顔が見たかったので景色には目もくれずすれ違う人を避けつつせかせかと歩いた。
――遥君といるといつも新鮮な気持ちを味わわせて貰えるなあ
遥君のことをずっと大切にしたいし、これからも側にいて公私ともに支え合って生きていきたい。
――付き合って一年の自分より若い恋人に抱く感情としては……重いな
内心苦笑しながらも遥君と二人で住む家の間取りを考えていた。まだ彼は合鍵にも慣れていないので確実に時期尚早だけれど想いはとめどなく溢れていく。
――僕も恋に浮かれているなあ。でも遥君なら「そんな風に考えてくれて嬉しい」って言ってくれそうだ
都合の良い想像かもしれないけれど遥君なら笑って聞いてくれるだろう。
――僕もいい年だし、いっそマンションでも買おうかな。税金対策とか資産運用とか適当なことを言って購入して遥君と住むのも良いかもな
今日はカメラを贈ろうか迷い『渡してばかりは重いかな』と考えたばかりなのに、今度は二人で暮らす家を贈ろうなどと考えていた。自分でもどうしようもないなと盛大に呆れた。
――若い恋人に飽きられないように貢ぐおじさんみたいだ。いや、まさにその通りなんだけれど……
流石に何の相談もなしに「家を買ったから一緒に住もうよ」なんて言えるわけがない。そんなことをすれば今まで見たこともないような顔で困惑されるだろう。
――遥君は僕を心から愛してくれているのに、こんな風に焦って独りよがりに繋ぎ止めようとするのはダメだ……
遥君の真っ直ぐで健気な愛は僕の薄暗い心をいつも穏やかにしてくれる。
――ああ、遥君に早く会いたい
せかせかと歩いていたので思っていたよりは早く本館に着いた。本館は多少入り組んだ造りなので、いくつかの渡り廊下を右や左に曲がり、奥の方にある廊下の暖簾をくぐった先に僕らの部屋がある。
僕は旅館のゆったりとした雰囲気を壊さないように慎重になりながらも、足早に部屋を目指した。
別館の休憩スペースでまたぼんやりと窓から外を眺めていると携帯電話に遥君からメッセージが届いた。
『お疲れ様です。気を遣わせてしまって申し訳ありません』
『もう大丈夫なので部屋に戻って来てください』
『あなたに会いたいです』
いつも通り彼らしい業務連絡の様なメッセージだけれど「会いたいです」という言葉が少しだけ遅れて届いた。何だか甘酸っぱい気持ちになって胸がドキドキした。
――遥君はこういう所がすごく可愛いな。年甲斐もなく初恋のような気分になってしまった……
温泉の効能なのか恋人の可愛らしい行動のせいなのか、どちらが原因か分からないけれど体や顔が熱くなってきた。
――はぁ、戻ったら……沢山抱きしめよう
僕は別館から自分達の部屋がある本館に向かった。広々とした旅館は渡り廊下でそれぞれの施設へ繋がっている。ほとんどの廊下はガラス戸に覆われており、歩いている間も庭の景色が楽しめる造りだ。
ただ、今は一刻も早く遥君の顔が見たかったので景色には目もくれずすれ違う人を避けつつせかせかと歩いた。
――遥君といるといつも新鮮な気持ちを味わわせて貰えるなあ
遥君のことをずっと大切にしたいし、これからも側にいて公私ともに支え合って生きていきたい。
――付き合って一年の自分より若い恋人に抱く感情としては……重いな
内心苦笑しながらも遥君と二人で住む家の間取りを考えていた。まだ彼は合鍵にも慣れていないので確実に時期尚早だけれど想いはとめどなく溢れていく。
――僕も恋に浮かれているなあ。でも遥君なら「そんな風に考えてくれて嬉しい」って言ってくれそうだ
都合の良い想像かもしれないけれど遥君なら笑って聞いてくれるだろう。
――僕もいい年だし、いっそマンションでも買おうかな。税金対策とか資産運用とか適当なことを言って購入して遥君と住むのも良いかもな
今日はカメラを贈ろうか迷い『渡してばかりは重いかな』と考えたばかりなのに、今度は二人で暮らす家を贈ろうなどと考えていた。自分でもどうしようもないなと盛大に呆れた。
――若い恋人に飽きられないように貢ぐおじさんみたいだ。いや、まさにその通りなんだけれど……
流石に何の相談もなしに「家を買ったから一緒に住もうよ」なんて言えるわけがない。そんなことをすれば今まで見たこともないような顔で困惑されるだろう。
――遥君は僕を心から愛してくれているのに、こんな風に焦って独りよがりに繋ぎ止めようとするのはダメだ……
遥君の真っ直ぐで健気な愛は僕の薄暗い心をいつも穏やかにしてくれる。
――ああ、遥君に早く会いたい
せかせかと歩いていたので思っていたよりは早く本館に着いた。本館は多少入り組んだ造りなので、いくつかの渡り廊下を右や左に曲がり、奥の方にある廊下の暖簾をくぐった先に僕らの部屋がある。
僕は旅館のゆったりとした雰囲気を壊さないように慎重になりながらも、足早に部屋を目指した。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる